いきなり騎士隊長の前にアナザーダイブなんて…これって病んでるの?もしかして運命とか言わないですよね?

はなまる

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  レオナルドが連れていかれると、ルカディウスが国王に進言した。

 「陛下こうなったら一刻の猶予もありませんぞ。すぐに兵を国境に向かわせましょう。アディドラの王とエルドラまではどう見積もっても、2日はかかります。もし万が一アディドラ軍が我が国に入ってくれば、ひとたまりもありません。すぐに国境に兵を向かわせなければ…」

 「まあ、待てルカディウス、早まってはならん。わたしは何としても戦いは避けたいのだ。お互い話し合いで何とかこの窮地を脱する方法があるはず…レオナルドが偽物と決まったわけではないんだ。それがはっきりわかるまでは誰も動くことは許さん!」

 トラブロス国王はルカディウスに厳しく言った。

 だが、すぐその後心臓が苦しくなる。

 「いいか、くれぐれも早まるな…うっ、すぐに医者を呼べ…」

 トラブロスは胸の苦しみを訴えて、ソファーに転がり込むように体を落とした。

 「おい、陛下の具合が悪い。すぐに医師のカルヒンを呼べ!」ルカディウスの声が廊下に響いた。


 医師のカルヒンが呼ばれて薬を持ってくる。

 トラブロスはそれを飲んで一時落ち着いた。

 だが、すぐにいつものように頭痛や吐き気を覚える。カルヒンに言わせれば心の臓の病には聞くが副作用があると…だが、ちっともよくならないではないか。むしろ、前より頻繁に発作は起き胸の締め付けはひどくなるばかりで‥‥


 ベッドで横になったトラブロスはふとレオナルドが言ったことを思い出した。

 彼は聖女なら病を治せると言った。もしそうなら…

 「ルカディウスを呼んでくれ…」使用人に呼ばせる。

 「陛下、お加減はいかがですか?」

 「ああ、少し落ち着いた。ありがとうルカディウス。頼みがある。アディドラ国から聖女が来たはずだが、その者をここへ通せ」

 「ですが陛下、もしかしたらそれも嘘かも知れませんよ」

 「なんだ?ルカディウス何を知っておる?わたしは聖女を呼べと言っただけだぞ。何が嘘だというんだ?」

 「申し訳ありません。実は陛下とレオナルドの話をこっそり聞きました。何でも聖女は魔法が使えるとか、病を治せると言ってましたが、嘘に決まっています。陛下を騙そうとしているんです」

 「いいから、その聖女とやらを呼べ!噓ならあの者たちがお前の言った通りだとはっきりするじゃないか」

 「陛下がそう言われるなら…」

 ルカディウスは部屋を出て行った。


 トラブロスは焦っていた。もし自分に何かあったらプリンツ王国はどうなる?妻は1年前に亡くなっていた。ルカディウスは妹アルヴィナの夫である以上彼が事実上この国を牛耳ることになるだろう。たった一人の跡取りだった息子アルブロスは、獣人の女と結婚したため勘当同然で家を出て行ったままで…行方も分からないままだった。


 瑠衣は、ひとり牢に入れられてどれくらいたったのだろう。

 兵士が粗末な硬いパンと湯のようなスープを持って来たきり、誰一人来ない。だんだん心細くなり気持ちは落ち込んでいくばかりで、瑠衣はベッドで泣いていた。

 高い鉄格子の入った窓からは夜の闇しか見えず、今や微かなろうそくの明かりだけが頼りだった。

 そんな時、天から声がした気がした。

 ”瑠衣、お聞きなさい。あなたが諦めるのはまだ早い。きっとチャンスが来ます。その時必ず転機が訪れるはず。あなたさえ諦めずに持てばきっと助かる道は開けるのです。さあ、元気を出して気持ちを強く持つのです。必ず道は開けます”

 「誰?もしかして女神様ですか?もしそうなら、わたしを助けて…わたし間違ってました。どうかあっちの世界に…‥」

 瑠衣は叫んだ。だが、なんの返事も帰って来なかった。



 なんて都合にいいことを女神様が聞いてくれるはずないじゃない。もう…こんな事になるってわかってたら…どうせわたしもレオナルドたちも助からないなら‥‥彼を助けた意味なんかなかったじゃない。やっぱり愛を信じたわたしがバカなのよ。

 聖女でもなくなり、こんな心細い状況で瑠衣の思考は支離滅裂だった。

 瑠衣は大きくため息をついた。

 またわたしって間違ったの。修仁の時のみたいに…


 その時兵士が入って来た。

 「女出ろ!」

 「いきなり、何なんですか?人を牢に入れたり、こんな時間に出ろと言ったり…‥」今が何時かも知らないが、まだ真夜中じゃない!

