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くららはディナーの支度を整えるのを手伝うと、今度は国王夫妻の給仕をさせられた。
ダイニングルームは重厚なオーク材の大きなテーブルがあり、いくつも並んだ椅子には美しい彫刻が施されている。
国王と王妃の席はすごく離れていた。
テーブルには銀のスプーンやフォークがきれいに並んでいる。
給仕には数人がいて、くららも忙しくスープを運んだりワインを注ぐ。
王妃は国王と年齢はさほど離れていないように見えた。
だが年齢を感じさせないほど美しい人で、金色の髪にブルーの瞳を持っていた。
「まあ、あたなた新しい人?」
王妃クリスティーナがくららに声をかける。
「はい、王妃様、くららと申します。よろしくお願いします」
「ええ、よろしく。あなたへ平民にしては礼儀作法がしっかりしているわね」
クリスティーナはくららの給仕を見ていてすぐにマナーをよくわきまえていると感じた。
「あ、ありがとうございます。両親が礼儀作法には厳しかったものですから…」
くららは何とかごまかす。
「やはりクリスティーナも気づいたか、実はクララはわたしの給仕を任されたらしい。わたしに午後のお茶を持ってきて彼女が素晴らしい作法で茶を入れたのを見て驚いたんだ」
「まあ、そうでしたの。ねぇ、そんなきちんとしたお嬢さんなら、くららをわたしの侍女にしてもいいかしら」
「それはどうかな?侍女長の考えもあるだろうし…まあ、聞いてみるといい」
「まあ、そうでしたわ。オホホホ…あなたのお目にとまっているならわたし結構ですわ」
王妃は厭味ったらしくそう言った。
「まあ‥‥それは」
「まあ、はっきりおっしゃればいいじゃないですか。くららを寝所に呼ぶつもりだと…オホホホ」
王妃は甲高い声で笑った。
そしてすぐに何かを思い出したのかまた話を始めた。
「まあ、そうでしたわ。陛下、小耳にはさみましたが、王位をスタンリー王子にお譲りになるらしいと、それは本当なのですか?」
王妃の声が小さくなった。
「ああ、その話か、いや、わたしも、もう年だ。いつどうなるかもわからん。もし後継者をはっきりさせていなかったら、またもめごとが起きるやもしれん、それをローザがひどく心配しておるのだ。まあ、スタンリーがこの国の後を取るのが筋というものだろうから、それならば次の誕生日に王位を譲ってもいいのではと考えているところだ」
「陛下、お言葉ですがそんな大切なことをわたしには相談もして下さらないんですのね」
「いや、まだ決めたわけではない。だからもう少ししたら相談するつもりだったのだ。許せクリスティーナ」
「いいんですのよ。わたしもスタンリー王子に王位を譲ることに異存はありませんわ。でもまずわたしに話してほしかったですわ」
クリスティーナは一言嫌味を言うと、何事もなかっやかのようにまた皿の料理を口に運んだ。
その後、国王は渋い顔をして何も答えなかった。
クリスティーナとは国と国で決められた政略結婚だった。それに彼女が子供が出来なかったこともあり、国王は籠妾であるサボーアを好ましく思うようになっていた。そしてサボーアが第一王子のマクシュミリアンを産むと、ますます国王の愛情はサボーアに向いて行った。
王妃はそのことをひどく怒り離縁するとまで言い出して国王は苦境に立たされた。そして仕方なくサボーアと距離を置くようになった。それ以来国王は特定の女性を作ることはしなくなった。
やがてサボーアが亡くなると国王は前にもまして、つぎつぎに女を入れ替えて関係を持った。そのせいで子供が7人も生まれた。
おまけにマクシュミリアンが狩りに出て行方知れずになってからというものは、王妃との関係はますますぎくしゃくしている。
今はただ、王妃とは見せかけの夫婦を演じているだけで、ふたりの会話はいつも続いたことがなかった。
そんなことなど知らないくららはぎくりとする。
王妃があんなことを言われるということは、わたしは国王のお相手になると言うことでしょうか?今夜にでも部屋に呼ばれるのでしょうか?
