和風ファンタジー世界にて、最強の武士団の一員になる!

烏丸英

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第二章・少女剣士たちとの出会い

露天風呂動乱

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 しゅるしゅるという、衣擦れの音。その合間に紛れる、楽し気な笑い声。
 とん、とんと足踏みをし、纏っていた衣服をすべて脱ぎ捨てて生まれたままの姿になったやよいは、同じく服を脱いでいるこころに向けてにこやかな笑顔を見せながら口を開く。

「うちのお風呂は本当にすっごいからね~! 期待していいよ!」

「は、はい……あうぅ……」

 屈託なく自分に話しかけ、視線を向けるやよいの様子に顔を赤らめるこころ。
 そんな彼女の反応にケタケタと笑い声をあげたやよいは、堂々と自分の裸体を見せつけながら言う。

「そんな恥ずかしがることないじゃん! 女の子同士なんだし、別に平気でしょ? それにこころちゃん、きれーな体してるじゃん!」

「あぅぅ、あ、ありがとうございます……」

 やよいからの褒め言葉に、こころは顔を更に赤くして応えた。
 彼女はこう言ってはいるが、やはり同性とはいえ顔を合わせて間もない相手の前で裸になるのは恥ずかしい。学校の修学旅行でも目立たぬようにこっそりと風呂に入っていたこころからすれば、その羞恥は顔から火が出んばかりのものだ。

 しかして、やよいの方はまったくといっていいほどに羞恥を感じている様子はなく、むしろ先ほどから堂々と自分の体を見せびらかす始末である。
 小柄な体に見合わぬ育った胸や、丸々とした尻はどちらも形が良く、決して体形が貧相というわけではないこころでも、比較されるとその差に軽くショックを受けてしまいそうだ。

 それに、そんなやよいの女性としての体のあちこちには、日々の修行の最中に作られたであろう生傷が見受けられる。
 こうして無邪気に振舞い、戦いとは無縁そうな雰囲気を放つ彼女でも、やはり燈たちと同じく武士となるべく修行を重ねてきたのだなと思ったこころは、自分とやよいとの間にある決定的な差にまた別の意味での羞恥を抱いてぐっと拳を握り締めた。

(凄いな。私と同じ歳の女の子なのに、戦うための力を身に着けているんだ。この子たちには、燈くんと一緒に戦って、助けてあげられるだけの力があるんだなぁ……)

 抜群の運動神経も、膨大な量の気力も持たない自分には、燈と共に戦うことは出来ない。彼がこころのために危険な戦に挑んだ時も、自分は家の中で彼が無事に帰ってきてくれることを祈ることしか出来なかった。

 昼間の戦いの時もそう。不意打ちの暗器から自分を助けてくれて、その後も庇いながら戦いを続けてくれた。
 自分はいつだって助けられてばかりで、燈を助けることは出来やしない。彼の隣で共に戦いに挑むだけの力を持っていない。

 不謹慎で酷い考え方かもしれないが、燈と共に困難や危機を乗り越えることが出来る力を持つやよいのことが、こころは羨ましくて仕方がなかった。

「ん~? ん~……んん! へ~、ほ~……!」

「あ、あの……? どうか、しましたか?」

 そんな風に物思いに耽っていたこころは、やよいが自分の周囲をぐるぐると周りながら四方八方から視線を浴びせていることに気が付き、すっと手で体を隠す。
 既に見たいところは見たとばかりに頷いたやよいは、赤面するこころに対して、その行動の意味を告げた。

「いや~! 体の何処かに口吸いの跡がないかな~、と思ってさ! 男の子との旅に同行するくらいだから、もしかしたら夜伽の相手もするのかなって思ったんだけど……違うみたいだね!」

「なっ、ななな……っ!?」

 体に残る、口吸いの跡……所謂、キスマークを探していたというやよいの言葉に、こころの顔が気力を注ぎ込まれた『紅龍』のように赤く染まる。
 彼女の言葉が意味することと、自分たちの関係を訝しんだ彼女に向け、こころは慌てと怒りの感情を入り混じらせた叫びを上げた。

「わ、私たちはそんな関係じゃありません! 燈くんも蒼さんも、そんなことをする男の人じゃないですっ!! そうやって、色眼鏡で二人を見るのは止めてくださいっ!」

「にゃはははは! ごめんごめん! 一応確認しておきたかったんだよ~! ……でも、あなたたちは本当に良い関係みたいだね。今のこころちゃんの言葉と、昼間の燈くんの様子でそう判断出来たよ」

「へ……?」

 屈託なく笑い、謝罪の言葉を述べた後、やよいが不意に真顔になる。
 そうして、今までとは違う小さく意味深な笑みを浮かべた彼女は、手をひらひらと振りながら先の言葉の意味をこころへと告げた。

「今のこころちゃんも、昼間の燈くんも、どっちも自分が馬鹿にされたことじゃなくって、お互いが馬鹿にされたことに怒ってた。自分のことよりも友達のことを先に考えるなんて、本当にお互いを大切に思い合ってるんだな~……って、思ったわけ!」

「それは……そう、ですね。私にとって二人は、苦しんでた時に手を差し伸べてくれた恩人なんです。燈くんは顔はちょっと怖いけどとっても優しい人ですし、蒼さんも見ず知らずの私を助けるために一生懸命になってくれたいい人です。だから、二人のことは馬鹿にしてほしくないな、って……」

