噂の幽霊令嬢は、今日もお直しとトラブルに奮闘中!?

ゆずこしょう

文字の大きさ
31 / 50
ウルヴァール競技祭。

名前のつかない異変。

しおりを挟む
パシュッ――


「さ、さすがだぁぁ!優勝候補の一人アルヴィン・フロストハイム選手。一つも外すことなく全て的の中央を射っています。」


ウォォォォォ!!


ヴァルスキョート弓技場――


多くの声援の中、ウルヴァール競技祭の種目の一つ、弓競技が行われていた。


中央には五人の選手が集っているのが見える。


少し遠くからヘルミーナが眺めていると、一人の女の子に目が行く。


(あの子……確か同じ寮で見かけたことがあるわ。)


いつも寮の端にある木や花が多くある場所で、読書をしている姿を見ていた。


(へぇ~……人は見かけによらないのね。)


おとなしいから運動が得意には見えなかったが、目の前にいる女の子の目は真剣な眼差しで目の前の的を見ていた。


的までの距離は三十メートル。


まるで鷹が遠くから獲物を狙うような、そんな姿にヘルミーナはドクンと胸が高鳴った。


その瞬間――


パシュッッッ……


静かに的を射っていく。


「お~っと。期待の新星かぁぁぁ!!その姿はまさに静かに獲物を狙う獰猛な鷹だぁ~。エイクシュニル寮一年、サーラ・ブリュンヒルド。すべての弓を外すことなく、正確に中央を射っているぅぅ~!!」


(弓……? 音が、少しだけ違う気がする……?)


打ちにくそうではあるものの、ためらいなく的を射っていく姿をみて、


(気のせいかな……)


と結論付けた。


そして、他の三人のことも同様に確認する。


(一組五人なのね。寮からそれぞれ出ているみたい。)


そう思ってみていれば全員の技術が高いのか、誰一人として一本も外すことがなかった。


「おぉぉ~これはすごい!まるで決勝戦を見ているようだぁぁぁ~!!」


実況の声が場内中に響き渡ると、全員の矢が止まった。


(うん、大丈夫そうだし、次の場所を見に行こうかな。)


緊張感漂う状況の中、ヘルミーナは一人移動を開始した。



***


「う~ん……ちょっとした違いはあったけど、そこまで気になるものはなかったわね。」


お昼休憩間近――


エイクシュニル寮の食堂を目指しながらお昼までに見た状況を頭の中で整理する。


ヴァルガルド演習場――


チームを組んで行う、戦術・軍事・武術の全てで戦う競技。


(けが人は出ていたけど、そこまで大きなけがをしている人はいなかった。)


(ちょっと気になったのはけが人が少し多かったということだけど……)


競技場を離れるにつれて、耳に届いていた歓声が少しずつ遠ざかっていく。


代わりに聞こえてきたのは、舗道を踏む靴音や、行き交う生徒たちの話し声だった。


「やっぱりウル戦術競技が一番盛り上がるわよね~」


「そうそう!グレイン先輩とリンデル先輩かっこよかったわよね~!!」


「えぇ~私はやっぱりフィン先輩かな~。あのちょっと軟派な感じがたまらないのよね~!」


(……盛り上がってるわね)


至る所から聞こえてくる黄色い声にヘルミーナは素直な感想が浮かんだ。


(っていうか、グレインって、お兄様と同じ名前の人もいるのね。)


どの競技も順調に進み、目立った混乱もない。


皆、楽しそうで、興奮していて――


ウルヴァール競技祭は、成功しているように見えた。


それなのに。

(さっきの音……弓だけじゃなかった気がするのよね)


弓が弦を弾く乾いた音や、武器を構えたときの、ほんのわずかな違和感。


どれも致命的ではなく、


どれも「気のせい」で片づけられる程度のものがヘルミーナの頭の中を支配していた。


(考えすぎ、よね)


頭を軽く振ると歩を進める。


視線の先には、昼休憩を知らせる合図とともに、食堂へ向かう生徒たちの流れが見えた。


(今日は特別な日だもの。多少のトラブルがあったって、不思議じゃない……か。)


自分にそう言い聞かせながら、ヘルミーナは人の流れに紛れて歩き出す。


胸の奥に残った小さな引っかかりには、まだ、名前をつけるつもりはなかった。


それから、散り散りになったパズルをまとめようとしていれば、あっという間に食堂へと辿り着いていた。


「はぁ~すごい人。」


エイクシュニル寮の食堂――


(やっぱり外で食べればよかったかな~)


自分の中にある引っ掛かりがなかなか消えないこともあり、ゆっくりと食堂まで歩いていたせいか、そこはすでにたくさんの生徒たちでごった返していた。


昼食は、寮に戻って食事をするか、それともどこかで食べるか、自由だ。


トレイに食事を乗せて空いている席がないか探していると、


「ミーナ~!こっち、こっち~!」


と手を振っている姿が見えた。


ヘルミーナはトレイをもって人垣を避けながらリルベーラの所へ向かうと、リルベーラの前にはレオンハルトが座っている。


「リル。今日は一人じゃないのね……?」


「えぇ。レオンハルトと一緒にいた方が、何かあった時に探さなくてすむから。」


「あ~確かに?これだけ広いとはぐれたら大変だもんね。」


リルベーラの隣に座るとトレイをテーブルに置く。


(ここの料理は自分で好きな物だけ取るタイプだからありがたいわ。)


