神様の外交官

山下小枝子

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第一部 第三章

7 使用人小屋。

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 空のオレンジ色が、ほぼ紺と濃紺へと移り変わる頃、アイシャに連れられヨウと別れた場所へと戻ってきた。

 炊事場の横を通ると、とてもいい香りが佐知子の鼻をかすめた。
 開け放たれた窓から、壁に据え付けられたオイルランプのオレンジ色の明かりを頼りに、薄暗い中女性達が頭にスカーフを巻き、ズボンに半袖のシャツ姿で汗をかきながら慌ただしく働いている。

「ここが女の使用人小屋だよ」

 炊事場の横を通り左へ曲がると、アイシャは炊事場に隣接してある茶褐色のレンガで作られた、少し大きめの小屋を指差した。

「あ、はい!」

 炊事場の中を見ていた佐知子は慌てて後を追う。

「ちょっと邪魔するよー」

 鉄製の扉は開いていて、布が目隠しのようにかかっていた。その布を手で避け、アイシャは中へと入る。佐知子もその後に続いた。

「…………」

 中は薄暗かった。
 そう、この世界には電気がないのだ。
 先程の炊事場同様、壁に据え付けられたオイルランプのオレンジ色の光が何箇所かあり、部屋を照らしている。
 手前に靴を脱ぐスペースが少しあり、少しレンガを積み重ねて高くなっているようで、絨毯が敷かれて共有スペースになっている。
 その奥は絨毯が何枚も敷かれているだだっ広い部屋になっていた。
 そこに作業着やパジャマ用のカンラを着た女性が十人前後、各々くつろいでいる。

「この子、今日から入る新しい子なんだけど、どっか空いてないかい?」

 アイシャは物怖じせずに中の女性たちに声をかける。佐知子は皆にじっと見られ、萎縮して俯いてしまう。

「はいはーい! 隣空いてるよー!」

 すると、少し若い女性の声が返ってきた。佐知子は顔を上げる。左側の奥の方で、ひらひらと振られている手が目に入った。薄暗くてよくは見えない。

「おや、ライラかい。じゃあ、ライラ、この子のこと頼むよ」

 アイシャはそう言いながら、革のカバンをドサッと高くなった絨毯の上へとのせた。

「へ! いや、空いてるっていっただけなんだけど……」
「なんだい冷たいねぇ! この子、この村もこの辺りのことも何もわからないから、色々教えてあげるんだよ! いいね! わかったね!!」
「……はーい」

 寝転がっていた体勢から起き上がると、後頭部をかきながら、しかたないなぁ。という風に、ライラと呼ばれるまだ若い、佐知子と同い年くらいの少女は答えた。

「じゃあサチコ、あたしは自分の家に帰るから。明日も様子見にくるからね、しっかりやるんだよ!」

 アイシャに肩を叩かれる。

「あ、はい! 色々とありがとうございました!」

 佐知子は頭を下げる。

「あ、あと……」

 アイシャは顔を上げた佐知子の耳元に口を近づけ小声でささやいた。

「ヨウからもらったお金はカバンに入れといたけど、貴重品やお金は肌身離さず持ってるか、上手く隠すんだよ。ここでも盗まれたりとかするからね、気をつけるんだよ」
「…………」

 耳元から口を離したアイシャに、こくこくと真顔でうなずく佐知子。

(気をつけなきゃ……)

 確かにここでは盗み放題だもんな……と、思う佐知子。

「じゃあね、また明日ね。ライラ! よろしくね!」
「はーい」
「ありがとうございました!」

 アイシャは手をあげると布をまくり行ってしまった……。

 また安心した人との別れ、不安が佐知子を襲う。

「ほらー、ここだよー!」
「!」

 しかし、別れがあれば出会いがある。
 ヨウと別れたあとはアイシャ。そしてアイシャと別れたあとはライラという少女との出会い……。

(この子も……いい人だといいなぁ……)

 佐知子はそう思いながら、スークで買った時に履き替えた革のサンダルを脱ぎ、重い革の大カバンを二つ持ち、座っているライラの横へと向かった。
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