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第6話
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勅使河原さんと会えない日は寂しくて仕方ない。大体お互いのシフト休みの日と定休日が並んでいるから三日連続で会えない状態になっている。
明日は勅使河原さんの家に行くことになっているけれど、今日は会えないのかと思うとまるでやる気が出なくて二度寝してしまった。
昼下がりに目を覚ましたら時生からメッセージが届いていた。
『夏彦のお兄ちゃんの冬彦って会ったことある?』
店長のお兄さんは隣町にある本店を一人で切り盛りしていると聞いたことがあるけど、面識はなかったから『ない』と返したらすぐに返信が来た。
『双子並みに似てるのに性格は全然似てなくて面白いから会いに行こうよ』
店長そっくりなお兄さんというのはとても気になって、時生と一緒に冬彦さんの店に行ってみることにした。
待ち合わせ場所の駅前に着いて連絡を入れようとしたところで、不意に肩を叩かれた。反射的に振り返ったら時生の人差し指で頬を突かれる形になってイラッとした。
「小学生かよ」
「なついでしょ」
いたずらが成功した時生は満足気ににんまりと笑う。四日前は桜餅みたいだった髪の色はピンクと水色に変わっていた。
「またすげぇ色してんな」
「最近キキララちゃん推しなんだよね」
「誰それ」
「え? サンリオわかんない人?」
新手のギャルタレントか何かかと思っていたら、時生はスマホケースを見せてくれた。俺でも見たことがあるキャラクターだった。
「こいつらキキララっていうのか」
「こんな可愛い子達のことこいつらって言わないでよ」
「ごめんごめん」
俺がなんの気なしにこいつら呼ばわりすると時生が頬を膨らませたから慌てて謝った。
「そんなことより、イメチェンした友達になんか一言ないの?」
「似合ってるね」
「そうでしょそうでしょ」
言葉のカツアゲに遭った気がしないでもないけど、実際とても似合ってはいる。時生は自分のことをよくわかっているんだろう。
「それじゃあ出発しんこー!」
駅から少し歩いて大通りを一本入った路地裏に冬彦さんの店はあった。
「こんばんはー」
扉を開けて元気よく挨拶する時生に続いて店に入る。オープン直後なせいか貸し切り状態だった。
「いらっしゃいませ」
バーカウンターには時生から聞いていた通り、顔も体格も声も店長とそっくりな人がいた。ただ、勅使河原さんに勝るとも劣らないくらいの笑顔で迎えてくれたから驚いた。
「この子が健太郎だよ」
「初めまして。佐野冬彦と申します。いつもうちの夏彦がお世話になってます」
冬彦さんはお辞儀をした後、朗らかに笑いながら名刺を差し出してくれた。
「えっと、志村健太郎です。こちらこそお世話になっております」
「堅苦し過ぎじゃない?」
若干緊張しながらそれを受け取って頭を下げたら時生には笑われた。
「肩の力抜いてゆっくりしていってね。ご注文は?」
「僕はスクリュードライバーで」
「俺も同じのでお願いします」
「かしこまりました」
スクリュードライバーがどんなカクテルだったかあやふやだったけど時生に便乗した。ウォッカのオレンジジュース割りで、度数が高そうなわりに飲みやすかった。
「それにしても、びっくりするくらい弟さんに似てますね」
「よく間違えられるんだよね。半年前だったか、彼女とお茶してたら知らない女の子がツカツカツカって近付いてきて、いきなりビンタされてさ。何かと思ったら夏彦の彼女だったんだよね」
「酷い目に遭ったんですね」
「免許証見せたら平謝りされたよ」
冬彦さんは本当に店長と瓜二つなのに表情の豊かさと話の軽快さが段違いだからずっと強い違和感を覚えている。
「なんか、店長がそんなに笑ってるところ見たことないんで脳がバグりそうです」
「夏彦ってホンット無愛想だよね! ごめんね!」
「いやいや」
率直な感想を伝えたら冬彦さんから両手を合わせて謝られてたじろいでしまった。
