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第7話 異世界の部長は強かった
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木でできた小屋は、二、三人が横になれる程度の広さで、ただ雨風がしのげる程度の粗末なものだった。
ネーラが乗っていた飛竜は、近くに見えなかった。
俺は小屋が見えるあたりまで来ると、ノアールを下ろしてコンバットスーツを解除する。
それを確認したのか、小屋の中からネーラとメイが出てくる。
ノアールがメイに走り寄り、抱きしめる。
うん、麗しき主従愛だな。
そんな俺の感慨深い思いは簡単に砕かれた。
「お母様!」
「ノアール!」
え!? 母親!? そう言えばメイさん、ノアールのことを「あの子」って言っていたような。
ノアールの母親は魔族だって言っていなかったか? メイさんはどう見ても人間。
「お、お母さん? メイさんって魔族?」
俺は思わず口に出していた。
「はい」
子供の顔にもどったノアールを抱きしめたまま、黒髪のメイドは母親の顔で答える。
「この人、アイスマンの一族だよね」
ネーラの言葉にメイは静かにうなずく。
「アイスマンって?」
「私は冷気を操る種族なのです」
「……雪女? だったら、その能力を使って逃げれば良かったんじゃないか?」
俺の問いにメイは首の金属製の首輪が取り付けられていた。
「この首輪で魔力は封じられています。その上、小さなこの子を連れては……」
悲しそうな顔をするメイを見て、未亡人の色気を感じる。子持ちと聞いて怯んだが、これはこれでいいかも。手慣れた女性の手ほどきを受けて、チェリー卒業も……しかし、そんな下心を俺はぐっと飲み込む。
「ナビちゃん、これは外せるか?」
『物理的には可能。ただし、どんな魔術的罠があるか不明』
だよな。魔力を封じるってくらいだから、無理に外すと呪いが発動っていうのが定番だよな。今のところ、メイの魔法が必要なわけでもないし、そっとしておくのが一番かな。
そう、俺が判断した瞬間、頭の中に警告音が響く。
『警告! 危険! 至急逃げろ!』
俺はコンバットスーツを着ながら外に飛び出した。
勇者が追って来たのか!? 風の勇者が来たのならばこの場所は不利だ。
シールドに隠れながら、周囲を見回す。
その瞬間、感覚的に背筋に冷たいものが走ったかと思うと、シールドが割れた。
「なっ!?」
驚く間も無く、身体中に衝撃が走る。
俺は頭をフル回転で、状況を把握しようとする。
その間にナビちゃんが絶え間なく、ダメージ状況を知らせてくる。
まずい! ダメージもエネルギーもマックスに近い。この状況でコンバットスーツがなくなれば一秒持たずに死が確定する。
「待ってくださいニャ! 部長!」
ネーラの声が小屋から響き渡る。その声に俺の目の前で拳が止まり、初めて襲撃者の全貌が確認できた。
その見た目は一言で言うとトカゲ人間。その姿は爬虫類と人間の美しさを兼ね備えた存在だった。
「ネーラ君、なぜ止める? 君はこの人間に捕まっていたのだろう? そっちの同胞と共に」
「いいえ、違いますニャ。彼は人間ですが、銀狼からあたいを助けてくれたニャ。その上この二人も人間どもから助けたニャ」
「本当か?」
美しいリザードマンの女性はギロリとネーラを睨みつけた。
「……本当ニャ」
「そうか」
部長と呼ばれたリザードマンは、ネーラの言葉に警戒を解くように拳を下ろした。
「申し訳ありませんでした!」
俺は、こんな綺麗な飛び土下座を見たことがなかった。
綺麗な放物線を描いて俺の目の前に着地と同時にその勢いのまま、地面に擦り付けるように頭を下げる。指を綺麗にそろえて、体全体で謝罪の意を表していた。
「私の早とちりであなた様に多大なご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした。お詫びの印にこの尻尾をお納めください」
そう言うと、自分のしっぽを引きちぎって俺に差し出してきた。ぴちぴちと跳ねる大きな尻尾を見て、正直ドン引きしていた。
この世界のしっぽは、やくざの小指的な役目か?
