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勇者召喚編
13.暗闇の乙女。能力の説明
しおりを挟むここ、どこ???
何これ??
私は今真っ暗なところにいた。
自分が目をつぶっているかのように暗い。
床も壁も天井も全てが黒い。
というか、床も壁も天井も暗くて見えないのだ。
ただ、わかることは私は目を閉じていないということだけはわかる。
自分の体は確認ができる。
しゃがんだり、立ち上がったり、指を動かしたりすることもできる。
なんというかとても不思議な空間にいる。
というか、そもそもなんで私はこんなところにいるんだろう?
確か私は迷宮跡地で訓練をすることになって……
考え事をするように人差し指を顎に当てて今日起きた出来事を振り返る。
……って!夕日と宮本くんがいない!!!
「夕日!!宮本くん!!」
この真っ暗な空間で声を出すが、返事は帰ってこない。
洞窟とは別空間と考えた方がいいのかもしれない。
私はイマイチ自分の状況が理解できていないのだ。
何故、この空間にいるのか、ここはどこなのか、夕日達はどこなのか…
色々な事に思考を巡らせるが、やっぱり自分が何故ここに来たのかは覚えていない。
考えていても何も解決しなさそうなので、この真っ暗な空間を少し歩いてみる事にする。
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一時間ほど歩いた。
わかったことと言えば、ここの空間では魔法が使えないみたいだった。
それと、まだ一時間ほどしか歩いていないけれど、疲れる気配も喉を乾く気配もしない。
ものすごく奇妙な状況のはずなのに、私は何故か慌てないでていた。むしろ、落ち着いている気がする。
この安心がどこからくるものなのかはわからないけれど、私は気持ちの赴くままに進んだ。
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何時間かたった気がする。
そんな気がする。
時間を感覚で数えていたのだけど、いつのまにか曖昧になっていて、よくわからなくなっていた。
そもそも、一時間以上経っているのかも怪しい。
さっきは一時間歩いた気になっていたけれど、本当に一時間歩いていたのかわからない。
なんだろう、この感覚。時間を計ろうとすると時間そのものが歪んでるような?
なんて説明すればいいんだろう。10秒数えようとしているのに100秒かかっているような気もするし1秒で10秒数え終わっているような。
あああーー!わかんない!!!
不思議空間の不思議感覚とでも言えばいいのかなんというか。
というかもう、歩くのがめんどくさい。このまま歩いていても何も変わらない気がする。
そもそも、私は歩いていたの?
足は動かしているし地面を踏み抜いた感覚もあるけど、周りが真っ暗なのでその感覚すらも怪しいところだ。
私は歩くのをやめた。
もう、意味がわからないので、この空間の中で体育座りをしながら、考え事をする。
夕日達はどこにいるんだろう。
王国兵士と名乗る輩と戦って三人で洞窟の奥へ逃げた。
うん、ここまでは覚えている。
気絶した宮本くんを私がおぶって夕日は隣を走った。
分かれ道に差し掛かり、そこで三人のブレザーを捨てた。
おそらくあの二つの分かれ道のどちらか悩んで、兵士たちは進んでいるのではないか?
その先には私たちはいないけれど。
そこかからしばらく階層を降りたり、奥へ行ったりといろいろとして逃げた。
その甲斐あってか、追っ手は来ていなくて、ホッとした気がする。
そこで、走り回ったり警戒したりして疲れている私達は休憩したんだっけ?
んんー、休憩してからの記憶がない。
もしかしてこれ、私の夢?
「まぁ、そんなものかな?」
やっぱりそうなんだ。薄々わかってはいたけどね!走っても疲れないし、なんかおかしいし。
ただ、あまりに意識がはっきりしているものだからよくわからなくなっただけだから!!
こういうのなんていうんだっけ。
明晰夢?だっけ?
「まあ、それに近いけど根本的にはちがうよ。夢は脳が見せるものでしょ?
でもこの空間には夏目ちゃんの精神体をまるごと連れてきているからね。
当たっているようで当たっていない少し当たっているって感じかな?」
へぇ、夢じゃなくて精神体をまるごとねー……
「…って、え??」
え??誰??え?何?
