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ウルヴァール競技祭。
祝賀の裏側で。
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「あぁ~これで解放されるわね~!」
「これもエーデルヴァーンさんとフレイシア第五王子さんのお陰よね。」
夜、エイクシュニル寮では――
大きな祝賀会が行われていた。
「エーデルヴァーンさん、見たわよ~。すごくきれいだった。」
「あ、ありがとうございます?」
次々と声を掛けられ、グラスを渡され、笑顔を向けられる。
笑って返しながらも、胸の奥には薄い膜のような違和感が張り付いたままだった。
昼間とは、まるで別人のような態度。
祝福の言葉が多いほど、自分がそこにいない気がして、空々しく聞こえてしまう。
(昼は人を犯人扱いしていたくせに……)
胸の奥で、小さくため息を吐いた。
称賛の言葉は多いのに、なぜか素直に喜ぶことができないでいた。
(……ま、今さら気にしても仕方ないか。)
そう自分に言い聞かせながら、リルベーラはそっと視線を外す。
すると――
目の前には、医務室に運ばれたはずの男が立っていた。
「リルベーラ。」
その姿と声を聞いた瞬間、ざわめきも音楽も、遠のいた。
祝賀会の喧騒の中にありながら、
そこだけ時間が切り取られたように、静かだった。
「レオンハルト。大丈夫……なの?」
レオンハルトは儚げな様子でほほ笑んだ。
「あぁ~なんとかな……」
(笑ってはいるけど、まだつらいようね。)
どうやら何があったかまでは覚えていないようだが、
昼の時よりも少し顔色のよくなったレオンハルトをみて、
胸を圧していたものが、ようやくほどけた――
そんな気がした。
「そう、それはよかったわ。それで?何か話があったんじゃないの?」
いつも通りに感情を見せない顔に戻ると、リルベーラはレオンハルトに話しかける。
「はは、君にはばれちゃうか。」
それだけ言うとレオンハルトはリルベーラにそっと耳打ちした。
「リルベーラなんだろ?俺の代わりに踊ってくれたのは…助かったよ。ありがとう。」
リルベーラは目を大きく見開く。
「……ッ!?」
「はは、君のそんな顔が見れるのはなんだか嬉しいな。俺がなんでわかったかって顔してる。」
「君がずっと練習していたのを見ていたよ。夜な夜な中庭でね。舞踊の練習をしに来たかと思えば、剣舞を踊っているんだから……でもかっこよかった。だから負けないように頑張ったんだ。」
その言葉に、胸の奥で何かが静かにほどけていく。
知られていた。
それも、からかいや疑いではなく、
まっすぐな目で、努力そのものを。
(ヘルミーナ以外に知ってくれている人がいたなんてね。)
リルベーラが何も話さないのを確認すると、レオンハルトはそのまま話を続ける。
「それにメモが残されていたんだ。剣を一瞬借りたいってね。あれは恐らく……君の親友のヘルミーナだったんだろ?」
そのことを聞いて、なぜヘルミーナがレオンハルトの剣を持っていたのか分かった気がした。
(あの子……最初から何かあったら私に剣舞をやらせるつもりだったのね。)
「いい友達を持ったじゃないか。いつか俺にも紹介してくれよ?」
それだけ言うと、レオンハルトは部屋へと戻っていった。
(なんだか、不思議ね。周りには認識されていないはずのヘルミーナが色々な人を繋げてくれている気がするわ。)
リルベーラは、小さく口元を緩めた。
***
「やはり、貴方でしたか。」
――翌朝。
裁縫室に響いたその声は、静かで、冷静で、
けれど、昨日までのリルベーラとはどこか違っていた。
「……な、なんであなたがここに……?」
そこにいたのはリナリア・ヴァルドだった。
「何度も、確認しました。」
淡々と告げられる言葉を聞いて、リナリアはごくりと喉を鳴らす。
なぜだろうか……
たった一言だけのその言葉にリナリアの身体が冷えていくのがわかった。
彼女は反射的に立ち上がると、目の前にいるリルベーラからそっと視線そらした。
まるで“誰かに見抜かれた”こと自体に、怯えているかのように……
「縫製の癖。糸の処理。布を切る位置。
奉納舞の衣装に施された細工――あれは、裁縫が得意な人間にしかできません。」
リナリアの指先が、わずかに震えた。
「な、な、何度も確認したって…あ、あなた、裁縫室にはほとんど来なかったじゃない。」
リルベーラは一拍置くと話を続ける。
「そうですね。でも、わかるんですよ。だってずっと見てきましたから。」
その瞬間――
リルベーラの瞳がわずかにきらりと光った。
「それに、ヴァルド先輩は、自ら証拠を残してくださっていましたよね。誰かが気づくように……。」
「……ッ!」
「例えば、刺繍の色。わかりやすいように色を変えていた。それに裾や糸の処理。留め具が緩んでいたり……ほとんどが先輩が得意としているところでした。」
「私、そんなこと言ったことないのに……」
「仕立てをしていた人たちであれば、すぐにわかりますよ?同じように作っても癖は出るものですし……」
リルベーラは少し間を置くとゆっくりとリナリアに近づいた。
「先輩は誰かに気付いてほしかったんではありませんか?そう考えれば、辻褄が合いますから。」
その声には、責める色も、怒りもない。
ただ事実を並べるだけの、冷たいほどの静けさがあった。
「安心してください。今ここで騒ぐつもりはありません。」
一歩、距離を詰める。
「知りたいのは一つだけ。
――あなたは、自分の意思でやったのですか?
