ご機嫌ななめなお嬢様は異世界で獣人を振り回す

はなまる

文字の大きさ
8 / 41

しおりを挟む
 くららはディナーの支度を整えるのを手伝うと、今度は国王夫妻の給仕をさせられた。

 ダイニングルームは重厚なオーク材の大きなテーブルがあり、いくつも並んだ椅子には美しい彫刻が施されている。

 国王と王妃の席はすごく離れていた。

 テーブルには銀のスプーンやフォークがきれいに並んでいる。

 給仕には数人がいて、くららも忙しくスープを運んだりワインを注ぐ。

 王妃は国王と年齢はさほど離れていないように見えた。

 だが年齢を感じさせないほど美しい人で、金色の髪にブルーの瞳を持っていた。

 「まあ、あたなた新しい人?」

 王妃クリスティーナがくららに声をかける。

 「はい、王妃様、くららと申します。よろしくお願いします」

 「ええ、よろしく。あなたへ平民にしては礼儀作法がしっかりしているわね」

 クリスティーナはくららの給仕を見ていてすぐにマナーをよくわきまえていると感じた。

 「あ、ありがとうございます。両親が礼儀作法には厳しかったものですから…」

 くららは何とかごまかす。


 「やはりクリスティーナも気づいたか、実はクララはわたしの給仕を任されたらしい。わたしに午後のお茶を持ってきて彼女が素晴らしい作法で茶を入れたのを見て驚いたんだ」

 「まあ、そうでしたの。ねぇ、そんなきちんとしたお嬢さんなら、くららをわたしの侍女にしてもいいかしら」

 「それはどうかな?侍女長の考えもあるだろうし…まあ、聞いてみるといい」

 「まあ、そうでしたわ。オホホホ…あなたのお目にとまっているならわたし結構ですわ」

 王妃は厭味ったらしくそう言った。

 「まあ‥‥それは」

 「まあ、はっきりおっしゃればいいじゃないですか。くららを寝所に呼ぶつもりだと…オホホホ」

 王妃は甲高い声で笑った。

 そしてすぐに何かを思い出したのかまた話を始めた。

 「まあ、そうでしたわ。陛下、小耳にはさみましたが、王位をスタンリー王子にお譲りになるらしいと、それは本当なのですか?」

 王妃の声が小さくなった。

 「ああ、その話か、いや、わたしも、もう年だ。いつどうなるかもわからん。もし後継者をはっきりさせていなかったら、またもめごとが起きるやもしれん、それをローザがひどく心配しておるのだ。まあ、スタンリーがこの国の後を取るのが筋というものだろうから、それならば次の誕生日に王位を譲ってもいいのではと考えているところだ」

 「陛下、お言葉ですがそんな大切なことをわたしには相談もして下さらないんですのね」

 「いや、まだ決めたわけではない。だからもう少ししたら相談するつもりだったのだ。許せクリスティーナ」

 「いいんですのよ。わたしもスタンリー王子に王位を譲ることに異存はありませんわ。でもまずわたしに話してほしかったですわ」

 クリスティーナは一言嫌味を言うと、何事もなかっやかのようにまた皿の料理を口に運んだ。

 その後、国王は渋い顔をして何も答えなかった。


 クリスティーナとは国と国で決められた政略結婚だった。それに彼女が子供が出来なかったこともあり、国王は籠妾であるサボーアを好ましく思うようになっていた。そしてサボーアが第一王子のマクシュミリアンを産むと、ますます国王の愛情はサボーアに向いて行った。

 王妃はそのことをひどく怒り離縁するとまで言い出して国王は苦境に立たされた。そして仕方なくサボーアと距離を置くようになった。それ以来国王は特定の女性を作ることはしなくなった。

 やがてサボーアが亡くなると国王は前にもまして、つぎつぎに女を入れ替えて関係を持った。そのせいで子供が7人も生まれた。


 おまけにマクシュミリアンが狩りに出て行方知れずになってからというものは、王妃との関係はますますぎくしゃくしている。

 今はただ、王妃とは見せかけの夫婦を演じているだけで、ふたりの会話はいつも続いたことがなかった。


 そんなことなど知らないくららはぎくりとする。

 王妃があんなことを言われるということは、わたしは国王のお相手になると言うことでしょうか?今夜にでも部屋に呼ばれるのでしょうか?

