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第3話 料理しよう

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「ふう……いっぱい買っちゃったな」

 私は両手に大量の荷物を抱えてアパートに戻った。
 さすがにスーパーの中までは連れていけなかったので、リューには自転車の籠で待っててもらった。
 少し不満そうだったが、お菓子をあげると機嫌を直してくれた。何だか子供っぽい。
 リューは何歳なんだろうか。私はサラマンダーに詳しいわけではないのでよく分からない。まあ、歳なんてどうでもいいか。
 私も歳の割には新人みたいだとよく言われるし。
 そんな事を考えつつテーブルに買ってきた荷物を置く。

「さーて、お昼ごはんは何を作ろうか」
「ニャー」

 こんな風に悩むのなんて何だか懐かしい感覚だ。
 私は腕まくりをしてから台所に向かう。そして食材を前にして思案する。

「簡単に済ませられるものがいいかな。そうだ、リュー。何かリクエストはある?」
「ニャニャッ」

 リューが尻尾をピンと立てて鳴く。どうやら食べたい物があるらしい。鼻で突いたのは昨日食べた野菜だった。

「お前は本当にそれが好きだねえ。分かった。じゃあ、それを使って作ろうか」

 まず、最初に鍋に水を入れて火にかける。そこに乾麺とカットした野菜を入れ、蓋をする。
 後は待つだけだ。
 リューはその間、部屋の中を歩き回って探検しているようだった。
 私はその間にお湯が沸いたのを確認すると、その中にパスタを入れた。

「ニャッ?」

 その音に反応してリューが駆け寄ってくる。そして、興味津々といった感じで覗き込んできた。

「お? パスタは珍しいのかな? もうすぐ出来るからね。触ると熱いからそこで待っていて」

 私はその様子を微笑ましく思いながら、リューに話しかける。

「ニャー」

 リューは返事をして、その場に座った。
 それから数分後、私は料理が完成した事を告げてリューを呼ぶ。
 彼(彼女?)は尻尾を立てながらこちらにやってきた。

「はい、出来上がりだよ」

 皿に入れたそれをリューの前に置く。

「ニャーッ!」

 すると、リューはとても嬉しそうに鳴き声を上げた。

「はい、いただきます」

 私も自分の分をテーブルに置いて食べ始める。

「うん、美味しい」

 茹で加減は丁度良かったと思う。野菜の甘味がよく出ていてとても優しい味になっている。

「やっぱり、野菜は新鮮なのが一番だね」
「ニャー」

 リューもそれに同意したように一鳴きしてから食事を進めた。
 リューは手で掴んだり口を寄せたりして食べている。こういうところを見ると猫とは違うんだなあと実感する。

「ちゃんとお行儀良く食べるんだよ」
「ニャー」

 それからしばらく、私達は無言で食事を続けた。私は黙々と食事をしていたが、ふとリューの方を見る。すると、彼はもう完食していた。

「おお、早いね。美味しかった?」
「ニャン」

 リューは満足げに答える。

「そうかそうか。それはよかった」

 私はリューの頭を撫でてから片付けを始める。リューはその間、じっと待っていた。
 それから私とリューは午後を過ごした。特に何をしたというわけでもないが、こうして誰かと過ごす時間は久しぶりだったので、私にとっては新鮮に思えた。



 夜になり、私はいつものようにお風呂に入っていた。何だか久しぶりに充実した一日を過ごした気がする。だが、明日からまた仕事だ。

「はあ、またやる事がたくさん溜まってるんだろうなあ」

 休みたいが休んでも次の日の仕事が嵩むだけだ。やらないと仕事は片付かない。

「ニャー」

 ため息を吐きながらそんな事を考えていると、リューが私の入っているお風呂を覗き込んできた。

「こら、駄目だってば。後でシャワーしてあげるから」

 私はリューを返そうとする。しかし、リューは嫌がって離れようとしない。

「もう、しょうがないなあ……」

 私は仕方なくリューと一緒にお風呂に入る事にした。

「ほら、洗って上げるからこっちおいで?」

 私は腰かけて、足の間を指し示す。リューはそこへ収まるようにして座った。

「よし、それじゃあ、洗うよ」

 私は石鹸を手に取って泡立てる。そして、そのままリューの身体を洗い始めた。

「ニャー」

 気持ちよさそうな声を上げるリュー。私はそれを見て思わず笑みを浮かべた。

「はい、これで終わり。リュー、後は自分でできる?」

 私が尋ねるとリューは首を横に振った。

「そっか……それじゃあ、仕方ない。シャワーを食らいなさい」

 そう言って私は蛇口を捻ってお湯を出すと、リューにかけてあげた。

「ニャッ!?」

 突然のお湯に驚くリューだったが、すぐに慣れて心地良さそうにしている。どうやら気に入ったようだ。

「ふう、綺麗になったね」

 リューの鱗はすっかり輝きを取り戻していた。赤く輝く宝石のようだ。

「サラマンダーって鱗があるんだね」

 私は今更ながらにその事実に気が付いた。それから私も体を洗って二人で湯船に浸かった。

「それじゃあ、私は上がるから。リューはもうちょっとゆっくりしていく?」
「ニャー」
「そうか、じゃあ一緒に上がろうか」

 私が持ち上げるまでもなく、リューは器用に湯船から這い上がって尻尾で扉を開けた。

「ニャー」

 そこで振り返る。

「全く、可愛い奴め」

 尻尾で扉を開けるのは行儀が悪いのだろうか。手を届かせるのも大変そうだし、ここは見逃してあげよう。
 私は微笑ましく思いつつ、体を拭いてやると自分も体を拭いてパジャマに着替えた。



 ソファに座って天井を見上げると、今日あったいろんな事を思いだす。

「楽しい一日だったなあ」

 こんな日がずっと続けばいいのにと思う。だが、明日になればまた仕事だ。そう考えると少し憂鬱になる。

「ニャーン」

 リューはそんな私を慰めるように鳴いた。

「ありがとう」

 私はリューを抱き寄せる。彼はされるがままになっていた。温かくて柔らかい感触が伝わってくる。
 しばらくするとリューはそのまま眠ってしまった。きっと疲れたんだろう。私もベッドに入って眠ることにした。
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