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新生編
第17話 さらわれた神様
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照り付ける太陽、美しい街並み。
駅を抜けて外へ出ると、そこは南の国だった。
厚い冬の服から夏らしい軽装に着替えたフィオレは陽気にくるりと回って手を振り上げた。
「夏だー! 海だー! バカンスだー!」
「何でお前そんなに上機嫌なんだよ!」
「えへへー、一度言ってみたかったのよ!」
「まあいいけどよ。たまにはよ」
なおも上機嫌な様子で夏の日差しの中をくるくると踊って楽しんでいる姫様を眺めていると、ちっこい少女の姿をした神様が現れて声を掛けてきた。
「公太郎、気を付けてください」
「何をだ?」
「もしかしたら、この国にこの世界の神様がいるかもしれません」
「え!? マジかよ!」
公太郎は驚いた。まさかそんなことがあるとは全くこれっぽっちも思っていなかったからだ。神様は慎重に声のトーンを落として答えた。
「はい、ここは南国です。もしもわたしが同じ立場だったとしたら夏を満喫しに来てもおかしくはないからです」
公太郎から気分が抜けた。
「まあ、お前だったらそうなんだろうな」
「この世界の神様だってどうだか分かりませんよ。フィオレにさりげなく聞けないのですか?」
「俺が聞いたら向こうの神様にお前のことがバレて、お前、逆に狙われて消されるんじゃないのか?」
このちっこい少女の姿をした神様はこの世界の神様をやっつけてその力を我が物にしようと企んでいるのだ。向こうの神様も同じことを考える可能性は十分にありえた。
「まあ、公太郎にさりげなく聞くなどといったレベルの高い芸当を期待するのも無謀というものですからね。ここはやはり、フィオレの旅にくっついて機会を狙うことが最良の方策なのでしょう」
そんな神様の言い分に公太郎の中の何かが切れた。
「あまり俺を舐めるなよ。そこまで言うなら俺がさりげなくフィオレからこの世界の神様の手掛かりを聞き出してやるぜ。おい、フィオレ!」
公太郎が呼びかけると、夏の花壇を眺めていた彼女が振り返って近づいてきた。
「なに? 公太郎ちゃん」
「俺がさりげなくだな。本当にさりげなく聞きたいんだけどな」
「何をさりげなく聞きたいのかな?」
「本当~にさりげなく聞きたいだけなんだ。全然たいしたことじゃないことをさりげなく聞きたいだけなんだけどな」
「うん、なんでも聞いてよ」
「実はな、これはさりげなく聞きたいんだがな……」
「うん」
公太郎は言い出そうとした。フィオレは興味津々といった感じにその話を待っている。そんな彼女を前にして公太郎は何とか言い出そうとしたが、口をもごもごとさせた末に
「ちょっと待っててくれ」
「うん」
結局逃げ出してしまった。離れて駅前の広場の隅っこにしゃがみこんで頭を抱えてしまう。
「駄目だー! さりげなくなんてどうやって聞けばいいんだー!」
「だから、言ったではないですか。素直に出来ることをやっておけばいいのですよ」
「ああ、分かったぜ。ったく、チート能力さえあればこんなことも簡単に出来るんだろうによ」
「それはどうなんでしょうねえ」
そんなことをヒソヒソ話でやっていると、しゃがんでいる公太郎の頭の上から声が掛けられた。
「ねえ、お姉さん」
目線を上げるとそこにいたのは電車で会ったあの少女だった。目が合うと少女は人のいい微笑みを浮かべた。
「そこの変な生き物って、お姉さんの物なの?」
彼女の視線は神様の方に向いているように思われた。だが、そんなことはありえないはずだ。神様は見えも触れもしないのだから。変な生き物を飼った覚えのない公太郎はとぼけようと言葉を迷わせながら答えた。
「何のことかな? 僕は変な生き物なんて飼ってませんよ」
「そっか」
少女はとても嬉しそうに微笑んだ。その瞳が次の瞬間、獲物を狙うハンターのように鋭く光ったような気がした。
「じゃあ、この変な生き物はあたしの物だあ!」
少女の腕が伸びてくる。次の瞬間、神様は掴み取りの鮎のように生け捕りにされていた。
「獲ったりー!」
「おが、あわ、ぶく」
少女が歓声を上げる。見えも触れもしないはずの神様が苦しそうにもがく。公太郎は事態がすぐに呑み込めなかった。