「いやいや、こんな物をもらってもしょうがない」
「では、私が一晩ご奉仕することで許していただけないでしょうか?」
「おいおい……」
「一晩では物足らないとおっしゃるのですね。それではそこのネーラと二人、一週間フルサービスでいかがでしょうか?」
「ちょっ! 部長! あたいを巻き込まないでくださいニャ。だいたい、フルサービスって何だニャ!?」
「ネーラ! お前の報告不足が招いた事だと理解しているだろうな」
「ちょっと、落ち着け! まず、あんたは何者だ?」
リザードマンのサービスがどこまで行くのか気にはなったが、とりあえず怒らせるとおっかない姉ちゃんの素性を確認しておきたい。
その後、今回の落とし前をつけさせてもらう。
「失礼いたしました。私は魔王軍諜報部部長サラマンディーネと申します。そこのネーラの上司に当たります」
「サラマン……ディーネさん?」
「呼びづらければディーネとお呼びください」
「ディーネさん。なんだって急に俺に襲い掛かってきたのだ?」
「ネーラからの連絡が昨夜から途切れており、捜索しておりました。そこに人間の街でワイバーンに乗ったネーラとあなたが目撃されたのです。それもどうやらあなたの命令に従っていると。そのため、てっきりネーラがあなたにつかまって、あんなことやこんなことをされた挙げ句に、脅されていたと推測しました。現在諜報部は別のプロジェクトで手がいっぱいのため、私がネーラの救出に来たのです。そこに、ネーラだけでなく同胞までいるのを発見して、ネーラ同様、人に言えないようなことをされる前に私を殺害してしまおうと判断した次第です」
「部長! あたいはまだ清い身体だニャ」
「そうか。ネーラはまだ処女か。うむ、評価欄に書き加えておいてやろう」
ちょっと! 魔王軍の部長ってアホでもなれるのか? 戦闘力はおそろしいほど高いが。
しかし、話せばわかってもらえそうだな。
「なあ、その別のプロジェクトというのは、勇者召喚にかかわることか?」
「それは秘密です」
「俺がその勇者の一人だとしてもか?」
「……」
サラマンディーネの目がすっと細くなるのと同時に、体が透け始めた。
透明化!? だからさっきの攻撃の時もディーネをとらえられなかったのか!
「ちょっと待て、俺は確かに勇者として召喚されたが、お前たち魔王軍に敵対しようとは思っていない。そもそも、敵対する気なら、ネーラを助けていないだろう」
サラマンディーネの体が見えるようになった。警戒を解いてくれているのだろう。エネルギーのほとんどない今の状態で、戦闘に入ってしまっては完全に詰む。
それに俺はあのくそ王とほかの勇者たちに恨みはあっても、魔王軍には何の思い入れもない。
「あなたが勇者だという証拠は?」
「わたくしが証人です。ローヤル王国第五王女ノアールがこのマモルが闇の勇者であることを証明します。彼はわたくしが召喚いたしました」
サラマンディーネはノアールの顔をじっくりと見た。
「確かにノアール王女ですね。ではあなたが勇者だというのであれば、諜報部長として捕縛ののち情報を引き出しますが、よろしいですか?」
「よろしいですか? じゃないよ。それはつまり、俺を捕まえて拷問して情報を吐かせるっていう意味だろう。馬鹿馬鹿しい。俺はお前たち魔王軍の手助けをしてやる」
「……なぜですか?」
「人間の王がむかつくからだ」
「……では、魔王軍への入社希望者ということですか?」
「いいや、違うね。協力会社だ。魔王軍に所属するでもなく、下請けでも子会社でもない。対等な取り引き相手だ」
「わかりました。それではあなたはわが軍と何の取り引きをしようというのですか?」
「まずは、こちらからは勇者の情報を売りたい。あとはとりあえず俺の武力だ。傭兵が必要な時に力になる」
サラマンディーネは少し考えこんだ。トカゲっぽいのだが、その顔はできる大人の女の顔だった。
「情報に関しましては私の一存で取り引きは可能です。対価については後でご相談するとして、まずは……」
「秘密保持契約書か?」
「その通りです。話が早くて助かります。ではこちらにサインをお願いいたします。二部サインいただき、片方を保管してください」
秘密保持契約書とは業務上知りえた情報を第三者に漏らさないという内容の書類である。
万が一漏らしてしまった罰則や条件等が記載されている。
まあ、ほかに人にペラペラと話すなよ、という内容が堅苦しい文章で書かれた書類のことである。
