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しおりを挟むこんなにやつれて…国王はきっと国の事を心配して気を病んでおられるに違いない。何とかしてあげたい。でもどうやって?
でも、変ね。医師が付いていながら、こんなに病が治らないなんて…
「あの…失礼ですが、陛下の飲んでおられるお薬は?」
「先国王からの医師が調合しておるが…それが何か?」
「この匂いはジキタリスだと思うんですが…この薬を飲まれてどんな具合ですか?胸が苦しくなるとか、吐き気がするとかはありませんか?」
「ああ、ジキタリスは心の臓の病に効くが副作用があると聞いておる」
「ええ、ですが、これは少し分量をお間違いなのではと…ちょっと待っていただけませんか。わたしこれでも薬草には詳しいんです」
瑠衣は、彼が気の毒に思えた。それに薬草の事なら少し自信がある。いきなりやる気が出てきた。急いで台所に連れて行ってもらう。
台所は真っ暗だった。
使用人が一人呼ばれて、瑠衣はその人にいろいろ聞く。そして台所を出たところに薬草の畑があるとかで、真っ暗い中をランプの明かり一つでジキタリスの葉っぱとドクダミをつんでくる。ジキタリスは葉っぱの茎やすじを取り除き柔らかい葉の部分だけを細かくする。ドクダミは煎じて、台所で見つけたカーヒーの粉とジキタリスを煎じたドクダミで煎れる。
匂いは強烈だが、利尿効果抜群で、すぐに取り過ぎた毒素を体から出すことが出来るだろう。
瑠衣はそれをもって国王の部屋に行った。
「陛下、これを飲んでみてください。匂いは強烈ですが、すぐに気分が良くなるはずですから」
ルカディウスが怒る。
「こんな怪しげなものを陛下に飲まそうなんて…そうだ。お前が飲んで毒味してみろ!」
「ええ、もちろんです」
瑠衣は鼻をつまんでそれをごくりと飲み下した。
「これでどうです?」
瑠衣の態度を見てトラブロスは決心する。
「よし、わかった。試しに瑠衣の言うことを聞いてみよう」
トラブロス国王はそのすさまじい匂いのする液体を飲んだ。
しばらくするとトラブロスは何度かトイレに行った。その間瑠衣は兵士に監視されながらも彼を見守った。
瑠衣は彼の額の汗をそっと拭ったり、背中を優しくさすって彼を励ました。病の時は誰でも気が弱くなる。ひとりで苦しむのがどんなに辛くどんなに寂しく心細いかを瑠衣はよくわかっていた。
トラブロスは久しぶりに感じる温かな看護に胸が熱くなっていた。
トラブロスの部屋の窓から、紫色の薄陽の光が入り込むころ彼は数カ月ぶりに気分のいい朝を迎えた。
ベッドに横たわりながら言う。
「瑠衣殿、あなたの言った通りずいぶんと気分がよくなった。こんないい気分の朝は何カ月ぶりかしれん。ありがとう」
「いえ、陛下、大したお力になれなくて申し訳ありません。よく医師とご相談されて薬の量を加減されればきっと良くなります」
「ああ、きっと早く良くしようとカルヒンは多めに薬を処方したのかもしれんから、今日にもよく話を聞いてみよう」
「ええ、良ければ陛下お茶を差し上げても?」
「ああ、ちょうど喉が渇いていたところだ。頼む」
瑠衣は見張りの兵士を連れて薬草をつみに出た。
リンデンにバラとレモンバーム…瑠衣はハーブティーを入れるつもりだ。
それらをポットの中に入れて湯を注ぐ。トレイにカップとポットを乗せて部屋に戻るころにはちょうどいいころだ。
いい香りが部屋中に立ち込め、ポットから注がれるかぐわしい香りにトラブロスはうっとりした。
「陛下、どうか飲んでみて下さい。良かったら見張りの兵士さんもどうですか?」瑠衣は兵士にもすすめる。もちろん先に自分が口に入れるところを見せた後だったが…
「ああ…生き返るようだ。どうだ?」トラブロスが兵士に聞く。
