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王都へ

塩釜焼きと風呂

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 食堂に行くとテーブルの上には既に料理が並んでいて、真っ先に目に付いたのはやはり塩釜焼きだった。

 一般家庭で塩釜焼きをする場合は単にドーム型に包んであるだけなのだが、宿屋を営んで客に振る舞うからかコーネルさんの塩釜焼きは魚の形になっている。

 白い塩にはこんがりと焼け目が付いておりより魚っぽさを増している。

 他には大きめの器にサラダが盛られており、木のカップにはスープが注がれている。

「横に置いてある木槌で割って食べてください。塩の塊は食べないようにしてくださいね。かなり塩辛いので」

──コンコンコン

 小ぶりの木槌で丁寧に割っていくと中身が姿を現した。

 塩辛くなり過ぎないように何かの葉っぱで包んであるようだ。

 葉っぱを取り除くと、中にはふっくらと蒸し焼きにされた鮮やかなオレンジを発するシャッケの身。

「美味そう……いただきます!」

 シャッケの身を一口頬張ると、程良い塩加減を纏い旨味を増したシャッケの味わいが口の中に一気に広がった。

『我にもよこすのじゃ!』

 シャンテにも一口やると、プルプルと卵が震え『美味い!』と大きな声が頭の中に響いた。

「美味しい!」

 ギースも美味そうに食べている。

 直接火にかけて焼くのではなく蒸し焼きにされたことでふんわりと柔らかい身が口の中で解けていく。

    シャンテも普段ならこういう時は一口か二口で済ませるのだが、明らかに次をもらえるのを待っているのが分かる。

 それくらい美味い。

「どうですか? お口に合います?」

 コーネルさんがお茶を持ってやった来た。

「美味いです!」

「うん、とっても!」

 ギースも元気よく返事を返している。

「それなら良かった。食材がいいので美味しいだけなんですけどね」

「そんなことないですよ! 本当に美味いです!」

 そう言うと嬉しそうに笑って去っていった。

 大満足の夕飯は楽しく終了。残すはメインイベントの風呂である。

「二十四時間いつでもお好きな時にどうぞ」

 そう言われたため、少し休んでから入ることにする。食後すぐはあまり良くない気がするし。

 鼻歌を歌いながら部屋で荷物の整理をしていると、ギースが風呂の良さを尋ねてきた。

「温かい水に浸かって楽しいのですか?」

 風呂を温かい水呼ばわりとは何たることだ。

「ギースは風呂に入ったことはないんだよな?」

「ないですね。基本的に水浴びもしませんし」

「体が汚れたらどうしてたんだ?」

「砂を浴びてました」

 魔物は水浴びなどしないものが多いらしい。シャンテも風呂は好きじゃないようだ。

 水を好むものもいるようだが、基本的に水は生きるために飲むものであり、人間のようにそれに体を浸して疲れを取ったり体を洗ったりはしないという。

 実にもったいない話である。

 好き好んで水を浴びたいとは思わないが、風呂は別だ。

「よし、お前らに風呂の楽しさを教えてやる!」

『我は良い。興味がないわ』

「僕もいいです」

 渋る二人を強引に誘って風呂まで連れてきた。

 そして服を脱いでいる時に「あれ? シャンテは女だよな?」と思い出した。

『我は確かにメスじゃが、人間の裸体を見たところで何とも思わんわ』

「さいでっか……」

 服を脱いだギースを見て驚いた。あるべきものがないのだ。

「は? え? ん?」

 それ以外の言葉が出てこないほどの衝撃だった。

 へそもなければその下の……ほら、何ていうか、アレだ、アレ! アレも付いていないのだ。

 全体的にツルンとした体だった。

「ないぞ!」

『何がじゃ?』

「ナニがない!」

『だから何がないのじゃ?』

「ナニが付いてない!」

『言っておることが良く分からんわ』

「だーかーらー」

「あぁ、アースさんにあるアレが僕にはないんですね」

 ギースが可愛い笑顔で俺の股間を指さしながらそう言うと、シャンテが『どれ、良く見せろ』と言い出したため拒否した。

 例え飛龍だといえ、股間なんてマジマジと見られたくはない。

    風呂はやっぱり凄かった。

 壁も床も浴槽も木で出来ていていい香りがしている。

 手前から小・中・大の風呂が並んでいて壁には草原の巨大な絵が描かれている。

 さながら前世の銭湯のようである。まぁ、行ったこともなかったけど、そんな写真を見たことがあったのだ。

 小の風呂は水風呂、中の風呂は若干温めの風呂、大の風呂は最初は熱く感じるが慣れると心地よい温度の湯が張ってあり、嬉しいことに掛け流しである。

「ここの地下に温泉が湧いているんですよ」

 コーネルさんがそう言っていた。

 体を洗ってから風呂に入るのが鉄則だと前世の父が言っていたため、毎回風呂に入る時はしっかりと体を洗ってから入る。

 さすがにギースは人間の姿のままだとマズイようなので地龍の姿に戻っている。

 ギースの体を洗ってやると茶色い泡が出てきたため、念入りに洗ってやると、ピンク色の皮膚がとても綺麗になった。

 シャンテも洗ってやったが、卵には変化はなかった。

「風呂に入ったら孵るなんてことはないよな?」

 念のために確認すると『そんなことになるわけがなかろう』と馬鹿にするように言われてしまった。

 俺は迷わず大きな風呂に向かったが、ギースにはぬるま湯風呂を試してもらった。

「生温かくて変な感じですね」

 好みじゃなさそうだったので大風呂へと誘った。

「ふーっ」

 俺が湯に浸かったのを見て怖々と足を入れたギースは「熱い!」と言っていたのだが、体が湯温に慣れてくると「あ、大丈夫です!」と全身を湯に浸からせ俺の隣に腰を下ろした。

「シャンテも試してみるだろ?」

『我は良い!』

 頑なに浸かりたがらないシャンテをシレーッと湯に浸ける。

『な、何を! や、やめ……ん? ……何じゃ? ……思っていたよりなかなか』

 どう思っていたのか分からないが、どうやらお気に召したようだ。

『……うむ、良いな』

「アースさんが気持ちいいと言っていたのが分かりますねぇ」

「だろ? 一日の疲れが取れるのよ」

 あまり長く浸かりすぎるとのぼせてしまうので、適度に湯から出る。

 火照った体を水風呂で冷やすのもまた一興。

 ここで町で買っておいた「モモン」のジュースを取り出し、牛乳と割ったもので水分補給をした。

 モモンとは様々なフルーツが合わさったような味がしている変わった果実で、これを搾った果汁が牛乳と組み合わされると、前世で飲んだフルーツ牛乳そっくりな味になる。

「風呂上がりのフルーツ牛乳は格別だ!」

 前世の父が言っていたことを思い出し、風呂上がりではないが試してみたのだが、格別だと言っていた意味がよく分かった。

「美味しい!」

『うむ、良いな』

 二人にも好評だった。

 
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