「仕事の話に入る前に、まず俺が受けた損害の補償について話したいのだが」
「当然ですね。私の不手際について対応して、初めて対等な立場で仕事ができるというものです。それでお望みはどういったものでしょうか?」
「三つある。一つは、ダメージを受けた俺の鎧はエネルギーさえあれば、修復可能だ。エネルギーを補充してほしい」
「エネルギー? 魔力のことですか?」
エネルギーとは何のことかわからないサラマンディーネに対して、少し待ってくれと、合図をして耳につけた通信機でナビちゃんに確認する。
「魔力で大丈夫だ。さっそく、もらえるか?」
万が一、今後の交渉が決裂したことを考えて、コンバットスーツを万全な状態にしておきたかった。
俺はコンバットスーツをつけると、サラマンディーネと手をつなぐ。
「いいですか? それでは魔力を放出しますよ。えい!」
サラマンディーネがそう言うと、左手からスーツ全体に力が流れ込んでくるのが分かった。それも膨大なエネルギー量だった。
「こんなものでいかがですか?」
俺はエネルギー量を確認してびっくりした。
『エネルギー残量480%、コンバットスーツ修復可能、マモルバスター使用可、マモルバイク召喚可能、マモルバギー召喚可能』
「コンバットスーツを修復してくれ。大至急」
エネルギー残量って100%より上があったんだ。パーセントの概念はどこへ行った? ヤマト世代からのお約束かもしれないが。
「ありがとう。十分だ。ディーネさんの魔力残量は大丈夫なのですか?」
「あら、心配してくれるのですか? お優しい。大丈夫です。まだ半分以上残っていますし。何だったら夜にあなたが私に魔力を注ぎ込んでいただければ回復しますよ」
サラマンディーネは体のしなをつくって、俺に投げキッスをする。
それにかみついたのはネーラだった。
「部長! セクハラだニャ。また法令遵守課に怒られるニャ」
「はいはい、ネーラは女の武器の一つも使えないから出世しないんですよ」
ネーラの話を軽く受け流すサラマンディーネ。その姿に大人の女性の余裕が見え隠れする。
しかし、コンプライアンス課のある魔王軍ってどうなのだ? そう言えば法務部もあるって言ってたな。組織としてはしっかりしてるみたいだな。
「それとメイさんのこの首輪を外して欲しい」
「……ああ、これは私には無理ですね。設備保全課じゃないと無理ですね」
「ならば、取り次いでくれないか?」
「部署が違いますから、無償とはなりませんが良いですか?」
俺はメイを見た。申し訳なさそうな顔でこちらを見ている。
そんな顔をしていたら、力になりたくなるじゃないですか。
「分かった。ただし、特別価格でお願いしてくれ」
「分かりました。それで、最後の一つは何ですか?」
サラマンディーネは、俺は一番やっかいな条件を最後に出してくるだろうと身構えていた。
ネーラが乗っていた飛竜は、近くに見えなかった。
俺は小屋が見えるあたりまで来ると、ノアールを下ろしてコンバットスーツを解除する。
それを確認したのか、小屋の中からネーラとメイが出てくる。
ノアールがメイに走り寄り、抱きしめる。
うん、麗しき主従愛だな。
そんな俺の感慨深い思いは簡単に砕かれた。
「お母様!」
「ノアール!」
え!? 母親!? そう言えばメイさん、ノアールのことを「あの子」って言っていたような。
ノアールの母親は魔族だって言っていなかったか? メイさんはどう見ても人間。
「お、お母さん? メイさんって魔族?」
俺は思わず口に出していた。
「はい」
子供の顔にもどったノアールを抱きしめたまま、黒髪のメイドは母親の顔で答える。
「この人、アイスマンの一族だよね」
ネーラの言葉にメイは静かにうなずく。
「アイスマンって?」
「私は冷気を操る種族なのです」
「……雪女? だったら、その能力を使って逃げれば良かったんじゃないか?」
俺の問いにメイは首の金属製の首輪が取り付けられていた。
「この首輪で魔力は封じられています。その上、小さなこの子を連れては……」
悲しそうな顔をするメイを見て、未亡人の色気を感じる。子持ちと聞いて怯んだが、これはこれでいいかも。手慣れた女性の手ほどきを受けて、チェリー卒業も……しかし、そんな下心を俺はぐっと飲み込む。
「ナビちゃん、これは外せるか?」
『物理的には可能。ただし、どんな魔術的罠があるか不明』
