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帝国暗躍編

閑話.第五騎士団の奮闘。見てしまった男

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 俺の名はマルフ。

 第五騎士団に入団しているただの兵士だ。

 俺は貴族だが、貴族は貴族でも弱小貴族の四男坊。平民と比べてそこそこ裕福ではあるが大した違いはない。

 第五騎士団は貴族の末弟やらで構成されている騎士団で、言わば"お名前だけ騎士団"だ。

 中途半端な貴族だけに変にプライドが高い奴らも第五騎士団にはいる。

 第五騎士団は総勢二十五人で大体半数以上が平民を下に見ている奴ら。

 毎日毎日、訓練にもならないような訓練を三十分程して、三時間休憩というなのティータイム。
 
 後は自主練となって、帰るものや女を侍らす時間になるのだ。

 これが第五騎士団の現状。

 ましな奴は大体十人。他十五人はみんなやる気がない。
 注意をすれば、やれ貴族としてだの。男の矜持だの言いはるような奴ら。
 
 俺はそんなやる気のない奴らを横目にまともな奴らと自主練をする。
 団長であるエルッソ様はとても変わり者で貴族の気品を兼ね備えているが、自主練もするし、乗馬も上手い。
 変わり者すぎて何を考えているかわからないが悪い人ではないと思ってる。


 ある日、自主練をしていると、大臣から第五騎士団に声がかけられた。

 声がかけられてすぐに自主練していた団長が大臣の待つ部屋へ向かった。

 とても珍しい事だったので、団員の中の誰かがやばい事でもやっていたのじゃないかと思いビクビクしていると、団長が大臣のところから帰ってきた。

 帰ってきた団長の顔色を見ると、いつも通りの顔色をしていて、やばい事件ではないのだろうと思い少しホッとした。

「ここにいる者達だけでいいっ!集まってくれっ!!」

 そんな事を頭の中でやっていると、団長が今自主練をしていた、俺含め十人を集めて集合させた。
 
 やはり緊急事態なんだろうか。ホッとしたのもつかの間、焦りが出てくる。周りの奴らを見てみると、俺と同じく不安そうな顔をして、周りを伺っていた。

「皆んなっ!よく聞いてくれっ!今私は大臣殿からとても大切な任務を授かったっ!!」

 不安な顔をした俺たちに団長はそう言った。

 え?任務だって!?何故俺たちが!??

 俺はその言葉を聞いて動揺した。

 俺たち騎士団は七団いる。

 その中で一番弱いと噂されている騎士団が俺達の第五騎士団なのだ。

 少し前までは第四、第六騎士団で弱小トリオと呼ばれていたのだが、第四と第六騎士団は前に任務を一回づつ遂行していて、最弱なのは第五騎士団と呼ばれる様になった。

 そんな最弱な俺たちに任務!?まともに魔物を倒したことがない俺たちに!?

 とてもだが任務を遂行する未来が思い浮かばなかった。

 そんな中、団長だけはいつもと変わらない様子でシュピシュピと任務の内容を話た。

 内容は教会の聖職者たちを捕まえる事。
 とてもシンプルだ。

 内容を聞いて俺や他のみんなは安心した。
 聖職者を捕まえるだけだ。俺たちは曲がりなりにも騎士。それに自主練だってしている。武装した冒険者ならともかく、神に祈りを捧げていて運動していなさそうな聖職者を捕まえるくらいなら俺たちにもできる。
 そう思って安心したのだった。



 任務の当日。

 俺は知ることになった。

 自分達の無力さを。



 第五騎士団は自主練をしている十人と団長のみで行動することになった。

 理由は簡単だ、十五人は朝がとても弱かったからだ。

 まともに運動していない奴らにいられても困るので俺としてはありがたかった。

 だが不満はある。俺たちが任務を遂行すれば何もしていない十五人も遂行した事になるから。
 団長はどうしてあの腐れ半端貴族共を退団させないのか疑問に思う。

 それについて団長に聞くと、団長はいつも「いつか騎士として目覚める日が来るはずさっ!」と言って話をはぐらかす。

 若干ムカムカを覚えながらも。行事が行われている時に短い間しか装備しない鎖帷子や鎧を身に纏って城の前へ向かった。

 城の前に着くと冒険者が五人いて、教会まで案内をしてくれる人達らしいことを聞いた。

 俺たち第五騎士団は冒険者に着いて行き、教会の前までついた。

 その時、俺たちの身に信じられないことが起きた。

 馬にまたがっている団長以外の全員が疲労困憊で疲れていたのだ。もちろん俺もである。

 いつも、ならばここ迄の距離で疲れる事なんてないのに、いつもは装備していない鎧をまとった事で変に疲れたらしいのだ。

 鎧とはここまで重たいものなのか!?第一騎士団はずっとこれをまとって遠征に行ったりドラゴンを倒したりしていたのか!?


