42 / 61
42アルベルト視点
しおりを挟むその夜遅くに表で騒ぎがあった。
近衛兵が大きな声で「入ることは出来ない!」と誰かを追い返そうとしている声が寝室にまで届いた。
俺はガウンをはおると急いで部屋を飛び出した。
表の近衛兵に大声で尋ねる。
「何の騒ぎだ?」
「何でもありません。あなたは休んでいてください」近衛兵に押し戻されて部屋に連れ戻される。
そう言われても気になる。
トルーズに言って様子を見に行かせる。
マリーは何度も近衛兵に頼んだ。
「ここはアルベルト・ルミドブール・エストラード様のお屋敷なんでしょう?いいから急いでるの。ここを通してください」
だが、近衛兵は一歩も譲ってくれない。
「誰も入ることは出来ません。どうぞお帰りを」
マリーは非常手段に出た。というのもこの屋敷には姉のアビーがいるのだ。
マリーは幼いころから魔力があって、なぜか姉のアビーとだけは念じただけで話が出来た。
一度門から離れるとマリーはアビーに向かって念じる。
”アビー私よマリーよ。あなたこの屋敷にいるんでしょう?返事してよ。お願い私シャルロットさんに頼まれてきたの。”
アビーはもう休もうとベッドに入ろうとしていたが、表が騒がしく何が起きたのかとそわそわしていた。
そこにマリーの声が聞こえて来た。
アビーとマリーは姉妹でマリーだけが魔女としても素質を持って生まれた。幼いころはいつも一緒だったが、数年前に王城に連れて行かれてエリザベート様の所で働くようになっていた。
それにアビーもマリーのことを誰にも話していなかった。
”マリーなの?いきなりどうしたのよ。”
数年ぶりにいきなりマリーの声が聞こえておまけにシャルロット様に頼まれたって?
”アビー聞こえたのね。良かったわ。シャルロットさんが危ないの。急いで居場所を知らせに来たのよ。”
”シャルロット様が危険ってどういう事?いいから話してマリー”
”彼女は王城の北の塔の地下牢にいるの。早く助けないと毒を飲まされていてとても動ける状態じゃないの。すぐにアルベルト・ルミドブール・エストラード公爵にそう伝えて、シャルロットが彼に伝えて欲しいってだから私急いで来たの。すぐに助けに行かないと危険なの。場所は私が案内するからって、お願い急いでるの”
”ええ、すぐに旦那様に伝える。それであなたはどこにいるのよ?”
”表にいるわ。でも近衛兵がいて入れてくれなくて、仕方がないからこうやってあなたを呼んだのよ”
”分かった。マリー私が行くまで近衛兵に見つからないようにしてて、すぐに伝えるから”
”ええ、お願いアビー”
しばらくして俺の寝室のドアを叩いてアビーが起こしに来た。
「アビーどうしたんです。こんな夜中に」
「旦那様大変なんです。私の妹は魔女で王城で働いているんですがさっき私に呼びかけて来てシャルロット様が大変だと」
俺は急いでアビーを部屋に入れて話を聞く。
「シャルロットがどうしたんだアビー?」
アビーはマリーから聞いた話を伝えた。
「じゃあ、シャルロットは王城の北塔にいるんだな」
「はい、毒を飲まされて動けないそうです。急がないとシャルロット様が…あのマリーが案内すると言ってます」
「分かった。すぐに助けに行くと伝えてくれ」
「はいわかりました」
そこにトルーズが入って来た。
「旦那様、どうやら騒がせていたのはこの女性のようです」
「マリー」
「アビー」
「えっ?おふたりはお知り合いなんですか?」
「トルーズ様すみません。妹のマリーなんです」
「こちらが妹さん?」
「トルーズいいから、マリーはシャルロットの事を知らせに来たらしい。今からシャルロットを助けに行く。マリー君が案内をしてくれるって言うのは本当か?」
「はい、急がないとシャルロット様は毒を飲ませれていて動けなくて…」
「トルーズ、リンデンを呼んできてくれないか?」
「はい、ですが旦那様この方の言うことを信じるんですか?今動くのは危険だとリンデンさんも言ってたじゃありませんか!」
俺はシャルロットの事となるとおかしくなる。
だが、トルーズの言うことも一理ある。
「悪いがマリー君の話は信じていいのか?いきなりそんな事を言って俺達を騙すつもりとか?」
「まあそう思われても仕方がありません。私はずっとエリザベート様の元であの方の言いなりでした。でもずっと嫌でした。あの方は自分の魔力が弱いのを隠すために私たちに魔力を使わせてあたかもそれが自分の力のように見せかけるのです。夜会の催しもそうでした。それに私たちはあんなことになるなんて思ってもいなかったんです。私たちは皆さんに渡す薬湯の中にスズランの毒を混入していました。ずっと決まった貴族の方々に、そしてあの夜会のカクテルにはオオバコが入っていたんです。オオバコ自体は毒はありません。でも…」
「ああ、そうだったな。スズランを飲んでいる人に取ったら命取りになるんだろう?」
「どうしてそれをご存知で?」
