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学園入学
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この国には15歳から17歳までの貴族の子弟が通う魔法学園がある。
この学園を婚活学園と私は命名したい。
ギラギラした目で獲物を吟味する令嬢。
中には男子生徒と目も合わせられないと恥じらい、か弱く見せながらもしっかりと男達を値踏みしている令嬢もいる。
まるで狩人のような目をした令嬢達に囲まれた女子クラスでコンスタンティナは未だに友人が出来ないまま半年ほど通っていた。
ちょっとお話しをしようと話しかけて見るのだが可愛らしく可憐な笑みを浮かべる令嬢達からは敵意しか感じられなかった。
バッチリ敵認定されていたコンスタンティナだった。
怖いんですけどぉぉ!
このクラス嫌だー!
今から移動教室となり男子クラスの前を通る為クラスメイトの令嬢達はみんな目を光らせて、時々コンスタンティナに話しかける男子生徒の姿を親の仇のように睨みつけて行く令嬢達にコンスタンティナのリトルチキンなハートが砕けそうだ。
ぐすん。可愛い女の子のお友達が欲しいだけなのに…
コンスタンティナの目の前には数人の、しかもどうやら令嬢達に人気の男子生徒達が立ちふさがっていた。
はぁ。帰りたい!
「麗しきダリアの妖精姫!どうなさったのですか?ため息など吐いて。」
あなた達がウザイからよ!!とは言えないコンスタンティナは「どうぞ、わたくしの事はお気になさらないで。」と困った様に笑った。
いや正確には苦笑いだが、周囲の摩訶不思議フィルターでは儚く笑った様に見えるらしくコンスタンティナを見つめる男子生徒達は頬を赤く染めていた。
そんな移動教室の帰りにコンスタンティナは校舎の裏手にある倉庫に呼び出されていた。
コンスタンティナを呼び出したのはクラスメイトの中でもコンスタンティナと同じ公爵家のご令嬢だ。
「ふん、何よ!ご令息達を侍らせて。とんだ阿婆擦れですわ!あなたなんてフロヒオン様に全然相応しくないわ!」
令嬢が憤慨しながらコンスタンティナを指差して金切り声でそう言ってきた。彼女の名前はなんだったかしら?と珍しく女の子の名前がわからないコンスタンティナは首を傾げる。
「カサンドラ様は隣国の言葉も理解されてますし有力な貴族達のお名前だってほとんど覚えてますのよ!貴方はたしか社交が苦手で貴族社会の事にも疎いとか。どちらがフロヒオン殿下に相応しいかは火を見るより明らかですわ?」
カサンドラの取り巻きの令嬢であるニーナ・クライエが仁王立ちでカサンドラを誇らしげに見ながら言ったのだが。コンスタンティナは聞いてもいなかった。
「あの、大変言いづらいのですけど。カサンドラ様だったかしら?その…口を動かす度に口周りの白粉がパラパラと崩れてますわ…このあとまだ少しだけ休憩時間も残っておりますし、お化粧直しをされた方がよろしいかと思いますわ?」
コンスタンティナとしては完全なる親切心だった。
しかし少女の顔が次第に悪鬼の様になってきた為コンスタンティナは恐ろしくなってササッと少女から離れた。
「…………人を!馬鹿にしてますの!!わたくしを侮辱した事、絶対に許しませんわ!」
憤怒。まさにそんな目をしていた。
少女は別に厚化粧がしたくてしていたわけでは無い。少女の母親が同じ様な化粧をしていて、ついでにビスクドールの様な顔にどれだけ近づけるか、が貴族の淑女が目指す美なのだ。
少女の顔は化粧品で荒れたりはしない。そこは魔法の世界。肌に優しい、皮膚呼吸を配慮した化粧品を使っている。
まぁ、そのせいでこんな厚塗りが蔓延っているのだけど…
しかしそれはそれ、少女はあくまで母親の言う通りにしていただけだ。ここまで厚塗りをしなければ自分はビスクドールの様には見えない、美しくないと言われているようで、本当は嫌だった。
それなのに、目の前にはまさにビスクドールの様な顔をした少女が。
しかもいつも化粧っけのあまりない透明感のある素肌を晒した美しさを毎日毎日ひけらかす不愉快な少女が。
殺す!と少女が殺意を抱くには十分だった。
怒りの炎が少女の詠唱と共に放たれる。
ひえぇー?!なぜそんなに怒ってるの!
