地味に転生していた少女は冒険者になり旅に出た

文字の大きさ
1 / 32

No.78

しおりを挟む
狐の獣人に赤ん坊が産まれた。
可愛い女の子だ。
美しい母親にそっくりな白金色の髪の美しい赤ん坊は覗き込んで来る人影を見てふにゃりと笑った。

「奥様、この目を見てくださいまし。獣人の金色の目には神の加護が宿っていると、そう言われておりましたよね?」

獣人の金の瞳には加護がある。
その昔、獣人の古代種と呼ばれる神が生み出した神の使いがいた。

その目は金色で聖なる力を持つ魔力を纏っており、その魔力の色は金と白の二色が交差し、彼等から繰り出される魔法攻撃は全て金と白に輝いていたと言われている。
それに因んで、獣人の金色の目は神の加護が宿っているとして縁起の良い事だとされていた。


「ええ……ええ、そうよ。なんと言う事かしら。見事な金色ね。お父様が知れば泣いて喜んだでしょうに。あぁ、だけどこの事がもしあの御方に知られれば…」

「奥様」と呼ばれる母親は、赤ん坊の金色の瞳を見て嬉しそうに涙を流した。

けれど日々追っ手に脅え、たった一人の使用人と身を隠すように暮らしていた為痩せ細り今にも消えそうな儚さだ。

母親は烟るようなまつ毛に美しい顔、白銀色の獣の耳を持つ隣国から攫われて来た狐の獣人だった。

魔法を封じられ、貴族に買われ、お手付きにされた為に身ごもった。
それを知った貴族の妻に刺客を差し向けられて身重の体で囲われていた愛人宅から命からがら隣国を目指して逃げて来たのだ。

母親は赤ん坊を見る度泣いた。
産まれた事を喜び、産まれてしまった事を嘆き、人には無い白金の髪と金色の娘の瞳を封じた母親は毎日「ごめんね」を繰り返していた。

その理由はすぐに判明することとなる。

「ごめんね。どうかあなただけでも生きて」

母親は産後の肥立ちが悪く、追っ手から逃げきれないと悟り、一つ向こうの少し栄えた街、エガリテにある教会の前に赤ん坊を置き去りにした。


名も無い赤ん坊はその日からエガリテの孤児院で番号を与えられ

No.78

と番号で呼ばれる事になった。




─────────────


味気無い食事に、規律の厳しい軍隊のような生活。

なんだここは、軍事施設か何かか?と今なら疑問を持ってしまいそうな訓練所や、懲罰房、武器庫があった。

この孤児院に来たものは皆、院長から洗脳され、精神干渉の魔法をかけられ、人間兵器と言う商品にされる。

そんなこの孤児院で十二年を過ごした私、No.78はある日院長に呼び出され試験を受けさせられていた。

軍に従事しているとわかる軍服姿のハゲたおじさんが朝からずっと私の試験をしている。今もまた気難しい顔をしているおじさんが私を見た。

「撃てー!」
「はっ!」

号令と共に魔法鉄砲弾を撃ち込み標的を破壊する。

派手な音を立てて標的が木っ端微塵に消えた。

「……なんだこの魔法は……ま、まぁ、良かろう。合格だ。」

朝からずっと続いていた過酷な試験が漸く終わったらしい。

軍服のおじさんが引きつった顔でそう言うと孤児院の院長が薄気味悪く笑った。

「この子ほどの人間兵器はいません。先程の魔法攻撃以外にも暗殺術に精神を操る魔法、様々な事を仕込んでおりますから。」

揉み手で軍服のおじさんに近付いた院長に金貨の袋が渡され、代わりに私の讓渡が成されたらしい。
私は「着いてこい」と言うおじさんに着いて歩いて孤児院を出た。
おじさんは馬、私は走って目的地まで向かった。

連れてこられた先は予想通りの軍事施設だった。

「今日からお前は少年兵としてここで私からの指示を待つのだ。軍人の見習いとして、先輩軍人達の従者として、暫く働け。お前に否は無い。私の指示には全て『了解です』と言うのだ。わかったな」

「了解です」

「私の時には『了解です、大佐』と言うんだが、まぁ、今は良い。おいおい覚えろ」

「了解です!大佐!」

そう返事をした私を満足そうに見た大佐が言った。

「見習いであり、従者であるお前は二十人部屋で雑魚寝になる。言っておくがこの軍事施設はだ!この規則を破れば重い罰が科せられる!わかったか!」

私は一瞬ゴクリと息を呑み、瞬きをしたが「了解です!大佐!」と返事をすると素知らぬ顔をした。

自分は女です。なんて今言って大丈夫だろうか?と一瞬思ったが無言を貫いた。

もしかしたら自分が女だとわかった上でそう言った可能性だってある。うん、きっとそうに違いない。もし違った場合が恐ろしいがひとまず少女にはその日、その日を生き抜く事が何よりも大事だった。

「よし、ここだ!入れ」

ガラリと開けた扉の向こうには擦り切れた軍服っぽい服を着た小汚い少年達がたくさん居た。
「新入りだ!後はお前が教えてやれ!」
「はい、了解です大佐」
一人の大きな少年が前に出て敬礼する。
「お前達も着替えたらさっさと移動しろ」
そう言った大佐に残りの少年達が返事をした。
「「「「「了解です!大佐!!」」」」」
大きな声に私の身体がビクリと跳ねる。それを苛虐な眼差しが見下ろしていた。

「明日から早速任務開始だ。No.78」
トン、と背を押され私は中に足を踏み入れた。
そんな新入りをたくさんの少年達が無表情に見ている。
中には青年と変わらない体格の良い子もいて床に血みどろになり転がっている少年の身体を汚れた布で拭っている様だった。

赤黒い血に土の汚れが落ちきれていないままの肌を他の少年が無表情で、これまた薄汚れた布を濡らしただけの布で持ってゴシゴシと擦っている。


「…………あの」

戸惑った声が自分の口から出た。

私は、待てよ?と自分自身に戸惑う。
果たして自分は、今何を言おうとしたのか?

必要最低限の、戦う事と命令を聞く事、命令を理解する為の知識としての言葉は理解してはいたが、喋りは不得手だった。なので自分から喋ったりはあまりしたことが無い。多分、ここの連中もそうだろう。

でも、今、自分はあのズタボロの少年を看病するのはこの中なら自分の方が良いのでは?と思った。
そんな事は無い。自分だってあの少年達と同じような事しか出来ない。

いやいや、いやいや待ってよ。
と、そんな自分の中で声がする様な不思議な感覚に苛まれた。

もし化膿したらどうするの!?
そんな考えがチラつく。

なに?カノウって…
ああ、そうよ、化膿ってのは傷口が炎症して膿だりする事だ。なぜこんな当たり前の事を忘れてたんだろ?

おや?そんな知識あったかな?

しばし頭の中で混乱が起こった。知識が溢れて、溢れすぎて、私は目を回した。

そして……あっ、やばいわ!と私は理解してしまった。

私、とんだ世界に転生しちゃってるじゃない!?

とぶっ倒れる寸前で覚醒して、どうにか踏ん張った。

「ふぅー、こんにちは!今日からお世話になるNo.78です!宜しくお願いします!それから、新入りの一番下っ端なので、ぜひとも自分にその人の看病をさせて下さい!」

元気な声とにこやかな笑顔で、ぺこりとお辞儀したNo.78(私)をみんなは奇異な目で見て、コイツとは関わるまいと言う様に目を逸らされ、波が引く様に病人の元までの道が出来た。

私はこれ幸いと少年の元に向い、酷い有様の少年の様子に息を飲んだ。

ここではこれが当たり前の光景なのだろう。けれど、背の高い少年は何とか看病をしようとそれなりに動いていたのかも知れない。

「この薬草、使ってもいいですか?」
「……ああ。潰して使え」

これで何とかなればいいけれど。後でこの施設内に薬草が生えてないか見に行こう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香
恋愛
★新作ホットランキングありがとうございます! 眷属神の花嫁〜四当主の花嫁争奪譚〜をどうぞよろしくお願いします! 美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。 彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。 自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。 「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」 異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。 異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。

二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました

三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。 優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。 優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。 そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。 絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。 そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

処理中です...