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疫病が南の僻地で流行りだした。

初めの頃は直ぐに医師団を派遣し、これで直ぐに終息するだろうと、知らせを聞いていた教会も王宮も、さほど気にも止めていなかった。

しかし次第にその疫病は悪性を強くし、猛威を振るう様になり、ついには王都にまで入り込んで来た。

「…え?マクシミリアン様のお母様が?」

それは夕刻、疫病の重症患者を全力で治療し、魔力回復薬を飲んでも回復に時間がかかりすぎる程に精神力すらも使い果たした結果。フラフラになって帰宅した時に伝えられた。

執事の差し出した国王陛下の印が押された緊急収集命令書を見つめ、自分の魔力の回復にあと三時間かかるだろう事実に震えた。

魔力回復薬は使えば使う程、回復速度が落ち、精神力をも大きく削る。精神消耗の状態では魔力を安定出来ずに治癒魔法が失敗する事態に陥り安くなる。要するに悪循環に陥るのだ。今クリスティナに必要なのは休養だった。

けれど、片想い歴が9年になるクリスティナはマクシミリアンがどれほど家族を大切にしているかを知っていた。
母が王妹と言う事にも誇りを持ち、優しく美しい母親を自慢に思い、幼い頃から大きくなったら母上を守る騎士になるのだと言って、母親を大切にしていることも。

ゴクリと喉が鳴った。

しかし、マーガレットを初め、父や上級治癒師など、クリスティナよりも優れた治癒師が医師団には大勢いる。きっと直ぐに、もしかしたら今既に完治しているかもしれないと思った。けれど、それでも万が一がある。
身体と精神力を酷使する覚悟をして置くべきだろう。

「お嬢様、お急ぎ下さい。既に馬車が待機している様です」

「ええ、では行ってくるわね」

クリスティナは王宮からの馬車に乗り込み、急ぐように言うと、追加で回復薬を飲み、目を瞑り、精神を落ち着かせ魔力循環をした。
これで、少しは回復出来るかもしれないと。

早く早くと気が急く。
なぜかはわからないが、堪らなく不安が押し寄せてくる。まるで見えない闇が自分は背後に迫っているかのように。



まもなく到着致します。
そう告げられた直後、不自然に馬車が急停車した。

ガチャリと無遠慮に開く扉。

「クリスティナ・ファンファーニ伯爵令嬢だな。いや、恐ろしい疫病を発生させた大罪人クリスティナ。お前を魔法違反の罪によって拘束する」

馬車から引き摺り降ろされたクリスティナは、なぜかいきなり拘束された。

全く身に覚えの無い罪状で。




それからの事はまるで悪夢の様だった。

「わたくしじゃありません!」
何度そう言っても誰も信じてくれ無い。

「女神ホルーがお前の罪を暴いたのだ」としか言わない。

女神がなぜそんな嘘。

なぜ。

訳が分からない。

どれほど言葉を尽くそうと、誰もクリスティナの言葉に耳を貸さない。


数日経つと貴族専用の牢から出され、馬車に乗せられ、着いた先の城にある簡素な石畳の牢に移された。

クリスティナはその場所まで自分を連れてきた男がクリスティナに向ける殺意に怯えた。
そればかりかクリスティナの髪を乱暴に掴むと彼は目を血走らせ「お前のせいで母上は死んだ!!」と激昂した。

それからは本当に悪夢の様だった。


男に床に転がされ、そして犯されたのだ。

「足を開け」

怒りを抑え込んだ低い声。

「いやぁ……んんっ、嫌…ひぃ!?………ぎゃぐっ、…」

クリスティナは足を開かされた格好で拘束され、無理やり滾った男の欲望を入れられ声も出せない程の痛みから逃れたくて首を振る。

太い男の腕がクリスティナを抱き込み、顔を近づけた男が悲鳴を上げるクリスティナの口を乱暴に塞いた。

くちゅくちゅと水音がして更に口付けが深まる。

「ふぁ、マク…っ、ふぐぅ、ああっ!」

ズンっと突き上げてくる勢いにクリスティナは痛みで意識を飛ばした。

しかし直ぐに揺すり起こされる。

ずちゅ、ずちゅ、と繰り返される血と愛液に塗れた水音。
ずるりと楔が引き抜かれ、再び深く深く突き上げられる。

「ひぁっ……ん、やぁ…」
「……めちゃくちゃにして壊してやる」

低い声は行為と共にクリスティナの全てを打ち砕いた。

その日、服を着る暇など無く、執拗に男は、マクシミリアンは何度もクリスティナを犯した。

そう、クリスティナを罵りながら犯している男の名はマクシミリアン。

マクシミリアンはクリスティナが拘束された翌日。

『母上が死んだ。』と言って取り調べ室にやって来た瞬間にクリスティナの髪を乱暴掴み、根源は何処だと聞いて来た。

クリスティナには根源と言う物が何なのかよく分からなかった。
なぜ自分がマクシミリアンにこの様に扱われているのかも。

けれど、疑問をぶつけても誰も答えない。
誰もクリスティナの言葉には耳を貸さない。

マクシミリアン様、助けて…と。そう言えば、最初の頃、まだ牢屋に入れられたばなりの頃。クリスティナはそうマクシミリアンに心の中で助けを求め、泣いていたはずなのに。



クリスティナの腰まで伸びていた髪は使えば治癒の効果が増すと言って治癒師達に渡す為肩までの長さにざんばらに切り取られた。
豪華な王宮の牢屋から、なぜか公爵家の地下牢に入れられたクリスティナは死を望む程不衛生では無いものの、煤で薄汚れた薄暗く寒い牢に繋がれていた。

『お前が俺の唯一など、そんな事あるわけが無い!お前はただの大罪人だ!』

時折マクシミリアンは狂った様に罵声を浴びせながらクリスティナを犯した。

けれどクリスティナは数日で心が砕け、マクシミリアンが何を言っているのか分からなくなっていた。

もう、何も聞きたくない。
もう、何も見たくない。
もう、恐ろしいのは嫌だった。

手には金の手枷が嵌っており、そこから魔力を搾り取り、徐々にクリスティナを殺すそうだ。

その枷が今のクリスティナにとっては唯一の救いだった。

あぁ、早く死にたい。


それだけが今のクリスティナの望みだ。



『嘘だ、そんなこと』
『離さない…愛…………』

マクシミリアンが先程呟いた言葉も、クリスティナには届く事は無い。

毎日の願いが、助けて、と言う様な希望に縋る思いから、ただただ終わりを求める、死に救いを求める絶望した思いに変わった頃、それは起こった。

光輝く目の前の女性は『女神降臨!!』と自ら叫んでクリスティナの目の前に降り立った。




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