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第三章 妖刀と姉と弟
一方その頃、先行してる王毅たちは……
しおりを挟む「急げ! 鬼灯嵐は、この先にいる!!」
「野郎! 誰にでもわかるくらいに妖気を発しやがって……俺たちへの挑発のつもりか!?」
燈たちに先んじて羽生の村に出立した王毅たちは、肌を震わせる程に発せられている嵐の妖気を感じながら疾走を続けていた。
メンバーは、王毅、慎吾、タクト、冬美、順平、そして花織の六名。
燈との敵対に反対している正弘は、万が一にも自分たちを裏切る可能性を考えて旅館に軟禁状態にしてある。
幸いにも、索敵役の彼がいなくとも、嵐の居場所は凄まじいほどの妖気が教えてくれていた。
正弘の武神刀の代わりに花織の陰陽術、式神を活用して周囲の索敵を行いながら、ひたすらに先へと進む彼らは、強烈な負の波動に緊張感を高めながら会話を交わす。
「凄い妖気だが、揺らぎは感じられない。嵐が戦っているのなら、こうはいかないだろう」
「まだもう一人の妖刀使いも、虎藤の奴もあいつのところには辿り着いてないってことか! なら、このまま俺たちが一番乗りで野郎を片付けてやる!」
「そう上手くいくかしら? むしろ、私たちが戦っている最中に乱入される方が厄介じゃなくって?」
「そんなの、サクっとやっつけちゃえば関係ないでしょ! 昨日は油断してたから本気で戦えなかったけど、今日は最初っから100%の力を出してやる! 僕一人でも十分なくらいだよ!」
「あまり油断するなよ、タクト。昨日もそうやってやられたんだからな」
集団の先頭を走る王毅は、ピリピリと昂る心を必死に鎮めながら仲間たちを統率している。
この先に待つ、妖刀使い鬼灯嵐との決戦を想像すれば否応なしに心臓が早鐘を打つが、それ以上に不安なのは彼を狙って現れる鼓太郎と燈の存在だ。
冬美の言う通り、自分たちが嵐と戦っている最中に乱入されると相当な厄介なことになるし、嵐との激戦を制した後の消耗した状態で彼らとの連戦を行うというもの出来ることならば避けたい。
可能であるならば、嵐との勝負を即座に終わらせ、その後の乱入者を迎え撃つ体勢を整えられるといいのだが……と、考えていた彼へと、何かを感じ取った花織が声をかけてきた。
「王毅さま! 背後から何者かが物凄い速度で接近しています!」
「何だって!? もう一人の妖刀使いか、それとも虎藤くんたちか……!?」
「式神の報告では、数は複数名。おそらくは虎藤燈とその仲間でしょう。このままでは追い付かれてしまいます。どうしますか?」
通り道に残しておいた索敵用の式神が、自分たちへと接近する敵の姿を察知した。
目的を同じとする燈一行の接近を知った王毅は、小さく舌打ちをすると彼らへの対処法を考え始める。
(ここで彼らを迎え撃つか? いや、そんなことをしている間にもう一人の妖刀使いが嵐に出会ってしまう! 足を止めるわけにはいかないが、このままでは結局彼らに追い付かれる。いったい、どうすれば……!?)
燈たちを待ち受け、奇襲を仕掛け、そこから集団戦を行うとあれば、自分たちといえど多少の時間の消費は避けられない。
それまでの間に嵐の下に鼓太郎が辿り着き、彼との戦いを始めてしまえば、二人の行方が判らなくなってしまう可能性もある。
王毅としてはこのまま進軍を続けたいものの、花織の言葉から察するに、燈たちの移動速度は自分たちを上回っているようだ。
このままでは、結局追い付かれて戦いになってしまう。だが、ここで足を止めるわけにもいかない。
どうしたものかと、制限時間付きの思考を重ねていた王毅であったが、そんな彼の様子を見かねた慎吾が息を荒げながらこう叫ぶ。
「仕方がねえ。王毅、ここは俺が残る! 俺が虎藤たちの相手をして時間を稼ぐから、それまでに嵐の奴をぶちのめしちまえ!」
「そんな!? 一人じゃ危険よ! 向こうは数が揃ってる。いくらあなたでも、多対一で勝てる相手じゃないわ! 私も一緒に残って――」
「必要ない! 確かに妖刀使いである虎藤は強敵だが、俺も遅れを取るつもりはねえよ! お前たちが嵐を倒すまでの時間は、きっちり俺が稼いでやる!」
「慎吾……!」
ガンッ、と両手に装着した手甲を打ち鳴らし、力強く宣言する慎吾。
自分のために危険な役目を引き受けてくれる親友の献身に胸を打たれた王毅は、慎吾の眼を見ながら大きく頷き、言う。
「わかった。ここはお前に任せるぞ! 危なくなったら逃げろよ!」
「はっ! 心配するなよ、俺一人であいつら全員を片付けてやるさ! 何かあったら通信用の勾玉で連絡する! 嵐のことは任せたぞ、王毅!」
「ああ! 頼んだぞ、慎吾っ!!」
疾走する集団から離れ、その場で急ブレーキをかけた慎吾が敵を待ち受けるようにして仁王立ちする。
その姿を見つめ、どうか彼が無事に自分たちと再会出来ることを神に祈りながら、王毅は仲間たちへと大声で号令を飛ばした。
「慎吾の想いを無駄にするな! あいつが時間を稼いでる間に、鬼灯嵐を倒すんだ! 急ぐぞ、みんなっ!!」
「おうっ!!」
慎吾を残し、更に加速した一行は、嵐が発する妖気の出所へと疾走していく。
ものの数秒の間に慎吾を置き去りにして姿を消した王毅たちは、ただ前を見て走り続けるのであった。
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