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第三章 妖刀と姉と弟
出撃
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「……動いたな、遂に。嵐の奴、派手に居場所を教えてきやがった」
「ええ。あの子も決着をつけたがってる。全てを終わらせる時が来たみたいね……」
同時刻、百元の屋敷で『禍風』の不穏な妖気を感じ取った燈たちは、遂に訪れた最終決戦の時を意外なほどに落ち着いた気持ちで受け入れていた。
決して、油断をしているわけではない。
ただ、全てを覚悟し、苦しい戦いに臨むと決めた一同の心が最後の戦いに向けて最高の心理状態へと昇華され、不必要な緊張や気負いを感じずに済んでいるだけだ。
目的ははっきりとしている。
嵐と鼓太郎を倒し、『禍風』と『泥蛙』を回収すること……それが、自分たちの為すべきことだ。
無論、その目的は容易く達せられるものではないことは重々に理解している。
苦しく、厳しい戦いになると予想はついているが、それでも大和国の人々を守るためには避けて通れない戦いであることも判っている一同は、既に終えていた準備の最終確認に入ると共に、百元へと声をかけた。
「先生、行ってきます。もしも私が嵐に敗れた時には……お手数ですが、あの子のことをお願いします」
「縁起でもないことを言わないでくれ、涼音。僕は、君たちが誰一人欠けずに無事に帰ってくると信じているよ」
「百元さん、この屋敷にも幕府の息がかかった奉行所の連中が押しかけてくるかもしれません。その時には、椿のことを頼んます」
「ああ、そっちは任せてくれ。この屋敷の敷地内には、一歩も入れさせないよ」
王毅たちが先制して自分たちの身動きを封じるために奉行所の同心たちを派遣するやもしれないと考えていた燈たちは、留守を百元に預けて戦いに集中しようとしていた。
改めて、全ての準備が終わったことを確認した燈たちは、頷き合ってから屋敷を飛び出そうとしたのだが、その背に大きな声で待ったがかかる。
「待って! 私も一緒に行く!!」
「つ、椿っ!?」
燈たちを呼び止めたのは、なんと普段は留守を預かる身であるこころだった。
普段の屋敷内で着ている服とは違う、動きやすそうな服装に着替えた彼女は、燈たち同様に嵐を追うための準備を整えた状態で一行に加わろうとする。
「椿、お前、本気で言ってるのか? この戦いは、妖を相手にする時よりずっと危険だ。それに、俺と一緒にいるところを見られたら、お前まで神賀たちに敵と思われかねねえんだぞ?」
「わかってる。でも、もしかしたら私が一緒にいれば、みんなも話を聞いてくれるかもしれない。王毅くんたちの誤解さえ解ければ、燈くんたちと戦う必要もなくなるよね? 私さえいれば、そうなる可能性も生まれるはず……その可能性に賭けてみる価値はあると思わないかな?」
「……神賀たちがお前の話を聞いてくれるかはわからねえ。それに、あいつらよりも早く妖刀使いと出くわす可能性もある。椿、やっぱりお前はここで――」
想像もつかない厳しい戦いに巻き込まれる可能性と、王毅たちにこころまでもが敵とみなされてしまう危険性。
それらを危惧し、彼女の身を案じた燈は、共に出撃しようとするこころの肩を抑えて百元と屋敷に残るように説得しようとした。
しかし、彼女はそんな燈の手を握り返すと、驚く彼の眼を真っ直ぐに見つめながら真剣な表情で言う。
「……わかってる。この戦いが凄く危なくなることも、私が足手纏いになりかねないってことも。でも、私が踏ん張れば、燈くんが敵だっていうみんなの誤解が解けるかもしれない。これ以上、燈くんが悩んだり苦しんだりする必要がなくなるかもしれない。だったら、私も精一杯やれることをやりたいの。だって私も、みんなの仲間だから……!!」
「椿……!」
燈同様に、覚悟を決めたその眼差しはちょっとやそっとじゃ意思を変えなさそうだ。
これ以上、燈だけにクラスメイトたちと敵対する苦しみを背負わせたりはしない。
彼らに敵とみなされるのなら、自分も一緒にそうなる……と、こころの目は語っていた。
「……約束、して。私たちから離れないこと、危なくなったらすぐに逃げること……それを守れるなら、一緒に来ても構わないわ」
「す、涼音? いい、のか……?」
「……構わない。彼女も私たちの仲間だというのなら、この戦いの結末を見届ける権利がある。それに……友達のために何かをしたい、って気持ちを否定することは、私には出来ない、から」
自分たちの中で、最も迅速に行動したいと願っているであろう涼音がこころの同行を認めたことに驚く燈。
移動の際には間違いなくこころは足手纏いになるであろうが、それを覚悟した上で彼女の心意気を買った涼音の一言に、燈は何も言えなくなってしまう。
「……わかった。けど、絶対に俺たちから離れるなよ」
「うん、わかった」
他の三名も、こころの同行に異論はないようだと判断した燈は、磐木での最終決戦にこころも共に向かわせることを決めた。
王毅たちを説得するため、自分に出来ることを成すために、初めて戦場に赴くこころは緊張を感じながらも必死にその感情を押し殺す。
「よし……屋敷から出るのなら、抜け道を使いなさい。多少遠回りになるが、万が一にも奉行所の連中と鉢合わせないためにも安全を期すべきだろう」
「心遣い、ありがとうございます。……行ってきます、先生」
「さあ、行こう! 目的地はここから西にある小村、羽生! 妖刀を回収して、みんなで生きて帰るぞ!!」
床を開き、屋敷の外に繋がる抜け道へと一行を案内した百元に向け、涼音が感謝の言葉を口にする。
