よりによって人生で最悪な時に再会した初恋の人がじれじれの皇太子だったなんておまけに私死んだことになってましたから

はなまる

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 「シャルロット。シャルロット。しっかりしろ。俺だ。アルベルトだ。君を助けに来た、今ここから連れ出すからもう安心して」

 私は夢を見ているのだろうか?

 アルベルト様の声が聞こえた気がする。



 「シャルロット起きて、目を開けてくれ、君が無事か確かめたい。ああ…シャルロット…ああ、こんなひどいことを…」

 アルベルトが驚くのは無理もなかった。

 シャルロットがいたのは冷たい牢の中。おまけに地べたに転がされたままベッドもなければ布団さえもなかったのだ。



 やっぱりアルベルト様なの?

 私は…私は…頭の中は深い霧の中にいるようで…

 私は彼の声にこたえようとした。だが、それは無駄な抵抗だった。

 身体は、指さえも1ミリたりと動かなかった。

 ふわりと身体が宙に浮いた。

 もしや天国に?魂が離脱してこれから天に召されるのだろうか…


 「う、うーん…」

 声が出た?と思ったら意識が戻って来た。

 「シャルロットもう大丈夫だ。俺が付いている。君を死なせたりしないから安心して」

 私は死んではいないのだろうか?

 うん?????

 驚きで目がパチッと開いた。



 「ああ…シャルロット目を開けてくれたんだね。良かった。もう大丈夫だからすぐにここから連れ出す」

 「えっ?あの?アルベルト様が?どうしてここにいるんでしょう」

 いきなり目を開いたら、端整なお顔立ちのアルベルト様のあのキラキラの黒い瞳と目が合った。

 驚いてしばらく瞬きを忘れる。

 どうして?????

 戻ったばかりの意識はすごい混乱中で…

 「君が助けを呼んでくれたおかげだ。マリーが来たんだ。場所を教えてくれてそれで俺達はすぐに君を助けに来た。だからもう大丈夫だから」



 そう言えばマリーという魔女に助けを呼んでと…言ったような気がしますが…私は無意識のうちにアルベルト様を求めたのだろうか?

 その記憶がなかった。

 「いいから君は何も心配しなくていい。俺にしっかりつかまってろ!」

 何という男らしいお言葉。アルベルト様はまるで生まれ変わったかのようで、男らしく伝わって来るその感触は鋼のようなたくましい筋肉としっかりと脈打つ鼓動で私の心は早鐘のように早くなる。



 「シャルロット俺の首に手を回せるか?」

 彼のごつごつした手が私の腕を彼の首に回す。

 「は、はい。出来ます」

 私は彼の首にぐっと腕をまわして彼につかまる。

 「ああ、それでいい。しっかりつかまって、急いでここから逃げるから」

 「はい、アルベルト様…」

 

 彼は急いで牢を出た。外にいた牢番は倒れていて人の気配はなかった。

 私の瞳それを走馬灯のように映し出した。

 これは現実?

 まだ信じれなかった。

 本当にアルベルト様が私を助けに来るなんて、そんな事があるのか?

 

 すぐ隣にはいつの間にかトルーズ様がいてその周りを数人の近衛兵が取り囲むようにしていた。

 「シャルロット様ご無事で…」トルーズ様がつぶやいた。

 私はうなずく。

 「ありがとうございます」

 トルーズ様ってこんな勇ましい方だったの?



