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王都へ
調理開始
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『なぁ、あの子大丈夫かな?』
『まぁ、大丈夫じゃろ』
ナルシアを心配していたら小麦色の髪の女の子に抱き上げられた。
「御髪が乱れていますわ! せっかくの愛らしいお姿がこれでは台無し! 少し待っていてください!」
女の子は俺をラッセルが座っていた椅子に乗せると、洞窟の隅に積み上げられている木箱の一つを漁り始めた。
「この箱に私の荷物が入れられていたはず……あ、あった!」
いかにも高そうなカバンを引っ張り出してきた。
「失礼しますわね」
そう言うと、カバンの中から高そうなクシを取り出して近付いて来て、俺を膝に乗せて椅子に腰掛けると、クシで俺の毛を梳かし始めた。
「ニャー様の御髪はサラサラフワフワしていますのね……ニャー様は魔物なのですか?」
「ニャー(違うぜ)」
「このような美しい魔物がいるわけがございませんわよね。きっと神様の御使い。天使様の化身……」
「ニャ(何だって!?)!?」
「やっぱりそうなのですね! このように愛らしく美しく強いのです、きっとそうなのですわね」
女の子は勝手に納得していたが、シャンテは笑っていた。
「まぁ! 御御足も少し汚れていますわ!」
カバンから綺麗に刺繍が施されたハンカチを取り出すと、それで迷うことなく俺の足の土汚れを拭き始めた。
「ニャ、ニャー! ニャー!(そんなんで足なんて拭くなよ! もったいねぇだろ!)」
「私の心配をしてくださっているのですか? 大丈夫ですわ。ニャー様が傍にいてくださる。こんなに心強いことはございません」
『な、なぁ、これ、何とかしてくれねぇか?』
『我は卵じゃぞ? 何が出来るというのじゃ』
『こんな時だけ……ずるいぞ!』
シャンテは戸惑う俺を楽しそうに見ているのが分かる。
「ニャー様? もしや、お腹でも空いていらっしゃいますか? 気付きませんで申し訳ありません!」
「ニャ(空いてない!)!」
「やはりそうなのですね! 何かないかしら」
女の子は俺を椅子に置くと洞窟内を物色し始めた。
『な、なあ? この隙にここを出てもいいかな?』
『この後に兵士達が来るのを考えたら、早めに出た方がいいじょろうな』
女の子がこちらを背を向けている隙に洞窟を出た。
「ニャー様!? ニャー様!」
女の子の声が聞こえたが戻らなかった。
『結局、モーをどこに返せばいいか分かんなかったな』
『聞き出す術もないしの』
『どーすっかなぁ。多分近くから連れてこられたんだとは思うんだけどなぁ』
『近くならば畑の近くにでも置いておけば良いのではないか?』
『そんなわけにはいかねぇだろ』
ギースのところに戻るとモーがいなくなっていた。
『あれ? モーは? まさか、食ったのか!?』
『狡いぞ! 我が食いたかったのに!』
「食べてませんよ! 食べませんよ! 飼い主が探しに来たんで引渡しました」
『そ、そうか』
『なんじゃ……』
「それで、その人間にこれをもらいました」
ギースがカバンから出してきたのは大きなミルク缶。
「牧場をやっているようで、お礼にと。採れたての牛乳だそうですよ」
牛乳は飲んでもよし、料理に使ってもよしなので非常にありがたい。
「モーモーギューも見知った人間だったようですし、『ママの匂いがする!』とうるさかったので。駄目でしたか?」
『いや、どう返そうか考えてたところだから丁度よかったよ』
『アースが「助かった」と言っておる』
「お役に立てたならよかったです」
嬉しそうにギースが笑っていた。
人の姿に戻り魔獣の森を目指していると、兵士達がラッセル達を荷馬車の後ろに乗せているのを目撃した。
荷馬車とは別に馬車も並行して走っており、馬車の窓からあの小麦色の髪の女の子の姿も見えた。
「無事に着いたみたいだな」
『我の加護をほんの少しばかり付けたからの。魔物に襲われることはなかったろうて』
「そういうことは先に言えよ」
『一時間もせんうちに切れるでの、言わんでもいいと思ったのじゃ』
どうやら加護というものを付けたようだ。優しいところがある飛龍である。
それを見ながらいよいよ魔獣の森へと足を踏み入れた。
ここからは街道を歩く方が安全だと思ったのだが、シャンテに止められた。
『我らがおるのじゃ。そうそう襲われはせんよ』
言葉通り一時間ほど歩いても強そうな魔物は襲ってこない。