 くららは時期国王の話など上の空だ。

 国王に抱かれるなどと考えたら背筋がぞくっとして、肌にザーと鳥肌が立ち思わず身震いした。

 でも、もし今夜火事が起こるなら国王の部屋に行った方がいいのではないかしら…‥そうすれば火事が起こる前に気づくことが出来るかもしれないんですもの。

 どうしてわたしの予言は日時がはっきりわからないのでしょう。この力本当に厄介です。


 ディナーが終わり片づけをしようとしているとリーネに呼ばれた。

 「くらら、お前は本当に運がいい子だよ。今夜はもういいから支度をしなさい。手伝いをやるからお風呂に入ってまず体をきれいにするんだ。そして出してある服を着て国王のお部屋に行くんだよ。部屋にはわたしが連れて行ってやるから心配しなくていい。お前は今夜は国王のお部屋で陛下のお相手をするんだよ。こんないい機会は滅多にないんだから、喜ばなきゃいけないよ」


 「待ってください。リーネさん。それって…もしかしてそれはわたしが夜のお相手をすると言うことなんでしょうか?」

 「ああ、そうだよ。よくわかっているじゃないかくらら。お前、こんないい機会はもうないかもしれないんだよ。さあ、しっかり頑張って来るんだよ.陛下を喜ばせることが出来れば、身ごもることもあるかも知れない。そうなればくらら、お前は一生安泰じゃないか。これがどんなにいい事か、変われるならわたしが変わりたいよ。まったく‥‥」

 リーネは額にしわを作って首を振る。


 「そんな‥‥いきなりそんなことを言われても、わたし困ります。そんなつもりは全くありませんから‥‥」

 リーネは呆れたような顔でくららを見る。


 「くらら、国王が決めたことに逆らえるとでも?あんた命は惜しくはないのかい?この国では国王が絶対なんだ。さあ、いいから早く支度をおし、間に合わなかったらわたしがとばっちりを食うんだ!」

 リーネはいきなりがみがみ怒りくららを急き立てた。

 くららは後ろから押されるようにお風呂に連れていかれて、手伝いの侍女が数人やってきてバタバタを世話をする。

 こんなに人がいたらどうすることも出来ません。

 くららは諦めて国王のところに行ったら話をしようと考えた。

 火事が起こると言えば国王もきっとそんなことをする余裕はなくなるはずです。


 あれよあれよという間にくららは風呂に入らされ、いい香りのするお湯に入れられる。

 風呂から上がると体中にかぐわしい薔薇の香りのする香油をすりこまれ、髪をきれいに結い上げられ、そしてシルクの艶めくネグリジェの様な衣装を着せられた。

 鏡に映るあまりになまめかしいそのネグリジェのような衣装に恥ずかしくなる。

 薄い生地からは乳房の形や腰のライン、太腿の形までもがはっきりと見て取れた。

 「こんな姿をさらすだなんて、どうかしています。わたしにはやっぱり無理です」

 くららは侍女たちに何度もそう言ってみるが、侍女たちはまったく聞く耳は持っておらず、支度は淡々と進んで行った。

 その間にくららは出されたお茶を飲んだ。そのお茶からは薔薇のいい香りがしていていつしか何だかいい気分になっていた。


 「さあ、時間だよ。さあ、くららわたしと一緒に行くんだよ。着替えは心配しなくてもお前の部屋に戻して置くから安心しな」

 リーネが部屋に入ってきてネグリジェの上にガウンを羽織らせた。そしてくららの手を取った。

 くららは頭がふわふわしてこれからの事を真剣に考える力を完全に失っていた。

 それもそのはずだった。

 くららの飲み物には媚薬が入れられていたのだ。そうすればことがスムーズに運ぶからだ。

 大体初めて国王の夜伽に行く娘にはそういった媚薬が用いられるのが当然のことのようになっていたので誰もそれを不思議にも思わなかった。



 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

いなくなった伯爵令嬢の代わりとして育てられました。本物が見つかって今度は彼女の婚約者だった辺境伯様に嫁ぎます。

りつ
恋愛
~身代わり令嬢は強面辺境伯に溺愛される~ 行方不明になった伯爵家の娘によく似ていると孤児院から引き取られたマリア。孤独を抱えながら必死に伯爵夫妻の望む子どもを演じる。数年後、ようやく伯爵家での暮らしにも慣れてきた矢先、夫妻の本当の娘であるヒルデが見つかる。自分とは違う天真爛漫な性格をしたヒルデはあっという間に伯爵家に馴染み、マリアの婚約者もヒルデに惹かれてしまう……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

二度目の初恋は、穏やかな伯爵と

柴田はつみ
恋愛
交通事故に遭い、気がつけば18歳のアランと出会う前の自分に戻っていた伯爵令嬢リーシャン。 冷酷で傲慢な伯爵アランとの不和な結婚生活を経験した彼女は、今度こそ彼とは関わらないと固く誓う。しかし運命のいたずらか、リーシャンは再びアランと出会ってしまう。

処理中です...