「きゃっ!……熱っ」
コンスタンティナの腕を掠めて行った炎が倉庫の扉に当たり黒く焦げてへこんでる。
ピ、ピンチですー!
「次は外しませんわ!」
こんな時、咄嗟に出来る事は腕で顔をガードする位のものだ。
魔法の世界であってもチート野郎(フロヒオン)以外の一般人は咄嗟に防御魔法など発動出来ない。
防御の魔法の長い長い詠唱の言葉がするりと出てくるはずもない。
ちなみにこの世界、苦手な魔法ほど発動までの詠唱が長くなる。コンスタンティナの防御魔法の詠唱は咲いた咲いたから始まる歌程の長さだ。
ヒールですぐ治ります様にと祈る様に目をぎゅっと閉じ襲ってくる攻撃に耐えなくてはと思っていた。
ちなみにコンスタンティナ、魔力は並だがヒールは得意だった。
しかし─
あら?
いくら待っても攻撃は来ない。おかしいなとコンスタンティナが目を開けばそこには黒髪の背の高い青年の姿が。
コンスタンティナからは背中しか見えないが。黒髪に青い瞳をしている王子様と言うより今は魔王の様な恐ろしい顔をした青年、普段はイケメン、俺TUEEEE野郎(フロヒオン)の後ろ姿があった。
え?なんでこの人がここにいるの?
フロヒオンの魔力がブワン!と唸る様に渦巻き、躊躇い無く放たれる。目の前で呆然と立っている令嬢目掛け、先程取り込んだ彼女がコンスタンティナ目掛け放った魔力の攻撃を数倍の威力に育て、解き放った。
「ぎゃぁぁぁぁ…!?あ、あっつィ、いだいー!!!!」
真っ赤になった顔が爛れ、ヒィヒィ叫んで蹲る。ゴロゴロと痛みに転げ回る姿を見て、取り巻きの令嬢達はパニックになってへたりこみ、震えだした。
その様を冷ややかに見ていたフロヒオン。
カサンドラを見ながら彼はにっこりと笑った。
「その痛みを、今君は私のコンスタンティナに与えようとしていたんだよ?なんと恐ろしいことだろうね。
コンスタンティナがもし、……もし、こんな目にあっていたら、例え治癒で傷が癒えようとも貴様を犯罪奴隷にして永遠の苦しみを与えていたかも知れない。」
慈悲と慈愛に満ちたフロヒオンの優しい笑顔とその落ち着いた声に令嬢達は身体を震わせ「わたくし達はなんと恐ろしい事を」と慄いている。
そこにあるのはコンスタンティナへの罪の意識では無い。
フロヒオンに対する恐怖だった。
触れてはならない恐ろしい存在が持つ宝に手を出したことに対する後悔。
この世界では魔法があるせいなのか人々は、特に貴族なんかは人を簡単に魔力で攻撃する。だから人の命が簡単に消えてしまう。そんな世界だった。
けれどそんな世界であってもさすがにその躊躇いの無さとフロヒオンの持つ攻撃の威力は凄まじい物だった。
そんなフロヒオンに対する恐怖が、彼の涼やかな声によって、人々の中に刻まれた恐怖心が薄れ、なるほど。
確かに犯罪奴隷になり、身を滅ぼすよりは。と言った空気になっていく。
どう考えても少女の攻撃よりフロヒオンの攻撃の方が何倍も威力は高かったはずなのに。
いやいや、いやいやいや!
「ひ、ヒール!」
コンスタンティナは慌てた。慌てていたからか全く効いていない。たぶん慌てていなくてもコンスタンティナでは無理な酷い状態だったのだけれど。
ひぃ!効いてないー!ナゼなの?!
私のしょぼい魔力じゃ二度目のヒールは無理だわ!
「フロヒオン様!急いで!ヒールを!お願い致します!」
コンスタンティナを不満げに見たフロヒオンだったがコンスタンティナがフロヒオンの腕を縋るように掴むと、なぜかぎゅっと抱きしめてきた。
「ちょ?フロヒオン様?」
「なぜすぐに俺の名を呼ばなかった!」
いや、あなたこの学園もう既に卒業してますやん?とはとても言えそうにない雰囲気だった。
久々に、いやコンスタンティナに生まれて初めて自分にぶつけられたフロヒオンの怒りの声にコンスタンティナは驚き、ビクリと肩を揺らした。それに気づいたフロヒオンは唇を噛み眉を寄せる。痛いくらいの締め付けが緩み、今度は壊れ物にでも触れる様にそっとコンスタンティナの頬を撫でた。
「悪い。ごめん。お前が一番怖い思いをしたのに。」
そう言ったフロヒオンの瞳はゆらゆらと不安げに揺れ動き、なぜだか、今にも泣き出してしまいそうだった。
「フロヒオン様…」
フロヒオンはコンスタンティナの呼びかけに苦笑いを零した。深呼吸をするとコンスタンティナをふわりと抱き締め、サッと手を一振した。
するとコンスタンティナの腕の火傷は一瞬で癒え……
無詠唱かよ!さすがチート!
