噂の幽霊令嬢は、今日もお直しとトラブルに奮闘中!?

ゆずこしょう

文字の大きさ
35 / 50
ウルヴァール競技祭。

奉納舞。

しおりを挟む
「ウルヴァール競技祭、最後の種目と言えばこれしかない!決勝に上がった選手の登場だぁ~!!」


ヴァルハイム競技場の一角、


ヴァルステッズ――


実況の中継とともに決勝に残ったペアが次々に壇上へと上がっていく。


「エイクシュニル寮の選手が一人も見えませんが、一体どうなっているのでしょうか。このままいくと不戦敗ということになりますが……」


「なんだ~今年は最初から尻尾巻いて逃げたのかぁ~!?」


「去年と何も変わっていないじゃないか。負け犬ならぬ負け鹿寮だなぁ~」


「「「はははは!負っけ鹿!負っけ鹿!!負っけ鹿!!!」」」


至る所から野次が飛ぶ中、レオンハルトが息を切らせながら壇上へと現れた。


「はぁはぁ…すみません遅くなりました。」


一人で現れたレオンハルトを見て、場内に一瞬の静寂が訪れる。


そして次の瞬間――


「「「「ははははははははは!!!!」」」」


場内が、大きな笑い声に包まれた。


「なんだぁ~相手がいないじゃねぇか~!」


「奉納舞は一人で踊れないぞぉ~?」


「顔は良いのに、エイクシュニル寮というだけで笑われて残念ねぇ~。」


しかし、レオンハルトは周りの言葉を気にすることなく準備を始めた。


(っていうか…このアウェーな感じ……。もしかしてこれを知っててフィンは私をここに出そうとしたってこと?)


レオンハルト――否、リルベーラは、周囲の言葉が耳に入っていなかった。


それほどまでに、この状況を理解するので精一杯だったのだ。


「ミーナ……あなたこのこと知ってたの?」


声に出したつもりはなかったが、隣にいる“誰か”には伝わったらしい。


ヘルミーナは小さく首を横に振った。


それからゆっくりと目を閉じると、大きく深呼吸をしてからゆっくり目を開いた。


「私はリルベーラ。さぁ、レオンハルト。最後の仕上げにこの会場をワッと驚かせましょう?」


それだけ言うと瞳の奥がきらりと光る。


(あの目の奥の光……きっと合図なのね。)


どこからともなく、ふわりと風が舞った。


花びらが舞台を包み込み、観客の視線が一斉に壇上へと集まった。


次の瞬間――


レオンハルトの隣に、一人の少女が立っていた。


漆黒の髪を揺らし、


凛と背筋を伸ばした一人の少女。


エイクシュニル寮の令嬢――


常に噂の中心にいる、その名を。


「……リルベーラ・エーデルヴァーン?」


誰かが、そう呟いた。


その名が、遅れて場内を満たしていく。


と、同時に


ざわり、と会場が揺れた。


♪~♪~♪~


リルベーラが現れた瞬間、


それを待っていたかのように音楽が鳴り始めた。


(ふふふ、つかみは上々ね。)


ふわりと笑う姿はまるで花の精霊そのものだ。


それと同時に凛々しい顔つきで立つレオンハルト。


二人はゆっくり腕を上げると、それを合図とでもいうように舞い始めた。


戦場を思わせるような重低音が響けば、レオンハルトが一歩、前に出る。


と同時にゆっくりと剣を振るう。


刃が空を切った瞬間、風が、舞台の中央を貫いた。


力任せではない。


それは正確で、迷いのない軌道。


(さすがね…思っていた通り剣舞も見事だわ!)


少し曲調が明るくなってくれば、


それに合わせて、リルベーラの足が床を蹴った。


裾が翻り、花弁のように舞台を彩った。


他にも踊っている人たちがいるというのに、


この場の空気の全てを二人が支配した。



「綺麗だ……」


「あぁ~……美しい。」



誰かがぽつりと呟く。


そして、先ほどまで嘲笑していた生徒が、口を開けたまま動かなくなっていた。


さっきまでの嘲笑が、嘘のように消えて、


二人の舞う姿に誰もが、瞬きを忘れた。


音が止まると同時に、


辺りはシーンと静まり返った。


その沈黙が、失敗なのか成功なのか、


誰にも判断できなかった。


――それは、あまりにも、完成されすぎていたからだ。


(えっ!?私たち失敗したの…?)