 
 任務遂行の為に混乱しながらも少し休憩をした。

「皆んなっ!準備はいいかっ!!悪しきものを倒しにいくぞっ!僕についてこいっ!」

 教会へ向かう前に団長は高らかにそう叫んだ。
 少し混乱していた俺は団長のその一言で体が軽くなった。

「「おう!!」」

 俺たち騎士団は団長の叫びに答える様に叫んだ。

 この任務は必ず遂行させるぞ!!

 団長が言った様に悪しきものを倒して平民を守る!それが騎士だ!!

 そう思い教会へ向かった。

 教会へ向かう時には団長が冒険者達を離れさせた。
 冒険者と言っても平民。俺たちが守るべき対象なのだ。団長もそう思ってのことだろう。




 教会に着くと、馬にまたがっている団長に変わり、他の団員がドアを叩いた。


 ドアはギギギと不気味な音を鳴らして開いた。
 ドアが開いた先にはこの教会の神父が佇んでおり、愛想よく笑っていた。

 そこからの記憶はあまりない。

 団長が神父の罪を糾弾すると、神父とそこにいた聖職者達は暴れ出した。

 煙が出たかと思うと、先ほど別れた冒険者達が奴らを捕まえていた。

 冒険者が神父に取り調べを行うと神父のポケットから爆弾が出てきた。

 俺が見た時にはもう残り五秒もなかった。

 何が何だかわからない急展開で、状況もわからないがひとつだけわかった。



 俺は死ぬんだと。



 初めての感覚だった。散々平民達を守るとか抜かしておいて。このザマ。
 何もしない第五騎士団の十五人を見下しておいてやっていたのはドングリの背比べ。

 走馬灯の様に今までの人生と後悔の念が頭の中で流れた。


 あぁ、どうせ死ぬならもっと頑張っとけばよかったなぁ…


 そう思いながら俺は爆発の光に包まれ意識を失った。





「……きろ……おい……起きろ!」

「ん、んん?」

 俺は一番若い冒険者に体を揺すられて目が覚めた。
 確か俺死んだんだっけ。

 そう思い辺りを見回す。

 死体のように倒れている仲間たち。

 そして神聖な輝きを放っているステンドグラス。

 あ、天国か。

 あそこにいたやつらみんな死んだんだもんな。そりゃ一緒にいるか。



 なんだか、このステンドグラス見たことあるな。
 さっき俺が死んだ教会にも似たような物が置いてあった。

 あの椅子もそうだな。あ、あの教壇も。



 あれ??


 俺は違和感を感じながら体中をペタペタと触る。

「生き…てる??」

 頭がこの現実に追いついてこないままぼーっとしていると、もう一人俺の仲間が起こされた。

 仲間も俺と同様ポカーっとした顔をしている。

 そんな中、冒険者達はテキパキと動いていた。

 ようやくアタマが現実世界に戻ってきたところで俺と仲間のラリーは犯人の見張りを任された。

 そうして冒険者達が準備が整った頃。

「おいでよ!!シシオウ!!」

 一番若そうな冒険者がそう叫ぶと何処からかわからないが暖かい光を放って神々しい獣が現れた。

 獣は若そうな冒険者にすり寄って、というか、スリスリしていた。

 俺のアタマはもう一度天国へ行ってしまったみたいで放心状態となった。



 もう一度アタマが現実世界に帰還する頃には教会には気絶した奴らと俺と一緒に起こされたラリーだけだった。


「なあ、ラリー」

「なんだ、マルフ」

「俺達って今何処にいるんだ」

「…わからん」

 静かになった教会で二人は会話していた。

「生きてんのか」

「それもわからん。わからないが…」

 ラリーは呼吸を整えるように一拍おいて喋り出す。

「俺たちがあの冒険者に助けられたことはわかる」

「そうだな」

 そう言ってから、会話は途切れた。

 沈黙が教会を覆った。

 沈黙に耐えかねたのか俺の口は勝手に動き出す。

「なあ、ラリー」

「なんだ」

「俺たちも頑張ればあの冒険者達みたいに強くなれっかな」

「…なるさ」

 ポツリとラリーは言った。

『なれる』ではなく『なる』と。

 それからしばらく沈黙が続き、俺とラリーは団長や他の騎士団を起こし始めた。




 全員起こしてしばらくして、全員が正気に戻った頃に先ほどの冒険者達が他の聖職者を連れて教会へ戻ってきた。

 数は四人。神父達を含めて合計で七人。

 気絶から目覚めた騎士団でそいつらを牢屋に運んだ。

 任務は遂行した。

 牢屋へ送った後は帰るだけ。

 その時に俺とラリーは恩人の冒険者に話をかけらた。

 今日見た獣の事を秘密にしろと言われた。

 恩人からの願いなので俺もラリーもブンブンと首を縦に振って絶対に言わないと誓った。

 こうして第五騎士団は任務を遂行したのだ。

 しばらくして、白焔の獅子と神の使いの噂を聞いた。

 すぐにあの冒険者のことだとわかったが、俺もラリーも誰にも言っていない。
 死ぬまで絶対に言うもんか。


 そう思いながら俺は第五騎士団の訓練をする。
 今までの何百倍きつい訓練を鎧をまとって。



 
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