4 / 4
クリスマす
「今年のクリスマスってあんのかな」
二人っきりの楽屋の中、ふと思ったことを口に出したら相方はポカンとしてた。
「ローマ法皇がクリスマスやめますって言ってるとか?」
「そういうことじゃなくてさぁ」
俺がさっきからずっと考えてたのは、今年はちゃんとクリスマスを過ごせるかどうかだ。
「イブなんか夜中まで収録でしょ」
「まあまあ、芸能人っぽくていんじゃん?」
確かに芸能人としては素敵なクリスマスって言い切れるけど、同じスケジュールでも俺と相方じゃ気の持ちようが絶対違う。
「そっちは家族とちゃんとクリスマスするじゃない」
「するけど」
「俺はそういう感じがいいの」
俺としてはずっと変わんない愛があるクリスマスが羨ましい。彼女と過ごしたって後輩と騒いでみたって、終わった後はやけに寂しくなるから。
「なんつーか、いわゆるハートウォーミングなのがいいんだ?」
「そうそう、そういうこと」
流石に長い付き合いだけあって、本気で理解しようとしてくれた時の相方は話が早い。ちょっとだけ何か考えるみたいに「うーん」と唸った後、心強い言葉をくれた。
「じゃあ俺がなんとかするよ」
「なんとか?」
「うん。ちゃんとクリスマせてあげる」
そんな約束はしてくれたけど、クリスマすって一体どういうことなんだろう。
クリスマスイブの収録は予定より押し押しで終わった。日付もすっかり変わってるからもうイブじゃないけど。
朝まで雪が降るってお天気お姉さんも言ってたし、今夜は寒くてしょうがない。だけど帰ろうとしてる俺の後ろを相方がついてきてくれてるから気持ちはあったかかった。
何かのタイミングを探ってるみたいな感じがなんか可愛いなって思いながら、車のキーを片手に駐車場を進んでく。
でも、俺は自分の車に辿り着く寸前で相方に裏切られた。いきなり全身全霊のタックルをもらったから。
「ちょっ、何何何何!?」
思いっきり倒れ込みながら叫んだけど、相方はだんまりで俺の落とした鍵を拾う。そのまま車に乗り込んでエンジンを掛けるから、その行動の意味がなんとなくわかってきた。
多分、エピソードトークをプレゼントしてくれるつもりなんだ。クリスマスなのに相方に車かっぱらわれて駐車場に置き去りにされたって。
「待てよ! おかしいだろ!!」
ちょっと受け入れそうになったけど、一応もう一回叫んでみたら意外にあっさり運転席の窓が開いた。
「早く乗んなよ」
当たり前みたいに言う相方を見てたらいっそのこと最初からこれが俺の車じゃなかったみたいに思えて、俺は大人しく助手席に座った。
相方が運転してる姿を隣で見るのは初めてだから不思議な気分だ。考えてみたらプライベートでもロケでも俺が運転してばっかだった。
「滑ったらごめんね」
出発早々半笑いでそんなこと言われてホワイトクリスマスが真っ赤に染まらないか心配になった。長い収録で疲れてる上に粉雪が舞ってる中、慣れない車を運転するなんて危なっかしいにも程がある。
「代わった方がいいよ、絶対」
「だよねぇ」
相方も俺の言葉には頷いてくれた。だけどハンドルを譲る気は全然ないらしい。こうなったら俺はもう相方を信じるしかないし、最後の最後はシートベルトやエアバッグに頼るだけだ。
諦めてタバコに手を伸ばしたところで、先に一服し始めてた相方からいきなりこんなことを頼まれた。
「粉雪歌ってよ」
「え? レミオロメンの?」
「聴かないと事故っちゃいそう」
遠回しに脅された俺がリクエストに応えて歌ってる間にも車は甲州街道を下ってく。案内標識も相方の目的までは教えてくれないから、歌い終わってから本気で聞いてみた。
「どうするつもりなの?」
「わかってんでしょ? ただの誘拐だよ」
誘拐犯こと相方は車をコインパーキングに停めて俺を解放してくれた。でもまだ車のキーは返してくれてないから自由の身になったとは言えない。
雪がちらつく中を二人で「さみー」だの「息しれー」だの言いながら歩いて、角を曲がると商店街に差し掛かった。
時間が時間だからシャッター通りみたいになってるけど、街路灯は明るいし、道沿いの木もイルミネーションでキラキラしてるから全然怖くない夜道だ。
「あ、タマゴとニワトリどっちがいい?」
相方は急に何か思い付いたみたいで無邪気に笑いながら聞いてくる。
「何それ」
「心理テスト」
「えー……じゃあ、タマゴ!」
「あなたはケーキが食べたいようです」
「ニワトリは?」
「何かしらのチキン」
どうやら約束通り、ちゃんとクリスマせてくれるつもりらしい。
「ホントはちゃんとしたやつ買ってあげたかったけどさ、コンビニで許してくれる?」
「許さないって言ったら?」
「側溝に鍵捨てる」
「許すよ」
もてなされてるんだか脅されてるんだかわからないままコンビニに入る。スイーツコーナーの前に来たところでこう言われた。
「今日はなんでもプレゼントするよ。ブッシュドノエルでもイチゴショートでもチーズケーキでも」
「じゃあねー、全部」
