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食いしん坊聖女。荒地を開拓する①~水田づくり~
アンギーラの蒲焼。
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神殿の門が軋む音とともに、アンネリーゼたちが姿を現した。
肩に担がれた巨大なアンギーラの死骸は、すでに串打ちまで済んでおり、あとは焼くだけの状態だ。
アンネリーゼのドレスは裂け、血と泥にまみれていたが、その瞳はいつも通り、どこか満足げだった。
「ただいまー……って、なんで焚火もう焚いてるの!?」
神殿の前庭では、聖女たちがすでに薪を組み、火を起こし、いつでも食べられるよう準備を進めている。
誰かがアンネリーゼの帰還を察知したのか、それとも単なる食欲の予感か。
「「「待ってましたーっ!」」」
アンネリーゼたちの帰還を待っていたかのように、大歓声が上がる。毎度のことだからか、誰一人としてアンネリーゼの血まみれの姿に驚くことなく、アンギーラのサイズに目を輝かせていた。
「さあ、あなたはシャワー浴びてきなさい。髪、血で固まってるし、ぬめりもすごいわよ。あと、匂いが……」
アレットはアンギーラの死骸を受け取ると、他の聖女たちに手際よく指示を飛ばす。
「えー、でもお腹空いた……」
「焼けるまでに時間かかるでしょ? さっぱりした姿で食べたほうが美味しいって、いつも言ってるじゃない」
アンネリーゼは口を尖らせながらも、渋々神殿の奥へと向かう。背中越しに、焚火のパチパチという音と、仲間たちの笑い声が聞こえていた。
(こういうところは年相応ね……そこがまた妹みたいで、放っておけないんだけど)
***
神殿の奥から戻ってきたアンネリーゼは、濡れた髪をタオルでざっと拭きながら、焚火の明かりに照らされた前庭へと足を踏み入れた。
ドレスよりも少しシンプルなローブに着替えた彼女は、アンギーラの香ばしい匂いがする方へとまっすぐ向かう。
「お待たせー! ん~いい匂い。もうこの匂いだけでお腹が空いてきちゃうわ!」
焚火の周りでは、聖女たちが串をくるくると回しながら、アンギーラの焼け具合を確認している。調味料はケルネリウスが味付けしてくれたのか、醤油と砂糖がちょうどいい具合に調合されていた。
(できれば料理酒があったらいいんだけど……こればかりはお米ができてからね)
アンギーラの肉はすでに表面がこんがりと焼け、脂がパチパチと音を立てながら、焚火の前でダンスを繰り広げていた。
「ちょうどいいタイミングよ、アンナ。あと数分で一番美味しいところが焼けるから、空いてるところに座って待っていてちょうだい」
アレットが火の番をしながら、片手で串を持ち上げて焼き加減を確認すると、完璧な焼き具合だったのか、愉悦の笑みが浮かんでいた。
アンネリーゼは焚火のそばに腰を下ろすと、炎の暖かさとアンギーラの焼ける匂いにほっとしたのか、「ぐぅ~~」とお腹が鳴る。
思っていた以上に大きかったお腹の音は、周りの聖女たちにも聞こえていたらしく、一瞬シーンと静かになったあと、どっと笑いが広がった。
「「「ふふ…ふふふ…ふふふ。さすがアンナだわ!!期待を裏切らないわね!」」」
前世でも婚約相手に振られたとき、同じ言葉を言われたことがあった。
その時は腹が立った言葉も、今はホッとする心地いい言葉に感じる。
(ふふ……同じ言葉でも、こんなに気持ちが違うのね)
アレットが焼き上がった串をアンネリーゼに手渡すと、表面の皮はカリッと香ばしく、中はジューシーで、醤油と砂糖の香りが鼻腔をくすぐった。
「昼の女神エメラール様。今日という日が無事に終えられたことを感謝いたします。夜を守護する女神ノクスーレ様。皆が新しい朝を迎えることができますようお守りください。豊穣の女神ケレスティナ様に感謝を」
アンネリーゼが食事の祈りを唱えると、他の聖女たちも同じように復唱する。
そして串を手に持ち、アンネリーゼは大きく口をあけてがぶりとアンギーラにかぶりついた。
中はプリッと柔らかく、口の中で溶けるようになくなる身。目打ち針がなかなか刺さらなかった皮も、焼いたことでちょうどいい柔らかさになっていた。