「こんなに変な生き物なんだもの! きっとバザーに出せば高く売れるに違いないわ!」
神様を掴んだまま少女は走り去っていく。公太郎はやっと我に返った。
「ちょ、ちょっと待てい! 神様をかえせー!」
慌てて後を追いかけていく。
「公太郎ちゃん!?」
フィオレが驚いて呼びかける声にも答えず、公太郎は走って行った。
人の多い交差点で公太郎は少女を見失っていた。
「足の速い奴め! いったいどこへ行ったんだ?」
周囲を見回す。すると人の集まっている向こうの店先で何かが騒いでいるのが聞こえた。
「あそこか!」
公太郎は気づかれないように早足でそこへと近づいて行った。人ごみの最後尾にたどり着くと、少女が店主と何かを言い合っている声が聞こえた。
「見えないってどういうことよ! ここにこんなに変な生き物がいるじゃない!」
「そうは言ってもなあ、おじさんには何も見えないなあ」
その声を聞きながら、公太郎は人ごみを掻き分けて進んでいく。
「よく見てよ! そして、これと同じ物が今いくらで売られているのか調べてよ! あたしはこれをバザーに出品したいのよ!」
「無い物は取引出来ないんじゃないかなあ」
「もう、ここにちゃんとあるのに! あんた、何とか鳴いてみなさいよ!」
少女は神様に命令するが、神様はここには何もいませんよとアピールしたいのかウンともスンとも言わなかった。
「んもう~! 泣け! わめけ!」
さらに神様の頭を叩こうとした少女の手をやっとその場にたどり着いた公太郎が止めた。少女は驚いたように振り返った。
「あ、お姉さん」
「悪いな。お前の言いたいことは分かってるつもりだ。だから、ちょっと来てくれ」
「え? う……うん」
公太郎は人ごみの中から少女を連れ出し、人の少ない道の端へと移動した。
「その変な生き物は本当は俺の物なんだ。だから、返してくれないか」
「でも、さっきは違うって」
「見えるとは思わなかったんだ」
その言葉に少女はすぐに事情を察したようだった。
「へえ、お化けや幽霊みたいな物なのかな。あたしって昔からそういうの見えるのよね。触れたのは初めてだけど。で、これはなんて名前のお化けなの?」
「お化けとはなんですかー! わたしは神様です!」
「お前、何言ってるんだよ!」
お化け呼ばわりされて神様はわめいた。公太郎はすぐにその口を塞ごうとしたが遅かった。振り返ると少女はにっこりと微笑んでいた。
「へえ、神様って名前のお化けなんだね。あたしはエンデ。よろしくね」
少女は神を信じていないようだった。フレンドリーな様子で固まっている様子の神様と握手した。
「言っとくけどよ、こいつのことは誰にも言わないでくれよ。変な奴だって思われるからな」
「うん、分かってる。あたしにも経験あるからね」
公太郎が言うとエンデはすぐに納得してくれた。
そこにフィオレが走ってきた。慌ただしく息を切らしている様子で声を掛けてくる。
「公太郎ちゃん! いきなり走っていってどうしたの!? 引ったくり!?」
「あ、えー……引ったくりと言えばそうかもしれないけどな……」
まさか、神様がさらわれたとは言えずに公太郎は言葉を濁してしまった。迷っているとエンデが代わりに話を合わせてくれた。
「公ちゃんはあたしを追いかけてきたんだ。あたし達って友達だから。それで引ったくりからあたしの荷物を取り返してくれたんだ」
「公太郎ちゃんって友達いたの!?」
フィオレはそこに驚いてるようだった。
「お前って失礼な奴だな。まあいいけどよ。それでこれからどうするんだ? すぐに炎の魔獣ファイダを倒しに行くのか?」
「ううん、今は暴れてないみたいだしその前に王様に挨拶に行こうと思ってたんだけど、なんか疲れちゃった。今日は宿をとって明日の朝に行きましょう」
「お前、はしゃぎすぎなんだよ」
「あはは……」
フィオレが疲れた笑いを上げる。公太郎はその時はそのことを気にしていなかった。話を聞いていたエンデが提案してくる。
「お姉さん達もファイダを倒しに来たんだ。あたしもなんだよ。どう? 一緒に行かない?」
「え? えーと……」
フィオレは何とか断る理由を探していた。三魔獣はあのファイタンとマホルスですら連れていくのを躊躇するほどの危険な相手なのだ。こんな会ったばかりの少女をどうして連れていくことが出来るだろう。