 アルベルト様の腕がピクリと動くと私の身体はぎゅっと抱き締められた。

 まるで君は俺のものだとでも言いたげなその腕。

 「いいから無理をするな。君は俺に寄りかかっていればいい」

 「はい」

 どうしてこんなに素直な返事が出来るのだろうと思うほど私はすんなりと彼の言う通りにした。

 もちろん本心は彼の腕の中でうれしくてたまらなかったのだけど…



 牢を出て廊下を進むと外に出る扉の前までやって来た。

 そこでしばらく立ち止まった。

 気づくとひとりの女性がそばに来た。

 「シャルロットさん間に合ってよかったです」

 「あなたは…あの魔女の…あなたが助けを呼んでくれたのね。ありがとうございました。私、危険なことを頼んでしまって…」

 「とんでもありません。お役に立てて光栄ですシャルロットさん。私はマリーと言います」

 「あなたがマリー。本当にありがとう」

 「マリーがいてくれたおかげで侵入がスムーズに行ったんだ。ありがとうマリー」

 頭の上からアルベルト様の声がした。

 「まあ、マリー…本当にありがとう」




 アルベルト様は近衛兵の方と話をしている。

 「リンデンどうだ?行けそうか?」

 「少し隠れて待っていてください。ここは闇隊の本部がある塔でして、交代で見張りが回っているんです。私たちが見て来ますから」

 「それなら私が、私ならここに出入りしていても怪しませんから、すぐに見て来ます」

 マリーはそう言うと素早く駆け出して行ってしまった。

 

 「あっ、ちょうど良かった。今あっちの方で人影が見えたの。お願い確認してもらえない?」

 マリーは見回りの男達に出口とは反対の方角を指さす。

 「なに?本当か、すぐに行ってみる。お前はひとりで戻れるか?」

 「ええ、大丈夫です」

 マリーがそう言うと見張りの男たちが小走りに指さした方に走って行った。



 アルベルトはその間も私の心配をしてくれた。

 「シャルロット?痛みはないか?毒を飲まされたと聞いたが」

 「はい、それで身体が動かなくなって、でも不思議な事に誰かが私を守ってくれるような気がして、寒くて凍えそうだったのですが次第に温もりが戻って来て…そう言えばあなたの匂いがしたのです」

 「俺の?」

 「それに今も何だか魔力が戻ってくる気がして、ああ…何だか今も力が蘇って来るみたいですわ」

 「良かった…シャルロット君に何かあったら俺は…」

 アルベルト様が私の手をぎゅっと握りしめた。

 「あ、アルベルト様…」



 「アルベルト様大丈夫そうです。行きましょう。急いで下さい」近衛兵が様子を見て来て後を付いてくるように言った。

 私たちは闇に紛れて王城の中庭を走り向け北の門を目指した。

 北の門の外にはリンデン様の仲間が待っているのだ。そこから逃げる手はずだ。

 私たちは急いで走る。

 だが、ひとりの近衛兵がつまずいて物音を立ててしまう。



 「誰だ?」

 見張りの男にその音を聴かれてしまった。

 数人の男達が走って来る。



 「アルベルト様先に行って下さい。ここは私たちが」

 「分かった。すまない。気を付けろ。マリー一緒に来い!」

 アルベルトは私を抱きかかえなおすと走るスピードを上げた。



 「だめ、彼らはどうなるの?置いていけないわ」

 「近衛兵は訓練をしているんだから心配ない!」

 「で、でも…」

 私は抱きかかえられたまま後ろを振り向く。

 男たちが追い付いて彼らに剣を向けた。

 「いけない!」

 その瞬間、私は魔力を発動したらしい。

 闇隊の男達が吹っ飛ばされてリンデン様たちは剣を構えたまま立ち尽くす。

 「な、何があったんだ?」



 リンデン様たちがアルベルトに追いつくとさっきの不思議な出来事を話した。

 「まさかシャルロットが?」

 「あの、そんなつもりじゃなかったのです。でも危ないって思った瞬間勝手に力が…何だか力が戻って来て…本当につい…」

 「君って人は…こんなになってまで…さあいいから早く帰ろう」

 心なしかアルベルト様の冷ややかな視線を感じる。

 だってぇ…



 北の門を出るとそこには馬車が待ち構えていた。

 私は力を使ってしまったせいか馬車の中ではぐったりなったままだった。

 彼の一言も話をしてくれなかった。

 きっと怒っているんだ。いや、呆れている?

 そして馬車は真夜中に無事にルミドブールの屋敷に戻って来た。



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