「うちの一族みんな明るいからさ、なんで一人だけあんなクールに育っちゃったのか不思議なんだよね」
「突然変異じゃない?」
「突然変異ならしょうがないかー」
楽しそうに笑い合っている冬彦さんと時生を見ていると、一族みんな明るいというのは冗談ではなさそうな気がする。
「店長って子供の頃からあんなクールだったんですか」
「昔は結構甘えん坊だったね」
「意外ですね」
「いっつもそう言ってるけど、絶対話盛ってるよね」
時生は冬彦さんの言葉を全く信じていないようだった。今の店長のイメージは甘えん坊という言葉からかけ離れているから信じられない気持ちはよくわかる。
「全然盛ってないよ。ずっと俺の後ろくっついて歩いててさ、すっごい可愛かったんだから」
冬彦さんはそう言いながらスマホの待ち受け画面を見せてくれた。満面の笑顔でピースしている幼稚園児と、その後ろから不機嫌そうに顔を覗かせている赤ちゃんが写っていた。
「ほっぺたぷくぷくしてて可愛い」
「だよね!」
当たり前のことではあるけれど、店長にもこんなに小さい頃があったのかと思うと不思議な気分だ。
「にしても、子供の頃の写真待ち受けにしてるって兄弟愛すごいですね」
「そりゃあ二人っきりの兄弟だからさ。なんか夏彦の話ばっかりしちゃってごめんね?」
「むしろもっと聞きたいくらいです」
店長は自分のことをあまり話してくれない人だし、冬彦さんのエピソードトークは新鮮で面白いからずっと聞いていたくなる。
「そうだ。志村くんさ、夏彦って実は冬生まれだって知ってる?」
「えっ、そうなんですか」
完全に夏生まれだと思っていたからその話には驚いた。そういえば誕生日は聞いたことがない。
「うちさ、父親が秋永で母親が小春っていうの。で、冬に生まれた俺が冬彦で、せっかくだから春夏秋冬がいいよねって感じで夏彦になったんだって」
「明るい一族っぽい名前の決め方ですね」
「我が親ながら適当だなって思うよ。ちなみに店名のカトルセゾンも四季って意味だよ」
「そんな由来があったんですね」
冬彦さんの話を聞いていると両親との仲も良さそうな雰囲気を感じて羨ましいと思ってしまった。
「ぶっちゃけどう? 仕事しんどくない?」
「正直しんどいお客さんもいますけど、最近やっと慣れてきましたし、店長も勅使河原さんもいい人だから基本は楽しくやれてます」
「ならよかった」
近況を包み隠さず話したら冬彦さんは安心した様子で笑ってくれた。
「テッシーもたまに遊びに来てくれるんだけどさ、ホントいい子だよね」
「そうですね。いつもにこにこしてて」
「俺に何かあった時は後継いでねって約束するくらい意気投合したよ」
「気が合いそうな感じはめっちゃわかります」
冬彦さんに何かあったら勅使河原さんと一緒に働けなくなるのかと思うと平穏無事を祈らずにはいられない。
「僕もこないだちょっと話しただけだけど好きになっちゃった」
「え? それって恋愛的な意味で?」
「うん。顔もスタイルもノリもいいし彼氏だったら最高じゃん」
時生の言葉は聞き捨てならなかったけど、変に反応するわけにもいかなくて、俺は二人のやり取りを黙って聞いていた。
「テッシーが素敵だからって浮気しちゃダメだよ」
「今もうフリーだから大丈夫」
「えーっ!?」
時生が真顔でダブルピースしながら暗に破局を宣言すると、冬彦さんは目を丸くしていた。
「別れたの? なんで?」
「なんだろ。方向性の違い?」
「そんなバンドの解散理由みたいな感じなの?」
「終わったことの話より僕は健太郎のことが聞きたいよ。今って恋してる?」
時生からのキラーパスには戸惑ったけど、誰かに話したい気持ちもなくはなかったから相手のことは伏せて話してみることにした。
「してるけど、めちゃくちゃモテる人だから俺なんかじゃ無理だろうなって」
「その俺なんかってマインドやめて自信持っていきなよ」
「そうそう。健太郎くん爽やか好青年だから大丈夫だよ!」
「ありがとうございます」
素直な気持ちを言葉にしたら二人掛かりで励まされて少し元気が出た。爽やかなんて言われたのは人生で初めてだ。
