こんな仕打ち許せるわけありません。死に戻り令嬢は婚約破棄を所望する

はなまる

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64カルキース辺境伯を助ける(ネイト)

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 俺はリンローズが連れて行かれるのを止めれなかった。

 実際彼女が持って来たというワインを飲んでカルキースが倒れたのだから臣下の者はリンローズを捕らえるに決まっている。

 俺が同じことになってもそうなるだろう。

 今は一刻も早くカルキースの手当てをする事が先決だと頭を切り替える。

 シュナウトは呆気に取られてそこに立ち尽くしている。

 ったく。これだからひ弱な奴は‥まあいい。今は放っておこう。


 「カルキース!辺境伯!しっかりして下さい。とにかく毒を何とかしなくては‥夫人。解毒薬はないのか?」

 「ええ、そうね。誰か薬を」キャサリン夫人も慌てていてそんな事に気が回っていない。ここは俺がしっかりしないと。

 カルキース辺境伯は苦しみもがいている。一刻も早く処置をしなければ‥

 「とにかく水を飲ませてくれ。毒を吐かせるんだ!」

 「やってみます」そばにいた家来がすぐに水を飲ませてみる。だが、苦しんでいるのでうまく水を飲まない。


 そう言えばリンローズは薬を持っていると言ってたな。

 「リンローズの部屋はどこだ?案内しろ」近くにいた使用人に叫ぶ。

 「は、はい」使用人についてリンローズの部屋に入る。

 勝手に荷物に障るが許せ。

 そんな事を思いながら彼女の部屋の中を探す。

 そして見つけた。小瓶のふたを開けて匂いを嗅いでみる。間違いない毒消し薬だ。俺はこれを飲んで魔物の毒から助かった。

 苦しい息の下でリンローズが毒消しをスプーンで口に流し込んでくれた記憶が蘇る。

 こんな事はしていられない。

 俺はすぐにカルキース辺境伯にその毒消し薬を飲ませるように指示を飛ばす。

 そばで薬を飲むのをじっと見るが意識が朦朧としているらしく薬を受け付けない。

 「そんな事はしていられません!飲まなきゃ口移しで。夫人!辺境伯に口移しで薬を飲ませた方がいい!」

 いきなりシュナウト殿下が割り込んで来る。

 夫人はすっかり怯えていてそんな事が出来る状態ではなかった。

 俺はあいつ(シュナウト)が戸惑った隙に「俺が!」と声を上げる。

 俺はカルキース辺境伯の口をぐっとつかんで薬を口に含むと彼の口の中に薬を流し込んだ。

 何度もそれを繰り返し薬を全部飲ませた。

 ぐったりとなった辺境伯を抱えると部屋に連れて行ってベッドに寝かせた。

 もちろんあいつ(シュナウト)も部屋について来る。

 
 そこに「医者が来ました」と声がした。

 医者は聖女も連れていた。王都の神殿からはすでに一人聖女メルディ・ロドミールが派遣されていたらしい。

 「容体は?」

 「ああ、これを飲ませたところだ。コリー領で作っている毒消し薬だ」

 「毒消し薬?」

 「ああ、問題ないはずだ。安心しろ。魔物にやられた俺もこれで助かったんだ」

 「そうですか」医者は小瓶の匂いを嗅いで毒消し薬だと分かったのだろう。頷くと聖女に声をかけた。

 「聖女様。すぐに治癒魔法をお願いしても?」

 「もちろんです」彼女はあわ白い光でカルキースを包み込む。

 青ざめていた彼の顔色がほんのりと赤みを帯びて呼吸が落ち着いて行く。

 医者が胸の音を聞き脈を取って目を広げて瞳孔調べ最後にもう一度肺に手を置いて呼吸を確かめた。

 「もう、大丈夫でしょう。これで一命はとりとめたでしょう。それにしても‥ラセッタ辺境伯の手当てが早かったおかげでしょうな。熱は出るかも知れません。苦しむようなら熱さましを飲ませて下さい」