「…って、私の事は後で良いんです!カサンドラ様の─」
「違うんだ、最初から彼女は火傷などしていない。先程のアレは幻覚魔法を広範囲に発動させたものだ。
だが、次は無い。良いかい?次は確実に君を殺すよ?」
フロヒオンの静かな怒りを孕む言葉に少女がガクガクと震えながら頷き、脱兎のごとく取り巻き達に抱えられて逃げて行く。
でも良かった!それにしてもフロヒオン様、幻覚魔法とか。
どんだけチートなの………って……
コンスタンティナはフロヒオンの鑑定を思い出し頬を引き攣らせた。
本来ならコンスタンティナがフロヒオンを鑑定出来ないほどの魔力量の差があるのだがフロヒオンはコンスタンティナにのみ、常にフルオープンにしていたから見てしまったのだ。あやつのとんでもスキルの数々を。
コンスタンティナの数百倍の魔力量とこの世界では見たことのないスキルのオンパレード。
うん、何も言うまい。
じっとりした目で見ればフロヒオンはどうした?と言わんばかりに首を傾げた。
「それでも、フロヒオン様が少女を焼き殺したのかと焦りましたわ!」
「………悪かった。えげつない幻覚だった事は認める。ちょっと取り乱した。
あんなしょぼい魔力でもコンスタンティナみたいなひ弱っ子だったら、当たっただけでも死んじゃう、って思ったら。知らない内にブチ切れてたみたいで…
うん、コンスタンティナの火傷した腕を瞬間、目の前が真っ赤になった。
たぶんあの攻撃を受けて、マジでコンスタンティナに大怪我を追わせてたらあの女、殺してたかも…
いや、かもじゃない。殺してたわ。ははっ」
笑い方が、私の知らない笑い方だった。
そんな泣きそうな顔をして
そんな目をして笑うなよ。
この学園を婚活学園と私は命名したい。
ギラギラした目で獲物を吟味する令嬢。
中には男子生徒と目も合わせられないと恥じらい、か弱く見せながらもしっかりと男達を値踏みしている令嬢もいる。
まるで狩人のような目をした令嬢達に囲まれた女子クラスでコンスタンティナは未だに友人が出来ないまま半年ほど通っていた。
ちょっとお話しをしようと話しかけて見るのだが可愛らしく可憐な笑みを浮かべる令嬢達からは敵意しか感じられなかった。
バッチリ敵認定されていたコンスタンティナだった。
怖いんですけどぉぉ!
このクラス嫌だー!
今から移動教室となり男子クラスの前を通る為クラスメイトの令嬢達はみんな目を光らせて、時々コンスタンティナに話しかける男子生徒の姿を親の仇のように睨みつけて行く令嬢達にコンスタンティナのリトルチキンなハートが砕けそうだ。
ぐすん。可愛い女の子のお友達が欲しいだけなのに…
コンスタンティナの目の前には数人の、しかもどうやら令嬢達に人気の男子生徒達が立ちふさがっていた。
はぁ。帰りたい!
