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しおりを挟む瑠衣は疲れ切ってしまったのだ。レオナルドと兵士たちに力を使い切って‥‥
瑠衣はレオナルドの背中で顔をうずめるとあっという間に寝てしまった。
そして揺られながら夢を見ていた。
それは女神様が出てくる夢だった。
「瑠衣。良くお聞きなさい。いいですか。あなたはあちらの世界で亡くなったはずでしたが、どうもあなたは仮死状態だったようで今は昏睡状態にあって、まだ生きているようです」
「今なんて…わたしが生きていると?」
「ええ、そうです。もしあなたがこの世界がどうしてもいやというなら、一回限りで元の世界に戻ることが出来ます。その代わりあちらの世界に戻ったらこの世界の記憶はきれいサッパリあなたの記憶から消されます。あなたは今まで通りあちらの世界で何もなかった事として生きていくことになりますから、そのつもりでよく考えておいて下さい。期限はあと1週間が限度です」
「あの、それであいつ。修仁はどうなりました?」
「あの人は警察に捕まりました。あなたを暴行した罪で、あなたが死んでいれば殺人ですが、今のところ傷害事件となって拘置所にいます。あなたが帰らなければあの人は殺人罪で刑務所に入ることになると思います」
「そうですか」
「ではよく考えてください。神に間違いがあってはいけないのでこうやって訂正に来たんですから、では1週間後に返事を聞きに来ます」
「でも…もう少し時間が…‥」
女神さまは言いたいことを言うといつものように、すぅーと消えてしまった。
「もう勝手なんだから!」
「瑠衣?時間がどうした?」
「何が勝手なんだ?おい、瑠衣?」
レオナルドはひたすら走りながら瑠衣がつぶやく言葉にいちいち反応した。
何しろ彼女の事はすべてが気になるんだから…
俺は相当病気だな。
レオナルドは狼のくせにニヤリと笑った。
レオナルドはとにかく森の中に入って身を隠そうと瑠衣を背中に乗せたまま急いだ。
幸い兵士たちが協力してくれたおかげで追ってはいなかった。
だが、すぐに追手はやって来るだろう。それまでに少しでも遠くに言っておかなければ…
レオナルドは、もっと早く走りたかったが、何しろ瑠衣を背中に乗せていては、そんなにスピードを出すことも出来ない。それに瑠衣は寝てしまって、俺に被毛をしっかりと握ってくれてはいるものの、いつ力を抜いて振り落とすかもしれない。そう思うとなおさら速く走れなかった。
とにかく王宮を出ると森の中まで急いだ。森の中に入り込むとそこからはスピードを落とした。
レオナルドは、瑠衣の重みを感じながらこれからどうするかを考えていた。
国王のものにさせないために瑠衣に印をつけたのに、国王はそんな事も気にしない人だったとは…今さらながら国王の勝手に腹を立てた。
レオナルドはひとしきり走ると、森の中を流れる川に出た。
「瑠衣?起きれるか、少し休もうか」
レオナルドは川岸まで下りると瑠衣に声をかけた。
「もう着いたの?」
「いや、まだヘッセンまでは遠い。ここで少し休もう、喉が渇いただろう?」
「ええ、ごめんなさい。わたしはあなたの背中で寝てしまったのね。レオナルド重かったでしょう。あなたばかりに辛い思いをさせてたなんて…」
瑠衣は、急いでレオナルドの背中から飛びおりた。
「俺はちっとも疲れてなんかない。獣人は人間よりも何倍も体力があるんだ。おまけに今は狼になっているから全然平気だ」
「あなたって本当に優しいのね」
「さあ、水を飲もう」
レオナルドは川岸まで行くと、川の水を飲み始めた。
瑠衣も同じように手ですくって水を飲む。喉が渇いていたのか、何度も水を飲んだ。自然のままの川の水はすごくおいしい。
「瑠衣、ここで少し待ってろ!ちょっと食べ物を取って来る」
レオナルドは瑠衣を木陰に連れて行くとまた駆けだして森に入っていった。
「レオナルド…」
呼ぶ間もなくレオナルドは森の中に入っていった。
しばらくするとレオナルドが戻って来た。
口にはズーラの実をいくつもくわえていた。
瑠衣の前に置くと食べろと合図する。そして肌に被毛をこすりつけぴったりくっついて座った。
銀色の被毛が月の明かりできらめいてすごくきれい…瑠衣は狼の被毛にそっと触れる。彼のふさふさの耳をぷにぷに撫ぜ上げると、レオナルドはうっとりして目を閉じてゴロゴロ喉を鳴らした。
「何だかスーパー狼ね。こんなものまで用意してくれるなんて…」
「ここに来る途中で見かけたから…瑠衣ズーラは好きだろう?」
「ええ、レオナルドも食べて」
瑠衣はズーラの実を指でつまんでレオナルドの口に入れる。レオナルドはズーラの実と一緒に瑠衣の指に吸い付いた。瑠衣の指は舌でなぶられちゅっと吸い上げられる。
生暖かくて柔らかい舌の感触に思わず胸の先端がキュッと硬くなる。
「んっ……ぁぁ」
甘いため息が漏れて瑠衣は自分の唇を噛んだ。
慌てて指を引き抜くと瑠衣は自分もズーラの実を口に入れた。甘くてみずみずしいズーラが口の中に広がり、思わず声を上げる。
「ふぅーん‥‥おいしい‥‥」
レオナルドはそれを見ながら口元をほころばせる。
狼が微笑むなんて…目もとまで穏やかな瞳になって、牢で見たレオナルドとは別の生き物みたい。
「でも、レオナルドのこんな姿初めて見たわ。前に見た時はけがをしていて今とは違っていたもの」
「ああ、驚いただろう?俺もこんなに走ったりしたのは久しぶりで、いつもは変身したらゆったり過ごすから…」
狼のくせに照れているの?首をかしげると今度は体をぶるっと震わせる。
レオナルド超可愛い…何て言ったら彼、怒るわよね。
瑠衣はクスッと笑うとまた聞いた。
「それで、いつ獣人に戻るの?それに満月にはいつも狼になるの?」
瑠衣は思い浮かんだ疑問を投げかける。だって知ってはいたけどやっぱり驚いた。
「夜が明けたら自然と獣人に戻る。もっと狼のままでいたければそれも出来るが…満月にはどうしても狼になるみたいだ。瑠衣はこんな俺が恐い?」
「今夜はこんな姿だけど我慢してくれる?」
レオナルドは耳を垂れて瞳を上目遣いでこちらを見上げた。
「もう、そんなのちっとも怖くないから…わたし狼のレオナルドも好きよ、獣人のあなたと同じくらい」
レオナルドはでれっとして瑠衣の隣にぺたりと座って彼女の腕や脚に所かまわずすり寄って来る。
あああ…わたしったら何で愛の告白なんかしちゃってるわけ!
彼の愛も確実かどうかもわからないのに…
でもレオナルドと一緒にいるととても彼に何か魂胆があるなんて思えなくなるのよね…だってこんなに従順でもふもふの生き物がわたしを騙しているなんて…とても信じられないじゃない‥‥ったく。
「瑠衣、もう少しこのままでいようか」
「うん、そうね。もう少し…レオナルドも少し休んだ方がいいから」
「瑠衣こっちにおいで…」
レオナルドは木陰にすっぽり隠れた草の上に移動すると、後から横たわった瑠衣を後ろから抱き込むように包み込んだ。瑠衣は柔らかな羽毛布団にくるまったような感覚に陥り、すぐに眠りについた。
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