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ウルヴァール競技祭。
名前のつかない異変。
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パシュッ――
「さ、さすがだぁぁ!優勝候補の一人アルヴィン・フロストハイム選手。一つも外すことなく全て的の中央を射っています。」
ウォォォォォ!!
ヴァルスキョート弓技場――
多くの声援の中、ウルヴァール競技祭の種目の一つ、弓競技が行われていた。
中央には五人の選手が集っているのが見える。
少し遠くからヘルミーナが眺めていると、一人の女の子に目が行く。
(あの子……確か同じ寮で見かけたことがあるわ。)
いつも寮の端にある木や花が多くある場所で、読書をしている姿を見ていた。
(へぇ~……人は見かけによらないのね。)
おとなしいから運動が得意には見えなかったが、目の前にいる女の子の目は真剣な眼差しで目の前の的を見ていた。
的までの距離は三十メートル。
まるで鷹が遠くから獲物を狙うような、そんな姿にヘルミーナはドクンと胸が高鳴った。
その瞬間――
パシュッッッ……
静かに的を射っていく。
「お~っと。期待の新星かぁぁぁ!!その姿はまさに静かに獲物を狙う獰猛な鷹だぁ~。エイクシュニル寮一年、サーラ・ブリュンヒルド。すべての弓を外すことなく、正確に中央を射っているぅぅ~!!」
(弓……? 音が、少しだけ違う気がする……?)
打ちにくそうではあるものの、ためらいなく的を射っていく姿をみて、
(気のせいかな……)
と結論付けた。
そして、他の三人のことも同様に確認する。
(一組五人なのね。寮からそれぞれ出ているみたい。)
そう思ってみていれば全員の技術が高いのか、誰一人として一本も外すことがなかった。
「おぉぉ~これはすごい!まるで決勝戦を見ているようだぁぁぁ~!!」
実況の声が場内中に響き渡ると、全員の矢が止まった。
(うん、大丈夫そうだし、次の場所を見に行こうかな。)
緊張感漂う状況の中、ヘルミーナは一人移動を開始した。
***
「う~ん……ちょっとした違いはあったけど、そこまで気になるものはなかったわね。」
お昼休憩間近――
エイクシュニル寮の食堂を目指しながらお昼までに見た状況を頭の中で整理する。
ヴァルガルド演習場――
チームを組んで行う、戦術・軍事・武術の全てで戦う競技。
(けが人は出ていたけど、そこまで大きなけがをしている人はいなかった。)
(ちょっと気になったのはけが人が少し多かったということだけど……)
競技場を離れるにつれて、耳に届いていた歓声が少しずつ遠ざかっていく。
代わりに聞こえてきたのは、舗道を踏む靴音や、行き交う生徒たちの話し声だった。
「やっぱりウル戦術競技が一番盛り上がるわよね~」
「そうそう!グレイン先輩とリンデル先輩かっこよかったわよね~!!」
「えぇ~私はやっぱりフィン先輩かな~。あのちょっと軟派な感じがたまらないのよね~!」
(……盛り上がってるわね)
至る所から聞こえてくる黄色い声にヘルミーナは素直な感想が浮かんだ。
(っていうか、グレインって、お兄様と同じ名前の人もいるのね。)
どの競技も順調に進み、目立った混乱もない。
皆、楽しそうで、興奮していて――
ウルヴァール競技祭は、成功しているように見えた。
それなのに。
(さっきの音……弓だけじゃなかった気がするのよね)
弓が弦を弾く乾いた音や、武器を構えたときの、ほんのわずかな違和感。
どれも致命的ではなく、
どれも「気のせい」で片づけられる程度のものがヘルミーナの頭の中を支配していた。