「麗しきダリアの妖精姫!どうなさったのですか?ため息など吐いて。」
あなた達がウザイからよ!!とは言えないコンスタンティナは「どうぞ、わたくしの事はお気になさらないで。」と困った様に笑った。
いや正確には苦笑いだが、周囲の摩訶不思議フィルターでは儚く笑った様に見えるらしくコンスタンティナを見つめる男子生徒達は頬を赤く染めていた。
そんな移動教室の帰りにコンスタンティナは校舎の裏手にある倉庫に呼び出されていた。
コンスタンティナを呼び出したのはクラスメイトの中でもコンスタンティナと同じ公爵家のご令嬢だ。
「ふん、何よ!ご令息達を侍らせて。とんだ阿婆擦れですわ!あなたなんてフロヒオン様に全然相応しくないわ!」
令嬢が憤慨しながらコンスタンティナを指差して金切り声でそう言ってきた。彼女の名前はなんだったかしら?と珍しく女の子の名前がわからないコンスタンティナは首を傾げる。
「カサンドラ様は隣国の言葉も理解されてますし有力な貴族達のお名前だってほとんど覚えてますのよ!貴方はたしか社交が苦手で貴族社会の事にも疎いとか。どちらがフロヒオン殿下に相応しいかは火を見るより明らかですわ?」
カサンドラの取り巻きの令嬢であるニーナ・クライエが仁王立ちでカサンドラを誇らしげに見ながら言ったのだが。コンスタンティナは聞いてもいなかった。
「あの、大変言いづらいのですけど。カサンドラ様だったかしら?その…口を動かす度に口周りの白粉がパラパラと崩れてますわ…このあとまだ少しだけ休憩時間も残っておりますし、お化粧直しをされた方がよろしいかと思いますわ?」
コンスタンティナとしては完全なる親切心だった。
しかし少女の顔が次第に悪鬼の様になってきた為コンスタンティナは恐ろしくなってササッと少女から離れた。
「…………人を!馬鹿にしてますの!!わたくしを侮辱した事、絶対に許しませんわ!」
憤怒。まさにそんな目をしていた。
少女は別に厚化粧がしたくてしていたわけでは無い。少女の母親が同じ様な化粧をしていて、ついでにビスクドールの様な顔にどれだけ近づけるか、が貴族の淑女が目指す美なのだ。
少女の顔は化粧品で荒れたりはしない。そこは魔法の世界。肌に優しい、皮膚呼吸を配慮した化粧品を使っている。
まぁ、そのせいでこんな厚塗りが蔓延っているのだけど…
しかしそれはそれ、少女はあくまで母親の言う通りにしていただけだ。ここまで厚塗りをしなければ自分はビスクドールの様には見えない、美しくないと言われているようで、本当は嫌だった。
それなのに、目の前にはまさにビスクドールの様な顔をした少女が。
しかもいつも化粧っけのあまりない透明感のある素肌を晒した美しさを毎日毎日ひけらかす不愉快な少女が。
殺す!と少女が殺意を抱くには十分だった。
怒りの炎が少女の詠唱と共に放たれる。
ひえぇー?!なぜそんなに怒ってるの!
「きゃっ!……熱っ」
コンスタンティナの腕を掠めて行った炎が倉庫の扉に当たり黒く焦げてへこんでる。
ピ、ピンチですー!
「次は外しませんわ!」
こんな時、咄嗟に出来る事は腕で顔をガードする位のものだ。
魔法の世界であってもチート野郎(フロヒオン)以外の一般人は咄嗟に防御魔法など発動出来ない。
防御の魔法の長い長い詠唱の言葉がするりと出てくるはずもない。
ちなみにこの世界、苦手な魔法ほど発動までの詠唱が長くなる。コンスタンティナの防御魔法の詠唱は咲いた咲いたから始まる歌程の長さだ。
ヒールですぐ治ります様にと祈る様に目をぎゅっと閉じ襲ってくる攻撃に耐えなくてはと思っていた。
ちなみにコンスタンティナ、魔力は並だがヒールは得意だった。
しかし─
あら?
いくら待っても攻撃は来ない。おかしいなとコンスタンティナが目を開けばそこには黒髪の背の高い青年の姿が。
コンスタンティナからは背中しか見えないが。黒髪に青い瞳をしている王子様と言うより今は魔王の様な恐ろしい顔をした青年、普段はイケメン、俺TUEEEE野郎(フロヒオン)の後ろ姿があった。
え?なんでこの人がここにいるの?