しかし、公太郎を連れていくのに公太郎の友達というその少女に対してうまく断る言葉が見つからず、結局その同行をOKしてしまったのだった。
駅を抜けて外へ出ると、そこは南の国だった。
厚い冬の服から夏らしい軽装に着替えたフィオレは陽気にくるりと回って手を振り上げた。
「夏だー! 海だー! バカンスだー!」
「何でお前そんなに上機嫌なんだよ!」
「えへへー、一度言ってみたかったのよ!」
「まあいいけどよ。たまにはよ」
なおも上機嫌な様子で夏の日差しの中をくるくると踊って楽しんでいる姫様を眺めていると、ちっこい少女の姿をした神様が現れて声を掛けてきた。
「公太郎、気を付けてください」
「何をだ?」
「もしかしたら、この国にこの世界の神様がいるかもしれません」
「え!? マジかよ!」
公太郎は驚いた。まさかそんなことがあるとは全くこれっぽっちも思っていなかったからだ。神様は慎重に声のトーンを落として答えた。
「はい、ここは南国です。もしもわたしが同じ立場だったとしたら夏を満喫しに来てもおかしくはないからです」
公太郎から気分が抜けた。
「まあ、お前だったらそうなんだろうな」
「この世界の神様だってどうだか分かりませんよ。フィオレにさりげなく聞けないのですか?」
「俺が聞いたら向こうの神様にお前のことがバレて、お前、逆に狙われて消されるんじゃないのか?」
このちっこい少女の姿をした神様はこの世界の神様をやっつけてその力を我が物にしようと企んでいるのだ。向こうの神様も同じことを考える可能性は十分にありえた。
「まあ、公太郎にさりげなく聞くなどといったレベルの高い芸当を期待するのも無謀というものですからね。ここはやはり、フィオレの旅にくっついて機会を狙うことが最良の方策なのでしょう」
そんな神様の言い分に公太郎の中の何かが切れた。
「あまり俺を舐めるなよ。そこまで言うなら俺がさりげなくフィオレからこの世界の神様の手掛かりを聞き出してやるぜ。おい、フィオレ!」
公太郎が呼びかけると、夏の花壇を眺めていた彼女が振り返って近づいてきた。
「なに? 公太郎ちゃん」
「俺がさりげなくだな。本当にさりげなく聞きたいんだけどな」
「何をさりげなく聞きたいのかな?」
「本当~にさりげなく聞きたいだけなんだ。全然たいしたことじゃないことをさりげなく聞きたいだけなんだけどな」
「うん、なんでも聞いてよ」
「実はな、これはさりげなく聞きたいんだがな……」
「うん」
公太郎は言い出そうとした。フィオレは興味津々といった感じにその話を待っている。そんな彼女を前にして公太郎は何とか言い出そうとしたが、口をもごもごとさせた末に
「ちょっと待っててくれ」
「うん」
結局逃げ出してしまった。離れて駅前の広場の隅っこにしゃがみこんで頭を抱えてしまう。
「駄目だー! さりげなくなんてどうやって聞けばいいんだー!」
「だから、言ったではないですか。素直に出来ることをやっておけばいいのですよ」
「ああ、分かったぜ。ったく、チート能力さえあればこんなことも簡単に出来るんだろうによ」
「それはどうなんでしょうねえ」
そんなことをヒソヒソ話でやっていると、しゃがんでいる公太郎の頭の上から声が掛けられた。
「ねえ、お姉さん」
目線を上げるとそこにいたのは電車で会ったあの少女だった。目が合うと少女は人のいい微笑みを浮かべた。
「そこの変な生き物って、お姉さんの物なの?」
彼女の視線は神様の方に向いているように思われた。だが、そんなことはありえないはずだ。神様は見えも触れもしないのだから。変な生き物を飼った覚えのない公太郎はとぼけようと言葉を迷わせながら答えた。
「何のことかな? 僕は変な生き物なんて飼ってませんよ」
「そっか」
少女はとても嬉しそうに微笑んだ。その瞳が次の瞬間、獲物を狙うハンターのように鋭く光ったような気がした。
「じゃあ、この変な生き物はあたしの物だあ!」
少女の腕が伸びてくる。次の瞬間、神様は掴み取りの鮎のように生け捕りにされていた。
「獲ったりー!」
「おが、あわ、ぶく」
少女が歓声を上げる。見えも触れもしないはずの神様が苦しそうにもがく。公太郎は事態がすぐに呑み込めなかった。
「こんなに変な生き物なんだもの! きっとバザーに出せば高く売れるに違いないわ!」
神様を掴んだまま少女は走り去っていく。公太郎はやっと我に返った。
「ちょ、ちょっと待てい! 神様をかえせー!」