今度こそ、出撃の準備を整えた一行は、蒼の言葉を合図にして一斉に動き出すのであった。
「ええ。あの子も決着をつけたがってる。全てを終わらせる時が来たみたいね……」
同時刻、百元の屋敷で『禍風』の不穏な妖気を感じ取った燈たちは、遂に訪れた最終決戦の時を意外なほどに落ち着いた気持ちで受け入れていた。
決して、油断をしているわけではない。
ただ、全てを覚悟し、苦しい戦いに臨むと決めた一同の心が最後の戦いに向けて最高の心理状態へと昇華され、不必要な緊張や気負いを感じずに済んでいるだけだ。
目的ははっきりとしている。
嵐と鼓太郎を倒し、『禍風』と『泥蛙』を回収すること……それが、自分たちの為すべきことだ。
無論、その目的は容易く達せられるものではないことは重々に理解している。
苦しく、厳しい戦いになると予想はついているが、それでも大和国の人々を守るためには避けて通れない戦いであることも判っている一同は、既に終えていた準備の最終確認に入ると共に、百元へと声をかけた。
「先生、行ってきます。もしも私が嵐に敗れた時には……お手数ですが、あの子のことをお願いします」
「縁起でもないことを言わないでくれ、涼音。僕は、君たちが誰一人欠けずに無事に帰ってくると信じているよ」
「百元さん、この屋敷にも幕府の息がかかった奉行所の連中が押しかけてくるかもしれません。その時には、椿のことを頼んます」
「ああ、そっちは任せてくれ。この屋敷の敷地内には、一歩も入れさせないよ」
王毅たちが先制して自分たちの身動きを封じるために奉行所の同心たちを派遣するやもしれないと考えていた燈たちは、留守を百元に預けて戦いに集中しようとしていた。
改めて、全ての準備が終わったことを確認した燈たちは、頷き合ってから屋敷を飛び出そうとしたのだが、その背に大きな声で待ったがかかる。
「待って! 私も一緒に行く!!」
「つ、椿っ!?」
燈たちを呼び止めたのは、なんと普段は留守を預かる身であるこころだった。
普段の屋敷内で着ている服とは違う、動きやすそうな服装に着替えた彼女は、燈たち同様に嵐を追うための準備を整えた状態で一行に加わろうとする。
「椿、お前、本気で言ってるのか? この戦いは、妖を相手にする時よりずっと危険だ。それに、俺と一緒にいるところを見られたら、お前まで神賀たちに敵と思われかねねえんだぞ?」
「わかってる。でも、もしかしたら私が一緒にいれば、みんなも話を聞いてくれるかもしれない。王毅くんたちの誤解さえ解ければ、燈くんたちと戦う必要もなくなるよね? 私さえいれば、そうなる可能性も生まれるはず……その可能性に賭けてみる価値はあると思わないかな?」
「……神賀たちがお前の話を聞いてくれるかはわからねえ。それに、あいつらよりも早く妖刀使いと出くわす可能性もある。椿、やっぱりお前はここで――」
想像もつかない厳しい戦いに巻き込まれる可能性と、王毅たちにこころまでもが敵とみなされてしまう危険性。
それらを危惧し、彼女の身を案じた燈は、共に出撃しようとするこころの肩を抑えて百元と屋敷に残るように説得しようとした。
しかし、彼女はそんな燈の手を握り返すと、驚く彼の眼を真っ直ぐに見つめながら真剣な表情で言う。
「……わかってる。この戦いが凄く危なくなることも、私が足手纏いになりかねないってことも。でも、私が踏ん張れば、燈くんが敵だっていうみんなの誤解が解けるかもしれない。これ以上、燈くんが悩んだり苦しんだりする必要がなくなるかもしれない。だったら、私も精一杯やれることをやりたいの。だって私も、みんなの仲間だから……!!」
「椿……!」
燈同様に、覚悟を決めたその眼差しはちょっとやそっとじゃ意思を変えなさそうだ。
これ以上、燈だけにクラスメイトたちと敵対する苦しみを背負わせたりはしない。
彼らに敵とみなされるのなら、自分も一緒にそうなる……と、こころの目は語っていた。
「……約束、して。私たちから離れないこと、危なくなったらすぐに逃げること……それを守れるなら、一緒に来ても構わないわ」
「す、涼音? いい、のか……?」
「……構わない。彼女も私たちの仲間だというのなら、この戦いの結末を見届ける権利がある。それに……友達のために何かをしたい、って気持ちを否定することは、私には出来ない、から」
自分たちの中で、最も迅速に行動したいと願っているであろう涼音がこころの同行を認めたことに驚く燈。
移動の際には間違いなくこころは足手纏いになるであろうが、それを覚悟した上で彼女の心意気を買った涼音の一言に、燈は何も言えなくなってしまう。
「……わかった。けど、絶対に俺たちから離れるなよ」
「うん、わかった」
他の三名も、こころの同行に異論はないようだと判断した燈は、磐木での最終決戦にこころも共に向かわせることを決めた。
王毅たちを説得するため、自分に出来ることを成すために、初めて戦場に赴くこころは緊張を感じながらも必死にその感情を押し殺す。
「よし……屋敷から出るのなら、抜け道を使いなさい。多少遠回りになるが、万が一にも奉行所の連中と鉢合わせないためにも安全を期すべきだろう」
「心遣い、ありがとうございます。……行ってきます、先生」
「さあ、行こう! 目的地はここから西にある小村、羽生! 妖刀を回収して、みんなで生きて帰るぞ!!」
床を開き、屋敷の外に繋がる抜け道へと一行を案内した百元に向け、涼音が感謝の言葉を口にする。
今度こそ、出撃の準備を整えた一行は、蒼の言葉を合図にして一斉に動き出すのであった。
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