荒地に配属された食いしん坊聖女。いつの間にかラスボス認定されていたようです。

ゆずこしょう

文字の大きさ
38 / 105
食いしん坊聖女。荒地を開拓する②~海の町を復興しよう~

一体どこに魔物はいるのだろうか…。

しおりを挟む
「ついに来たわね…この時が。」


海の底、光の届かぬ深淵に沈む、珊瑚に覆われた巨大な遺跡。


かつては、魔物と人が肩を並べて暮らしていた場所。


毎日笑い声で溢れ、いたるところから音楽が聞こえる。


——あの頃は、確かに幸せだった。


しかし…ルシフェールが攻めてきたことでその幸せは突然終わりを迎えることになった…。


セラフィエル帝国よりも少し離れた小島。


セラフィエル帝国に属してはいなかったが、近くにあった小島というだけで巻き込まれたくさんの命が奪われた。


あの時の、絶望・恐怖・怒り・悲しみ・寂しさ…


そういった恐怖が今もまだなおこの遺跡には多く残っている。



「やっとこの地を解放してくれるかしら…。」


海の奥深くで歌い続けるサイレーン…その目は赤く光を放ち、寝ていた魔物たちを呼び起こした。


***


「んー…どこに行けば魔物の大群に会えるのかしら…」


歩き始めて数時間…


アンネリーゼは歩くのに飽きて近くにあった木の棒片手に草を掻き分け始めた。


「そんな所探しても見つからないぞ?それよりシルトクレーテはなんか言ってなかったのか?」







……



………


アンネリーゼは、シルトクレーテが何を言っていたかを思い返してみる。


「そういえば……魔物の名前はサイレーン。人魚姫のような恰好をしているって言ってたわ」


「人魚姫?」


ケルネリウスは、人魚姫を想像することができなかった。


海のない世界で育ったケルネリウスにとって、この世界に人魚姫を題材とした物語は存在しないのだから、仕方がない。


アンネリーゼは、持っていた棒で地面に人魚姫の絵を描き始める。


「そうそう! こんな感じよ!」





……


………


アンネリーゼの絵を見たケルネリウスは、思わずアンネリーゼを二度見した。


「え!? これが本当に人魚姫なのか!? どう見たって魚に食われた女性にしか見えないんだが」


そこに描かれていたのは、魚の口から女性の上半身が突き出ているという——


人魚姫とは程遠い絵だった。


「私は画家じゃないんだもの。絵のセンスは求めないで頂戴。まぁ、“こんなもの”ってくらいで思っていてくれればいいわよ」


適当に流すアンネリーゼ。


もしかしたら、彼女の記憶にある人魚姫はこの形なのかもしれない。


(絶対嘘だろ……“姫”って付くくらいだ。もっと美しいものを想像してたんだが……本当にこれで合ってるのか?)


アンネリーゼの絵を見ても信じきれないケルネリウスだったが、絵を見ていてあることに気づく。


「……おい、これ。足が魚ってことは……陸に上がれないんじゃないか? それとも、実は魚って陸を歩けるのか?」


シルトクレーテの物語に出てきた魚は、水の中を泳いでいるものしか見たことがない。


物語の中でしか見たことのない"魚"は泳げなかったがもしかしたら陸地も泳げるのか、そこの判断はケルネリウスにはできなかった。






……


………


「……そうよ! そうじゃない……! なんでそんな初歩的なことに気づけなかったのかしら!!」


アンネリーゼはケルネリウスの言葉を聞いて、何かを思い出したようにバッと彼の方を振り返った。


「人魚姫は歩けないわ! だからこんな陸地を探し回っていても、見つかるわけなかったのよ!!」


この数時間、歩き続けていたのは陸地のみ。海の方はまったく見ていなかった。


とはいえ、海面にはシルトクレーテがいる。


もし何かしら魔物が現れれば、聖女たちの声が聞こえてもおかしくないはずなのだが——


そういった声は一切聞こえない。


ということは、他に人魚姫が住めそうな場所があるのだろうか。


「人魚姫がいそうな場所……岩肌とか、洞窟とか、海底とかかしら…あ、ケルネリウス、地図を出して頂戴!」


この周辺に島などは見えなかったが、もし昔、島があって沈んだのだとすれば——


ケルネリウスが広げた地図を見ると、そこには小さいながらも、いくつかの島が点々と描かれていた。


「あった……もしかしてこの島、何かの原因で沈んだのかもしれないわね。そして、ここに住んでいた人がいたのだとすれば……?」


ケルネリウスも気づいたのか、ばっとアンネリーゼの方を向く。


「遺跡か……」


「そういうこと! 海底遺跡が沈んでいるかもしれないわ。そして、もしかしたらそこにつながる何かもあるのかもしれない……。とりあえず、洞窟や岩の間などを探してみましょう!」