ツッコミ待ちで答えたら相方は本当に三つ共カゴに入れていく。あと、エクレアを二種類。それは自分用なのかなって思いながら見てたけど、シュークリームも何種類かポンポン入れ始めた時には思わず止めに入った。
「それ誰が食うの?」
そう聞いたら、相方はわざとらしいキョトン顔で俺に聞き返す。
「全部って言わなかった?」
「そういう意味じゃねぇよ」
俺はちゃんとツッコんだけど、相方は聞こえないふりで隅っこにあったバカみたいに大きなプリンやティラミスも手に取った。
結局スイーツコーナーを制覇してそのままレジに行っちゃって、お会計を済ませた相方から手にずっしり来るくらい大量のスイーツを渡された。
「ちゃんと食べてね。プレゼントだから」
「ありがとう」
嬉しくないわけじゃないからお礼は言ったけど、素直には喜べないままコンビニを出る。こないだ痩せたいって話したのに、相方は俺のダイエットに協力する気はないみたいだ。
「勿体ないから食うけど、俺絶対太んじゃん」
「じゃあ責任取って俺も食うよ」
「どれがいい?」
「お前だぁーっ!!」
袋を覗き込んでたら相方がいきなり怪談話の最後みたいに大声出すからびっくりした。
「近所迷惑だよ」
「ごめん、つい」
「ていうか人肉食うつもり?」
「しょうがないから煮込んで食べてあげる」
「おっかねぇな」
グロいっちゃグロい話をしつつ、コンビニの向かいにある広場まで来た。ここのシンボル的なでっかい木もキラキラしてて、雪とのコラボレーションですごくキレイだ。
「ありがとね、クリスマせてくれて」
照れくさいけどツリーを見上げながら改めてお礼を言った。相方はきっと、いつもみたいにヘラヘラ笑ってるに違いない。
「来年もいい子で過ごすんだよ?」
「はーい」
ダンディなおじさん風に頭をぽんぽん叩いてくる相方に幼児っぽく返事をしながら、俺は改めてこんなところまで誘拐してくれた喜びを噛み締めていた。
だってここは、二人でコンビを組むって決めた場所だから。
二人っきりの楽屋の中、ふと思ったことを口に出したら相方はポカンとしてた。
「ローマ法皇がクリスマスやめますって言ってるとか?」
「そういうことじゃなくてさぁ」
俺がさっきからずっと考えてたのは、今年はちゃんとクリスマスを過ごせるかどうかだ。
「イブなんか夜中まで収録でしょ」
「まあまあ、芸能人っぽくていんじゃん?」
確かに芸能人としては素敵なクリスマスって言い切れるけど、同じスケジュールでも俺と相方じゃ気の持ちようが絶対違う。
「そっちは家族とちゃんとクリスマスするじゃない」
「するけど」
「俺はそういう感じがいいの」
俺としてはずっと変わんない愛があるクリスマスが羨ましい。彼女と過ごしたって後輩と騒いでみたって、終わった後はやけに寂しくなるから。
「なんつーか、いわゆるハートウォーミングなのがいいんだ?」
「そうそう、そういうこと」
流石に長い付き合いだけあって、本気で理解しようとしてくれた時の相方は話が早い。ちょっとだけ何か考えるみたいに「うーん」と唸った後、心強い言葉をくれた。
「じゃあ俺がなんとかするよ」
「なんとか?」
「うん。ちゃんとクリスマせてあげる」
そんな約束はしてくれたけど、クリスマすって一体どういうことなんだろう。
クリスマスイブの収録は予定より押し押しで終わった。日付もすっかり変わってるからもうイブじゃないけど。
朝まで雪が降るってお天気お姉さんも言ってたし、今夜は寒くてしょうがない。だけど帰ろうとしてる俺の後ろを相方がついてきてくれてるから気持ちはあったかかった。
何かのタイミングを探ってるみたいな感じがなんか可愛いなって思いながら、車のキーを片手に駐車場を進んでく。
でも、俺は自分の車に辿り着く寸前で相方に裏切られた。いきなり全身全霊のタックルをもらったから。
「ちょっ、何何何何!?」
思いっきり倒れ込みながら叫んだけど、相方はだんまりで俺の落とした鍵を拾う。そのまま車に乗り込んでエンジンを掛けるから、その行動の意味がなんとなくわかってきた。
多分、エピソードトークをプレゼントしてくれるつもりなんだ。クリスマスなのに相方に車かっぱらわれて駐車場に置き去りにされたって。
「待てよ! おかしいだろ!!」
ちょっと受け入れそうになったけど、一応もう一回叫んでみたら意外にあっさり運転席の窓が開いた。
「早く乗んなよ」
当たり前みたいに言う相方を見てたらいっそのこと最初からこれが俺の車じゃなかったみたいに思えて、俺は大人しく助手席に座った。
相方が運転してる姿を隣で見るのは初めてだから不思議な気分だ。考えてみたらプライベートでもロケでも俺が運転してばっかだった。
「滑ったらごめんね」
出発早々半笑いでそんなこと言われてホワイトクリスマスが真っ赤に染まらないか心配になった。長い収録で疲れてる上に粉雪が舞ってる中、慣れない車を運転するなんて危なっかしいにも程がある。
「代わった方がいいよ、絶対」
「だよねぇ」
相方も俺の言葉には頷いてくれた。だけどハンドルを譲る気は全然ないらしい。こうなったら俺はもう相方を信じるしかないし、最後の最後はシートベルトやエアバッグに頼るだけだ。
