天使は愛を囁く

けろよん

文字の大きさ
23 / 29
第三章 聖魔の戦い

メルトと消えていくお弁当

しおりを挟む
 夜の空をメルトは飛翔していく。
 死神の少女は遊びの気分も害されて、今日はもう帰ってテレビでも見て寝ようと思っていたのだが。

「なんだ?」 

 不意にポケットで電話が着信を告げた。
 悪魔ならほとんど誰でも持っているデビルスマホを手に取って見て、

「うげ」

 思わずうめき声を上げてしまった。
 相手は友達の悪魔トウカだった。彼女は普段は優しいが、怒ると恐いのだ。

「ターゲットに手を出したのがもうばれたってのか?」

 それともスパイメカを付けておいたことだろうか。彼女なら何に気づいてもおかしくない。
 電話に出たくはなかったが、無視するともっと恐そうだ。
 メルトは仕方なく電話に出た。

「もしもし、何かあったの? トウカ」
「メルトですか? あなたに渡したい物があるので来て欲しいのです」

 彼女は怒っているわけでは無さそうだ。いつもの普段通りの彼女の声だった。
 メルトはひとまずは安心して話を続けることにした。

「今すぐか?」
「今すぐです」
「分かった。すぐ行く」

 メルトは通話を終えた。
 怒られるとか何かがバレたというわけでは無さそうだった。
 何を渡されるかは知らないが、そんなのは会えば分かることだ。
 とりあえず待っている彼女が怒る前に着くのが最善だろう。
 メルトは夜の旅を急ぐことにした。



 目標地点に到着し、死神の少女メルト・アウラーグは夜の空から舞い降りた。
 友達の少女トウカ・ヴァイアレートは人気のない公園の休憩所で待っていた。
 彼女は相変わらず人の悪い性格を人の良い澄ましたお嬢様の顔で隠した態度でメルトを迎えてきた。

「よく来てくれました」
「何の用なんだい、トウカ? こんなところで」
「あなたにこれを食べるのを手伝って欲しいと思ったのです。わたし一人では量が多すぎるので」

 トウカの待っていた休憩所のテーブルには大きな包みが置いてあった。高く積まれた重箱だった。トウカは包みをほどくと、休憩所のテーブル一杯にその箱を広げた。
 ちょっとした満漢全席か食べ放題みたいな景色に、メルトは少し目を見開いて舌を鳴らした。

「こんなに料理を……どうしたの?」
「友達にもらいました」
「友達に……へえ」

 何だか知らないがトウカは上手くやっているようだ。こんなに食料を献上させるなんてなかなか出来ることじゃない。

「だが、量はあるが味はどうかね?」
「味は……悔しいですが保証しますよ。わたしはもう食べてきたので。どうぞ」
「オーケー」

 メルトは箸を取ると、弁当のおかずを一口食べて

「これうめーな!」

 すぐに驚いた声を上げた。トウカも嬉しそうだった。

「でしょう?」
「全部食べていいのか?」
「どうぞ」

 途端にメルトの箸が加速した。次々と弁当を食べていく。


 トウカは全部食べて良いとは言ったが、この量を全部食べられるとは思っていなかった。
 メルトには多すぎる弁当をほどほどに減らしてもらえればいいと思っていた。
 だから全部食べて良いとは言ったのだが……

「うめーうめー、この焼き鳥もうめー」

 どんどんと消えていくお弁当を見て、次第に頬が引きつってきた。

「メルト、その辺で……」

 言いかけた時、メルトの箸が止まった。それをテーブルに置いた。
 さすがにこの量を全部食べるのは無理だったのだ。
 かなり減ったように思えたが、お弁当はまだ3分の2以上残っていた。

 それほど多い量だった。

 止めるのが早すぎたかもしれない。
 トウカはとりあえず安心と思ったのだが……

 メルトは驚きの行動に出た!

「こんなうめーもんを、ちんたら箸でなんて食ってられるか!」

 いきなり箱を掴んで持ち上げて傾けて、口の中に直接食べ物を流し込み始めたのだ!
 
 次々と滝のように流し込まれて消えていくお弁当の姿に、トウカはさすがにびっくりした。
 手伝ってもらうだけのはずだったのに、このままでは美味しいお弁当が全部消えてしまう。
 そんなありえないはずの光景に絶句した。

「メルト! ちょっと待って!」

 言うのだが、友達の動きは止まらなかった。

「ごごごごごご、むしゃむしゃ。ごごごご、むしゃむしゃ」

 次々とお弁当を持ち上げてはたいらげていく。
 もう食べるのに夢中でトウカが肩を叩いても、引っ張っても止まらなかった。



 お弁当は消えた。メルトの腹の中に。全部。
 あれほどあった料理の箱は、全てが空になっていた。
 虚しく夜の休憩所のテーブルにさっきまで豪華絢爛だった箱が並んでいた。

「ああ、おいしかった。どうしたの、トウカ」

 彼女はその時になってやっと絶望に囚われて地面に手を突いた友達の様子に気が付いた。
 メルトが見ている前で、トウカはゆらりと幽鬼のように立ち上がった。

「よくも全部食べてくれましたね……」

 その地獄の底から響いてくるような声に、死神の少女メルトは気圧されてしまう。

「え? だって全部食べていいって……」
「よくも全部食べてくれましたねーーーーー!!」
「うわあああ!!」

 トウカは鬼のように怒るかと思ったが、涙目になって叫んでいた。
 メルトは逃げようとしたが、その前に足に鞭が巻き付いて引っ張られた。
 トウカが近づいてくる。悪魔の色に輝く不吉な瞳をして。

「どこに行くんですか? これからお仕置きの時間だというのに」
「何でお仕置きされるの? 何も悪い事してないよね? 弁当なんてまたもらってくれば……」
「あの女に……そんなこと頼めるわけないでしょーーーー!!」
「うひゃあああ!」

 トウカが跳びかかってくる。子供のように純粋な怒りを見せて。
 夜の人気のない公園に悪魔の振るう鞭の音と悪魔の悲鳴が響いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...