くららは時期国王の話など上の空だ。
国王に抱かれるなどと考えたら背筋がぞくっとして、肌にザーと鳥肌が立ち思わず身震いした。
でも、もし今夜火事が起こるなら国王の部屋に行った方がいいのではないかしら…‥そうすれば火事が起こる前に気づくことが出来るかもしれないんですもの。
どうしてわたしの予言は日時がはっきりわからないのでしょう。この力本当に厄介です。
ディナーが終わり片づけをしようとしているとリーネに呼ばれた。
「くらら、お前は本当に運がいい子だよ。今夜はもういいから支度をしなさい。手伝いをやるからお風呂に入ってまず体をきれいにするんだ。そして出してある服を着て国王のお部屋に行くんだよ。部屋にはわたしが連れて行ってやるから心配しなくていい。お前は今夜は国王のお部屋で陛下のお相手をするんだよ。こんないい機会は滅多にないんだから、喜ばなきゃいけないよ」
「待ってください。リーネさん。それって…もしかしてそれはわたしが夜のお相手をすると言うことなんでしょうか?」
「ああ、そうだよ。よくわかっているじゃないかくらら。お前、こんないい機会はもうないかもしれないんだよ。さあ、しっかり頑張って来るんだよ.陛下を喜ばせることが出来れば、身ごもることもあるかも知れない。そうなればくらら、お前は一生安泰じゃないか。これがどんなにいい事か、変われるならわたしが変わりたいよ。まったく‥‥」
リーネは額にしわを作って首を振る。
「そんな‥‥いきなりそんなことを言われても、わたし困ります。そんなつもりは全くありませんから‥‥」
リーネは呆れたような顔でくららを見る。
「くらら、国王が決めたことに逆らえるとでも?あんた命は惜しくはないのかい?この国では国王が絶対なんだ。さあ、いいから早く支度をおし、間に合わなかったらわたしがとばっちりを食うんだ!」
リーネはいきなりがみがみ怒りくららを急き立てた。
くららは後ろから押されるようにお風呂に連れていかれて、手伝いの侍女が数人やってきてバタバタを世話をする。
こんなに人がいたらどうすることも出来ません。
くららは諦めて国王のところに行ったら話をしようと考えた。
火事が起こると言えば国王もきっとそんなことをする余裕はなくなるはずです。
あれよあれよという間にくららは風呂に入らされ、いい香りのするお湯に入れられる。
風呂から上がると体中にかぐわしい薔薇の香りのする香油をすりこまれ、髪をきれいに結い上げられ、そしてシルクの艶めくネグリジェの様な衣装を着せられた。
鏡に映るあまりになまめかしいそのネグリジェのような衣装に恥ずかしくなる。
薄い生地からは乳房の形や腰のライン、太腿の形までもがはっきりと見て取れた。
「こんな姿をさらすだなんて、どうかしています。わたしにはやっぱり無理です」
くららは侍女たちに何度もそう言ってみるが、侍女たちはまったく聞く耳は持っておらず、支度は淡々と進んで行った。
その間にくららは出されたお茶を飲んだ。そのお茶からは薔薇のいい香りがしていていつしか何だかいい気分になっていた。
「さあ、時間だよ。さあ、くららわたしと一緒に行くんだよ。着替えは心配しなくてもお前の部屋に戻して置くから安心しな」
リーネが部屋に入ってきてネグリジェの上にガウンを羽織らせた。そしてくららの手を取った。
くららは頭がふわふわしてこれからの事を真剣に考える力を完全に失っていた。
それもそのはずだった。
くららの飲み物には媚薬が入れられていたのだ。そうすればことがスムーズに運ぶからだ。
大体初めて国王の夜伽に行く娘にはそういった媚薬が用いられるのが当然のことのようになっていたので誰もそれを不思議にも思わなかった。
ダイニングルームは重厚なオーク材の大きなテーブルがあり、いくつも並んだ椅子には美しい彫刻が施されている。
