和風ファンタジー世界にて、最強の武士団の一員になる!

烏丸英

文字の大きさ
48 / 127
第二章・少女剣士たちとの出会い

一方その頃、落ち目の男は……

しおりを挟む
「クソッ! どうしてここまで……っ!?」

 燈たちが桔梗の屋敷を訪れたのと同じ頃、順平は自身に割り当てられた部屋の中で苛立ちを壁にぶつけていた。

 彼の苛立ちの原因は単純で、自分の境遇が思っていたよりも悪かったからだ。
 いや、正確には思っていたどころか、普通に考えてもかなり悪い地位に彼と彼の軍団は位置していた。

 狒々との戦において軍団の大きな戦力であった日村が戦死し、そこから他の軍団員も士気が上がらないでいる。
 中には怖気づいたのか、武神刀を返却するから下働きとしての役目に戻してほしいだなんて口走る者もいるくらいだ。

 これ以上の戦力の低下を防ぎたい順平からすれば、そんな願いは却下するしかない。
 燈を殺したという経験を持つ彼が不機嫌に当たり散らす様を見ている軍団員たちは、順平に逆らうことも出来ずにただ怯えながら日々を過ごすだけだ。

「どれもこれも、あの包帯野郎さえいなければ……!!」

 順平の脳裏に浮かぶ、忌まわしき包帯男の影。
 自分の手柄を全て掻っ攫い、自分に楯突いた正弘を庇って、自分を見下したあの男の姿を思い出すと、むかっ腹が立って仕方がない。

 あそこで日村を殺した狒々を自分が仕留めていれば、また違った未来があったはずだ。
 いや、そもそも一番槍の手柄さえ奪われてさえいなければ、今頃自分の軍団はもっと良い位置にいたはずなのに……と順平が歯軋りしながら謎の包帯男に恨みつらみを抱いていると……。

「竹元さん、ちょっといいっすか?」

「あ? 何だ!? 下らない用事だったらぶっ飛ばすぞ!!」

 部屋を訪れた軍団員の言葉に不快感を隠そうともせずに怒鳴り返す順平。
 そんな彼の反応にびくっと体を震わせた男子生徒であったが、その背後から小柄な男が笑みを湛えながらひょっこりと顔を出した。

「ほっほっほ! いけまへんなあ、そんなに苛々しては……ささくれだった気持ちでは、儲け話が逃げていきますで~」

「はぁ……? 誰だ、お前?」

 見覚えのない、中年の男性。ニコニコとした顔と太った腹が特徴的な彼は、まるで狸のようだと順平は思う。
 その男性はにこやかな笑みを浮かべているものの、その笑顔からは邪気が滲み出ていた。

 明らかに、信用してはいけない人物であることが一目でわかったその男性は、順平に礼儀正しく挨拶を行う。

「わては、西の方で商人あきんどをやっとる別府 銀次郎べっぷ ぎんじろうちゅうもんですわ。今日は、英雄様たちの中でも注目株として知られる竹元はんにお耳寄りなお話があって来ましてん」

「耳寄りな情報? なんだよ、それ? 聞いてやるからとっとと話せ」

 怪しさが満天の銀次郎であったが、逆にそれが順平の興味を惹いたようだ。
 彼が自分の話に耳を傾ける姿勢を見せたことに心の中でしめしめと笑いながら、わざとらしく声を潜めた銀次郎が話を始めた。

「実はですね、わてらが商売の拠点としとる昇陽っちゅう町に、伝説の仕立屋がおるんですわ。そいつが作る戦装束は鎧よりも堅牢で、羽よりも軽いと評判ですねん!」

「ほぅ? それで?」

「わてらは今、その仕立屋に仕事を依頼しようとしてるんですが……職人由来の頑固さ故か、なかなか首を縦に振ってくれまへん。そこで、英雄として名高い竹元順平はんにビシッと力を見せていただくことで、仕立屋への説得材料としようと思ってるちゅうわけですわ。一流の装備は、一流の武士が使ってなんぼのもん。竹元さまは間違いなく一流ですから、その腕前をみれば仕立屋もきっと気が変わるかと……!」

「なるほどな……流石は商人、人をおだてるのはお手の物だな」

「いえいえ! わては本当のことを言っとるだけですわ! へへへ!」

 周囲からの評価ががた落ちになっているところにこうしておだてられると、お世辞が入っているとわかってはいても気分は悪くないものだ。
 銀次郎の見事な調子取りに多少いい気になりながら、順平は気になっている部分を指摘する。