だよな。魔力を封じるってくらいだから、無理に外すと呪いが発動っていうのが定番だよな。今のところ、メイの魔法が必要なわけでもないし、そっとしておくのが一番かな。
そう、俺が判断した瞬間、頭の中に警告音が響く。
『警告! 危険! 至急逃げろ!』
俺はコンバットスーツを着ながら外に飛び出した。
勇者が追って来たのか!? 風の勇者が来たのならばこの場所は不利だ。
シールドに隠れながら、周囲を見回す。
その瞬間、感覚的に背筋に冷たいものが走ったかと思うと、シールドが割れた。
「なっ!?」
驚く間も無く、身体中に衝撃が走る。
俺は頭をフル回転で、状況を把握しようとする。
その間にナビちゃんが絶え間なく、ダメージ状況を知らせてくる。
まずい! ダメージもエネルギーもマックスに近い。この状況でコンバットスーツがなくなれば一秒持たずに死が確定する。
「待ってくださいニャ! 部長!」
ネーラの声が小屋から響き渡る。その声に俺の目の前で拳が止まり、初めて襲撃者の全貌が確認できた。
その見た目は一言で言うとトカゲ人間。その姿は爬虫類と人間の美しさを兼ね備えた存在だった。
「ネーラ君、なぜ止める? 君はこの人間に捕まっていたのだろう? そっちの同胞と共に」
「いいえ、違いますニャ。彼は人間ですが、銀狼からあたいを助けてくれたニャ。その上この二人も人間どもから助けたニャ」
「本当か?」
美しいリザードマンの女性はギロリとネーラを睨みつけた。
「……本当ニャ」
「そうか」
部長と呼ばれたリザードマンは、ネーラの言葉に警戒を解くように拳を下ろした。
「申し訳ありませんでした!」
俺は、こんな綺麗な飛び土下座を見たことがなかった。
綺麗な放物線を描いて俺の目の前に着地と同時にその勢いのまま、地面に擦り付けるように頭を下げる。指を綺麗にそろえて、体全体で謝罪の意を表していた。
「私の早とちりであなた様に多大なご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした。お詫びの印にこの尻尾をお納めください」
そう言うと、自分のしっぽを引きちぎって俺に差し出してきた。ぴちぴちと跳ねる大きな尻尾を見て、正直ドン引きしていた。
この世界のしっぽは、やくざの小指的な役目か?
「いやいや、こんな物をもらってもしょうがない」
「では、私が一晩ご奉仕することで許していただけないでしょうか?」
「おいおい……」
「一晩では物足らないとおっしゃるのですね。それではそこのネーラと二人、一週間フルサービスでいかがでしょうか?」
「ちょっ! 部長! あたいを巻き込まないでくださいニャ。だいたい、フルサービスって何だニャ!?」
「ネーラ! お前の報告不足が招いた事だと理解しているだろうな」
「ちょっと、落ち着け! まず、あんたは何者だ?」
リザードマンのサービスがどこまで行くのか気にはなったが、とりあえず怒らせるとおっかない姉ちゃんの素性を確認しておきたい。
その後、今回の落とし前をつけさせてもらう。
「失礼いたしました。私は魔王軍諜報部部長サラマンディーネと申します。そこのネーラの上司に当たります」
「サラマン……ディーネさん?」
「呼びづらければディーネとお呼びください」
「ディーネさん。なんだって急に俺に襲い掛かってきたのだ?」
「ネーラからの連絡が昨夜から途切れており、捜索しておりました。そこに人間の街でワイバーンに乗ったネーラとあなたが目撃されたのです。それもどうやらあなたの命令に従っていると。そのため、てっきりネーラがあなたにつかまって、あんなことやこんなことをされた挙げ句に、脅されていたと推測しました。現在諜報部は別のプロジェクトで手がいっぱいのため、私がネーラの救出に来たのです。そこに、ネーラだけでなく同胞までいるのを発見して、ネーラ同様、人に言えないようなことをされる前に私を殺害してしまおうと判断した次第です」
「部長! あたいはまだ清い身体だニャ」
「そうか。ネーラはまだ処女か。うむ、評価欄に書き加えておいてやろう」
ちょっと! 魔王軍の部長ってアホでもなれるのか? 戦闘力はおそろしいほど高いが。
しかし、話せばわかってもらえそうだな。
「なあ、その別のプロジェクトというのは、勇者召喚にかかわることか?」
「それは秘密です」
「俺がその勇者の一人だとしてもか?」
「……」
サラマンディーネの目がすっと細くなるのと同時に、体が透け始めた。
透明化!? だからさっきの攻撃の時もディーネをとらえられなかったのか!