(考えすぎ、よね)
頭を軽く振ると歩を進める。
視線の先には、昼休憩を知らせる合図とともに、食堂へ向かう生徒たちの流れが見えた。
(今日は特別な日だもの。多少のトラブルがあったって、不思議じゃない……か。)
自分にそう言い聞かせながら、ヘルミーナは人の流れに紛れて歩き出す。
胸の奥に残った小さな引っかかりには、まだ、名前をつけるつもりはなかった。
それから、散り散りになったパズルをまとめようとしていれば、あっという間に食堂へと辿り着いていた。
「はぁ~すごい人。」
エイクシュニル寮の食堂――
(やっぱり外で食べればよかったかな~)
自分の中にある引っ掛かりがなかなか消えないこともあり、ゆっくりと食堂まで歩いていたせいか、そこはすでにたくさんの生徒たちでごった返していた。
昼食は、寮に戻って食事をするか、それともどこかで食べるか、自由だ。
トレイに食事を乗せて空いている席がないか探していると、
「ミーナ~!こっち、こっち~!」
と手を振っている姿が見えた。
ヘルミーナはトレイをもって人垣を避けながらリルベーラの所へ向かうと、リルベーラの前にはレオンハルトが座っている。
「リル。今日は一人じゃないのね……?」
「えぇ。レオンハルトと一緒にいた方が、何かあった時に探さなくてすむから。」
「あ~確かに?これだけ広いとはぐれたら大変だもんね。」
リルベーラの隣に座るとトレイをテーブルに置く。
(ここの料理は自分で好きな物だけ取るタイプだからありがたいわ。)
椅子に座って手を揃えた。
「いただきます。」
小さい声で呟くと一つ一つ料理を確認した。
(食堂で何かできるとは思えないけど……念のため見ておくのは大事よね。)
クンクン――
一つ一つ手に取ると匂いを嗅いでいく。
その姿を見ていたリルベーラはいつもと違う様子のヘルミーナを見て首を傾げた。
「一体何してるの?」
「ん~……ちょっとね。」
(まだ、確定しているわけじゃないし変なこと言って混乱させたくないもの。)
次のサラダを手に取ると、ちょっとした違和感に気付く。
(あれ……?これ……なんか変な匂いがする。)
「リル。まだ食事は食べてない?これ、食べない方がいいかも……。」
「えっ!?ど、どういう……」
その瞬間──
「きゃあああああああ!!」
「ちょっと、大丈夫!?しっかりして?」
ドサッドサッ
と、至る所で人が倒れ始めた。
「さ、さすがだぁぁ!優勝候補の一人アルヴィン・フロストハイム選手。一つも外すことなく全て的の中央を射っています。」
ウォォォォォ!!
ヴァルスキョート弓技場――
多くの声援の中、ウルヴァール競技祭の種目の一つ、弓競技が行われていた。
中央には五人の選手が集っているのが見える。
少し遠くからヘルミーナが眺めていると、一人の女の子に目が行く。
(あの子……確か同じ寮で見かけたことがあるわ。)
いつも寮の端にある木や花が多くある場所で、読書をしている姿を見ていた。
(へぇ~……人は見かけによらないのね。)
おとなしいから運動が得意には見えなかったが、目の前にいる女の子の目は真剣な眼差しで目の前の的を見ていた。
的までの距離は三十メートル。
まるで鷹が遠くから獲物を狙うような、そんな姿にヘルミーナはドクンと胸が高鳴った。
その瞬間――
パシュッッッ……
静かに的を射っていく。
「お~っと。期待の新星かぁぁぁ!!その姿はまさに静かに獲物を狙う獰猛な鷹だぁ~。エイクシュニル寮一年、サーラ・ブリュンヒルド。すべての弓を外すことなく、正確に中央を射っているぅぅ~!!」
(弓……? 音が、少しだけ違う気がする……?)