それとも、“やらされた”のですか。」
リナリアは何も言わなかった。
けれど、その沈黙こそが、問いへの答えだった。
「これもエーデルヴァーンさんとフレイシア第五王子さんのお陰よね。」
夜、エイクシュニル寮では――
大きな祝賀会が行われていた。
「エーデルヴァーンさん、見たわよ~。すごくきれいだった。」
「あ、ありがとうございます?」
次々と声を掛けられ、グラスを渡され、笑顔を向けられる。
笑って返しながらも、胸の奥には薄い膜のような違和感が張り付いたままだった。
昼間とは、まるで別人のような態度。
祝福の言葉が多いほど、自分がそこにいない気がして、空々しく聞こえてしまう。
(昼は人を犯人扱いしていたくせに……)
胸の奥で、小さくため息を吐いた。
称賛の言葉は多いのに、なぜか素直に喜ぶことができないでいた。
(……ま、今さら気にしても仕方ないか。)
そう自分に言い聞かせながら、リルベーラはそっと視線を外す。
すると――
目の前には、医務室に運ばれたはずの男が立っていた。
「リルベーラ。」
その姿と声を聞いた瞬間、ざわめきも音楽も、遠のいた。
祝賀会の喧騒の中にありながら、
そこだけ時間が切り取られたように、静かだった。
「レオンハルト。大丈夫……なの?」
レオンハルトは儚げな様子でほほ笑んだ。
「あぁ~なんとかな……」
(笑ってはいるけど、まだつらいようね。)
どうやら何があったかまでは覚えていないようだが、
昼の時よりも少し顔色のよくなったレオンハルトをみて、
胸を圧していたものが、ようやくほどけた――
そんな気がした。
「そう、それはよかったわ。それで?何か話があったんじゃないの?」
いつも通りに感情を見せない顔に戻ると、リルベーラはレオンハルトに話しかける。
「はは、君にはばれちゃうか。」
それだけ言うとレオンハルトはリルベーラにそっと耳打ちした。
「リルベーラなんだろ?俺の代わりに踊ってくれたのは…助かったよ。ありがとう。」
リルベーラは目を大きく見開く。
「……ッ!?」
「はは、君のそんな顔が見れるのはなんだか嬉しいな。俺がなんでわかったかって顔してる。」
「君がずっと練習していたのを見ていたよ。夜な夜な中庭でね。舞踊の練習をしに来たかと思えば、剣舞を踊っているんだから……でもかっこよかった。だから負けないように頑張ったんだ。」
その言葉に、胸の奥で何かが静かにほどけていく。
知られていた。
それも、からかいや疑いではなく、
まっすぐな目で、努力そのものを。
(ヘルミーナ以外に知ってくれている人がいたなんてね。)
リルベーラが何も話さないのを確認すると、レオンハルトはそのまま話を続ける。
「それにメモが残されていたんだ。剣を一瞬借りたいってね。あれは恐らく……君の親友のヘルミーナだったんだろ?」
そのことを聞いて、なぜヘルミーナがレオンハルトの剣を持っていたのか分かった気がした。
(あの子……最初から何かあったら私に剣舞をやらせるつもりだったのね。)
「いい友達を持ったじゃないか。いつか俺にも紹介してくれよ?」
それだけ言うと、レオンハルトは部屋へと戻っていった。
(なんだか、不思議ね。周りには認識されていないはずのヘルミーナが色々な人を繋げてくれている気がするわ。)
リルベーラは、小さく口元を緩めた。
***
「やはり、貴方でしたか。」
――翌朝。
裁縫室に響いたその声は、静かで、冷静で、
けれど、昨日までのリルベーラとはどこか違っていた。
「……な、なんであなたがここに……?」
そこにいたのはリナリア・ヴァルドだった。
「何度も、確認しました。」
淡々と告げられる言葉を聞いて、リナリアはごくりと喉を鳴らす。
なぜだろうか……
たった一言だけのその言葉にリナリアの身体が冷えていくのがわかった。
彼女は反射的に立ち上がると、目の前にいるリルベーラからそっと視線そらした。
まるで“誰かに見抜かれた”こと自体に、怯えているかのように……
「縫製の癖。糸の処理。布を切る位置。
奉納舞の衣装に施された細工――あれは、裁縫が得意な人間にしかできません。」
リナリアの指先が、わずかに震えた。
「な、な、何度も確認したって…あ、あなた、裁縫室にはほとんど来なかったじゃない。」
リルベーラは一拍置くと話を続ける。
「そうですね。でも、わかるんですよ。だってずっと見てきましたから。」
その瞬間――
リルベーラの瞳がわずかにきらりと光った。
「それに、ヴァルド先輩は、自ら証拠を残してくださっていましたよね。誰かが気づくように……。」
「……ッ!」
「例えば、刺繍の色。わかりやすいように色を変えていた。それに裾や糸の処理。留め具が緩んでいたり……ほとんどが先輩が得意としているところでした。」
「私、そんなこと言ったことないのに……」
「仕立てをしていた人たちであれば、すぐにわかりますよ?同じように作っても癖は出るものですし……」
リルベーラは少し間を置くとゆっくりとリナリアに近づいた。
「先輩は誰かに気付いてほしかったんではありませんか?そう考えれば、辻褄が合いますから。」
その声には、責める色も、怒りもない。
ただ事実を並べるだけの、冷たいほどの静けさがあった。
「安心してください。今ここで騒ぐつもりはありません。」
一歩、距離を詰める。
「知りたいのは一つだけ。
――あなたは、自分の意思でやったのですか?
それとも、“やらされた”のですか。」
リナリアは何も言わなかった。
けれど、その沈黙こそが、問いへの答えだった。
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