草原にいたよりも凶暴化したチューチルやウサータが襲っては来たが何の問題もなく倒せた。
少々疲れたので早めに飯にしようと拓けた場所を見つけてそこで支度を始めた。
『やはり人間とは脆弱よの。あれっぽっちで疲れるとは』
シャンテが呆れていたが、飛龍と同じにしてもらっても困る。
「さて、飯でも作るか」
『アースは料理が出来るのか?』
「出来るからあれこれ買ったんだろ? 出来ないなら買うだけ無駄だろ!」
『そういうのは女子の仕事だと聞いたのでの』
「うちの母親が料理が下手だったからな、小さい頃から手伝ってたんだ。ある程度は作れるぞ」
『ほぉ……ところで、何を作るのじゃ?』
「ウサータの肉があるからな、それをソテーにして、あとは野菜でスープでも作るかな。簡単なやつだがな」
『ほぉ……』
俺が調理を始めるとギースが手伝いたがったので、野菜のカットをお願いした。
スープに使うので大きさがバラバラでも構わないため、好きなようにカットしてもらっている。
俺はウサータを解体してブロック肉にわけ、脂身の少ない部分を選んで下処理をしていく。
脂身の多い部分は肉質が柔らかいのだが、脂が多すぎてくどくなるためソテーには向かない。
脂身の少ない赤みの部分は少し筋が多いため、丁寧に筋切りをしなければ焼きあがった時に肉が固くなってしまう。
少し手間だがこれをやるだけで格段に美味くなるのだからやらないわけにはいかない。
どうせ食うなら美味しく! これは鉄則である。
丁寧に筋部分に切込みを入れ、軽く叩いたウサータの肉にスパイスを振り、肉から水分が出るまで暫く置いておく。
余計な血を抜くことで味がグッと良くなる。
その間にギースが切った大きさがまちまちな野菜を鍋に入れ軽く炒め、別の鍋にウサータの骨を割り入れて煮込んで出汁を取る。
まだ手伝いたそうなギースには灰汁取りをお願いした。
ウサータの肉を欲張って厚めに切ってしまったので、じっくり焼き上げるために火にかけ、蓋をして蒸し焼きにする。
ウサータの骨からはすぐに出汁が出るため、白濁したスープに野菜を投入し少し煮込む。
そこにもらった牛乳を少し入れ、スパイスと塩で味を整えれば野菜のミルクスープの完成である。
ウサータの肉をひっくり返し今度は蓋をせずに焼き上げる。
「さぁ、出来た!」
辺りにいい香りが漂っていた。
『まぁ、大丈夫じゃろ』
ナルシアを心配していたら小麦色の髪の女の子に抱き上げられた。
「御髪が乱れていますわ! せっかくの愛らしいお姿がこれでは台無し! 少し待っていてください!」
女の子は俺をラッセルが座っていた椅子に乗せると、洞窟の隅に積み上げられている木箱の一つを漁り始めた。
「この箱に私の荷物が入れられていたはず……あ、あった!」
いかにも高そうなカバンを引っ張り出してきた。
「失礼しますわね」
そう言うと、カバンの中から高そうなクシを取り出して近付いて来て、俺を膝に乗せて椅子に腰掛けると、クシで俺の毛を梳かし始めた。
「ニャー様の御髪はサラサラフワフワしていますのね……ニャー様は魔物なのですか?」
「ニャー(違うぜ)」
「このような美しい魔物がいるわけがございませんわよね。きっと神様の御使い。天使様の化身……」
「ニャ(何だって!?)!?」
「やっぱりそうなのですね! このように愛らしく美しく強いのです、きっとそうなのですわね」
女の子は勝手に納得していたが、シャンテは笑っていた。
「まぁ! 御御足も少し汚れていますわ!」
カバンから綺麗に刺繍が施されたハンカチを取り出すと、それで迷うことなく俺の足の土汚れを拭き始めた。
「ニャ、ニャー! ニャー!(そんなんで足なんて拭くなよ! もったいねぇだろ!)」
「私の心配をしてくださっているのですか? 大丈夫ですわ。ニャー様が傍にいてくださる。こんなに心強いことはございません」
『な、なぁ、これ、何とかしてくれねぇか?』
『我は卵じゃぞ? 何が出来るというのじゃ』
『こんな時だけ……ずるいぞ!』
シャンテは戸惑う俺を楽しそうに見ているのが分かる。
「ニャー様? もしや、お腹でも空いていらっしゃいますか? 気付きませんで申し訳ありません!」
「ニャ(空いてない!)!」
「やはりそうなのですね! 何かないかしら」
女の子は俺を椅子に置くと洞窟内を物色し始めた。
『な、なあ? この隙にここを出てもいいかな?』
『この後に兵士達が来るのを考えたら、早めに出た方がいいじょろうな』
女の子がこちらを背を向けている隙に洞窟を出た。