 瑠衣は兵士に腕をつかまれると、引きずられるように歩かされた。そして豪華な宮殿の廊下を進んでいく。

 「ルカディウス宰相、女を連れて来ました」

 「ああ、遅くにご苦労。もう休んでくれ」

 兵士は瑠衣を部屋に入れると下がった。

 「これはこれは、聖女様。まああなたが本物の聖女かどうかは疑わしいですが‥‥今から陛下の病を治してもらおう。本物なら何も困ることはないでしょう」

 「ルカディウス宰相、あなたがわたし達を牢に入れたんですか?」

 「いえね。密告があったんです。あなた達は真っ赤な偽物だって。だってそうでしょう、レオナルドのような男が国王だなんて誰が信じますか?」

 「それは、彼はつい先日までは騎士隊の隊長だったんですから…彼だって国王になんかなる気はなかった。でも仕方がなかったんです。でも彼は本当に国王なんです」

 「まあ、そんなことはどうでもいいんです。あなたが聖女なら陛下の病を治して下さい。さあ、行きましょう、お待ちかねなんだ」

 「行きましょうってどこに?」

 「決まってるじゃありませんか。トラブロス国王の所です。陛下は心の臓の病で苦しんでおられるんです。どうかあなたの力で治して下さい」

 「そんなの…こんな真夜中に?それよりレオナルドたちはどうなりました?」

 「彼らはあなたと同じように牢に入っています。心配いりませんよ。生きてますから…」

 「生きてるって?みんな無事なんですね?」



 瑠衣の問う言葉など聞こえないかのようにルカディウスは黙ったままで先に立って部屋に入っていった。瑠衣は後から付いて行くしかなく…‥

 もう、どんどん状況は悪くなってるじゃない。瑠衣の力がないことがばれるのは時間の問題でだんだん心細くなっていく。もはや、レオナルドたちの事を心配している状況ではなくなった。

 「陛下、聖女と名乗る女を連れてまいりました」

 「ああ、待ちかねた。そなたが聖女か?」

 「あなたはこの国の国王トラブロス国王なんですか?」

 「そうだ。わたしが国王だ。もっとこちらに…そなた名は?」

 トラブロス国王はベッドの横たわっていて瑠衣をもっと近くに呼んだ。


 瑠衣は、もうこうなったら本当の事を話すしかないと覚悟を決める。

 「わたしは橘瑠衣と言います。確かに数日前までは聖女だったんです。でもレオナルドを生き返らせてわたしは死んだんです…それで…信じてもらえないでしょうけど、その後でわたしもう一度生き返ることになって、その時聖女の力を失ったんです」

 「では聖女ではないと申すのか?」

 「はい、嘘をついてもどうせばれるでしょうし…でも本当の話なんです。それでレオナルドは国王に任命されて、この国に来ることになったんですから…国王なら300年前の言い伝えをご存じのはずですよね?二つの国がもめて聖女が現れて…」

 そこにルカディウスが割り込んできた。

 「ああ、皆知っておる。だが、あれはただの作り話にすぎん。あのようなことがあるはずがない。人が死んで生き返るなどとふざけた話だ。だから言ったじゃないですか陛下。こんな女の言うことを信じないでください」

 「瑠衣とやら…やはり病は治せぬか?」

 瑠衣は国王の顔をじっと見る。

 国王のくぼんだ目は輝きを失い、見るからに辛そうで顔色は悪くひどくやつれている。吐く息は薬草の匂いがして…

 瑠衣の本能みたいなものが何かがおかしいと感じさせる。



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