「高嶺の花にはみんな尻込みしがちだし、結局物怖じしない奴が掻っ攫っていったりするよね」
「わかるー」
冬彦さんの言葉に時生は強く共感していた。確かにそういうところはあるかもしれない。
「健太郎もビビらずに告っちゃえば意外といけるかもだよ」
「今の関係性が壊れるかもって考えたら怖いし現状維持でもいいかって思ってるんだけど」
「俺は誰かに先越されることの方が怖いから好きになったらすぐ好きって言っちゃうなぁ。気まずくなっちゃった子もいるけどさ、意外と変わらず仲良くしてくれてる子の方が多いし、一回断られたけどしばらくして逆に向こうから告白されたパターンもあるよ」
「そんなパターンあるんですね」
恋愛の経験値がゼロの俺からすると冬彦さんの恋愛観や経験談はとても興味深く感じる。
「好きって言われて嬉しくない人ってあんまりいないんじゃないかな」
「でもやっぱりキモいって思われそうで怖いです」
「うーん……そっかそっかー」
俺のネガティブさには冬彦さんも困ってしまったのか、腕組みして天を仰ぎながら何か考えているようだった。
「お相手って何歳?」
「二十九歳です」
「二十九のお姉さんからしたら健太郎くんなんて絶対可愛いとしか思わないって!」
「そうですかね」
勅使河原さんの年齢を伝えたら冬彦さんはそう力説してくれたけど、相手がお姉さんじゃなくてお兄さんだから悩んでいるとは口が裂けても言えない。
「まあ健太郎は冬彦と違って当たって砕けろって感じじゃないよね。石橋を叩いて壊す的な」
「どんなだよ」
「一人でぐるぐる考えてバッド入るタイプでしょ」
「それは確かにそうだけど」
その点に関しては時生の言う通りだ。時生と再会した日なんて正にそうだった。
「あ、そうだ」
冬彦さんはもう一枚名刺を渡してくれた。今度は手書きの連絡先が添えられていた。
「一人で考え込んでたら変な方向にいっちゃう時あるからさ、俺でよかったらいつでも連絡してね」
「ありがとうございます」
冬彦さんに相談したら全部前向きに変換してくれるに違いないし、一生懸命励ましてくれるから自己肯定感が上がりそうだと思う。
その後も小一時間ずっと恋愛について話をしてもらって、一人で悩んでいた時よりもかなり視界が開けたような気がした。
明日は勅使河原さんの家に行くことになっているけれど、今日は会えないのかと思うとまるでやる気が出なくて二度寝してしまった。
昼下がりに目を覚ましたら時生からメッセージが届いていた。
『夏彦のお兄ちゃんの冬彦って会ったことある?』
店長のお兄さんは隣町にある本店を一人で切り盛りしていると聞いたことがあるけど、面識はなかったから『ない』と返したらすぐに返信が来た。
『双子並みに似てるのに性格は全然似てなくて面白いから会いに行こうよ』
店長そっくりなお兄さんというのはとても気になって、時生と一緒に冬彦さんの店に行ってみることにした。
待ち合わせ場所の駅前に着いて連絡を入れようとしたところで、不意に肩を叩かれた。反射的に振り返ったら時生の人差し指で頬を突かれる形になってイラッとした。
「小学生かよ」
「なついでしょ」
いたずらが成功した時生は満足気ににんまりと笑う。四日前は桜餅みたいだった髪の色はピンクと水色に変わっていた。
「またすげぇ色してんな」
「最近キキララちゃん推しなんだよね」
「誰それ」
「え? サンリオわかんない人?」
新手のギャルタレントか何かかと思っていたら、時生はスマホケースを見せてくれた。俺でも見たことがあるキャラクターだった。
「こいつらキキララっていうのか」
「こんな可愛い子達のことこいつらって言わないでよ」
「ごめんごめん」
俺がなんの気なしにこいつら呼ばわりすると時生が頬を膨らませたから慌てて謝った。
「そんなことより、イメチェンした友達になんか一言ないの?」
「似合ってるね」
「そうでしょそうでしょ」
言葉のカツアゲに遭った気がしないでもないけど、実際とても似合ってはいる。時生は自分のことをよくわかっているんだろう。
「それじゃあ出発しんこー!」
駅から少し歩いて大通りを一本入った路地裏に冬彦さんの店はあった。