諦めてタバコに手を伸ばしたところで、先に一服し始めてた相方からいきなりこんなことを頼まれた。
「粉雪歌ってよ」
「え? レミオロメンの?」
「聴かないと事故っちゃいそう」
遠回しに脅された俺がリクエストに応えて歌ってる間にも車は甲州街道を下ってく。案内標識も相方の目的までは教えてくれないから、歌い終わってから本気で聞いてみた。
「どうするつもりなの?」
「わかってんでしょ? ただの誘拐だよ」
誘拐犯こと相方は車をコインパーキングに停めて俺を解放してくれた。でもまだ車のキーは返してくれてないから自由の身になったとは言えない。
雪がちらつく中を二人で「さみー」だの「息しれー」だの言いながら歩いて、角を曲がると商店街に差し掛かった。
時間が時間だからシャッター通りみたいになってるけど、街路灯は明るいし、道沿いの木もイルミネーションでキラキラしてるから全然怖くない夜道だ。
「あ、タマゴとニワトリどっちがいい?」
相方は急に何か思い付いたみたいで無邪気に笑いながら聞いてくる。
「何それ」
「心理テスト」
「えー……じゃあ、タマゴ!」
「あなたはケーキが食べたいようです」
「ニワトリは?」
「何かしらのチキン」
どうやら約束通り、ちゃんとクリスマせてくれるつもりらしい。
「ホントはちゃんとしたやつ買ってあげたかったけどさ、コンビニで許してくれる?」
「許さないって言ったら?」
「側溝に鍵捨てる」
「許すよ」
もてなされてるんだか脅されてるんだかわからないままコンビニに入る。スイーツコーナーの前に来たところでこう言われた。
「今日はなんでもプレゼントするよ。ブッシュドノエルでもイチゴショートでもチーズケーキでも」
「じゃあねー、全部」
ツッコミ待ちで答えたら相方は本当に三つ共カゴに入れていく。あと、エクレアを二種類。それは自分用なのかなって思いながら見てたけど、シュークリームも何種類かポンポン入れ始めた時には思わず止めに入った。
「それ誰が食うの?」
そう聞いたら、相方はわざとらしいキョトン顔で俺に聞き返す。
「全部って言わなかった?」
「そういう意味じゃねぇよ」
俺はちゃんとツッコんだけど、相方は聞こえないふりで隅っこにあったバカみたいに大きなプリンやティラミスも手に取った。
結局スイーツコーナーを制覇してそのままレジに行っちゃって、お会計を済ませた相方から手にずっしり来るくらい大量のスイーツを渡された。
「ちゃんと食べてね。プレゼントだから」
「ありがとう」
嬉しくないわけじゃないからお礼は言ったけど、素直には喜べないままコンビニを出る。こないだ痩せたいって話したのに、相方は俺のダイエットに協力する気はないみたいだ。
「勿体ないから食うけど、俺絶対太んじゃん」
「じゃあ責任取って俺も食うよ」
「どれがいい?」
「お前だぁーっ!!」
袋を覗き込んでたら相方がいきなり怪談話の最後みたいに大声出すからびっくりした。
「近所迷惑だよ」
「ごめん、つい」
「ていうか人肉食うつもり?」
「しょうがないから煮込んで食べてあげる」
「おっかねぇな」
グロいっちゃグロい話をしつつ、コンビニの向かいにある広場まで来た。ここのシンボル的なでっかい木もキラキラしてて、雪とのコラボレーションですごくキレイだ。
「ありがとね、クリスマせてくれて」
照れくさいけどツリーを見上げながら改めてお礼を言った。相方はきっと、いつもみたいにヘラヘラ笑ってるに違いない。
「来年もいい子で過ごすんだよ?」
「はーい」
ダンディなおじさん風に頭をぽんぽん叩いてくる相方に幼児っぽく返事をしながら、俺は改めてこんなところまで誘拐してくれた喜びを噛み締めていた。
だってここは、二人でコンビを組むって決めた場所だから。
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科
空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する
高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体
それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった
至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する
意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク”
消える教師
山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー
魔性の男
久野字
BL
俺はとにかくモテる。学生の頃から、社会人になった今でも、異性問わずにモテてしまう。
最近、さえない同性の先輩に好意を持たれている。いつものことだろう。いい人だから、傷つけたくはないな。
そう、思っていた。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?