声のする方に振り向くと、大人っぽい女の人が私の顔を見ていた。
長く、キラキラとした水色の髪とそれと同じ色をした綺麗な水色の瞳。
その瞳は少しタレ目で左の目元には黒子が付いていた。
白く澄み渡った張りのいい肌。
さらに、大きな胸と大きなお尻。
それにもかかわらず、すらっとしているくびれ。
それを強調させるようになんだかセクシーな踊り子のような服に、薄く透けた羽衣のようなものをまとっている。
なんだか大人の香りがプンプンするセクシーなお姉さんがいたのだ。
誰??
心の中でそう思う。
「私?私はあなたの力だよ??」
力?
力って??
ていうか、なんか心読まれてない!?
「力は力だよ?それに、ここにいるのは夏目ちゃんの体じゃなくて精神だよ?口で声を出しても心で思っても変わらないわよ」
不思議空間なので驚きはしないけれどやっぱり不思議。
「まあ、この空間も不思議だけど、この世界も大概よね。
魔法だとかスキルだとかって、前の世界ではそんなものなかったもの」
たしかに、今は慣れて来たが、元は魔法もスキルも存在しない世界に住んでいたんだ。
「…って、え??」
思わず声が出てしまった。驚いてしまった。
そんな私の気持ちを読んで、お姉さんが答える。
「なんで、前の世界の事を知っているの?って?
それは、私は夏目ちゃんがこーーんなにちっちゃい時からあなたの中にいたもの!」
私の目の前に手を出して人差し指と親指を限りなく近づけて小ささ表す。
その大きさなら赤ちゃんですらないじゃん!!
「うふふ、まあ、夏目ちゃんが生まれる前から夏目ちゃんの所にいたって事よ」
垂れた目を細めて、お淑やかに笑うお姉さんは女の私から見てもどきっとさせられてしまった。
「それはそうと、私は夏目ちゃんに注意をしにきたの」
先ほどの笑顔が急に真面目な顔になって私にそんな事を言った。
「夏目ちゃん危なかったのよ?
あなたが二人の男と戦った時に男が見せたあの首輪なんだかわかる??
あれはあなたを支配する為の首輪なのよ?
今回は私がなんとかしたけど本当に危なかったの!!
友達を守る為の自己犠牲の姿勢は否定しないけれど夏目ちゃんのそれは少し投げやりなのよ。
自分の気持ちに嘘ついて死のうとしたりするから、危なっかしくて見てられなくて声かけちゃったわよ」
お姉さんは怒りながら、でも心配そうにそう言った。
あの時の声はお姉さんの声だったんだ。
あの銀色のドロドロしたやつも。
お姉さんは色々としてくれたみたいで感謝の気持ちと罪悪感が両方出てくる。
「いやいや!別にそんな気持ちにならなくていいのよ?さっきも言ったけど私はあなたの力なんだから気にしないでいいの」
お姉さんはそう言うが、今助かっているのはお姉さんのおかげだ。
とてもじゃないが、そんな気にしないようにすることなんてでにない。
「本当に気にしなくていいのよ。
夏目ちゃんはアツアツの鉄板を不意に触った時に反射的に手を引っ込めるでしょ?
引っ込めた手に感謝なんてしないわよね?それと同じようなものよ」
お姉さんはそう言って微笑む。
とは言うが、お姉さんは感情があって生きているのだし感謝は伝えたい。
「まあ、気持ちだけもらっておくわ。
私はあなたの力なのだから気にしなくていいのだけれどね」
よかった。
それとさっきから気にはなっていたけど、力って何??
「力の事?んー、簡単に言うと魔法とかスキル見たいなものね。ただ、魔法とかスキルとかとはまた根本的に違うものだけどそんな感じかな?」
じゃあ、もともとわたしにはこの力があったってこと??
「もともとあったよ?でも前の世界にいたら目覚めることはなかったと思うわ。あそこは死の危険性が少ないから」
…死の危険性??