「こんばんはー」
扉を開けて元気よく挨拶する時生に続いて店に入る。オープン直後なせいか貸し切り状態だった。
「いらっしゃいませ」
バーカウンターには時生から聞いていた通り、顔も体格も声も店長とそっくりな人がいた。ただ、勅使河原さんに勝るとも劣らないくらいの笑顔で迎えてくれたから驚いた。
「この子が健太郎だよ」
「初めまして。佐野冬彦と申します。いつもうちの夏彦がお世話になってます」
冬彦さんはお辞儀をした後、朗らかに笑いながら名刺を差し出してくれた。
「えっと、志村健太郎です。こちらこそお世話になっております」
「堅苦し過ぎじゃない?」
若干緊張しながらそれを受け取って頭を下げたら時生には笑われた。
「肩の力抜いてゆっくりしていってね。ご注文は?」
「僕はスクリュードライバーで」
「俺も同じのでお願いします」
「かしこまりました」
スクリュードライバーがどんなカクテルだったかあやふやだったけど時生に便乗した。ウォッカのオレンジジュース割りで、度数が高そうなわりに飲みやすかった。
「それにしても、びっくりするくらい弟さんに似てますね」
「よく間違えられるんだよね。半年前だったか、彼女とお茶してたら知らない女の子がツカツカツカって近付いてきて、いきなりビンタされてさ。何かと思ったら夏彦の彼女だったんだよね」
「酷い目に遭ったんですね」
「免許証見せたら平謝りされたよ」
冬彦さんは本当に店長と瓜二つなのに表情の豊かさと話の軽快さが段違いだからずっと強い違和感を覚えている。
「なんか、店長がそんなに笑ってるところ見たことないんで脳がバグりそうです」
「夏彦ってホンット無愛想だよね! ごめんね!」
「いやいや」
率直な感想を伝えたら冬彦さんから両手を合わせて謝られてたじろいでしまった。
「うちの一族みんな明るいからさ、なんで一人だけあんなクールに育っちゃったのか不思議なんだよね」
「突然変異じゃない?」
「突然変異ならしょうがないかー」
楽しそうに笑い合っている冬彦さんと時生を見ていると、一族みんな明るいというのは冗談ではなさそうな気がする。
「店長って子供の頃からあんなクールだったんですか」
「昔は結構甘えん坊だったね」
「意外ですね」
「いっつもそう言ってるけど、絶対話盛ってるよね」
時生は冬彦さんの言葉を全く信じていないようだった。今の店長のイメージは甘えん坊という言葉からかけ離れているから信じられない気持ちはよくわかる。
「全然盛ってないよ。ずっと俺の後ろくっついて歩いててさ、すっごい可愛かったんだから」
冬彦さんはそう言いながらスマホの待ち受け画面を見せてくれた。満面の笑顔でピースしている幼稚園児と、その後ろから不機嫌そうに顔を覗かせている赤ちゃんが写っていた。
「ほっぺたぷくぷくしてて可愛い」
「だよね!」
当たり前のことではあるけれど、店長にもこんなに小さい頃があったのかと思うと不思議な気分だ。
「にしても、子供の頃の写真待ち受けにしてるって兄弟愛すごいですね」
「そりゃあ二人っきりの兄弟だからさ。なんか夏彦の話ばっかりしちゃってごめんね?」
「むしろもっと聞きたいくらいです」
店長は自分のことをあまり話してくれない人だし、冬彦さんのエピソードトークは新鮮で面白いからずっと聞いていたくなる。
「そうだ。志村くんさ、夏彦って実は冬生まれだって知ってる?」
「えっ、そうなんですか」
完全に夏生まれだと思っていたからその話には驚いた。そういえば誕生日は聞いたことがない。
「うちさ、父親が秋永で母親が小春っていうの。で、冬に生まれた俺が冬彦で、せっかくだから春夏秋冬がいいよねって感じで夏彦になったんだって」
「明るい一族っぽい名前の決め方ですね」
「我が親ながら適当だなって思うよ。ちなみに店名のカトルセゾンも四季って意味だよ」
「そんな由来があったんですね」
冬彦さんの話を聞いていると両親との仲も良さそうな雰囲気を感じて羨ましいと思ってしまった。
「ぶっちゃけどう? 仕事しんどくない?」