 医者がそう言いながら薬を手渡すと夫人は医者に礼を言い、すぐに俺の手を取って礼を言った。

 「ラセッタ辺境伯。あなたのおかげです。本当にありがとう」

 「俺は当然の事をしたまでです。カルキース辺境伯でも同じことをしたはず。でも、助かって良かった」

 「それにしてもあんな薬をお持ちなんて驚きました」

 「その事ですが‥あれはリンローズが持っていたものです。彼女はコリー領で作った薬を持って来ていました。私の所に来た時もそうでした」

 「でも、あの人は主人を殺そうとしたんですよ」

 「それは違うと思います。おかしいと思いませんか。彼女も同じ毒が入っているワインを飲もうとしていたんですよ。それにそんな間抜けな事をしますか?自分が手渡したワインが目の前で注がれてるんです。まるで私が犯人ですって‥普通犯人ならその場にはいないものでしょう」

 俺は夫人や周りのものに力説する。当り前だ。リンローズがそんな事をするはずがないだろう!


 「もう、ラセッタ辺境伯は聖女にはすごくお優しいんですから。でも、皆さんラセッタ辺境伯がそう言われるならきっとそうですよ。詳しい事はよくわかりませんけど毒消し薬がなければここまでの回復はなかったはずですから」

 いつの間にかロドミール嬢が俺のそばにいてそう言ってくれた。

 「ああ、聖女様の言う通りだ」医者も同意してくれる。

 おかげで場の雰囲気が変わった。

 「まあ、そうかもしれませんわ」夫人が怒りを鎮めて行くのが分かる。

 「ロドミール嬢助かりました」

 「とんでもありませんわ。私は当たり前のことを言ったまでです。私こそ出しゃばって申し訳ありません」


 王族の血を引く青色の瞳で俺をうっとり見つめている。何だ?俺に気があるのか。聖女だろ?それに婚約者もいたよな。

 そう言えば何かと俺にまとわりついていたな。

 今までそんな気にもしていなかったがリンローズに勘違いされないようにした方がいいな。

 俺はそんな事を思っていたらシュナウト殿下が口を開いた。



 「俺も、いえ、私も同感です。リンローズはそんな事をするような‥」あいつ(シュナウト)はそこまで言いかけて言葉を止めた。

 はッ?言うなら最後まで無実だってはっきり言えよ。曲がりなりにもお前の婚約者だろうが。ったく。その程度の気持ちしかないくせに婚約者面しやがって!

 キッとあいつを睨む。

 なんだよ?その自信のなさそうな顔は‥まったく、苛つく。


 だが、夫人が思い出した。

 「言われてみれば‥そう言えば彼女は国王代理からワインを預かったと言いましたわ」

 「あっ、そう言えばそんな事を言ってました」またあいつか(シュナウト)

 一体なんなんだあいつ(シュナウト)は?


 「取りあえず今はどうにも出来ないわ。主人が回復したらきちんとしますから今夜は取りあえず‥皆さんありがとう」

 俺達は部屋に戻らされた。

 護衛兵にリンローズに面会したいと言ったが取り合ってはもらえなかった。

 仕方がない。ここで騒いでは余計まずいことになる。リンローズ可哀想に牢でおびえているだろう。

 俺がこのまま済ませるとでも?

 「ラセッタ辺境伯。良ければ結界修復のお手伝いご一緒したいんです。西の辺境伯では何度かご一緒していますしいかがですか?」ロドミール嬢が話しかけて来た。

 はっ?まだいたのか。じゃまだ。失せろ!気分が悪くなり一瞬顔が強張るがすぐに真顔に戻す。

 「ロドミール嬢。ここは西ではありませんのでそれはこちらの指示に従いましょう。今日はありがとうございました。では、私はこれで失礼します」

 俺はその場を立ち去った。


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