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第12話 異世界の村長は話が早い

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「うわははっははは」

 ヤマタノオロチの体を捌いて村はお祭り騒ぎだった。
 ヤマタノオロチなんて食べられるかって? ヤマタノオロチの体は基本的に蛇。つまりその肉は鳥のささみに似た食感。
 村を挙げて、飲めや歌えやのお祭り騒ぎだった。

「あんたなら、王国相手でも大丈夫だな。約束通り、ガルド村のみんなはあんたについて行くぞ」
「任しとけ! おまえらを悪いようにはしないぞ! はははっは」

 お酒を飲んだ俺は気が大きくなって、村長と肩を組みながら仲良く笑う。

「旦那! そういえば名前を聞いて無かったな。なんて名前だ? ワシはジムってんだ」
「俺はマモルだ。よろしくな」
「それで、マモル。この卵はどう、料理する?」
「卵?」
「さっきの蛇野郎はメスだったらしくて、卵を三つ腹に抱えていたんだよ」

 それで、人里に来ていたのか。栄養を蓄えるために。
 そう考えると、生物として当たり前の行動だったのかもしれない。ちょっと同情する。

「オムレツニャ!」

 俺のしっとりした心情を無視して、ネーラが明るくリクエストする。
 アホ猫!
 俺はネーラの猫耳を引っ張る。

「あ、いったたた。何をするニャ」
「その卵は食べないで、孵化させる。そして、この村で育てて、この村の守り神にする」
「じゃあ、三つもいらないニャ。一つぐらいオムレツで食べてもいいニャ」
「三つ、孵化させて番いつがいをここで育ててくれ。残り一匹は俺が連れて行く」
「何でニャ」
「そうしないと、種族が続かないだろうが」
「ブニャー」

 俺はネーラのぷにぷにのほっぺたを引っ張って説明すると、渋々ながら納得した。

「ジムさん。良いですか?」
「そうですね。上手く孵化できるか分かりませんが、やってみます」
「お願いします。それで、村長はそのまま、村の運営をお願いできますか? 対外的なところは俺が対応しますから」
「分かりました。ただし、村の住民に周知徹底する時間をください。それと税なんかはどうしますか?」
「とりあえず、税は無税で公共工事は有志の労働でお願いしたい。まずは王国、魔王軍の二国に独立国として認めさせるのを優先させますので」
「分かりました。それであれば村民を納得させやすいです。ただし、この村だけでは自給率が引くため、早めにどちらかの国から行商人の派遣をお願いします。最低でも冬前に。ここら辺は冬になると雪が積もって行き来ができなくなりますから」

 やはり山間部は雪問題があるのか。逆に言うと冬の間は攻め込まれる可能性が低いから助かるか。
 ただし、冬ごもりできるだけの食糧の確保が最低限の条件だが。

「了解した。それと、小さくて良いから俺がここに来た時の家を用意して欲しい」
「古くてよろしければ、家はいくらでもありますよ。田舎を嫌って出て行く家族は一定数はいますからね」

 ああ、やはり過疎村か。人が集まる村作りも平行してやらないと、人が増えないな。
 圧倒的な人材不足だな。しょうが無い。そこは後々ネーラの人脈でどうにかしよう。
 あ! 内政の練習をさせなければいけない人がいたな。

「なあ、ジムさんよ。一人知り合いをこの村に派遣して、村の運営を手伝わせたいのだけど」
「そりゃあ、人手は多い方がいいですよ」
「じゃあ、一人、いや二人こちらにお願いする」
「分かりました。それで、その人の名前は?」
「ノアールとメイと言う女性だ」
「ノアール? どこかで聞いた名前だな」

 村長のジムが首をひねっていると、ジムの奥さんらしいおばさんが口を挟む。

「ノアールって言ったら、王女と同じ名前じゃない。例の闇の王女と」
「おお、そうだ! 珍しい。闇の王女と同じ名前をつけるなんて親は何を考えているんだ?」
「ああ、闇の王女を知っているのか? それは良かった。派遣するのは本人だよ。王国逃げ出して今、一緒にいるんだ。それとその母親もな」
「なんだって! なんで闇の王女なんかと!」
「あんた、分からないのかい。これだから男は馬鹿だね。この兄さんが惚れたんだよ」

 ああ、確かに、あの地味そうでいて、色気のあるメイには一目惚れだった。その上、メイド服に眼鏡ときたもんだ。ど真ん中のストレート。
 俺は小さく頷くと、村長の奥さんは俺の背中をバンバンと叩いた。

「わかった! あたしに任しとき! 恩人が惚れた女だ。悪いようにはしない。良いね~ロマンスだね~」

 こうして奥さんに頭の上がらない村長はノアールとメイを受け入れることに同意をしたのだった。
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