「ちょっと待て、俺は確かに勇者として召喚されたが、お前たち魔王軍に敵対しようとは思っていない。そもそも、敵対する気なら、ネーラを助けていないだろう」
サラマンディーネの体が見えるようになった。警戒を解いてくれているのだろう。エネルギーのほとんどない今の状態で、戦闘に入ってしまっては完全に詰む。
それに俺はあのくそ王とほかの勇者たちに恨みはあっても、魔王軍には何の思い入れもない。
「あなたが勇者だという証拠は?」
「わたくしが証人です。ローヤル王国第五王女ノアールがこのマモルが闇の勇者であることを証明します。彼はわたくしが召喚いたしました」
サラマンディーネはノアールの顔をじっくりと見た。
「確かにノアール王女ですね。ではあなたが勇者だというのであれば、諜報部長として捕縛ののち情報を引き出しますが、よろしいですか?」
「よろしいですか? じゃないよ。それはつまり、俺を捕まえて拷問して情報を吐かせるっていう意味だろう。馬鹿馬鹿しい。俺はお前たち魔王軍の手助けをしてやる」
「……なぜですか?」
「人間の王がむかつくからだ」
「……では、魔王軍への入社希望者ということですか?」
「いいや、違うね。協力会社だ。魔王軍に所属するでもなく、下請けでも子会社でもない。対等な取り引き相手だ」
「わかりました。それではあなたはわが軍と何の取り引きをしようというのですか?」
「まずは、こちらからは勇者の情報を売りたい。あとはとりあえず俺の武力だ。傭兵が必要な時に力になる」
サラマンディーネは少し考えこんだ。トカゲっぽいのだが、その顔はできる大人の女の顔だった。
「情報に関しましては私の一存で取り引きは可能です。対価については後でご相談するとして、まずは……」
「秘密保持契約書か?」
「その通りです。話が早くて助かります。ではこちらにサインをお願いいたします。二部サインいただき、片方を保管してください」
秘密保持契約書とは業務上知りえた情報を第三者に漏らさないという内容の書類である。
万が一漏らしてしまった罰則や条件等が記載されている。
まあ、ほかに人にペラペラと話すなよ、という内容が堅苦しい文章で書かれた書類のことである。
「仕事の話に入る前に、まず俺が受けた損害の補償について話したいのだが」
「当然ですね。私の不手際について対応して、初めて対等な立場で仕事ができるというものです。それでお望みはどういったものでしょうか?」
「三つある。一つは、ダメージを受けた俺の鎧はエネルギーさえあれば、修復可能だ。エネルギーを補充してほしい」
「エネルギー? 魔力のことですか?」
エネルギーとは何のことかわからないサラマンディーネに対して、少し待ってくれと、合図をして耳につけた通信機でナビちゃんに確認する。
「魔力で大丈夫だ。さっそく、もらえるか?」
万が一、今後の交渉が決裂したことを考えて、コンバットスーツを万全な状態にしておきたかった。
俺はコンバットスーツをつけると、サラマンディーネと手をつなぐ。
「いいですか? それでは魔力を放出しますよ。えい!」
サラマンディーネがそう言うと、左手からスーツ全体に力が流れ込んでくるのが分かった。それも膨大なエネルギー量だった。
「こんなものでいかがですか?」
俺はエネルギー量を確認してびっくりした。
『エネルギー残量480%、コンバットスーツ修復可能、マモルバスター使用可、マモルバイク召喚可能、マモルバギー召喚可能』
「コンバットスーツを修復してくれ。大至急」
エネルギー残量って100%より上があったんだ。パーセントの概念はどこへ行った? ヤマト世代からのお約束かもしれないが。
「ありがとう。十分だ。ディーネさんの魔力残量は大丈夫なのですか?」
「あら、心配してくれるのですか? お優しい。大丈夫です。まだ半分以上残っていますし。何だったら夜にあなたが私に魔力を注ぎ込んでいただければ回復しますよ」
サラマンディーネは体のしなをつくって、俺に投げキッスをする。
それにかみついたのはネーラだった。
「部長! セクハラだニャ。また法令遵守課に怒られるニャ」
「はいはい、ネーラは女の武器の一つも使えないから出世しないんですよ」
ネーラの話を軽く受け流すサラマンディーネ。その姿に大人の女性の余裕が見え隠れする。
しかし、コンプライアンス課のある魔王軍ってどうなのだ? そう言えば法務部もあるって言ってたな。組織としてはしっかりしてるみたいだな。
「それとメイさんのこの首輪を外して欲しい」
「……ああ、これは私には無理ですね。設備保全課じゃないと無理ですね」
「ならば、取り次いでくれないか?」
「部署が違いますから、無償とはなりませんが良いですか?」
俺はメイを見た。申し訳なさそうな顔でこちらを見ている。
そんな顔をしていたら、力になりたくなるじゃないですか。
「分かった。ただし、特別価格でお願いしてくれ」
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