打ちにくそうではあるものの、ためらいなく的を射っていく姿をみて、
(気のせいかな……)
と結論付けた。
そして、他の三人のことも同様に確認する。
(一組五人なのね。寮からそれぞれ出ているみたい。)
そう思ってみていれば全員の技術が高いのか、誰一人として一本も外すことがなかった。
「おぉぉ~これはすごい!まるで決勝戦を見ているようだぁぁぁ~!!」
実況の声が場内中に響き渡ると、全員の矢が止まった。
(うん、大丈夫そうだし、次の場所を見に行こうかな。)
緊張感漂う状況の中、ヘルミーナは一人移動を開始した。
***
「う~ん……ちょっとした違いはあったけど、そこまで気になるものはなかったわね。」
お昼休憩間近――
エイクシュニル寮の食堂を目指しながらお昼までに見た状況を頭の中で整理する。
ヴァルガルド演習場――
チームを組んで行う、戦術・軍事・武術の全てで戦う競技。
(けが人は出ていたけど、そこまで大きなけがをしている人はいなかった。)
(ちょっと気になったのはけが人が少し多かったということだけど……)
競技場を離れるにつれて、耳に届いていた歓声が少しずつ遠ざかっていく。
代わりに聞こえてきたのは、舗道を踏む靴音や、行き交う生徒たちの話し声だった。
「やっぱりウル戦術競技が一番盛り上がるわよね~」
「そうそう!グレイン先輩とリンデル先輩かっこよかったわよね~!!」
「えぇ~私はやっぱりフィン先輩かな~。あのちょっと軟派な感じがたまらないのよね~!」
(……盛り上がってるわね)
至る所から聞こえてくる黄色い声にヘルミーナは素直な感想が浮かんだ。
(っていうか、グレインって、お兄様と同じ名前の人もいるのね。)
どの競技も順調に進み、目立った混乱もない。
皆、楽しそうで、興奮していて――
ウルヴァール競技祭は、成功しているように見えた。
それなのに。
(さっきの音……弓だけじゃなかった気がするのよね)
弓が弦を弾く乾いた音や、武器を構えたときの、ほんのわずかな違和感。
どれも致命的ではなく、
どれも「気のせい」で片づけられる程度のものがヘルミーナの頭の中を支配していた。
(考えすぎ、よね)
頭を軽く振ると歩を進める。
視線の先には、昼休憩を知らせる合図とともに、食堂へ向かう生徒たちの流れが見えた。
(今日は特別な日だもの。多少のトラブルがあったって、不思議じゃない……か。)
自分にそう言い聞かせながら、ヘルミーナは人の流れに紛れて歩き出す。
胸の奥に残った小さな引っかかりには、まだ、名前をつけるつもりはなかった。
それから、散り散りになったパズルをまとめようとしていれば、あっという間に食堂へと辿り着いていた。
「はぁ~すごい人。」
エイクシュニル寮の食堂――
(やっぱり外で食べればよかったかな~)
自分の中にある引っ掛かりがなかなか消えないこともあり、ゆっくりと食堂まで歩いていたせいか、そこはすでにたくさんの生徒たちでごった返していた。
昼食は、寮に戻って食事をするか、それともどこかで食べるか、自由だ。
トレイに食事を乗せて空いている席がないか探していると、
「ミーナ~!こっち、こっち~!」
と手を振っている姿が見えた。
ヘルミーナはトレイをもって人垣を避けながらリルベーラの所へ向かうと、リルベーラの前にはレオンハルトが座っている。
「リル。今日は一人じゃないのね……?」
「えぇ。レオンハルトと一緒にいた方が、何かあった時に探さなくてすむから。」
「あ~確かに?これだけ広いとはぐれたら大変だもんね。」
リルベーラの隣に座るとトレイをテーブルに置く。
(ここの料理は自分で好きな物だけ取るタイプだからありがたいわ。)
椅子に座って手を揃えた。
「いただきます。」
小さい声で呟くと一つ一つ料理を確認した。
(食堂で何かできるとは思えないけど……念のため見ておくのは大事よね。)
クンクン――
一つ一つ手に取ると匂いを嗅いでいく。
その姿を見ていたリルベーラはいつもと違う様子のヘルミーナを見て首を傾げた。
「一体何してるの?」
「ん~……ちょっとね。」
(まだ、確定しているわけじゃないし変なこと言って混乱させたくないもの。)
次のサラダを手に取ると、ちょっとした違和感に気付く。
(あれ……?これ……なんか変な匂いがする。)
「リル。まだ食事は食べてない?これ、食べない方がいいかも……。」
「えっ!?ど、どういう……」
その瞬間──
「きゃあああああああ!!」
「ちょっと、大丈夫!?しっかりして?」
ドサッドサッ
と、至る所で人が倒れ始めた。
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