「ふ~ん、そっか! でも、その口振りだと、蒼くんとは付き合いが短いけど、燈くんとは前々からの知り合いみたいだね? 何かあたしでも想像出来ない、色んな事情がある予感! ねえねえ、その辺のこと詳しく教えてよ~!」

 ぴょこぴょこと飛び跳ね、興味津々といった様子で瞳を輝かせながらこころに話をせがむやよい。
 跳躍に合わせて上下に跳ねる彼女の大きな胸に目を奪われていたこころであったが、そんな二人に対して静かな指摘が投げかけられた。

「いつまで裸でそうしているつもりだ? さっさと風呂に入らないと風邪をひくぞ」

 そう言いながらひょっこりと仕切りから姿を現した栞桜は、体を隠すようにして大きな手拭いを巻いている。
 表情は凛々しいが、ほんのりと赤みが差している頬を見たこころが、もしかして栞桜も裸を見られるのが恥ずかしいのではないかと思っていると――

「……ねえ、栞桜ちゃん。あたし、思うんだよね。こうして裸の付き合いをしようって時に、そんな風に体を隠すのってぶっちゃけありえないな~、って」

「……おい、やよい? なんだ、その手の動きは!? や、やめろ! こっちに来るな!」

「ええい! 神妙にしろ~い! あたしもこころちゃんも素っ裸なんだから、栞桜ちゃんも観念して裸になるんだよっ!!」

「あっ! ま、待てっ! ちょっと、お前っ! きゃあっ!?」

 まるでギャグマンガのようにぽこぽこと音を立て、ドタバタと暴れた二人の攻防は、やよいの勝利という結末を迎えた。
 栞桜の体を隠す邪魔な布を剥ぎ取り、それを近くの衣服入れ用の籠に放り投げたやよいは、いい仕事をしたとばかりに額の汗を拭うふりをして、にっこりと微笑む。

「よし! これで三人とも条件は同じ! お友達同士、仲良く裸の付き合いをしようじゃない!」

「う、ぐ……っ!! やよい、お前なぁ……!!」

 やよいへの恨み節を口にしながら立ち上がった栞桜の体を見た時、こころの心に衝撃が走った。
 最初に見た時からすらりとしたモデル体型の美少女だとは思っていたが……服に隠れていたモノもかなりご立派だ。

 着痩せする、なんてレベルではない。どこにあんな大きさのモノが隠れていたのだと思わざるを得ない大きさのそれを目にして絶句するこころに対して、何故だか誇らし気な様子のやよいが解説を入れる。

「どう? 凄いでしょ!? 栞桜ちゃん、普段はサラシを巻いてるから目立たないけど、びっくりするぐらいおっぱいが大きいんだよ~! ま、あたしも負けてないけどねっ!!」

「説明するなっ! こんなもの、邪魔なだけだっ! お前もそんなにじろじろと見るんじゃないっ!!」

「ごごご、ごめんなさいっっ! で、でも……あうぅ……」

 強くて可愛くてスタイルも良い。正に三拍子揃った美少女である栞桜とやよい。
 そんな彼女たちに対して全負けであるやよいは、ふひぃと情けない溜息を吐きながら自分の胸を触る。

 これでも小さいわけではないのだが、男性は胸は大きい方が好きと聞く。燈もそうであるとするなら、やはり自分よりも栞桜たちの方が好みということになるのだろうか?

「ほら、お風呂入ろっ! いつまでもそうしてると風邪ひいちゃうよ~!」

「くぅぅ……っ!! 後で覚えていろよ、やよい!」

「うぅ……あんまり横に並ばないでください……自信、なくなっちゃいますから……」

 満面の笑みのやよい、怒り顔の栞桜、泣き顔のこころ。
 三人が三人とも別々の表情を浮かべながら、少女たちはこの家自慢の露天風呂へと足を踏み入れるべく、そこに繋がる扉を開ける。

 ガラリ、と乾いた音を立てて横にスライドした扉の先には、立ち上る湯煙の中に広がる温泉宿にも負けない露天風呂があった。

 十人は余裕で入れそうな広い湯船。ピラミッド状に詰まれた風呂桶に、複数の種類が取り揃えられてある石鹸。
 白濁色に染まっている湯船の効能を記した立て札には、様々な傷や怪我に対する高い治癒効果があると書かれており、見た目が豪勢なだけでなく治癒効果もばっちりと備えてあることが見て取れた。

 屋敷の主である桔梗が自慢するだけあって、本当に凄い露天風呂だと感嘆するこころ。
 そんな彼女の様子に満足気に笑うやよいと、二人を放置してさっさと湯浴みを済ませてしまうべく風呂桶を取りに行く栞桜。
 そして、そんな三人を湯船に浸かった状態で見つめる燈と蒼。
 
「……ん?」

「あっれぇ……?」

 ピクリと、栞桜がその異質な存在に気が付き、動きを止める。
 徐々に事態を飲み込み始めた燈と蒼が、風呂で温まって赤くなっていた顔を蒼白に染めていく。

 キリキリとブリキ人形のようにぎこちない動きで首を動かした両者は視線を合わせ、互いの存在を認識した時、こころもまた燈たちの視線の先に全裸の自分が存在していることに気が付いて――

「き、きゃあぁああああああああああああぁっっ!!」

 次の瞬間、昼間の桔梗の声にも負けないこころの絶叫が露天風呂に響いた。
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