「んふ…んふふ…んふふふふ…し、し、しあわせぇぇぇ~~!」
この世界に転生して十四年。今まで魚らしいものを食べる機会がなかったから、久しぶりの魚の味に、なんだかホッとする。
アンネリーゼが食べたのを確認してから、他の聖女たちも一斉にアンギーラにかぶりついた。
「「「ふふふ…幸せ~~~!!」」」
焚火の炎が少しずつ落ち着き、ぼーっと炎を眺めていると、パチパチと心地いい音が鳴る。
アンネリーゼは串の残りを口に運びながら、ふと空を見上げる。焼けたアンギーラの脂の香りがまだ鼻に残っているが、それ以上に胸に残っているのは、聖女たちの笑い声だった。
(……あったかいな)
いつからだろう。この空間がこんなにも居心地よく感じるようになったのは…
アウローラ大神殿にいた頃は、聖女同士でももう少し距離があったような気がする。王都を追放され、プロセルピナ神殿に皆で移動してきてからは、いろいろなことがあった。
はじめのうちは、血まみれで帰ってくるアンネリーゼを見て眉をひそめていた人たちも、今では「よくやった」と笑ってくれる。お腹が鳴っても、笑い飛ばしてくれる。祈りを捧げれば、声を揃えてくれる。
神殿の外は瘴気のせいで真っ暗な毎日。少しずつ瘴気が薄くなってきてはいるものの、日の目を見るにはまだ時間がかかりそうだ。
それなのに、皆は下を向かず、同じ方向を向いている。だからだろうか……
居心地よく感じるのは。
一人感傷に浸っていると、アレットが笑いながらもう一本串を差し出してきた。
「アンナ、もう一串いく?」
アンネリーゼは小さく頷いて串を受け取る。
「うん。アレット、ありがとう」
その一言に、アレットは何も言わず、ただ微笑んだ。
焚火の火がパチパチと鳴る音が、まるで心臓の鼓動のように響いていた。
「さぁ、明日からまた、田んぼの続きを頑張るわよ!」
***
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日12時と18時の回をお休みさせていただきます。
引き続きよろしくお願いいたします( .ˬ.)"
ゆずこしょう
肩に担がれた巨大なアンギーラの死骸は、すでに串打ちまで済んでおり、あとは焼くだけの状態だ。
アンネリーゼのドレスは裂け、血と泥にまみれていたが、その瞳はいつも通り、どこか満足げだった。
「ただいまー……って、なんで焚火もう焚いてるの!?」
神殿の前庭では、聖女たちがすでに薪を組み、火を起こし、いつでも食べられるよう準備を進めている。
誰かがアンネリーゼの帰還を察知したのか、それとも単なる食欲の予感か。
「「「待ってましたーっ!」」」
アンネリーゼたちの帰還を待っていたかのように、大歓声が上がる。毎度のことだからか、誰一人としてアンネリーゼの血まみれの姿に驚くことなく、アンギーラのサイズに目を輝かせていた。
「さあ、あなたはシャワー浴びてきなさい。髪、血で固まってるし、ぬめりもすごいわよ。あと、匂いが……」
アレットはアンギーラの死骸を受け取ると、他の聖女たちに手際よく指示を飛ばす。
「えー、でもお腹空いた……」
「焼けるまでに時間かかるでしょ? さっぱりした姿で食べたほうが美味しいって、いつも言ってるじゃない」
アンネリーゼは口を尖らせながらも、渋々神殿の奥へと向かう。背中越しに、焚火のパチパチという音と、仲間たちの笑い声が聞こえていた。
(こういうところは年相応ね……そこがまた妹みたいで、放っておけないんだけど)
***
神殿の奥から戻ってきたアンネリーゼは、濡れた髪をタオルでざっと拭きながら、焚火の明かりに照らされた前庭へと足を踏み入れた。
ドレスよりも少しシンプルなローブに着替えた彼女は、アンギーラの香ばしい匂いがする方へとまっすぐ向かう。
「お待たせー! ん~いい匂い。もうこの匂いだけでお腹が空いてきちゃうわ!」
焚火の周りでは、聖女たちが串をくるくると回しながら、アンギーラの焼け具合を確認している。調味料はケルネリウスが味付けしてくれたのか、醤油と砂糖がちょうどいい具合に調合されていた。
