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しおりを挟むくららはハッと思いつく。
そうだわ。魔女に会いに行きましょう。
魔女に会ってマクシュミリアンの呪いとついてもらうようにお願いをしてみましょう。
もしどうしても聞いてくれなければ、わたしが魔女と刺し違えてでも彼の呪いを解いてみせますわ。
どうせもうすぐこの世界から消える運命ならば、この命と引き換えにして彼を助ける方がいいではありませんか。
くららは早速マクシュミリアンに手紙を書こうとしたが、紙が見当たらなかった。
仕方なく裏に出て土の上に木の棒切れで書いた。
『マクシュミリアン様
わたしは魔女のところに行ってきます。心配しないで下さい。必ずあなたの呪いを解くように説得して見せますから。それから傷が治るまでは絶対に無理をしないで下さい。くららより』
それからヤギと鶏に餌をやり畑の水もまいておいた。
トンも焼いてヤギの乳を搾ると、マクシュミリアンの眠っている枕もとにそっとトンとカップを置いた。
くららはマクシュミリアンがぐっすり眠っているのを確かめると、意を決して白み始めた森の中に歩み始めた。
目指すのは北の森に棲んでいるという魔女の所。
頭に浮かんだ映像で彼女が老婆の魔女であったこともわかっていた。
一刻も早く魔女のところに行かなければ‥‥あと3日しかないのです。
くららは木々が生い茂るまだ暗い森の中に入って行った。
いばらの森をくぐり抜けると蛇がうようよいる岩場に出た。
くららは悲鳴を上げた。でもこんなことで諦めるわけにはいきません。
くららは血がにじむほど唇をかみしめながら、蛇のいる岩場を通り過ぎて行く。
その先もうっそうと木が茂った雑木林が広がっている。
くららの手首や足首のあたりは棘や小枝で傷ついていた。
でも、そんなことは気にもならなかった。愛する人のためならこんな森などちっとも苦にはならなかった。
夜が明けたのか重なった木々の間から陽の光が差し込み始めた。
少し明るくなってきたと思っていたら、今度はいきなり空が真っ暗になり稲光がピカッと光った。
大きな雷の鳴る音がとどろき、くららは耳をふさいだ。
「きゃー恐いです。わたし雷は大嫌いですの。でも木陰で隠れているわけにはいきませんわ」
くららは勇気を奮い起こして前に進んだ。
雷は少しずつ近づいてきて、今や稲妻が光ると同時に雷鳴が鳴り響いていた。
雨はどんどんひどくなりまるで魔女に近づけまいとしているみたいだ。
くららは良く見えない森の中で何とか一歩ずつ前へ進んだ。
いきなり稲妻が走ると、くららの目の前で光が真っ直ぐに地面をめがけて突っ込んできた。
そして飛び散るように光ると同時に音が鳴り響いた。
「ゴロゴロドッカーン!」
稲光がくららの体を引き裂くように彼女の体を突き抜けた。
「ぎゃー‥‥」
くららの悲鳴を上げた瞬間その場に倒れた。
時間を少し巻き戻しましょう。
クリスティーナがブリュッケンに頼んで騎士隊を引き戻すことに成功した時の頃です。
クリスティーナはまた側近の侍女に頼んで魔女のキルケに頼みごとをしました。
マクシュミリアンの記憶をなくすように頼んだのです。
そして計画はうまくいってクリスティーナはすっかり安心しました。
そしてマクシュミリアンが現れたことにすっかりうろたえていたローザのところに向かいました。
ここは王宮ローザの部屋です。
「ローザ安心して、マクシュミリアンはもう記憶をなくしました。だから自分がこの国の王子だったことも忘れてしまったのよ。だから安心して、スタンリーが次の国王になるのは間違いないわ」
「まあ、それはうれしゅうございます。でもクリスティーナ様その魔女は信じてもよろしいんですか?もし魔女がこの秘密を漏らしたら大変なことになるのでは?」
「まあ、そんなご心配はありませんわローザ。キルケはわたしがずっと支援してきた魔女です。彼女はわたしを信頼していますしまた頼りにしていますのよ。そんな心配はいりません」
クリスティーナは機嫌よくローザの部屋を後にした。
だが、ローザは違った。
もし魔女がすべてを国王ブリュッケンに話したら、クリスティーナが失脚するのは構いはしない。でも息子のスタンリーまでもがその責任を取らされたら‥‥
ローザの心配は際限がなかった。後ろめたいことをしているという気持ちがローザをどんどん苦しめた。
そしてローザはとうとう覚悟を決まる。魔女キルケを始末すればいいのだと‥‥
だが、居場所も顔もわからない。それにこんなことは早く国王の耳に入れておく方がいいのではと思い始めた。
そして、とうとうローザはブリュッケンに話をする。
国王の執務室に伺いたいと連絡を取りつけてローザはブリュッケンに会いに行った。もちろんクリスティーナには絶対に知られてはならない。彼女が出かけている間を狙った。
「陛下、お忙しいところお時間を割いてしまって申し訳ありません。ですが大切なお話があるのです」
「ああ、構わん。さあ話してみなさいローザ」