フロヒオンの魔力がブワン!と唸る様に渦巻き、躊躇い無く放たれる。目の前で呆然と立っている令嬢目掛け、先程取り込んだ彼女がコンスタンティナ目掛け放った魔力の攻撃を数倍の威力に育て、解き放った。
「ぎゃぁぁぁぁ…!?あ、あっつィ、いだいー!!!!」
真っ赤になった顔が爛れ、ヒィヒィ叫んで蹲る。ゴロゴロと痛みに転げ回る姿を見て、取り巻きの令嬢達はパニックになってへたりこみ、震えだした。
その様を冷ややかに見ていたフロヒオン。
カサンドラを見ながら彼はにっこりと笑った。
「その痛みを、今君は私のコンスタンティナに与えようとしていたんだよ?なんと恐ろしいことだろうね。
コンスタンティナがもし、……もし、こんな目にあっていたら、例え治癒で傷が癒えようとも貴様を犯罪奴隷にして永遠の苦しみを与えていたかも知れない。」
慈悲と慈愛に満ちたフロヒオンの優しい笑顔とその落ち着いた声に令嬢達は身体を震わせ「わたくし達はなんと恐ろしい事を」と慄いている。
そこにあるのはコンスタンティナへの罪の意識では無い。
フロヒオンに対する恐怖だった。
触れてはならない恐ろしい存在が持つ宝に手を出したことに対する後悔。
この世界では魔法があるせいなのか人々は、特に貴族なんかは人を簡単に魔力で攻撃する。だから人の命が簡単に消えてしまう。そんな世界だった。
けれどそんな世界であってもさすがにその躊躇いの無さとフロヒオンの持つ攻撃の威力は凄まじい物だった。
そんなフロヒオンに対する恐怖が、彼の涼やかな声によって、人々の中に刻まれた恐怖心が薄れ、なるほど。
確かに犯罪奴隷になり、身を滅ぼすよりは。と言った空気になっていく。
どう考えても少女の攻撃よりフロヒオンの攻撃の方が何倍も威力は高かったはずなのに。
いやいや、いやいやいや!
「ひ、ヒール!」
コンスタンティナは慌てた。慌てていたからか全く効いていない。たぶん慌てていなくてもコンスタンティナでは無理な酷い状態だったのだけれど。
ひぃ!効いてないー!ナゼなの?!
私のしょぼい魔力じゃ二度目のヒールは無理だわ!
「フロヒオン様!急いで!ヒールを!お願い致します!」
コンスタンティナを不満げに見たフロヒオンだったがコンスタンティナがフロヒオンの腕を縋るように掴むと、なぜかぎゅっと抱きしめてきた。
「ちょ?フロヒオン様?」
「なぜすぐに俺の名を呼ばなかった!」
いや、あなたこの学園もう既に卒業してますやん?とはとても言えそうにない雰囲気だった。
久々に、いやコンスタンティナに生まれて初めて自分にぶつけられたフロヒオンの怒りの声にコンスタンティナは驚き、ビクリと肩を揺らした。それに気づいたフロヒオンは唇を噛み眉を寄せる。痛いくらいの締め付けが緩み、今度は壊れ物にでも触れる様にそっとコンスタンティナの頬を撫でた。
「悪い。ごめん。お前が一番怖い思いをしたのに。」
そう言ったフロヒオンの瞳はゆらゆらと不安げに揺れ動き、なぜだか、今にも泣き出してしまいそうだった。
「フロヒオン様…」
フロヒオンはコンスタンティナの呼びかけに苦笑いを零した。深呼吸をするとコンスタンティナをふわりと抱き締め、サッと手を一振した。
するとコンスタンティナの腕の火傷は一瞬で癒え……
無詠唱かよ!さすがチート!
「…って、私の事は後で良いんです!カサンドラ様の─」
「違うんだ、最初から彼女は火傷などしていない。先程のアレは幻覚魔法を広範囲に発動させたものだ。
だが、次は無い。良いかい?次は確実に君を殺すよ?」
フロヒオンの静かな怒りを孕む言葉に少女がガクガクと震えながら頷き、脱兎のごとく取り巻き達に抱えられて逃げて行く。
でも良かった!それにしてもフロヒオン様、幻覚魔法とか。
どんだけチートなの………って……
コンスタンティナはフロヒオンの鑑定を思い出し頬を引き攣らせた。
本来ならコンスタンティナがフロヒオンを鑑定出来ないほどの魔力量の差があるのだがフロヒオンはコンスタンティナにのみ、常にフルオープンにしていたから見てしまったのだ。あやつのとんでもスキルの数々を。
コンスタンティナの数百倍の魔力量とこの世界では見たことのないスキルのオンパレード。
うん、何も言うまい。
じっとりした目で見ればフロヒオンはどうした?と言わんばかりに首を傾げた。
「それでも、フロヒオン様が少女を焼き殺したのかと焦りましたわ!」
「………悪かった。えげつない幻覚だった事は認める。ちょっと取り乱した。
あんなしょぼい魔力でもコンスタンティナみたいなひ弱っ子だったら、当たっただけでも死んじゃう、って思ったら。知らない内にブチ切れてたみたいで…
うん、コンスタンティナの火傷した腕を瞬間、目の前が真っ赤になった。
たぶんあの攻撃を受けて、マジでコンスタンティナに大怪我を追わせてたらあの女、殺してたかも…
いや、かもじゃない。殺してたわ。ははっ」
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