「正直しんどいお客さんもいますけど、最近やっと慣れてきましたし、店長も勅使河原さんもいい人だから基本は楽しくやれてます」
「ならよかった」
近況を包み隠さず話したら冬彦さんは安心した様子で笑ってくれた。
「テッシーもたまに遊びに来てくれるんだけどさ、ホントいい子だよね」
「そうですね。いつもにこにこしてて」
「俺に何かあった時は後継いでねって約束するくらい意気投合したよ」
「気が合いそうな感じはめっちゃわかります」
冬彦さんに何かあったら勅使河原さんと一緒に働けなくなるのかと思うと平穏無事を祈らずにはいられない。
「僕もこないだちょっと話しただけだけど好きになっちゃった」
「え? それって恋愛的な意味で?」
「うん。顔もスタイルもノリもいいし彼氏だったら最高じゃん」
時生の言葉は聞き捨てならなかったけど、変に反応するわけにもいかなくて、俺は二人のやり取りを黙って聞いていた。
「テッシーが素敵だからって浮気しちゃダメだよ」
「今もうフリーだから大丈夫」
「えーっ!?」
時生が真顔でダブルピースしながら暗に破局を宣言すると、冬彦さんは目を丸くしていた。
「別れたの? なんで?」
「なんだろ。方向性の違い?」
「そんなバンドの解散理由みたいな感じなの?」
「終わったことの話より僕は健太郎のことが聞きたいよ。今って恋してる?」
時生からのキラーパスには戸惑ったけど、誰かに話したい気持ちもなくはなかったから相手のことは伏せて話してみることにした。
「してるけど、めちゃくちゃモテる人だから俺なんかじゃ無理だろうなって」
「その俺なんかってマインドやめて自信持っていきなよ」
「そうそう。健太郎くん爽やか好青年だから大丈夫だよ!」
「ありがとうございます」
素直な気持ちを言葉にしたら二人掛かりで励まされて少し元気が出た。爽やかなんて言われたのは人生で初めてだ。
「高嶺の花にはみんな尻込みしがちだし、結局物怖じしない奴が掻っ攫っていったりするよね」
「わかるー」
冬彦さんの言葉に時生は強く共感していた。確かにそういうところはあるかもしれない。
「健太郎もビビらずに告っちゃえば意外といけるかもだよ」
「今の関係性が壊れるかもって考えたら怖いし現状維持でもいいかって思ってるんだけど」
「俺は誰かに先越されることの方が怖いから好きになったらすぐ好きって言っちゃうなぁ。気まずくなっちゃった子もいるけどさ、意外と変わらず仲良くしてくれてる子の方が多いし、一回断られたけどしばらくして逆に向こうから告白されたパターンもあるよ」
「そんなパターンあるんですね」
恋愛の経験値がゼロの俺からすると冬彦さんの恋愛観や経験談はとても興味深く感じる。
「好きって言われて嬉しくない人ってあんまりいないんじゃないかな」
「でもやっぱりキモいって思われそうで怖いです」
「うーん……そっかそっかー」
俺のネガティブさには冬彦さんも困ってしまったのか、腕組みして天を仰ぎながら何か考えているようだった。
「お相手って何歳?」
「二十九歳です」
「二十九のお姉さんからしたら健太郎くんなんて絶対可愛いとしか思わないって!」
「そうですかね」
勅使河原さんの年齢を伝えたら冬彦さんはそう力説してくれたけど、相手がお姉さんじゃなくてお兄さんだから悩んでいるとは口が裂けても言えない。
「まあ健太郎は冬彦と違って当たって砕けろって感じじゃないよね。石橋を叩いて壊す的な」
「どんなだよ」
「一人でぐるぐる考えてバッド入るタイプでしょ」
「それは確かにそうだけど」
その点に関しては時生の言う通りだ。時生と再会した日なんて正にそうだった。
「あ、そうだ」
冬彦さんはもう一枚名刺を渡してくれた。今度は手書きの連絡先が添えられていた。
「一人で考え込んでたら変な方向にいっちゃう時あるからさ、俺でよかったらいつでも連絡してね」
「ありがとうございます」
冬彦さんに相談したら全部前向きに変換してくれるに違いないし、一生懸命励ましてくれるから自己肯定感が上がりそうだと思う。
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