この世界で唯一の猫は俺~捕獲対象として賞金掛けられたが、相棒の黒龍(卵)とのんびり旅します

ロゼ

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旅の始まり

デビル・ブラザーズ

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『血で気持ち悪ぃ』

 そう言っていたら突然ドバーッと頭上から水が降ってきて全身ずぶ濡れになった。

 血は流れ落ちたが、これはこれで気持ちが悪い。

 体を震わせある程度の水分を飛ばしていると、シャンテが『すまん、加減が分からなかった』と謝ってきた。

『まぁいいよ、血で濡れてるよりマシだ』

 クシクシと前足で顔を拭う。特に髭が濡れているのがなぜか気持ちが悪く、念入りに拭い、その後、全身を前足で撫でるように拭った。

 本当の猫であれば舐めたりするのだろうが、さすがにそれは出来なかった。

『毛艶が良くなっておるな。そんなことまで能力の向上が見れるとは、アースのスキルは面白いのぉ』

 まだ湿ってはいるのだが、毛艶がツヤツヤになっているのは自分でも分かった。

 シシーガをカバンに入れ、ココッタの実を拾い、ギースのところまで戻った。

 ココッタの実とは見た目はヤシの実、中身は柘榴のようで味はマスカットという不思議な木の実で、おやつにちょうどいい。

 ココッタの木は中型から大型の魔物がいる場所にしか生えないため、ハンターがついでに採ってきてくれるのがたまに店に並ぶくらいで、めったに食べられない。

 並んでるのを見掛けるとちょっと無理してでも買ってしまうほど好きな木の実である。

『ココッタか。見たことはあったが食べたことはないのぉ。美味いのか?』

『美味いぞ! 中の実が爽やかな甘さで、手が止まらなくなるんだよなぁ』

『……後で我にも食わせてくれ』

 シャンテも興味を持ったらしい。

「おかえりなさい! 早かったですね」

 満面の笑みで迎えてくれたギースが可愛い。何だろう、この可愛いのは! こういう弟ならもう一人くらいいてもいいな。

 その後、ギースの速度に合わせて猫の姿で町の近くまで戻り、人に戻って町へと入った。

 宿に戻る前にあの肉屋に立ち寄り、シシーガの肉を売った。

 また肉屋のおっさんがペラペラと話すかもしれないし、どこかで俺を見ているやつがいるかもしれないと予想を立て、あえて目立つ行動を取った。

 狙いは的中したようで、ギースとシャンテが「連れられている」とコソッと伝えてきた。

『三人いるな。恐らくアースを監視しているのだろう』

「宿屋に戻ってちょっと休んだら、町外れまで行ってみるか。襲ってくるなら人がいないところだろうし」

「もしかして、悪者退治ですか?」

 ギースがなぜかワクワクしたような表情を浮かべている。

『このまま向かえばいいのではないのか?』

「ギースの部屋も用意してもらわなきゃいけないし、まだちょっと血の匂いが残ってる気がして気持ち悪いんだよ」

『……案外綺麗好きなのだな』

 宿に戻り、弟が俺を追ってきたと説明すると、部屋を用意するのではなく、移ることになった。

「兄弟一緒の方がいいですよね!」

 兄を追いかけて来るほどの弟なのだから、同じ部屋の方が嬉しいだろうとの配慮だった。

 移った部屋はベッドが二つ並んでおり、前の部屋より幾分広いが、造り的にはあまり変わりはなかった。

 前の部屋とは違い、窓の外は通りに面しており、宿の前の路地に男が身を潜めるようにしながら宿の入口を見ている姿を確認した。

 きっと俺の部屋は把握していたのだろうが、急に部屋が変わったことは知らないと思うので、俺に見られていることも気付いていないだろう。

 さっさと風呂を済ませ外に出ようとしたところをアンリさんに呼び止められ、朝食を勧められたので、腹ごしらえを済ませてから出掛けることにした。

 朝食のメニューは黒パンにサラダ、野菜が沢山入ったスープとシンプルだったが、どれも温かく優しい味がして大満足だった。

 シャンテも気に入ったようだったし、ギースもモリモリ食べて、おかわりまでしていた。

「人間の料理って美味しいんですね!」

 実に幸せそうに微笑み、頬を押さえながらそんなことを言うギースが本当に可愛い。

 言っておくが俺はそういう趣味はない! ただ、可愛いものは可愛いと言うだけである。誤解のないように願いたい。

 弟を連れて町を見て回っているように装いながら、少しずつ人気のない寂しい場所へと向かい、町外れの開けた場所まで着いた。

 すると背後から柄の悪そうな声が聞こえてきた。

「そこのお前ぇぇ!」

「ちょーっと待ちなぁ!」

 振り返るとデビル・ブラザーズがニヤニヤしながらこちらに近付いてきていた。

 手には物騒な物が握られている。

 長い鎖の下にイガイガの鉄球のようなものが付いた武器を持っているのが左目の下に傷があるジャッキーで、鬼の棍棒のようなものを持っているのがドゥッキー。

 イガイガ鉄球は確かモーニングスターとかいう武器だったと思うが、爽やかで愛らしさすら感じるネーミングには似つかわしくない武器である。

 鬼の棍棒のようなイガイガのバットの方は金砕棒こんさいぼうという名前だったと思う。

「何だ? 何か用か?」

 本当は少しビビっているのだが、気取られないようにゆっくり話す。

「用があるから呼んだんだよ、ギャハハハ」

「お前、ここで死ねや!」

 そう言い終わる前にジャッキーがモーニングスターを振り回してきた。

 猫になろうかと思ったのだが、ギースが俺の前に盾のように立っていた。

「兄さん、ここは僕に・・任せてくれませんか?」

 愛くるしい笑顔なはすなのだが、なぜか凄味を感じる。

「あ、あぁ……でもいいのか?」

「ふふふ……僕、前に人間の『エホン』というものを読んだんです。そこに出てきた『ブジン』がカッコよくて……正義のために戦うブジン。正直正義とは何なのかよく分かっていませんが、悪者を倒すんですよね? 一度やってみたかったんです!」

 だからあんなにキラキラワクワクした顔をしていたのか……。しかし、こいつ、文字も読めるのか!?

「任せていいのか?」 

『いいのではないか? 既にやる気のようだしの』

 俺よりも断然小さな背中(幻影)なのに物凄く大きく感じるのは気のせいではないようだ。ギースの周囲だけ空気が揺らめいて見える。

 それに気付かないのか、笑いながらジャッキーがモーニングスターの鉄球をギースに思い切りぶつけてきた。

「へへっ、一丁上がり!」

 ガチンと音がしたが、ギースの体はビクともしていない。

「へ? 当たったよな?」

「確かに当たったぜ!」

「こいつ、強化魔法持ちか!」

 ギースの固さを魔法だと判断したようだった。
 
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