「はい、国王陛下、本当に気持ちが安らぎます」おいしそうにカップのハーブティーを飲む。
「何だか腹も減った。こんなに食欲が湧くのは久しぶりだ」トラブロスは食事の用意をするように言いつける。
「瑠衣殿。わたしと一緒に食事をしよう。ひとりよりずっといい」
「ええ、そうですね。そうだ陛下。ちょっと待っていてください」
瑠衣はまた廊下を走って行って庭園のオレンジ色のバラを5本ほど切ってグラスに入れるとそれを持って国王の部屋に行く。
トラブロスは起き上がって着替えをした。正装ではないがシャツとトラウザーズを着て顔色もよくすっかり元気そうに見えた。
バラをテーブルに置いたところにトラブロスがやって来た。
「せっかくの朝食ですから…いかがでしょう?」瑠衣が声をかける。
「瑠衣殿。この花の意味がおわかりか?」
「いいえ」
「バラ5本は相手と出会えた喜びを表す。オレンジは絆を…」
「まあ、そうなんですか。ちっとも知らなかった。でも陛下にお会いできて光栄ですし、わたし達はプリンツ王国と絆を作るために来ました。これはレオナルドが国王になる前からずっと思っていた事ですから…」
「わたしもずっとそう思ってきた。二つの国が争いなどせず平和にやっていけないかと…だが、現実はなかなか厳しくてな…さあ、瑠衣殿、食べようせっかくの料理が冷めてしまう」
「はい、いただきます」
瑠衣は国王の向かいの席に座って出された卵料理やスープやパンを食べ始める。
昨晩は硬いパンいと1切れと薄ーいスープだけだったのに…そう言えばレオナルドたちはどうなったのだろうか?食事中にこんな話をするべきではないと思ってはいたが、つい言葉が出た。
「あの…それでレオナルドたちはどうなったのでしょうか?」
「あっ、そうであった。彼らは牢におる。レオナルドは毒矢が当たって…そうだ。医師に様子を見に行かせよう」
「陛下、どうかわたしも一緒に行かせてください。彼が心配なんです。レオナルドにもしもの事があればわたし…‥」
今までどうして気づかなかったのだろう?わたしが牢に入れられていると言うことはレオナルドの身も危ないという事なのに‥‥
ぐさりと針が刺さったように心臓が痛い。わたしったらなんて妻なんだろう…
自分の事ばかり考えていた。自分の心配ばかりしてレオナルドの事を忘れていたなんて‥‥わたしには、忘れていたというよりもそんな余裕がなかった。
「そうであったな。そなたは良き妻らしい。すぐに牢に案内させよう」
「ありがとうございます。あの、それで私たちの疑いは晴れたんでしょうか?」
「わたしは瑠衣殿を信じても良いと思っておる。だが、ルカディウスはまだ…だが、悪いようにはせんつもりだ。安心せよ」
「ありがとうございます陛下。ですがお薬は良くよく確かめられてからお飲みになって下さい」
「うむ、カルヒンに詳しく聞いてみるつもりだ」
「はい、これで安心です。ではわたしは失礼して」
瑠衣はすぐに牢に案内された。
「瑠衣さん無事か?」
一番に声をかけてきたのはロンダだった。
「ロンダさん、レオナルドはどこです?彼は無事ですか?」
「いや…かなり悪い。毒が回っているみたいで一晩中苦しんでいる」
瑠衣は牢の中に入っていく。
レオナルドは粗末なベッドに死んだようにぐったりなっていた。
顔色は?うそ、色がない…‥顔色は真っ白で死んだみたいに…突残足が震えてくる。
「レオナルド?レオナルドしっかりして…ああ…なんてこと‥ごめんなさい。もっと早く来れば良かった」
「瑠衣さんが来てくれればもう大丈夫だ。頼む瑠衣さん、いつもの力で…」
瑠衣は唖然とする。
そうだった。わたしじゃあ治せないじゃない。
どうしてこんなところに来たのよ!
もう、こんな世界逃げ出したい。
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