ご機嫌ななめなお嬢様は異世界で獣人を振り回す

はなまる

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 くららはすっかり疲れてそのままマクシュミリアンの腕の中にぐったりとなった。

 彼はくららにそっとキスをするとくららを腕に抱いたまま目を閉じた。

 すぐに彼は寝息を立てて眠り始めた。

 くららは彼の温かな被毛に包まれていると幸せな気分になれた。

 何もかも心配なことなどなくなって彼とこのままずっと一緒にいれたらどんなにいいかしれません。

 それにしてもマクシュミリアンの態度には驚きましたわ。

 今までは何でも遠慮がちだった彼の態度は一変して、まるで遠慮がなくなりましたから‥‥

 よく言えば積極的で頼もしいですわ。でも、悪く言えば偉そうですわ。

 いきなり遠慮もなしに体を求められてうれしい気もしますが、恥ずかしさの方が…‥もう自分があんな恥ずかしい姿を彼に見せたなんて信じれませんわ。

 でも、このまま彼と結婚したらマクシュミリアンはますます強引にもとめられそうですわ。

 わたしは父のように、自分の考えを押し付けるような強引な人は嫌です。



 くららはひとりでそんなことを妄想しながら彼の左手に自分の右手を重ねた。

 突然くららの脳にまたいつもの映像が広がった。


 男の人が馬に乗って森の中を進んでいた。それもきっと高貴な人に違いない。馬にまたがった男性のマントに鮮やかなえんじ色で、縁取りは金糸で刺しゅうが施されているようだ。

 馬は真っ白いきれいな馬で、それにまたがる男性は狩猟をする時のような服装でブーツを履いている。

 後ろからその男性の家来だろうか、黒いマントを羽織った人たちがぞろぞろついてくる。

 ”マクシュミリアン王子そろそろ引き返しませんと”

 ”ああ、だがあと少し‥‥あれを見ろシカだ。行くぞ”

 男性は勢いよく馬のたずなをはたいた。

 あっという間に連れの人を引き離し男性は森の奥に入って行く。狩猟用の鉄砲でシカを狙う。

 だがシカもうまくよけてなかなかやられない。

 男性はどんどん森の奥に入って行った。そしてとうとうシカに逃げられたようだ。

 今度はウサギを見つけたらしく弓を放った。だがウサギは弓をよけて逃げて行った。

 男性は立ち止まった。弓を取りに馬を下りて辺りを見回している。どちらに行こうか迷っているようだ。

 顔は遠くからではっきりとは見えなかった。

 そこにいきなり黒いフードをかぶった老女が現れた。

 ”お前はステンブルク国の第一王子のマクシュミリアン・ルートビッヒ・フォン・ウインザーかい?”

 ”ああいかにも。お前は何者だ?”

 その老女は杖を振り上げると彼に何やら呪文のようなものを唱え始めた。

 その呪文を駆けられるとその男性は苦しみ始めてしまいに気を失ってしまった。

 そして驚くこと事に地面に倒れた男性は虎模様の毛が生えている。

 老女はいつの間にかいなくなっていて、彼は意識を取り戻してうろたえている。


 「まさか…‥でも、あれはマクシュミリアンですわ‥‥そうですわ」

 くららは思わず声を上げた。

 そして映像はスイッチを切ったかのようにはパタリと消えた。

 もしかしてマクシュミリアンはこの国の王子様なのですか?


 そう言えば彼の言葉使いはどことなくきれいな話し方でしたわ。

 それにあの火事の後、王宮の中を迷うことなく歩かれていましたし‥‥

 火事の時助けに来られたのもきっと父上を助けるためだったんですわ。

 まあ、わたしったらあの時自分を助けに来て下さったのではないかと勘違いしていましたが、これではっきりわかりましたわ。

 でも、それならどうしてマクシュミリアンは、国王に自分が王子だと名乗り出ないのでしょう?

 獣人でも彼は王子に変わりないのではないでしょうか?

 こんな森の奥でひっそり暮らしているなんて、そんなに獣人であることはいけない事なのでしょうか?

 くららは思った。

 それにしてもマクシュミリアンがこんなひどい目に合うのは何か事情があるのではないでしょうか。

 ひょっとしたら記憶を失った事は、彼が王宮に彼が現れたことが関係しているのかもしれません。

 そう言えばディナーの席で奥様が別の王子が国王になると決まったとお話されていましたもの。

 まさか…‥跡継ぎ問題で彼が獣人にされたなどと言うことがありえるのでしょうか。

 騎士隊が現れるはずだったのに、騎士隊ではなくわたしのふりをした女が現れたのもおかしいですし‥‥

 もしかしたらあの人は魔女だったのかもしれませんわ。

 でも、彼の記憶はないですし、どんな事情かも分かりません。


 ああ…何とか記憶だけでも取り戻してあげたいですが、もし記憶が戻れば

マクシュミリアンはまたわたしを追い出そうとするのでしょうか?