国王と王妃の席はすごく離れていた。
テーブルには銀のスプーンやフォークがきれいに並んでいる。
給仕には数人がいて、くららも忙しくスープを運んだりワインを注ぐ。
王妃は国王と年齢はさほど離れていないように見えた。
だが年齢を感じさせないほど美しい人で、金色の髪にブルーの瞳を持っていた。
「まあ、あたなた新しい人?」
王妃クリスティーナがくららに声をかける。
「はい、王妃様、くららと申します。よろしくお願いします」
「ええ、よろしく。あなたへ平民にしては礼儀作法がしっかりしているわね」
クリスティーナはくららの給仕を見ていてすぐにマナーをよくわきまえていると感じた。
「あ、ありがとうございます。両親が礼儀作法には厳しかったものですから…」
くららは何とかごまかす。
「やはりクリスティーナも気づいたか、実はクララはわたしの給仕を任されたらしい。わたしに午後のお茶を持ってきて彼女が素晴らしい作法で茶を入れたのを見て驚いたんだ」
「まあ、そうでしたの。ねぇ、そんなきちんとしたお嬢さんなら、くららをわたしの侍女にしてもいいかしら」
「それはどうかな?侍女長の考えもあるだろうし…まあ、聞いてみるといい」
「まあ、そうでしたわ。オホホホ…あなたのお目にとまっているならわたし結構ですわ」
王妃は厭味ったらしくそう言った。
「まあ‥‥それは」
「まあ、はっきりおっしゃればいいじゃないですか。くららを寝所に呼ぶつもりだと…オホホホ」
王妃は甲高い声で笑った。
そしてすぐに何かを思い出したのかまた話を始めた。
「まあ、そうでしたわ。陛下、小耳にはさみましたが、王位をスタンリー王子にお譲りになるらしいと、それは本当なのですか?」
王妃の声が小さくなった。
「ああ、その話か、いや、わたしも、もう年だ。いつどうなるかもわからん。もし後継者をはっきりさせていなかったら、またもめごとが起きるやもしれん、それをローザがひどく心配しておるのだ。まあ、スタンリーがこの国の後を取るのが筋というものだろうから、それならば次の誕生日に王位を譲ってもいいのではと考えているところだ」
「陛下、お言葉ですがそんな大切なことをわたしには相談もして下さらないんですのね」
「いや、まだ決めたわけではない。だからもう少ししたら相談するつもりだったのだ。許せクリスティーナ」
「いいんですのよ。わたしもスタンリー王子に王位を譲ることに異存はありませんわ。でもまずわたしに話してほしかったですわ」
クリスティーナは一言嫌味を言うと、何事もなかっやかのようにまた皿の料理を口に運んだ。
その後、国王は渋い顔をして何も答えなかった。
クリスティーナとは国と国で決められた政略結婚だった。それに彼女が子供が出来なかったこともあり、国王は籠妾であるサボーアを好ましく思うようになっていた。そしてサボーアが第一王子のマクシュミリアンを産むと、ますます国王の愛情はサボーアに向いて行った。
王妃はそのことをひどく怒り離縁するとまで言い出して国王は苦境に立たされた。そして仕方なくサボーアと距離を置くようになった。それ以来国王は特定の女性を作ることはしなくなった。
やがてサボーアが亡くなると国王は前にもまして、つぎつぎに女を入れ替えて関係を持った。そのせいで子供が7人も生まれた。
おまけにマクシュミリアンが狩りに出て行方知れずになってからというものは、王妃との関係はますますぎくしゃくしている。
今はただ、王妃とは見せかけの夫婦を演じているだけで、ふたりの会話はいつも続いたことがなかった。
そんなことなど知らないくららはぎくりとする。
王妃があんなことを言われるということは、わたしは国王のお相手になると言うことでしょうか?今夜にでも部屋に呼ばれるのでしょうか?