「まあ、色々あるのよ。それよりも力の説明をしましょうか!もう渡すって決めてるし!」
パンっと手を叩いてわたしに力の説明をした。
「私の力は1つの力で3つのことができるのよ!!」
と、ドヤ顔をしながら腰に手を当てて胸を張るお姉さん。
意外とお茶目なのね。
「いや、そ、そんな!お茶目とかそう言うの違うから。もうお姉さんは大人だから!」
ああ、私の心の声聞こえているんだった。
胸を張っていたお姉さんは照れたように腰をくねくねさせて顔を赤くしていた。
「んんっ!!じゃあ、力について説明するわ。
1つ目、あなたには水の力があるわ。自覚しているだろうけど、水魔法はそれの影響ね。他の人とは違って水魔法に応用が効くし自由度も高いわ。
2つ目、財宝の力。財宝の力は文字通り財宝を支配する力よ。まあ、財宝と言っても、金銀財宝ね。それ以外は操れないわ。でも、逆に金や銀ならばなんでも操れるけどね。
3つ目、はまだ早いわね。まだ身体が強くなってないから。
まあ、こんなもんかな?」
水魔法がなんか使えるのはお姉さんのおかげだったのね。
周りと水魔法の性質が少し違うのはそう言うことだったのね。
「そういうこと、お姉さんのおかげかと思われるとどうなのかな?私はあなたの力なのだからよくわからないわ。
ついでに言うとあの首輪と鎧を溶かしたのは財宝の力ね。あの鎧も首輪も銀で出来ていたから。
鎧も首輪も妙な力がこもっていたからそれごと溶かしたわ」
そんな力を使いこなしていけるのかな??
私は少し不安に思う。
「大丈夫だよ。使いこなせるわ。それにちゃんと生きるなら必要な力だから。
手を貸して、ちゃんと力を譲渡するわ」
お姉さんに従ってお姉さんの前に手を出した。
すると、お姉さんは私の手を両手でぎゅっと掴み祈るように目を閉じた。
その瞬間から何か塞がっていた箱が開くような感覚がして、力が私の物だと言うことを理解した。
「力の名を【弁財天】水の力と財宝の力、そして※※の力を持っているわ」
そう言って弁財天は握っていた手を離してニコリと笑った。
弁財天ね、私の中にずっといた力。何か親しみを感じる。
何か弁財天にお礼を言いたい。
「お礼なんていいの。私はあなたの力だから」
それでも…そうだ!親しみを込めて弁財天にあだ名をつけようかな!!
「…待って」
何にしようかな。弁財天…べんざいてん…んんー。
「ちょっと待って…」
べんざい、てん…べ、んざいてん…んん~。
あ!!
便z
「ちょっと待って!!!!!」
私があだ名を決めようとした瞬間、弁財天はそう大声をだして止めた。
体には何か汗が滴っていた。
「私にはもともとあだ名があるの!だから大丈夫!!そ、そう!あだ名は大丈夫だから!」
弁財天は私を必死にそう訴えた。
あだ名があるの?なら言ってよー!なんてあだ名??
「え?えぇーと…サ、サラス!そう!サラスって呼ばれているわ!夏目ちゃんにもそう呼んで欲しいな!」
なぜか必死そうな顔でそう言う。
サラスね。弁財天からどうなったらサラスになるのかわからないけどもともとあるなら仕方がないかー。
「うん!ありがとう!!嬉しい!!ってもうそろそろ時間になるわね」
ホッとしたような顔をするサラスはそう言った。
「今の夏目ちゃんの体は洞窟で眠っているの、そろそろ体も休まった頃だからね」
私の体は眠ってたんだ。じゃあ、もうサラスとはお別れなのね。
悲しい。
「ま、まあ、また会えると思うから。そ、そんなに寂しそうな顔しないでよ」
少しだけ顔を赤くするサラス。
「あ、ああ、それとついでに言っておくことがあったわ。
夏目ちゃんのお友達の夕日ちゃん、あの子も力を持ってるわね。そんな気配を感じるわ。
宮本くんからはそういうのは感じないけど」
なんか、最後にすごい気になることを言った。しかもさらっと。
それってどういう……
あ、眠い。
私は意識を落とした。
応援ありがとうございます!
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