あまりの静けさに驚いていると、


次の瞬間――


会場がどっと沸きあがった。


リルベーラはあるところへ目を向けた。


(……ちゃんと、届いたようね。)


――これが、エイクシュニル寮の奉納舞。


逃げも、誤魔化しもない。


正面からの、反撃だった。



***



(一体どういうことだ…!?何が起きた。計算は合っていたはずだ…。)



パチパチパチパチ


奉納舞が終わると同時に、拍手が鳴りやむどころか、次第に熱を帯びていく。


他の寮生たちも含めた全員が立ち上がって惜しみない拍手を送っていた。


そんな中――


数名だけが、目の前の出来事に驚きを隠せないでいた。


「エルーナ……目の前にいるのは本物か?」


フィンは隣にいたエルーナに声をかける。


(レオンハルトは倒れていたはずだ。そしてリルベーラは俺を頼ってくるはずだったのに……)


フィンは自分の手を強く握りしめた。


そんなことはつゆ知らず……


エルーナはフィンに現実を突きつける。


「どう見たって本物じゃないですか。そんな顔するくらいなら初めから自分がやると名乗り出ておけばよかったのではないですか。」


エルーナは舞台から視線を逸らすことなく、淡々と告げた。


目の前にいたはずのリルベーラが、舞台の光に溶けるように消えていく。


(あれ…リルベーラがいない。)


フィンは一度目を擦ってから再度壇上を見たが、そこにいたのはレオンハルトだけだった。


「あっ……時間が過ぎちゃったみたい…」


その瞬間、舞台を満たしていた光が、ほんのわずかに揺らいだ。


誰かが気づくほどではない。


けれど、確かに――空気が変わった。


ぽつりとヘルミーナが呟いた。


「リルベーラ。あとはお願いしてもいいかしら。」


それだけ言うとヘルミーナは壇上から降りていく。


「えっ…!?ちょ、またこの展開!?」


普段冷静なリルベーラも、思わず素の声を上げた。


「って……私にどうしろっていうのよ。」


逃げ場のない舞台に、今度は“本物のリルベーラ”だけが、すべての視線を受け止める形で残された。


リルベーラが肩をがっくりと落としていると、そんなリルベーラの心とは裏腹に、司会の人の声が響き渡った。



「こ、こ、これはすばらしぃ演技でした。もう優勝は決まったものかもしれませんが、念のため審査員の一人にお話を聞きましょう~」


審査員の一人にマイクが渡され、勝手に話が進んでいく。


「えぇ~満場一致でした。今回の優勝は……
レオンハルト・アウローラ・フレイシアとリルベーラ・エーデルヴァーンのペアです」


その名前が告げられた瞬間、会場中の視線が、一斉に壇上へと集まった。


(……あぁ)


リルベーラは、小さく息を吐く。


祝福の視線を受けて立っているのは、“彼女自身”ではない。


(まっ、こういう勝ち方も悪くはないわね。)


観客の目にはレオンハルトとして映るまま、リルベーラは審査員の前へと進んだ。


その顔は先程まで自信のなかったリルベーラではなく、


いつもの凛と佇むリルベーラだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王太子に理不尽に婚約破棄されたので辺境を改革したら、王都に戻ってきてくれと言われました

水上
恋愛
【全18話完結】 「君は中身まで腐っている」と婚約破棄されたエリアナ。 そんな彼女は成り行きで辺境へ嫁ぐことに。 自身の知識と技術で辺境を改革するエリアナ。 そんな彼女を、白い結婚のはずなのに「膝枕は合理的だ」と甘やかす夫。 一方、エリアナを追放した王都では、彼女の不在の影響が出始めて……。

異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 番外編『旅日記』

アーエル
ファンタジー
カクヨムさん→小説家になろうさんで連載(完結済)していた 【 異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 】の番外編です。 カクヨム版の 分割投稿となりますので 一話が長かったり短かったりしています。

『お前を愛する事はない』なんて言ってないでしょうね?

あんど もあ
ファンタジー
政略結婚で妻を娶った息子に、母親は穏やかに、だが厳しく訊ねる。 「『お前を愛する事は無い』なんて言ってないでしょうね?」

ラウリーは夢を見ない

ひづき
ファンタジー
公爵家に生まれたラウリーは失敗作だと両親に評価された。 ラウリーの婚約者は男爵家の跡取り息子で、不良物件を押し付けられたとご立腹。お前に使わせる金は一切ないと言う。 父である公爵は、ラウリーの婚約者の言い分を汲んで清貧を覚えさせるためにラウリーへの予算を半分に削れと言い出した。 「───お嬢様を餓死でもさせるおつもりですか?」 ないものを削れだなんて無理難題、大変ね。と、ラウリーは他人事である。

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!

よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

婚約破棄された公爵令嬢は虐げられた国から出ていくことにしました~国から追い出されたのでよその国で竜騎士を目指します~

ヒンメル
ファンタジー
マグナス王国の公爵令嬢マチルダ・スチュアートは他国出身の母の容姿そっくりなためかこの国でうとまれ一人浮いた存在だった。 そんなマチルダが王家主催の夜会にて婚約者である王太子から婚約破棄を告げられ、国外退去を命じられる。 自分と同じ容姿を持つ者のいるであろう国に行けば、目立つこともなく、穏やかに暮らせるのではないかと思うのだった。 マチルダの母の祖国ドラガニアを目指す旅が今始まる――   ※文章を書く練習をしています。誤字脱字や表現のおかしい所などがあったら優しく教えてやってください。    ※第二章まで完結してます。現在、最終章をゆっくり更新中です。書くスピードが亀より遅いので、お待たせしてすみませんm(__)m    ※小説家になろう様にも投稿しています。

落ちこぼれ公爵令息の真実

三木谷夜宵
ファンタジー
ファレンハート公爵の次男セシルは、婚約者である王女ジェニエットから婚約破棄を言い渡される。その隣には兄であるブレイデンの姿があった。セシルは身に覚えのない容疑で断罪され、魔物が頻繁に現れるという辺境に送られてしまう。辺境の騎士団の下働きとして物資の輸送を担っていたセシルだったが、ある日拠点の一つが魔物に襲われ、多数の怪我人が出てしまう。物資が足らず、騎士たちの応急処置ができない状態に陥り、セシルは祈ることしかできなかった。しかし、そのとき奇跡が起きて──。 設定はわりとガバガバだけど、楽しんでもらえると嬉しいです。 投稿している他の作品との関連はありません。 カクヨムにも公開しています。

結婚して3年経っても子供ができないという理由で離縁されたエマは、前世の記憶を思い出して幸せになる。周りが勝手に復讐してくれました。

山田 バルス
恋愛
 結婚三年目の春、エマは伯爵家の夫アンドレオから突然、側室を迎える話を告げられる。子をなせなかったことを理由に、彼女は僅かな補償のみで離縁された。妻として過ごした三年間は「無価値だった」と突きつけられ、エマは貴族社会から静かに切り捨てられる。  また実家の父母の墓参りに行くと、当主になっていた兄に離縁金を奪われてしまう。  大ピンチのエマには、秘密があった。なんと彼女は幼少期に前世の記憶を思い出していたのだ。  かつて観光地で石を磨き、アクセサリーを作り、人に喜ばれる仕事をしていた人生。何も持たない今だからこそ、もう一度「自分の手で生きる」ことを選び、あの人が住む商業国家スペイラ共和国へ向かう決意をする。  国境への道中、盗賊に襲われるが、護衛兵ロドリゲスの活躍で難を逃れる。彼の誠実な態度に、エマは「守られる価値のある存在」として扱われたことに胸を打たれた。  スペイラ共和国では身分に縛られず働ける。エマは前世の技術を活かし、石を磨いてアクセサリーを作る小さな露店を始める。石に意味を込めた腕輪やペンダントは人々の心を掴み、体験教室も開かれるようになる。伯爵夫人だった頃よりも、今の方がずっと「生きている」と実感していた。  ある朝、ロドリゲスが市場を訪れ、エマの作ったタイガーアイの腕輪を購入する。ところがその夜、彼は驚いた様子で戻り、腕輪が力を一・五倍に高める魔道具だと判明したと告げる。エマ自身は無意識だったが、彼女の作るアクセサリーには確かな力が宿っていた。  後日二人は食事に出かけ、エマは自分が貴族の妻として離縁された過去を打ち明ける。ロドリゲスは強く憤り、「最悪な貴族だ」と彼女と一緒になって怒ってくれた。その気持ちが、エマにとって何よりの救いだった。彼は次に防御力を高める腕輪を依頼し、冒険者ギルドで正式な鑑定を受けるよう勧める。  翌日、冒険者ギルドで鑑定を行った結果、エマの腕輪は高い防御効果を持つことが判明。さらに彼女自身を鑑定すると、なんと「付与特化型聖女」であることが明らかになる。聖女が付与した魔道具は現実の力として強く発現するのだ。  価値がないと切り捨てられた人生は、ここでは確かな力となった。スペイラ共和国で、聖女エマの新しい人生が、静かに、そして輝かしく始まる。

処理中です...