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旅の始まり
ギョロ目
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「オークションはここの地下会場で夜八時から開催される。七時に屋敷に馬車を向かわせるから、それで来い」
ドリスにそう言われ、俺らは宿からまた黒い馬車に乗りボロ屋敷へと送り届けられた。
「これ、どうするんだよ!? 人肌に温かくて気持ち悪ぃよ!」
金塊を薄汚れたテーブルの上に置くと、ギースがまじまじと金塊を眺め始めた。
「へぇー、これが錬金魔法ですか……ふーん……あー、でもこれ、一月もしないうちに解けますねぇ……錬金魔法としては実に不完全ですよ」
どこをどう見てそんなことを言っているのか全く分からないが、放っておいても解ける魔法なのであれば安心だ。
『どれ、それを床に置いてくれ』
言われるまま金塊を床に置くと、シャンテの卵が光った。
今更だが、魔法を使うとこいつは光るようだ。
床に置いた金塊がムクムクと膨らみ、ギョロ目の姿に戻った。
「あぁぁぁ、あっ!?」
金塊にされた瞬間で記憶が止まっているのか叫び声を上げていたのだが、すぐ俺達に気付きおかしな声を上げた。
「な、何だ? 俺は、助かった、のか?」
キョトンとした顔をして辺りをキョロキョロと見渡している。
「ド、ドリス様は!? ボスはどこに!? 娘は!? 娘は無事なのか!?」
娘を心配するあたり、心底悪いやつではなさそうだ。
「す、すまなかった! お前達の報酬をネコババしたのは俺だ! 手を出すなら俺だけにしてくれ! 娘は病気なんだ! 頼む! 娘には手を出さないでくれ!」
必死の形相で俺の足にしがみつき、命乞いでもするかのような悲痛な声を上げているギョロ目。
きっと私生活では娘を愛する父親なのだろう。
ドリスなんかの下で働いているから悪事に手を染めているだけなのだと思いたい。
「気の毒に思えてきたぞ……」
「僕もです……」
俺とギースがそう言うと、ギョロ目が涙でグシャグシャな顔を上げて、不思議そうな顔で俺らを見た。
『種明かしの時間じゃな』
そういうとパンッと小さく軽い音がして、ギースの姿が元の愛らしい少年(それも実は違うのだが)に戻った。ということは俺も元に戻ったのだろう。
「え? ヘ? うわぁぁぁあ!」
ギョロ目が驚いた声を上げて這いつくばるようにしながら距離を取った。
そりゃそうだろう。きっとこんな魔法があるなんて普通は誰も知らないだろうし。
「ど、ど、ど、」
「ど?」
きっと「どういうことだ!」とか何とか言いたいんだろうが、驚きすぎて言葉が出ないのだろう。
そんなギョロ目をギースがキョトンとした顔で見ている。
『ほれ、そやつを我らの仲間に取り込むのじゃ!』
シャンテが当然のようにそんなことを言っているのだが、どうしろっていうんだよ、全く。
「驚かせて悪いな」
「な、な、何なんだ!? どうなってる!? お前は死んだはずじゃ!!」
「ハハハ、この通りピンピンしてるぜ?」
「じゃ、じゃあ、デビル・ブラザーズは!? あの二人はどうしたんだ!?」
「あいつらなら、襲われた空き地でまだ寝てるんじゃないか?」
「デビル・ブラザーズが、負けた!?」
「そうだな、うちの弟にあっさり負けたぜ?」
「負けたのか、あいつらが?……アハ、アハハハ、アハハハハハ」
突然ギョロ目が大声で笑い出したのでギョッとした。
「お前ら、何なんだ? あの兄弟を倒せるなんて、普通のハンターじゃ考えられない。あれを倒せるとしたら王族お抱えの『魔法騎士』くらいだ。まさか、お前ら、いえ、あなた方は」
「いやいや、こんな大層なもんじゃねーよ」
「じゃあ、あんたらは一体」
「まぁ、俺らのことはいいよ。なぁ、あんた、俺らの仲間にならないか? 仲間ってのも違うか!? ドリスをとっちめるために協力してくれないか?」
「とっちめる!? ボスを!?」
素っ頓狂な声を上げたギョロ目。俺、そんなにおかしなことを言っただろうか?
『そやつの弱点は娘じゃろ? 我ならその娘の病気を治せるやもしれん。それを交渉材料にしてみろ』
「嘘か本当か知らないが、あんたの娘さん、病気なんだろ? 俺らならその病気を治せるかもしれないぜ? 協力してくれたら、の話だがな」
「治せる!? 治せるのか!? 本当に!?」
「まぁ、見てみないことには分かんねぇが、その可能性はあるぞ? どうする?」
「仲間にでも何にでもなる! 何だって協力する! どうか娘を! 娘を助けてくれ! いや、助けてください! お願いします!!」
土下座して頼んでいる姿が本当に痛々しかった。
『どれ、その娘をここに連れてくることは出来るかの?』
「娘さんをここに連れてくることは出来るか?」
「いや、無理だ……娘は……樹木病で……体から伸びた根が地面にまで到達していて、もう家から動かすことも出来ない……」
『ほぅ、樹木病とな』
樹木病とはある日突然体が動かなくなり、寝たきりになった背中からは植物の太い根が生え、それがベッドや床を貫通して地面まで到達しこの場に固定され、どんどんその体は木のように変化していって、数年で本当の木になってしまう病だ。
治療法は見つかっておらず、また発症件数も少ないため研究も進んでいない病で、これになってしまったものはまず助からない。
根が地面に到達すると飲み食いをしなかてもよくなるのだが、だからどうしたという話である。
なぜ俺がこの病を知っているかというと、故郷の町でこの病が発症したばあさんを見たからだ。
「落ちこぼれ」な俺にも優しくしてくれたばあさんだったが、樹木病になり三年で家を貫くほど立派な大木になってしまった。
さすがに元人間だった木を切り倒すことも出来ず、町には未だにその木がひっそりと立っている。
『治せるのか?』
『実際に治したことはないが、方法は知っておるな』
『それって、既に木になったやつも戻せるのか!?』
『既に木になってしまったものは治せん。まだ少しでも人の形を残し、意志を残しておるものしか無理じゃ』
『そうか……』
ひょっとしたらと少し期待したが、やはり木になったものは戻せないらしい。いや、薄々はそうじゃないかと思っていたが、やっぱりか。
『では、そやつの家に行かねばならんのぉ』
「家はここから近いのか? オークションまでまだ時間がある。先に娘さんに会いたいんだが」
「すぐ! すぐそばです!」
俺らはギョロ目の家へと向かうことになった。
ドリスにそう言われ、俺らは宿からまた黒い馬車に乗りボロ屋敷へと送り届けられた。
「これ、どうするんだよ!? 人肌に温かくて気持ち悪ぃよ!」
金塊を薄汚れたテーブルの上に置くと、ギースがまじまじと金塊を眺め始めた。
「へぇー、これが錬金魔法ですか……ふーん……あー、でもこれ、一月もしないうちに解けますねぇ……錬金魔法としては実に不完全ですよ」
どこをどう見てそんなことを言っているのか全く分からないが、放っておいても解ける魔法なのであれば安心だ。
『どれ、それを床に置いてくれ』
言われるまま金塊を床に置くと、シャンテの卵が光った。
今更だが、魔法を使うとこいつは光るようだ。
床に置いた金塊がムクムクと膨らみ、ギョロ目の姿に戻った。
「あぁぁぁ、あっ!?」
金塊にされた瞬間で記憶が止まっているのか叫び声を上げていたのだが、すぐ俺達に気付きおかしな声を上げた。
「な、何だ? 俺は、助かった、のか?」
キョトンとした顔をして辺りをキョロキョロと見渡している。
「ド、ドリス様は!? ボスはどこに!? 娘は!? 娘は無事なのか!?」
娘を心配するあたり、心底悪いやつではなさそうだ。
「す、すまなかった! お前達の報酬をネコババしたのは俺だ! 手を出すなら俺だけにしてくれ! 娘は病気なんだ! 頼む! 娘には手を出さないでくれ!」
必死の形相で俺の足にしがみつき、命乞いでもするかのような悲痛な声を上げているギョロ目。
きっと私生活では娘を愛する父親なのだろう。
ドリスなんかの下で働いているから悪事に手を染めているだけなのだと思いたい。
「気の毒に思えてきたぞ……」
「僕もです……」
俺とギースがそう言うと、ギョロ目が涙でグシャグシャな顔を上げて、不思議そうな顔で俺らを見た。
『種明かしの時間じゃな』
そういうとパンッと小さく軽い音がして、ギースの姿が元の愛らしい少年(それも実は違うのだが)に戻った。ということは俺も元に戻ったのだろう。
「え? ヘ? うわぁぁぁあ!」
ギョロ目が驚いた声を上げて這いつくばるようにしながら距離を取った。
そりゃそうだろう。きっとこんな魔法があるなんて普通は誰も知らないだろうし。
「ど、ど、ど、」
「ど?」
きっと「どういうことだ!」とか何とか言いたいんだろうが、驚きすぎて言葉が出ないのだろう。
そんなギョロ目をギースがキョトンとした顔で見ている。
『ほれ、そやつを我らの仲間に取り込むのじゃ!』
シャンテが当然のようにそんなことを言っているのだが、どうしろっていうんだよ、全く。
「驚かせて悪いな」
「な、な、何なんだ!? どうなってる!? お前は死んだはずじゃ!!」
「ハハハ、この通りピンピンしてるぜ?」
「じゃ、じゃあ、デビル・ブラザーズは!? あの二人はどうしたんだ!?」
「あいつらなら、襲われた空き地でまだ寝てるんじゃないか?」
「デビル・ブラザーズが、負けた!?」
「そうだな、うちの弟にあっさり負けたぜ?」
「負けたのか、あいつらが?……アハ、アハハハ、アハハハハハ」
突然ギョロ目が大声で笑い出したのでギョッとした。
「お前ら、何なんだ? あの兄弟を倒せるなんて、普通のハンターじゃ考えられない。あれを倒せるとしたら王族お抱えの『魔法騎士』くらいだ。まさか、お前ら、いえ、あなた方は」
「いやいや、こんな大層なもんじゃねーよ」
「じゃあ、あんたらは一体」
「まぁ、俺らのことはいいよ。なぁ、あんた、俺らの仲間にならないか? 仲間ってのも違うか!? ドリスをとっちめるために協力してくれないか?」
「とっちめる!? ボスを!?」
素っ頓狂な声を上げたギョロ目。俺、そんなにおかしなことを言っただろうか?
『そやつの弱点は娘じゃろ? 我ならその娘の病気を治せるやもしれん。それを交渉材料にしてみろ』
「嘘か本当か知らないが、あんたの娘さん、病気なんだろ? 俺らならその病気を治せるかもしれないぜ? 協力してくれたら、の話だがな」
「治せる!? 治せるのか!? 本当に!?」
「まぁ、見てみないことには分かんねぇが、その可能性はあるぞ? どうする?」
「仲間にでも何にでもなる! 何だって協力する! どうか娘を! 娘を助けてくれ! いや、助けてください! お願いします!!」
土下座して頼んでいる姿が本当に痛々しかった。
『どれ、その娘をここに連れてくることは出来るかの?』
「娘さんをここに連れてくることは出来るか?」
「いや、無理だ……娘は……樹木病で……体から伸びた根が地面にまで到達していて、もう家から動かすことも出来ない……」
『ほぅ、樹木病とな』
樹木病とはある日突然体が動かなくなり、寝たきりになった背中からは植物の太い根が生え、それがベッドや床を貫通して地面まで到達しこの場に固定され、どんどんその体は木のように変化していって、数年で本当の木になってしまう病だ。
治療法は見つかっておらず、また発症件数も少ないため研究も進んでいない病で、これになってしまったものはまず助からない。
根が地面に到達すると飲み食いをしなかてもよくなるのだが、だからどうしたという話である。
なぜ俺がこの病を知っているかというと、故郷の町でこの病が発症したばあさんを見たからだ。
「落ちこぼれ」な俺にも優しくしてくれたばあさんだったが、樹木病になり三年で家を貫くほど立派な大木になってしまった。
さすがに元人間だった木を切り倒すことも出来ず、町には未だにその木がひっそりと立っている。
『治せるのか?』
『実際に治したことはないが、方法は知っておるな』
『それって、既に木になったやつも戻せるのか!?』
『既に木になってしまったものは治せん。まだ少しでも人の形を残し、意志を残しておるものしか無理じゃ』
『そうか……』
ひょっとしたらと少し期待したが、やはり木になったものは戻せないらしい。いや、薄々はそうじゃないかと思っていたが、やっぱりか。
『では、そやつの家に行かねばならんのぉ』
「家はここから近いのか? オークションまでまだ時間がある。先に娘さんに会いたいんだが」
「すぐ! すぐそばです!」
俺らはギョロ目の家へと向かうことになった。
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