こんな仕打ち許せるわけありません。死に戻り令嬢は婚約破棄を所望する

はなまる

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65リンローズに会いに行く(ネイト)

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 俺はみんなが寝静まるのを待った。

 夜も更けてきたころ俺はそっと部屋を出た。黒いマントを羽織りフードを被りそっと屋敷の地下牢に降りて行く。

 壁にかかっていたランタンに手をかざして火をつける。魔力を操ればこれくらいはなんてことはない。透明になれればいいがそんな魔法は使えない。

 用心してゆっくり階段を下りて行くと通路に明かりがともされてすぐ目の前に牢が見えた。

 人はいないようだ。まあ、か弱い令嬢ひとり見張りも付ける必要もないだろう。

 俺はそっとランタンの灯りを上げて誰かが近付くとわざと合図を送る。リンローズを怯えさせないためだ。

 「リンローズ?」と小さな声で呼んだ。

 「ね、いと‥様?」彼女の声がして鉄格子に走り寄った気配がした。

 「ああ、リンローズ‥」髪は乱れ目は腫れていた。きっとこんな暗い牢に入れられてどんなに心細かった事か‥

 今さらながら血の繋がった孫にまでこんなひどい事をさせたブルトにはらわたが煮えくり返った。

 だが、今はリンローズの方が大事だ。

 走り寄ったリンローズが俺を見つめてはっきり言う。

 「私、毒なんか入れていません。本当です。ワインはおじいさまの側近が持って来て預かっただけなんです」

 声を震わしながら一生懸命言う姿に胸がさらに痛む。

 早く出してやりたい。でも、それをすれば余計彼女の立場が悪くなるだろう。

 なにも出来ない自分に腹を立てながら一方の手を鉄格子にかけた手に重ね、もう一方の手で彼女の髪を優しく撫ぜる。

 「安心しろ。俺も君がそんな事をするなんて思っていない。きっと毒は最初から入っていたんだ。ブルトの奴、カルキースが死ねば俺達は恐れをなして言うことを聞くとでも思ったんだろう。でも、彼は助かった。リンローズの部屋から毒消し薬を貰ったんだ。それを飲ませて聖女が癒し魔法を施した。だからもう大丈夫、安心しろ。今はここから出すわけには行かないが明日にはリンローズをここから出すから」

 「ほんとに?」

 「ああ、今すぐ出してやりたいが、俺が勝手なことをすれば余計疑いを招くかもしれない。だろう?だから今晩は辛抱してくれ。その代り俺もそばにいるから」

 俺は牢の前に座り込み、ポケットからオートミールバーを取り出した。

 毒消し薬を探しに行った時、籠に入っているのを見つけた。

 それで部屋に戻る前に持って来ておいた。後で食べようと思っていたがまさかこうなるとは思ってもいなかった。

 「それ‥」

 「リンローズの部屋で見つけた。俺に作ってくれたんだろう?」

 「もう!ネイト様ったら」リンローズが真っ赤になって怒った。

 「やっぱりな。リンローズも倒れて俺も出掛けたからな。渡す暇なかったよなぁ」

 俺はオートミールバーを取り出すと我慢できずにかぶりついた。

 「リンローズも腹減ってないか?ほら、一緒に食べよう」

 俺はまた一つ取り出して彼女に手渡す。リンローズもそれを口にした。


 しばらくしてぽつりと彼女が。

 「ありがとう。ネイト様。すごく心細かった。このまま死罪になったらどうしようって‥」

 「もし、そうなったら俺が連れて逃げる。俺の屋敷に匿ってずっと毎日一緒にいる。なにがあっても一緒だ。心配するな」

 「ねいとさま‥もうずるいですよ。そんな事言われたら私‥」

 突然泣き出したリンローズにどうしていいかわからなくなる。

 鉄格子から腕を差し入れありったけ伸ばして彼女の背中をさする。

 「泣くな。俺、どうしていいかわからなくなる‥」

 「ずっとそばにいてください。約束です」

 「ああ、約束する」

 俺はリンローズを見つめる。片方の手を頬に伸ばして指先で流した涙をそっと拭ってやる。

 彼女の可愛らしい唇がほっと開いて俺は鉄格子越しにリンローズの唇を奪った。

 そっと優しく何度もあやすようにするんだ。優しくしないと‥そう言い聞かせながら。

 今はこれが精いっぱいだ。

 はぁぁぁ、クッソ!身体じゅうが滾って仕方がない。熱を吐き出したい情動を何とか堪えているうちにリンローズの唇を激しく貪っていた。

 口の中に舌を差し入れ彼女の口腔内を暴れ回り彼女の舌を吸い上げ唇に何度もかぶりついた。

 はぁはぁ息が上がってやっと彼女の唇を離した。


 「もぉ‥ねいと、さま‥」

 リンローズが顔を真っ赤に染めていた。

 いかん。やり過ぎた。

 「す、すまん。つい夢中になって我を忘れた。許してくれリンローズ」

 「そんな事思ってないくせに‥あっ、何でもないんです」

 そこでやっと俺はリンローズが人の考えが読める事に気づいた。

 まずい、まずい。俺がリンローズを裸にして抱きつぶす事を考えていたのがばれたのか?

 彼女はまだ純潔のはず、こんな浅ましい欲を持っていると知ったら?

 「いえ、いいんです。男性に取ったら自然な事なんですよね?」

 「やっぱり気づいたのか?」俺はぎょっとする。

 「そんなつもりはないんですけど、脳内に考えが流れ込んで来るので‥つい、ネイト様が考えられていることがほんの少し‥あっ、でも、閨事の事は王妃教育でも習いましたから、男性はその‥精子が溜まるとそれを吐き出したいと思われると、だから淫らな行為を思い浮かべるものだとも」

 「ああ、でも、それはリンローズだからだ。他の女に欲情したりしない。すまん。何だか嫌な思いをさせたんじゃないのか?」

 「とんでもありません。それほど私の事を好いて下さっているという事ですよね?」

 「ああ、もちろんだ。はぁぁ良かった。嫌われなくて」

 「嫌うなんて。こうやって来てそばにいてくれて、もう、ネイト様私の心鷲掴みですよ。ほんとにもう‥大好きです」

 「俺もだ‥でも、これ以上は抑えがきかなくなってはいかんから、少し離れよう‥なっ。いいか、朝までここにいるから安心して休め」

 俺はその後とにかく、はちきれそうな自分のものがリンローズの目に触れないように必死だった。


 
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