「ニャー様!? ニャー様!」
女の子の声が聞こえたが戻らなかった。
『結局、モーをどこに返せばいいか分かんなかったな』
『聞き出す術もないしの』
『どーすっかなぁ。多分近くから連れてこられたんだとは思うんだけどなぁ』
『近くならば畑の近くにでも置いておけば良いのではないか?』
『そんなわけにはいかねぇだろ』
ギースのところに戻るとモーがいなくなっていた。
『あれ? モーは? まさか、食ったのか!?』
『狡いぞ! 我が食いたかったのに!』
「食べてませんよ! 食べませんよ! 飼い主が探しに来たんで引渡しました」
『そ、そうか』
『なんじゃ……』
「それで、その人間にこれをもらいました」
ギースがカバンから出してきたのは大きなミルク缶。
「牧場をやっているようで、お礼にと。採れたての牛乳だそうですよ」
牛乳は飲んでもよし、料理に使ってもよしなので非常にありがたい。
「モーモーギューも見知った人間だったようですし、『ママの匂いがする!』とうるさかったので。駄目でしたか?」
『いや、どう返そうか考えてたところだから丁度よかったよ』
『アースが「助かった」と言っておる』
「お役に立てたならよかったです」
嬉しそうにギースが笑っていた。
人の姿に戻り魔獣の森を目指していると、兵士達がラッセル達を荷馬車の後ろに乗せているのを目撃した。
荷馬車とは別に馬車も並行して走っており、馬車の窓からあの小麦色の髪の女の子の姿も見えた。
「無事に着いたみたいだな」
『我の加護をほんの少しばかり付けたからの。魔物に襲われることはなかったろうて』
「そういうことは先に言えよ」
『一時間もせんうちに切れるでの、言わんでもいいと思ったのじゃ』
どうやら加護というものを付けたようだ。優しいところがある飛龍である。
それを見ながらいよいよ魔獣の森へと足を踏み入れた。
ここからは街道を歩く方が安全だと思ったのだが、シャンテに止められた。
『我らがおるのじゃ。そうそう襲われはせんよ』
言葉通り一時間ほど歩いても強そうな魔物は襲ってこない。
草原にいたよりも凶暴化したチューチルやウサータが襲っては来たが何の問題もなく倒せた。
少々疲れたので早めに飯にしようと拓けた場所を見つけてそこで支度を始めた。
『やはり人間とは脆弱よの。あれっぽっちで疲れるとは』
シャンテが呆れていたが、飛龍と同じにしてもらっても困る。
「さて、飯でも作るか」
『アースは料理が出来るのか?』
「出来るからあれこれ買ったんだろ? 出来ないなら買うだけ無駄だろ!」
『そういうのは女子の仕事だと聞いたのでの』
「うちの母親が料理が下手だったからな、小さい頃から手伝ってたんだ。ある程度は作れるぞ」
『ほぉ……ところで、何を作るのじゃ?』
「ウサータの肉があるからな、それをソテーにして、あとは野菜でスープでも作るかな。簡単なやつだがな」
『ほぉ……』
俺が調理を始めるとギースが手伝いたがったので、野菜のカットをお願いした。
スープに使うので大きさがバラバラでも構わないため、好きなようにカットしてもらっている。
俺はウサータを解体してブロック肉にわけ、脂身の少ない部分を選んで下処理をしていく。
脂身の多い部分は肉質が柔らかいのだが、脂が多すぎてくどくなるためソテーには向かない。
脂身の少ない赤みの部分は少し筋が多いため、丁寧に筋切りをしなければ焼きあがった時に肉が固くなってしまう。
少し手間だがこれをやるだけで格段に美味くなるのだからやらないわけにはいかない。
どうせ食うなら美味しく! これは鉄則である。
丁寧に筋部分に切込みを入れ、軽く叩いたウサータの肉にスパイスを振り、肉から水分が出るまで暫く置いておく。
余計な血を抜くことで味がグッと良くなる。
その間にギースが切った大きさがまちまちな野菜を鍋に入れ軽く炒め、別の鍋にウサータの骨を割り入れて煮込んで出汁を取る。
まだ手伝いたそうなギースには灰汁取りをお願いした。
ウサータの肉を欲張って厚めに切ってしまったので、じっくり焼き上げるために火にかけ、蓋をして蒸し焼きにする。
ウサータの骨からはすぐに出汁が出るため、白濁したスープに野菜を投入し少し煮込む。
そこにもらった牛乳を少し入れ、スパイスと塩で味を整えれば野菜のミルクスープの完成である。
ウサータの肉をひっくり返し今度は蓋をせずに焼き上げる。
「さぁ、出来た!」
辺りにいい香りが漂っていた。
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