161 / 267
第二部 第二章
10 命の強さと脆さ。
しおりを挟む
「わるいねぇ……墓になんか連れてきちまって」
アイシャが佐知子の隣にしゃがんで来た。
「二区のアフマドっておかしいだろ?」
「え!」
確かに思っていたことを聞かれ、佐知子はどう返していいか戸惑う。
「本当はね……私たちにも死んだ旦那から受け継いだ名字があるんだよ……でもねぇ……アフマドは小さい頃からこの村で、二区のアフマドとして生きて育った……私ももうあの名字を名乗るつもりもない。だから墓にもこの名前で彫ってもらったんだよ。私も死んだら『二区のアイシャ』って彫ってもらうつもりだよ」
「…………」
強い日差しの中、褐色肌にアフマドと同じ黒いウェーブの髪をなびかせて語るアイシャの横顔を、佐知子は見つめる。
「人ってね……ある日突然、あっけなく死んじまうんだよ」
その言葉に、佐知子はドキリとした。
「まぁ、アフマドは戦に出てたから多少は覚悟してたけど……斜め前の家の旦那さんは、突然、胸押さえて苦しんで亡くなっちまった。でも、三軒隣の奥さんは、病気でほとんど寝たきりなのにもう十年も生きてる。人は強いようで弱くて脆い……でも、弱くて脆いようで強い……不思議なもんだねぇ……いつまでもいるように思えて、ある日突然冗談のようにいなくなっちまう……」
アイシャはアフマドの墓石を見つめる。
「だからね……サチコ……いついなくなるかわからないから……悔いのないように……ちゃんと自分の気持ちは伝えておくんだよ。伝えて、一緒になって、家庭を作って、子を産んで……幸せな時間を過ごしておくれ……」
そっと佐知子の肩にアイシャの手が添えられた。
「いなくなった息子代わりにしたら悪いけど……もう私には、ヨウとあんたが……残された子供たちだからね……」
佐知子は瞳を見開いた。涙が滲んだ。
元の世界では、結婚して子供を産むのが当たり前ではなくなってきているけれど、この世界では元の世界の昔の様にそれが当たり前の幸せで……アイシャはそれを自分に願ってくれている……。
脳裏に浮かんだ元の世界の母親のこと、ヨウのこと、アフマドのこと……様々な事が脳裏を駆け巡り、まだ結婚や子供などは考えられないけれど、有難いという気持ちだけはわいて、感情が溢れて涙が零れ落ちそうになった。
佐知子はカンラの袖でそれを拭うと、
「はい……」
と、静かに答えた。
綺麗な青い空とまぶしい太陽の下、アイシャと佐知子は肩を寄せあって、アフマドの墓前でただじっと何も話さず泣きもせず、しばし時をす過ごしたのだった……。
アイシャが佐知子の隣にしゃがんで来た。
「二区のアフマドっておかしいだろ?」
「え!」
確かに思っていたことを聞かれ、佐知子はどう返していいか戸惑う。
「本当はね……私たちにも死んだ旦那から受け継いだ名字があるんだよ……でもねぇ……アフマドは小さい頃からこの村で、二区のアフマドとして生きて育った……私ももうあの名字を名乗るつもりもない。だから墓にもこの名前で彫ってもらったんだよ。私も死んだら『二区のアイシャ』って彫ってもらうつもりだよ」
「…………」
強い日差しの中、褐色肌にアフマドと同じ黒いウェーブの髪をなびかせて語るアイシャの横顔を、佐知子は見つめる。
「人ってね……ある日突然、あっけなく死んじまうんだよ」
その言葉に、佐知子はドキリとした。
「まぁ、アフマドは戦に出てたから多少は覚悟してたけど……斜め前の家の旦那さんは、突然、胸押さえて苦しんで亡くなっちまった。でも、三軒隣の奥さんは、病気でほとんど寝たきりなのにもう十年も生きてる。人は強いようで弱くて脆い……でも、弱くて脆いようで強い……不思議なもんだねぇ……いつまでもいるように思えて、ある日突然冗談のようにいなくなっちまう……」
アイシャはアフマドの墓石を見つめる。
「だからね……サチコ……いついなくなるかわからないから……悔いのないように……ちゃんと自分の気持ちは伝えておくんだよ。伝えて、一緒になって、家庭を作って、子を産んで……幸せな時間を過ごしておくれ……」
そっと佐知子の肩にアイシャの手が添えられた。
「いなくなった息子代わりにしたら悪いけど……もう私には、ヨウとあんたが……残された子供たちだからね……」
佐知子は瞳を見開いた。涙が滲んだ。
元の世界では、結婚して子供を産むのが当たり前ではなくなってきているけれど、この世界では元の世界の昔の様にそれが当たり前の幸せで……アイシャはそれを自分に願ってくれている……。
脳裏に浮かんだ元の世界の母親のこと、ヨウのこと、アフマドのこと……様々な事が脳裏を駆け巡り、まだ結婚や子供などは考えられないけれど、有難いという気持ちだけはわいて、感情が溢れて涙が零れ落ちそうになった。
佐知子はカンラの袖でそれを拭うと、
「はい……」
と、静かに答えた。
綺麗な青い空とまぶしい太陽の下、アイシャと佐知子は肩を寄せあって、アフマドの墓前でただじっと何も話さず泣きもせず、しばし時をす過ごしたのだった……。
10
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
残念女子高生、実は伝説の白猫族でした。
具なっしー
恋愛
高校2年生!葉山空が一妻多夫制の男女比が20:1の世界に召喚される話。そしてなんやかんやあって自分が伝説の存在だったことが判明して…て!そんなことしるかぁ!残念女子高生がイケメンに甘やかされながらマイペースにだらだら生きてついでに世界を救っちゃう話。シリアス嫌いです。
※表紙はAI画像です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる