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しおりを挟む陽介はピー助を連れて自宅に戻った。
「ピー助見つかって良かった。ほんとに焦ったぞ。お前が逃げたことに気づいたときは…お前はさくらの変わりなんだ。絶対いなくなったりしないでくれよ。ほら、ちょっと見せてみろ。羽はどうだ?怪我なんかしてないだろうな?」
陽介は部屋に入るとすぐに洗濯ネットからピー助を出し状態を調べにかかった。
一通り見てどこも怪我していないと分かるとやっとピー助を籠に戻した。
餌と水を入れてしばらくピー助を見ていたが、ピー助はエサをバクバク食べると水浴びをした。そしてもう疲れたらしく大人しくなったので、そっと籠から離れた。
陽介はリビングのソファーに腰かけるとほっと一息ついた。
もうあれから7年か‥‥
俺が19歳の時自宅が家事になって両親が死んだ。妹のさくらはちょうど友達の家に泊りに行っていて難を逃れた。
当時俺はまだ大学生で、家を失った妹を自分のアパートに引き取り、一緒に暮らし始めた。
火災保険があればよかったが、あの頃弁当屋をしていた実家の家計は火の車で運の悪い事に火災保険も解約していた。
そんなわけで妹は俺の所から高校に行くことになった。少し遠いけど通えるから大丈夫と言った。
俺は生活費を稼ぐためにホストクラブで働くようになり帰りも遅くなったが、さくらは何とか元気になり17歳になった。
そして高校生活を楽しんでいた。
だが、そんなある日さくらは学校帰りに暴行された。
俺は悔しくて警察に訴えた。だけどそれがさくらをひどく傷つけていたなんて思ってもいなかった。
さくらは日に日におかしくなり学校にも行かなくなって、そしてある日街をふらふら歩いていて道路に飛び出して車にはねられた。
さくらは死んでしまった。
それが7年前だった。
俺は自分を責めた。どうしてもっと妹の事をよく見ていなかったんだって、警察に訴えていなかったら、俺が目を離さなかったら…何がいけなかったんだろうってずっと考えた。
でも、一番の原因は男に暴行されたことだ。あの事件がなければさくらは今もずっと元気でいたに違いないんだから…‥
だから俺は警官になった。いつかそいつを捕まえるために‥‥だが、あいつは用意周到で、何の痕跡も証拠も残していなかった。
ただ後からさくらが思い出した男の手にやけどの跡があったこと以外は‥‥
さくらを襲った手口のような事件は調べたところ都内に5件ほどあったが、どれも暗がりで人気のないところを狙い後ろから首同じ場所を絞められていた。
柔道の落とすと言われる技を使っているらしく、被害者はほとんど犯人を見ていない。
そして犯人は暴行の際コンドームを付けているらしく精液も残してはいなかった。
柔道が出来て慎重で頭のいい人間の仕業に違いないが、不思議なことに6年前からその犯人は犯行を犯してはいない。
俺は完全に行き詰まりに陥っていた。
そんな時だった。彼女に出会ったのは…胡桃沢はつね。
始めたあったのは彼女が引っ越してきた日だった。
エレベーターに乗ろうとした時、彼女と鉢合わせになった。
俺は一緒に乗るものと思い彼女を待った。
だが、いつまで待っても彼女は動こうとはしない。俺はしびれを切らして言った。
「乗らないのか?」
彼女は俺の声にびくっとなった。そしてやっと小さな声で言った。
おずおずと何かを恐れているような仕草で‥‥
「…あの、どうぞお先に‥‥」
その時一瞬さくらかと思った。あいつもこんな感じだったと…暴行されて傷ついてさくらは男をひどく恐れるようになったから。
もしかして彼女も過去に何かあったのだろうか?