椅子に座って手を揃えた。


「いただきます。」


小さい声で呟くと一つ一つ料理を確認した。


(食堂で何かできるとは思えないけど……念のため見ておくのは大事よね。)


クンクン――


一つ一つ手に取ると匂いを嗅いでいく。


その姿を見ていたリルベーラはいつもと違う様子のヘルミーナを見て首を傾げた。


「一体何してるの?」


「ん~……ちょっとね。」


(まだ、確定しているわけじゃないし変なこと言って混乱させたくないもの。)


次のサラダを手に取ると、ちょっとした違和感に気付く。


(あれ……?これ……なんか変な匂いがする。)


「リル。まだ食事は食べてない?これ、食べない方がいいかも……。」


「えっ!?ど、どういう……」


その瞬間──


「きゃあああああああ!!」


「ちょっと、大丈夫!?しっかりして?」


ドサッドサッ


と、至る所で人が倒れ始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王太子に理不尽に婚約破棄されたので辺境を改革したら、王都に戻ってきてくれと言われました

水上
恋愛
【全18話完結】 「君は中身まで腐っている」と婚約破棄されたエリアナ。 そんな彼女は成り行きで辺境へ嫁ぐことに。 自身の知識と技術で辺境を改革するエリアナ。 そんな彼女を、白い結婚のはずなのに「膝枕は合理的だ」と甘やかす夫。 一方、エリアナを追放した王都では、彼女の不在の影響が出始めて……。

異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 番外編『旅日記』

アーエル
ファンタジー
カクヨムさん→小説家になろうさんで連載(完結済)していた 【 異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 】の番外編です。 カクヨム版の 分割投稿となりますので 一話が長かったり短かったりしています。

『お前を愛する事はない』なんて言ってないでしょうね?

あんど もあ
ファンタジー
政略結婚で妻を娶った息子に、母親は穏やかに、だが厳しく訊ねる。 「『お前を愛する事は無い』なんて言ってないでしょうね?」

ラウリーは夢を見ない

ひづき
ファンタジー
公爵家に生まれたラウリーは失敗作だと両親に評価された。 ラウリーの婚約者は男爵家の跡取り息子で、不良物件を押し付けられたとご立腹。お前に使わせる金は一切ないと言う。 父である公爵は、ラウリーの婚約者の言い分を汲んで清貧を覚えさせるためにラウリーへの予算を半分に削れと言い出した。 「───お嬢様を餓死でもさせるおつもりですか?」 ないものを削れだなんて無理難題、大変ね。と、ラウリーは他人事である。

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!

よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

婚約破棄された公爵令嬢は虐げられた国から出ていくことにしました~国から追い出されたのでよその国で竜騎士を目指します~

ヒンメル
ファンタジー
マグナス王国の公爵令嬢マチルダ・スチュアートは他国出身の母の容姿そっくりなためかこの国でうとまれ一人浮いた存在だった。 そんなマチルダが王家主催の夜会にて婚約者である王太子から婚約破棄を告げられ、国外退去を命じられる。 自分と同じ容姿を持つ者のいるであろう国に行けば、目立つこともなく、穏やかに暮らせるのではないかと思うのだった。 マチルダの母の祖国ドラガニアを目指す旅が今始まる――   ※文章を書く練習をしています。誤字脱字や表現のおかしい所などがあったら優しく教えてやってください。    ※第二章まで完結してます。現在、最終章をゆっくり更新中です。書くスピードが亀より遅いので、お待たせしてすみませんm(__)m    ※小説家になろう様にも投稿しています。

落ちこぼれ公爵令息の真実

三木谷夜宵
ファンタジー
ファレンハート公爵の次男セシルは、婚約者である王女ジェニエットから婚約破棄を言い渡される。その隣には兄であるブレイデンの姿があった。セシルは身に覚えのない容疑で断罪され、魔物が頻繁に現れるという辺境に送られてしまう。辺境の騎士団の下働きとして物資の輸送を担っていたセシルだったが、ある日拠点の一つが魔物に襲われ、多数の怪我人が出てしまう。物資が足らず、騎士たちの応急処置ができない状態に陥り、セシルは祈ることしかできなかった。しかし、そのとき奇跡が起きて──。 設定はわりとガバガバだけど、楽しんでもらえると嬉しいです。 投稿している他の作品との関連はありません。 カクヨムにも公開しています。

【完結】灰かぶりの花嫁は、塔の中

白雨 音
恋愛
父親の再婚により、家族から小間使いとして扱われてきた、伯爵令嬢のコレット。 思いがけず結婚が決まるが、義姉クリスティナと偽る様に言われる。 愛を求めるコレットは、結婚に望みを託し、クリスティナとして夫となるアラード卿の館へ 向かうのだが、その先で、この結婚が偽りと知らされる。 アラード卿は、彼女を妻とは見ておらず、曰く付きの塔に閉じ込め、放置した。 そんな彼女を、唯一気遣ってくれたのは、自分よりも年上の義理の息子ランメルトだった___ 異世界恋愛 《完結しました》

処理中です...