持っていた枝をくるりと回すと、まるで子供が探検を楽しんでいるかのような笑顔で、あたりの茂みを探し始めた。


それからしばらくすると——


アンネリーゼは足元の地面がやけに湿っていることに気づいた。


靴の裏にぬめりがまとわりつくような感覚。まるで、先ほどまでここに水が流れていたようだ。


「……ねぇ、ケルネリウス。ここだけ、なんか湿っぽくない?」


しゃがみ込んだアンネリーゼが指先で土をすくうと、そこには苔と一緒に小さな貝殻が混じっている。


試しに匂いを嗅いでみると、土には潮の匂いが混じっていた。



「……この近く、何かあるかもな。」


先ほどから何度かこの辺りを見ていたケルネリウスだったが、この道は以前にはなかったことを記憶していた。


シルトクレーテの時と同じように時間の経過によって道が開いたのだろうか。


ケルネリウスが周囲を見渡すと、岩肌の一部が不自然に崩れているのが見える。


「おい、あそこ……!!」


二人で近づいていくと、その隙間から微かに冷たい風が吹き抜けてくる。


そして、そこからかすかに——誰かの歌声が聞こえてきた。


「リース……聞こえた?」


「あぁ……聞こえた。歌声か……」


二人は顔を見合わせるとにぃーっと笑った。


「これは、行くしかないわね!」


「そうだな!行くしかない!!」


先ほどまでの「飽きた」「つまらない…」という表情はなくなり、「ワクワク」という好奇心で支配されているのが分かる。


どうやら、この二人に「警戒心」という言葉は存在しないようだ。


アンネリーゼは棒をくるりと回し、ケルネリウスは一応、何かあったときのために腰の剣に手を添える。


まるで遠足にでも向かうかのような軽い足取りで、二人は裂け目へと進んでいった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

ダンジョンに捨てられた私 奇跡的に不老不死になれたので村を捨てます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はファム 前世は日本人、とても幸せな最期を迎えてこの世界に転生した 記憶を持っていた私はいいように使われて5歳を迎えた 村の代表だった私を拾ったおじさんはダンジョンが枯渇していることに気が付く ダンジョンには栄養、マナが必要。人もそのマナを持っていた そう、おじさんは私を栄養としてダンジョンに捨てた 私は捨てられたので村をすてる

薄幸ヒロインが倍返しの指輪を手に入れました

佐崎咲
ファンタジー
義母と義妹に虐げられてきた伯爵家の長女スフィーナ。 ある日、亡くなった実母の遺品である指輪を見つけた。 それからというもの、義母にお茶をぶちまけられたら、今度は倍量のスープが義母に浴びせられる。 義妹に食事をとられると、義妹は強い空腹を感じ食べても満足できなくなる、というような倍返しが起きた。 指輪が入れられていた木箱には、実母が書いた紙きれが共に入っていた。 どうやら母は異世界から転移してきたものらしい。 異世界でも強く生きていけるようにと、女神の加護が宿った指輪を賜ったというのだ。 かくしてスフィーナは義母と義妹に意図せず倍返ししつつ、やがて母の死の真相と、父の長い間をかけた企みを知っていく。 (※黒幕については推理的な要素はありませんと小声で言っておきます)

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

無能だと追放された「雑用係」のハル、現代の知恵(ライフハック)を駆使したら、呪われた魔王城が聖域化して伝説の賢者と呼ばれ始めた

ユネ
ファンタジー
「君のような無能な掃除係は必要ない!」 勇者パーティーからゴミのように捨てられた雑用係のハル。だが彼女には、前世で培った【家事のプロとしてのライフハック】があった。 ​移り住んだのは、誰もが恐れる『呪われた魔王城』。しかしハルにとっては、ただの「掃除のしがいがある大型物件」に過ぎなかった! 重曹とクエン酸で呪いを浄化し、アルミホイルで魔物を除け、ジャガイモの皮で伝説の鏡を蘇らせる。 ​魔法より便利な知恵で、お城はいつの間にか世界一快適な聖域に。 一方、ハルを失った勇者たちは、汚部屋と化した拠点と自らの無知に絶望することになり――。 ​これは、一人の「掃除好き」が知恵と工夫だけで異世界に革命を起こし、最高のスローライフを手に入れるまでの物語。

処理中です...