「だが、そんな仕立屋がいるってのに、何で幕府はそいつを囲わないんだ? そんな上等な戦装束が作れるなら、普通は幕府御用達の職人にするはずだろうが」

「大きな声では言えんのですがね……実は、その仕立屋と幕府は、その昔にいざこざを起こして決別した仲やっちゅう話ですわ。幕府としては面子があるからその職人に頼るわけにはいかない。職人の方は幕府に関わりたくもない。だから、お互いに今まで不干渉を貫いてきたらしいです」

「ほぉう……? つまり、その仕立屋の戦装束は、幕府の手にも渡ってない超レアな代物ってことか……!」

「れ、れあ……? 竹元さまの言っとることはわかりまへんが、相当に希少で有用なモンなのは間違いありまへん! 竹元さまがわてらに協力してくれて、首尾よくウチの商会と仕立屋の契約が叶ったのなら……竹元さまには、優先的にその職人が作った戦装束を回させてもらいますわ」

「なんだって!? それは、本当か!?」

「わては商人、信用が第一の商売人でっせ! それだけじゃなく、わてらが抱えとる腕利きの剣客も竹元軍の兵士として推薦させてもらいますわ! 装備と人員さえあれば、竹元さまが英雄様たちの中でも一番の軍団を作るのも夢じゃないでっしゃろ!?」

「おお……! おぉぉぉぉ……っ!!」

 降って湧いた幸運とは、このことを言うのだろう。
 絶体絶命の状況に追い込まれながらも、神は順平を見捨てなかった。

 伝説級の仕立屋が作った防具さえあれば、団員たちも命の危険を感じずに済むだろう。
 それに、勇猛果敢な新入りたちが加われば、軍団の再建どころか前よりもパワーアップさせることが可能だ。

「銀次郎とか言ったな。その話、乗らせてもらうぜ! 早速、仲間に遠出の許可を貰って来るから、明日にでもお前たちの本拠地に出発するぞ!」

「いや~、決断がお早い! 流石は新進気鋭の竹元軍の長! 好機を見逃さない鋭い眼光が粋ですわ! ……では、また明日にでもお邪魔させていただきますわ。ほな、さいなら……」

 協力を取り付けた銀次郎は、最後まで順平をおだててから彼の部屋を後にした。
 そして、学校の外で待っていたお付きの者と合流すると、限界まで押し留めていた邪悪さを解放した笑みを顔いっぱいに浮かべ、とんとん拍子に計画が進んでいることに愉快気な声を漏らす。

「やっぱりあいつらもガキやな。ちょっとおだてればいい気になって、ほいほいこっちの話に乗ってくれたで。兄ちゃんの言う通り、落ち目の男は美味しい話にすぐに飛びついたわ」

「流石、金太郎さまの計画です。竹元とかいう男の軍勢に自分たちの手勢を紛れ込ませ、英雄たちにコネを作る……最終的に、その中核を我々別府商会が担うようになるまでの絵を描いておられるとは、大商会を率いる男の戦略眼は違いますな」

「そうやろ!? 英雄様だなんて祭り上げられとるが所詮はガキの集まりや。上手いこと掌の上で転がしてやれば、甘い汁は幾らでも啜れるで! そのためにも、あの竹元っちゅうガキのことは、徹底的に利用してやるさかいな! が~っはっはっはっはっは!!」

 大口を開け、下品に大声で笑う銀次郎。
 暫しの間、そうして笑い続けた彼は、ふと真顔に戻るとお付きの供にこう尋ねた。

「そんで、兄ちゃんは何しとんねん? そろそろあの若作りババアのことを口説き落とさんと計画が狂ってまうぞ?」

「金太郎さまなら、明日にでもくちなわ兄弟を連れてまた仕立屋のところへ話し合いに行くとか。契約は難儀しとりますが、金太郎さまの敏腕ならば必ずや仕立屋に言うことを聞かせられるでしょう」

「そかそか! まったく、あのババアも余計なことしおる。失敗作の女子どもを弟子として引き取って、剣士として育てるなんて、やっぱ幕府から追放されるモンの考えることはわからんわ~……」

 心の底から桔梗の行動を理解出来ないとばかりに肩を竦めた後、銀次郎は無言になって今日の宿へと足を進める。
 その頭の中では、計画が全て上手くいった時に得られる莫大な利益の金勘定と、おまけとして手に入れられるであろう厄介な美少女たちの体を堪能する下劣な妄想だけが繰り広げられていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

処理中です...