暴行とはいかないまでも付き合った男に暴力を振るわれたとか、何か嫌なことが‥‥
そんな思いが脳をよぎった。
それからはつねの事が気になり始めた。
仕事から帰るといつも彼女の部屋の明かりが点いているか確かめるようになった。
休日に彼女が出掛けるとちゃんと帰ったか気になった。
まるで保護者のように。
そういえば、さっきのはつねの態度は明らかにおびえていた。
俺がいきなり声をかけたせいかもしれないが、それだけではない気がする。
陽介は今夜のはつねの態度がひどく気になり始めた。
だが…‥俺が女を気にするなんて馬鹿げている。
だって俺は女には嫌な思いしかさせられてこなかったから‥‥
いや、彼女が気になるのはきっとさくらに似ているからだ。
そう、妹みたいだからだ。
とにかくそれまで俺が知っていた女はどれもひどかったからな。
高校生の時付き合った女は男なら誰でもいいみたいな女で、最初は好きになってそんなこと見えていなかった。
でも彼女が他の男とキスしているのを見つけて問いただすと、出るわ出るわ次々に男の名前が…呆れてすぐに別れた。
そして大学生になり、両親が亡くなり金に困ってホストクラブで働くようになった。あの頃金が必要で俺はクラブに来る客とよからぬ関係を持つようになった。
クラブに来る客はたいていが金持ちの奥様連中か、個人的にひいきの男に入れ込んでいる金持ちのお嬢さん連中だ。
俺は新人でひいきも持たないので、もちろん金持ちの奥様相手をすることになったわけで…彼女たちは金で買っているんだからと強欲でわがままだった。俺を自分たちの思うように扱った。
奴隷のように奉仕させられたり、言われるままにセックスをした。
悪いとかいいとかそんな事関係なかった。ただ金のためだけに関係を持った。でも、妹が生きているうちはまだよかった。こんな汚い金でも役に立っていることがうれしかった。
でも妹が死んでしまうと、そんな女に応えるのがクソみたいな気がし始めたし腹が立った。
もう二度と女と関わりたくないと思った。
なあ、女は嫌な生き物だと身に染みてるはずだろう。
それなのになぜかはつねは俺の心に安らぎを与えてくれる。
彼女といると心が安らぐような錯覚をする。妹のようなでも妹ではない。
彼女が心配で気になる。つい声をかけたくなってしまう。
俺はどうかしてしまったのだろうか?
いや、そんなはずはない。
「ピーピーピー…」
「うん?ピー助どうした?」
俺はピー助が騒ぐので立ちあがった。
窓を見ると白い煙が見えた。慌ててベランダに出る。
隣だ。もしかして火事か。大変だ。
両親が火事で亡くなって火事がどんなに恐いかよく知っている。
俺は急いで大声で声を掛ける。
「はつねさん大丈夫か?おーい!胡桃沢さん‥‥」
何度か呼びかけるが返事はない。
陽介は血の気が引いた。急いで玄関から飛び出すと隣の部屋のドアを思いっきり叩いた。
「はい、どなたですか?」
はつねさんの声がした。
「俺だ!陽介だ!はつねさん大丈夫か?火事は?」
俺はまだ大声で叫んだ。
はつねさんが急いでドアを開けた。
「なんです?火事って?どこが火事なんですか?」
なんだはつねさん。その間抜けな顔は?火事は大丈夫なのか?
人の気も知らないで…
「だって煙が‥‥うん?なんだこの匂い?サンマか…?」
火事じゃなかった。そう思ったら急に力が抜けた。
「うそ。ごめんなさい。お宅にまで煙が行っちゃいました…すみません。わたしったら、サンマ焼いたことがなくって煙がもうもう出るしもうどうしようかって思ってて…」
「いや、それなら良かった。いあ、いいんだ。何でもない」
俺は恥ずかしくて後ずさる。
「すみません。あの、ピー助はどうですか?もう落ち着きました?」
「ああ、すっかり、あいつちゃっかりご飯をパクパク食べて水浴びしてた。でもさっきあんまりピーピー鳴くから、それで気が付いたんだ。煙がベランダに立ち込めてて驚いた…だから、その」
言い訳にしかならない。
「うわっ、ほんとにごめんなさい。お詫びにご飯食べませんか?サンマ
二匹買っちゃったんで…でも、焦げてますけど、良かったら…それに陽介さんピー助の事で食事どころじゃなかったんじゃないんですか?」
はつねさんが柔らかな微笑みを投げかけた。
俺の心臓がドックンとバウンドした。
なんだ?可愛すぎる。俺は怒鳴り込んだというのに。
それなのに俺の口から出た言葉は…
「まあ。じゃあちょっと家に帰って来る」
急いで家に帰ってすぐに戻って来た。
さっきのスウェットのままで。
「失礼します。まだ前回のお礼もしてないがいいのだろうか?」
「お礼なんてとんでもありませんから、あれくらいの事で」
はつねは急いでキッチンカウンターに料理を並べる。
「今日はあり合わせなので、あまり期待しないで下さいね」
それでも、味噌汁とサンマに大根おろし、ほうれん草のお浸しが並んだ。
「すごいな。いつもこんなにごちそうを作るのか?」
サンマは陽介の大好物だ。
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ずっと眠っていた胸の奥の焦がれる気持ちと掴まれるっていうか。
いや、お前胃袋を掴まれたんじゃないのか。
サンマを前に陽介は微笑んでしまった。
ふたりでサンマを食べる。少し焦げたところがまた旨い。
「そう言えばはつねさん、さっき会った時顔色が悪い気がしたが?」
「あの時わたし本当に驚いたんです。今日は帰りがいつもより遅くなって、あなたが現れた時わたし…」
「引っ越してきた時もそうだったな?俺が声掛けたらひどく驚いてびくっとしただろう?ひょっとして何か恐い目に遭ったことがあるのか?」
「さすが警察官!」
茶化しては見たものの、はつねは話していいのか悩む。
「良かったら話してくれないか」
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