ブリュッケンは優しくローザに話しかけた。
「実はクリスティーナ様が森に隠れ住んでいるキルケという魔女を親しくされているのです。クリスティーナ様のお国では魔女も大切になさる国だとかで、ひょんなことからその魔女を知り合われたようで、何度もその魔女の暮らしが立ちいくように支援されているご様子でして‥‥」
「ローザ。何を言っておる。この国で魔女にそのようなことをするとどうなるかクリスティーナでも知っていることだ。まさか王妃自らそのようなことをするはずがないではないか!」
機嫌がよかったブリュッケンは、いかめしい顔をしてローザの言うことを信じようとはしない。
「ですが陛下。クリスティーナ様はこのようなものをお持ちになっておられます」
ローザはクリスティーナがひそかに持っていたキルケとの約束をしたためた紙を差しだした。
そこにはクリスティーナが魔女キルケを擁護し支援をするかわりに、何かあった時にはクリスティーナを助けると書かれた確約書の写しだった。
クリスティーナはキルケにその確約書を渡していたため心配ないとローザに言ったのだ。
ローザはこっそりそれを持ち出してブリュッケンに見せた。
ブリュッケンの顔が真っ蒼になった。
「まさか‥‥あのクリスティーナがそんなことを…ローザこの事を誰かに話したか?」
「いいえ、滅相もございません。わたしは陛下にだけ内緒でこれを持ち出したのです。わたしはこの国の生末を思えばこそ心を鬼にしてこれをお持ちしたのです。わたしのしたことはとんでもない事とわかってはいます。どうぞ陛下わたしを罰するなら罰して下さい」
「とんでもない。そなたはこの国の為にしてくれたこと。感謝することはあってもそなたを罰するようなことをするはずがない。とにかくこの事はわたしに任してくれ、これはわたしが預かる。ローザは何も心配しなくていい。本当に感謝する。さあ、もうゆっくり休んでくれ」
ブリュッケンはローザに優しくキスをするとドアを開けて見送った。
ブリュッケンは頭を抱えた。困ったことになった。クリスティーナがそんなことをしていたなんて‥‥
どうすればいい?
そしてブリュッケンは決断した。
魔女キルケを殺すしかない。彼女を抹殺してクリスティーナがしたことを消し去ってしまわなければ…もしかして他にも魔女を助けているのか彼女に問いたださねばならん。
とにかく騎士隊に魔女キルケを抹殺させなければ…‥
ブリュッケンはクリスティーナがいちばん信頼を寄せている侍女を呼びつけた。
「クリスティーナが魔女を関わっていると聞いた。知っていることがあったらすべて話してほしい。言っておくが話さなければクリスティーナも魔女の仲間と思われても仕方がないと言うことになる。ここはよく考えて返事をして欲しい」
侍女はクリスティーナの生まれた国ヴィトゲンシュタイン王国から一緒に来た侍女で名前はキュリアと言った。キュリアは賢い人でもあったが話の分かる人でもあった。国王が言っている意味をキュリアはすぐに理解した。
もし今本当の事を話さなければきっとクリスティーナ様は窮地に立たされておしまいになると判断した。
「はい、陛下きっとクリスティーナ様は魔女に騙されておいでなのです。わたしが言っても取り合っては下さいませんでした」
「やはりクリスティーナは魔女と関わっておるのだな。その魔女の名前は?居場所を知っているであろう?」
キュリアはもうすべて正直に話すしかないと判断する。
キルケの事をすべて話してしまう。どこに住んでいるのか彼女がどんな容姿なのかを…ただクリスティーナ様がマクシュミリアンにしたことだけは絶対に言えないと思っていた。これはわたしの命に替えても国王に知られてはならないと……
そしてクリスティーナ様に責任はないのだと、魔女に騙されているとだと国王に何度も話した。
ブリュッケンも侍女キュリアが言う通りだと思った。そうでなければクリスティーナがそんな事をするはずがないと、やはり魔女は殺してしまわなければどんな災いがあるかわからないとはっきり認識した。
「キュリア、そなたの言うことはもっともだとわたしも思う。クリスティーナがそんな事をするはずがないこともよくわかっておる。だから心配するな。この事はクリスティーナには言わなくていい。すべてこちらで対処する。いいな?」
「はい、陛下。もちろんです。クリスティーナ様には何も申し上げません。約束いたします。どうぞクリスティーナ様の事をよろしくお願いいたします」
キュリアは頭を下げて部屋を出て行った。
すべて魔女さえいなくなればうまくいくのだった。
ブリュッケンはすぐに騎士隊に命じて魔女キルケの抹殺を命じた。
騎士隊の隊長ロドルフに言った。
「いいかロドルフ。人間をたぶらかし陥れようとする悪の手先の魔女をこの世から葬らなければならんのだ。必ずキルケと言う魔女を抹殺してくるのだ」
「はい、お任せください。必ず魔女を退治して参ります」
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