くららは時期国王の話など上の空だ。
国王に抱かれるなどと考えたら背筋がぞくっとして、肌にザーと鳥肌が立ち思わず身震いした。
でも、もし今夜火事が起こるなら国王の部屋に行った方がいいのではないかしら…‥そうすれば火事が起こる前に気づくことが出来るかもしれないんですもの。
どうしてわたしの予言は日時がはっきりわからないのでしょう。この力本当に厄介です。
ディナーが終わり片づけをしようとしているとリーネに呼ばれた。
「くらら、お前は本当に運がいい子だよ。今夜はもういいから支度をしなさい。手伝いをやるからお風呂に入ってまず体をきれいにするんだ。そして出してある服を着て国王のお部屋に行くんだよ。部屋にはわたしが連れて行ってやるから心配しなくていい。お前は今夜は国王のお部屋で陛下のお相手をするんだよ。こんないい機会は滅多にないんだから、喜ばなきゃいけないよ」
「待ってください。リーネさん。それって…もしかしてそれはわたしが夜のお相手をすると言うことなんでしょうか?」
「ああ、そうだよ。よくわかっているじゃないかくらら。お前、こんないい機会はもうないかもしれないんだよ。さあ、しっかり頑張って来るんだよ.陛下を喜ばせることが出来れば、身ごもることもあるかも知れない。そうなればくらら、お前は一生安泰じゃないか。これがどんなにいい事か、変われるならわたしが変わりたいよ。まったく‥‥」
リーネは額にしわを作って首を振る。
「そんな‥‥いきなりそんなことを言われても、わたし困ります。そんなつもりは全くありませんから‥‥」
リーネは呆れたような顔でくららを見る。
「くらら、国王が決めたことに逆らえるとでも?あんた命は惜しくはないのかい?この国では国王が絶対なんだ。さあ、いいから早く支度をおし、間に合わなかったらわたしがとばっちりを食うんだ!」
リーネはいきなりがみがみ怒りくららを急き立てた。
くららは後ろから押されるようにお風呂に連れていかれて、手伝いの侍女が数人やってきてバタバタを世話をする。
こんなに人がいたらどうすることも出来ません。
くららは諦めて国王のところに行ったら話をしようと考えた。
火事が起こると言えば国王もきっとそんなことをする余裕はなくなるはずです。
あれよあれよという間にくららは風呂に入らされ、いい香りのするお湯に入れられる。
風呂から上がると体中にかぐわしい薔薇の香りのする香油をすりこまれ、髪をきれいに結い上げられ、そしてシルクの艶めくネグリジェの様な衣装を着せられた。
鏡に映るあまりになまめかしいそのネグリジェのような衣装に恥ずかしくなる。
薄い生地からは乳房の形や腰のライン、太腿の形までもがはっきりと見て取れた。
「こんな姿をさらすだなんて、どうかしています。わたしにはやっぱり無理です」
くららは侍女たちに何度もそう言ってみるが、侍女たちはまったく聞く耳は持っておらず、支度は淡々と進んで行った。
その間にくららは出されたお茶を飲んだ。そのお茶からは薔薇のいい香りがしていていつしか何だかいい気分になっていた。
「さあ、時間だよ。さあ、くららわたしと一緒に行くんだよ。着替えは心配しなくてもお前の部屋に戻して置くから安心しな」
リーネが部屋に入ってきてネグリジェの上にガウンを羽織らせた。そしてくららの手を取った。
くららは頭がふわふわしてこれからの事を真剣に考える力を完全に失っていた。
それもそのはずだった。
くららの飲み物には媚薬が入れられていたのだ。そうすればことがスムーズに運ぶからだ。
大体初めて国王の夜伽に行く娘にはそういった媚薬が用いられるのが当然のことのようになっていたので誰もそれを不思議にも思わなかった。
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