(できれば料理酒があったらいいんだけど……こればかりはお米ができてからね)
アンギーラの肉はすでに表面がこんがりと焼け、脂がパチパチと音を立てながら、焚火の前でダンスを繰り広げていた。
「ちょうどいいタイミングよ、アンナ。あと数分で一番美味しいところが焼けるから、空いてるところに座って待っていてちょうだい」
アレットが火の番をしながら、片手で串を持ち上げて焼き加減を確認すると、完璧な焼き具合だったのか、愉悦の笑みが浮かんでいた。
アンネリーゼは焚火のそばに腰を下ろすと、炎の暖かさとアンギーラの焼ける匂いにほっとしたのか、「ぐぅ~~」とお腹が鳴る。
思っていた以上に大きかったお腹の音は、周りの聖女たちにも聞こえていたらしく、一瞬シーンと静かになったあと、どっと笑いが広がった。
「「「ふふ…ふふふ…ふふふ。さすがアンナだわ!!期待を裏切らないわね!」」」
前世でも婚約相手に振られたとき、同じ言葉を言われたことがあった。
その時は腹が立った言葉も、今はホッとする心地いい言葉に感じる。
(ふふ……同じ言葉でも、こんなに気持ちが違うのね)
アレットが焼き上がった串をアンネリーゼに手渡すと、表面の皮はカリッと香ばしく、中はジューシーで、醤油と砂糖の香りが鼻腔をくすぐった。
「昼の女神エメラール様。今日という日が無事に終えられたことを感謝いたします。夜を守護する女神ノクスーレ様。皆が新しい朝を迎えることができますようお守りください。豊穣の女神ケレスティナ様に感謝を」
アンネリーゼが食事の祈りを唱えると、他の聖女たちも同じように復唱する。
そして串を手に持ち、アンネリーゼは大きく口をあけてがぶりとアンギーラにかぶりついた。
中はプリッと柔らかく、口の中で溶けるようになくなる身。目打ち針がなかなか刺さらなかった皮も、焼いたことでちょうどいい柔らかさになっていた。
「んふ…んふふ…んふふふふ…し、し、しあわせぇぇぇ~~!」
この世界に転生して十四年。今まで魚らしいものを食べる機会がなかったから、久しぶりの魚の味に、なんだかホッとする。
アンネリーゼが食べたのを確認してから、他の聖女たちも一斉にアンギーラにかぶりついた。
「「「ふふふ…幸せ~~~!!」」」
焚火の炎が少しずつ落ち着き、ぼーっと炎を眺めていると、パチパチと心地いい音が鳴る。
アンネリーゼは串の残りを口に運びながら、ふと空を見上げる。焼けたアンギーラの脂の香りがまだ鼻に残っているが、それ以上に胸に残っているのは、聖女たちの笑い声だった。
(……あったかいな)
いつからだろう。この空間がこんなにも居心地よく感じるようになったのは…
アウローラ大神殿にいた頃は、聖女同士でももう少し距離があったような気がする。王都を追放され、プロセルピナ神殿に皆で移動してきてからは、いろいろなことがあった。
はじめのうちは、血まみれで帰ってくるアンネリーゼを見て眉をひそめていた人たちも、今では「よくやった」と笑ってくれる。お腹が鳴っても、笑い飛ばしてくれる。祈りを捧げれば、声を揃えてくれる。
神殿の外は瘴気のせいで真っ暗な毎日。少しずつ瘴気が薄くなってきてはいるものの、日の目を見るにはまだ時間がかかりそうだ。
それなのに、皆は下を向かず、同じ方向を向いている。だからだろうか……
居心地よく感じるのは。
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「アンナ、もう一串いく?」
アンネリーゼは小さく頷いて串を受け取る。
「うん。アレット、ありがとう」
その一言に、アレットは何も言わず、ただ微笑んだ。
焚火の火がパチパチと鳴る音が、まるで心臓の鼓動のように響いていた。
「さぁ、明日からまた、田んぼの続きを頑張るわよ!」
***
いつもお読みいただきありがとうございます。
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引き続きよろしくお願いいたします( .ˬ.)"
ゆずこしょう
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