「シャルロットが教えてくれた。俺に渡されていた薬湯にスズランが入っている事に、俺も死ぬところだった。だから」
「まあ、でもご無事でよかった。それで今日も私がシャルロットさんのところに薬を飲ませるようにと言われて、彼女を見て驚きました。夜会の夜みんなを助けた魔女だったから、私もうこんな事したくないんです。エリザベート様はみんなを助けるためだと言うけどこんなのおかしいってずっと思ってました。でも逆らうことが恐くて…でも、もう私、嫌なんです。悪くもない人に毒を飲ませることもエリザベート様の為に魔力を使うことも…だから…」
マリーは必死でそう言った。
今度はアビーが話始めた。
「旦那様、私ずっとマリーの事が皆さんに話せませんでした。それはきっとマリーがエリザベート様のために働いていると知ってたから、色々なうわさはエリザベート様が何か悪いことをしているって噂ばかりでマリーもその悪いことを手伝っているんじゃないかって思ったから…でもマリーは本当は優しくて正直な子なんです。ずっと辛かったと思います。でもこうやって勇気を出して私のところに来てくれた。だからマリーの言うことに嘘はないって、信じてやってもらえませんか?マリーは嘘をつく子じゃないんです」
「ああ、アビー君の言う通りだ。マリーを信じる。どうだトルーズ?」
「ええ、そうですね。彼女が嘘を言ってるふうには見えません」
「よし、決まりだ。リンデンに伝えてくれ、王城に行くと近衛兵の目をかすめてここを出ると、それにマールにも連絡をしたい。俺ひとりではシャルロットを連れ出すのは無理だろう」
「当たり前です。旦那様は大切なお方なんです。無茶はやめていただきます。すぐにリンデンにもマールにも伝えます。いいですか、ここで少しお待ちを!アビーここで旦那様を見張っていてください。ひとりで行かせるなんて絶対にだめですから、わかってますよねアビー?」
「もちろんですトルーズ様お任せください。旦那様が部屋を出ようとしたら大声を上げます」
「頼みましたよ。私はすぐに…わかってますよね旦那様!!」
トルーズは急いで部屋を出て行った。
ああまで言われたら…とにかく急いで支度をするとマリーにシャルロットの居場所を詳しく聞き出し始めた。
トルーズ、お前の気持ちはわかる。いいから急いでくれ!
シャルロットが危険なんだから…
俺ははやる気持ちを押し殺しながらその時を待った。
待っていてくれシャルロット、君を必ず助けるからと何度も何度も心の中でつぶやいた。
1
あなたにおすすめの小説
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
初恋だったお兄様から好きだと言われ失恋した私の出会いがあるまでの日
クロユキ
恋愛
隣に住む私より一つ年上のお兄さんは、優しくて肩まで伸ばした金色の髪の毛を結ぶその姿は王子様のようで私には初恋の人でもあった。
いつも学園が休みの日には、お茶をしてお喋りをして…勉強を教えてくれるお兄さんから好きだと言われて信じられない私は泣きながら喜んだ…でもその好きは恋人の好きではなかった……
誤字脱字がありますが、読んでもらえたら嬉しいです。
更新が不定期ですが、よろしくお願いします。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【完結】呪いを解いて欲しいとお願いしただけなのに、なぜか超絶美形の魔術師に溺愛されました!
藤原ライラ
恋愛
ルイーゼ=アーベントロートはとある国の末の王女。複雑な呪いにかかっており、訳あって離宮で暮らしている。
ある日、彼女は不思議な夢を見る。それは、とても美しい男が女を抱いている夢だった。その夜、夢で見た通りの男はルイーゼの目の前に現れ、自分は魔術師のハーディだと名乗る。咄嗟に呪いを解いてと頼むルイーゼだったが、魔術師はタダでは願いを叶えてはくれない。当然のようにハーディは対価を要求してくるのだった。
解呪の過程でハーディに恋心を抱くルイーゼだったが、呪いが解けてしまえばもう彼に会うことはできないかもしれないと思い悩み……。
「君は、おれに、一体何をくれる?」
呪いを解く代わりにハーディが求める対価とは?
強情な王女とちょっと性悪な魔術師のお話。
※ほぼ同じ内容で別タイトルのものをムーンライトノベルズにも掲載しています※
皇宮女官小蘭(シャオラン)は溺愛され過ぎて頭を抱えているようです!?
akechi
恋愛
建国して三百年の歴史がある陽蘭(ヤンラン)国。
今年16歳になる小蘭(シャオラン)はとある目的の為、皇宮の女官になる事を決めた。
家族に置き手紙を残して、いざ魑魅魍魎の世界へ足を踏み入れた。
だが、この小蘭という少女には信じられない秘密が隠されていた!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる