巻き戻った令嬢は王子から全力で逃げる

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最終話

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ある晴れた日、サイモンは久々の演奏会に出ていた。

貴族の付き合いなど興味は無いサイモンだったが、あの日から自分が人ではなくなった事を実感して、身のうちのドロドロとした淀みを持つ者を見つけ、その貴族を調べさせては対処していた。
未来の国王がジョバンニなのだとすればジョバンニの補佐である自分としてもさっさと膿を出し切った方が良い。

そんな訳で今サイモンは国内の膿を出す為渋々社交をしていた。

自分でそうすると決めたはずが今回の演奏会は外れだ。
全く持ってつまらない。

淀んだ瞳をした女を一人見つけただけだった。

しかし、よく見れば淀んだ瞳を持つその女性は今や『癒しの大聖女アリアンナ』と呼ばれる我が主が愛する女性のいとこ殿だった。

アリアンナは私すら虜にする厄介な女だ。
なんにも考えていなそうなカラコロと音のしそうな頭をしているのに。

今日はアリアンナの演奏が入っていた為ジョバンニ殿下も張り切って出席されている。

あの禍の種を全て破壊し浄化したあの日ジョバンニ殿下はアリアンナには気づかれなかったが人の身を捨て私と同じく何者かになってしまった。


厄介なもので、あの禍の種を始末し世界に平和が戻ったあとも我らは人ならざるものへと日々進化している。

ジョバンニ殿下など元々が化け物じみた魔力と獣の様な身のこなしをしていたのがもはや、怒りをぶつけただけで敵兵は吹き飛び、少しばかり強大な攻撃をと魔力を放てば敵国の山全てを吹き飛ばした。

しかし、敵国の長年の悩みの種であり、解決する目処が立たず戦争に踏み切っていた敵国の、魔物が住み着く山が消えたことで魔物の脅威も山に阻まられる三国に連なる販路まで手にし隣国の謝罪と感謝と共に戦争は終結した。

おかげで急に平和ボケしたジョバンニ殿下は今日も婚約者であるアリアンナを鼻の下をデレデレと伸ばして恍惚の表情で眺めている。

蕩ける様なジョバンニの姿を目にした他の令嬢達は顔を真っ赤にして殿下を見つめ、きゃあきゃあと大興奮し、その後、目を回して倒れる始末だ。

そんな中一人、憎々しげに令嬢達を睨みつける令嬢がポツリとテーブルにいた。

真っ白になるまで握られた手を上からそっと包む様に握ると令嬢ははっと顔を上げた。

真っ黒な嫉妬のオーラが見える。

けれど、そこには殺意はなく、自分自信に対する嫌悪感が混じっていた。

へぇ、前に見た時よりは変わった色になりましたね。

「やぁ、昨日ぶりですね。ビアンカ嬢」

「……っ、サイモン様。ご機嫌よう……この手を離して下さらない?」

目から射抜く様な嫌悪感を放ったビアンカは握られた手を振り払いサイモンを睨みつける。
「……何しに来たのよ。あちらでご令嬢達に囲まれとけば良ろしいのに」

ビアンカの見た方向にはこの演奏会を開いた侯爵の娘がいる。
その友人の令嬢達と一緒になってサイモンやジョバンニと話そうと擦り寄って来るが主催者の娘など夜会でも無い限り相手にするつもりは無い。
その主催者の娘はどうやら私に気があるらしく中々に執拗い。

「私の聖女はビアンカ嬢ですからね。あの瀕死の時に傷を癒して下さったのはアリアンナ嬢でしたが。私をずっと看病したのは貴方だ。ですから、貴方様が居れば何処であろうとご挨拶に伺いますよ。」

するとあからさまに彼女のオーラが黒から淡いオレンジになり次第にピンクに変わっていった。

なるほど。今の言葉がどうやらお気に召した様だ。

サイモンはビアンカを見て笑みを深めた。

「しかし、邪魔をするのは良くなかったですね。貴方がそう仰るならあちらに─」

「べっ!別に、邪魔だなんて言ってないでしょう!?」
ガタンと立ち上がったビアンカははっと顔を真っ赤にしてストンと椅子に座ると俯きプルプルと羞恥に震えている。

今度はピンクから一気に黒くなり、次第に青く変わって行った。

「フッあなたは可愛らしいですね。ビアンカ嬢」

「かっ、…な、何を言ってますの」

真っ赤にしている顔も。
ドロドロとした醜い闇も。
コロコロと私の言動でその色を変える。

実に愉快だ。

当分は退屈せずに済みそうですね。





───────────


残りの撒き散らした布石の回収などは後日談などを書かせて頂こうと考えております。

最後まで拙く読みにくい文章をお読みいただきありがとうございました!

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