 それがわたしに取ったらそれが一番の問題なんですけれど…‥

 くららは今が幸せ過ぎて、この幸せを失うのはとても恐ろしかった。

 それから何度もいろいろ思いを巡らせたが、次第に疲れて彼の腕の中で眠り始めた。



 翌朝になると、いつの間にかマクシュミリアンが先に起きて朝食の支度をしてくれたらしかった。

 「くらら?おはよう。起きて、さあ早く」

 「まあ、マクシュミリアンもう起きられたのですか?」

 「ああ、昨日はぐっすり眠ったから朝早くに目が覚めた。ついでに蜂の巣があったからロウソクを作った。しばらく乾くまで時間がかかるが、そうだハチミツもあるぞ」

 彼はてきぱきと動きながら話す。

 「まあ、ハチミツが?」

 くららは急いで起き上がる。ドレスはくしゃくしゃで髪も乱れていた。

 裏に出て顔を洗いドレスを着替えた。 

 今日はドレスや彼の服も洗濯しなければいけませんわ。

 部屋に戻ると彼はもう座って待っていた。


 「くらら、きれいだ」

 彼は立ちあがってくららの椅子を引いてくれた。

 「もうマクシュミリアンったら…こんなに髪も乱れているのに…わたしまだご挨拶もまだでしたわ。おはようございますマクシュミリアン」

 「おはようくらら、さあ食べよう。僕は朝から薪を取りに行って来る.明日には王都に薪を売りに行こう。君も一緒に来るといい。帰りに何か欲しいものを買ったらいい」


 「ええ、そうですね。必要なものを買わなければなりませんもの。でも王都より‥‥えっと、ビルグでしたかしら?あちらの方がいいのでは?」

 「ビルグ?でも少し遠いはずだ。やっぱり王都が近いから、行きは薪を背負っているからくららは歩くしかないんだ。帰りは僕が背負ってあげてもいいけど、だから近い方がいいだろう?」


 「実はマクシュミリアンにまだ話していないことがあるんです。わたしは奴隷として王宮につれていかれたんです。そこで国王の目にとまって、でもあなたが助けて下さってそして私たち一緒に逃げたんです。だから王都に行くのは危険だと思うんです。もし私たちがお尋ね者にでもなっていたら、いつ捕まるか知れません」

 「そんな事があったのか。ごめん。僕は何も覚えていなくて‥‥それで国王に何かされなかった?」

 「大丈夫です。あなたが助けに来てくれたから…」



 マクシュミリアンは立ちあがってて^ブル越しにくららに近づいた。そしてキスをした。

 「くららが無事で良かった。国王がくららに触れていたら僕は何をしでかしたかわからない。たった一晩過ごしただけなのにそれ以前の記憶がないのに僕は、今朝起きてもうくららと離れる事なんか出来ないって思ったんだ。おかしいかな、くらら‥‥」

 「とんでもありませんわ。わたしだってあなたと一秒だって離れたくありませんもの」

 「ああ…くらら。僕はきっとあまり若くはないと思うがこんな気持ちは初めてだと思う」

 「わたしだってこんなに人を好きになるなんて今までになかった事ですわ」

 何だか記憶をなくしたマクシュミリアンとこんなにうまくいくなんて、もうどうすればいいんですの?


 「いいから食べよう。冷めてしまう」

 「ええ、おいしそうですわ」

 テーブルには焼きたてのトン。チーズ、ミルク、採れたての野菜、ハチミツも並んでいた。

 くららはトンにハチミツをたっぷりつけて食べる。

 「まあ、すごくおいしいです。わたし今日は沢まで言ってお洗濯をしようと思います」

 「くらら沢には僕と一緒に行こう。家からあまり離れてはだめだ。特に北の方の森に入ってはだめだ」

 「まあどうしてですの?」

 「北の森には魔女がいるって話だ。僕もどういうわけかこんなことは覚えている。自分の事も覚えていないのにおかしいよ」

 マクシュミリアンが笑った。

 「でも役に立つことばかりで助かります。ではわたし今日はキャラメルと作ってみますわ」

 くららはふとミルクとハチミツがあるならキャラメルを作れないかと思った。

 「キャラメル?なんだそれ?」

 「甘くてとろけるようなお菓子ですわ」

 「甘くてとろけそうなのはくららだよ。ああ…いけない。またくららが欲しくなる。さあ、食事が済んだら森に行かないと…」

 マクシュミリアンは急いで朝食を済ませると出かける準備を始めた。


 彼は斧を1本を持つと腰にナイフを刺した。

 背中に木の枝を組み合わせたような背負い子を背負った。これに薪を積み込む。

 「くらら行って来る。森には入らないでいい子にしててくれよ。帰ったら一緒に川で体を洗おう。僕がくららを洗ってあげる」

 「もう、マクシュミリアン!」

 彼はくららにキスをすると森に出かけて行った。

 くららは最高に幸せを感じた。

 でも、その反面知ってしまった事を彼に黙っていることがいけないことだと思っていた。

 ああ‥‥神様わたしにもう少しだけ時間をください。くららは心の中で祈った。





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