慌てて後を追いかけていく。
「公太郎ちゃん!?」
フィオレが驚いて呼びかける声にも答えず、公太郎は走って行った。
人の多い交差点で公太郎は少女を見失っていた。
「足の速い奴め! いったいどこへ行ったんだ?」
周囲を見回す。すると人の集まっている向こうの店先で何かが騒いでいるのが聞こえた。
「あそこか!」
公太郎は気づかれないように早足でそこへと近づいて行った。人ごみの最後尾にたどり着くと、少女が店主と何かを言い合っている声が聞こえた。
「見えないってどういうことよ! ここにこんなに変な生き物がいるじゃない!」
「そうは言ってもなあ、おじさんには何も見えないなあ」
その声を聞きながら、公太郎は人ごみを掻き分けて進んでいく。
「よく見てよ! そして、これと同じ物が今いくらで売られているのか調べてよ! あたしはこれをバザーに出品したいのよ!」
「無い物は取引出来ないんじゃないかなあ」
「もう、ここにちゃんとあるのに! あんた、何とか鳴いてみなさいよ!」
少女は神様に命令するが、神様はここには何もいませんよとアピールしたいのかウンともスンとも言わなかった。
「んもう~! 泣け! わめけ!」
さらに神様の頭を叩こうとした少女の手をやっとその場にたどり着いた公太郎が止めた。少女は驚いたように振り返った。
「あ、お姉さん」
「悪いな。お前の言いたいことは分かってるつもりだ。だから、ちょっと来てくれ」
「え? う……うん」
公太郎は人ごみの中から少女を連れ出し、人の少ない道の端へと移動した。
「その変な生き物は本当は俺の物なんだ。だから、返してくれないか」
「でも、さっきは違うって」
「見えるとは思わなかったんだ」
その言葉に少女はすぐに事情を察したようだった。
「へえ、お化けや幽霊みたいな物なのかな。あたしって昔からそういうの見えるのよね。触れたのは初めてだけど。で、これはなんて名前のお化けなの?」
「お化けとはなんですかー! わたしは神様です!」
「お前、何言ってるんだよ!」
お化け呼ばわりされて神様はわめいた。公太郎はすぐにその口を塞ごうとしたが遅かった。振り返ると少女はにっこりと微笑んでいた。
「へえ、神様って名前のお化けなんだね。あたしはエンデ。よろしくね」
少女は神を信じていないようだった。フレンドリーな様子で固まっている様子の神様と握手した。
「言っとくけどよ、こいつのことは誰にも言わないでくれよ。変な奴だって思われるからな」
「うん、分かってる。あたしにも経験あるからね」
公太郎が言うとエンデはすぐに納得してくれた。
そこにフィオレが走ってきた。慌ただしく息を切らしている様子で声を掛けてくる。
「公太郎ちゃん! いきなり走っていってどうしたの!? 引ったくり!?」
「あ、えー……引ったくりと言えばそうかもしれないけどな……」
まさか、神様がさらわれたとは言えずに公太郎は言葉を濁してしまった。迷っているとエンデが代わりに話を合わせてくれた。
「公ちゃんはあたしを追いかけてきたんだ。あたし達って友達だから。それで引ったくりからあたしの荷物を取り返してくれたんだ」
「公太郎ちゃんって友達いたの!?」
フィオレはそこに驚いてるようだった。
「お前って失礼な奴だな。まあいいけどよ。それでこれからどうするんだ? すぐに炎の魔獣ファイダを倒しに行くのか?」
「ううん、今は暴れてないみたいだしその前に王様に挨拶に行こうと思ってたんだけど、なんか疲れちゃった。今日は宿をとって明日の朝に行きましょう」
「お前、はしゃぎすぎなんだよ」
「あはは……」
フィオレが疲れた笑いを上げる。公太郎はその時はそのことを気にしていなかった。話を聞いていたエンデが提案してくる。
「お姉さん達もファイダを倒しに来たんだ。あたしもなんだよ。どう? 一緒に行かない?」
「え? えーと……」
フィオレは何とか断る理由を探していた。三魔獣はあのファイタンとマホルスですら連れていくのを躊躇するほどの危険な相手なのだ。こんな会ったばかりの少女をどうして連れていくことが出来るだろう。
しかし、公太郎を連れていくのに公太郎の友達というその少女に対してうまく断る言葉が見つからず、結局その同行をOKしてしまったのだった。
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