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口裂け女が口が裂けても言えないこと 前編
しおりを挟む4月を過ぎると、随分と暖かくなり、桜が全国でちらほらと咲き始めた。気温の上昇と比例するように外に出る人々も上昇し、連日公園には多くの人が、花見に訪れていた。
しかし、桜は明るい時間帯だけのものではない人が少なくなり暗い空に浮かび上がる薄い夜桜もまた幻想的な美しさを演出していた。
私はその美しいさの虜になってしまっていた。15分ほど眺めた後だろうか、少し空腹感を感じ我に返った。
あたりを見渡してみると午前の3時だというのに近くの屋台から光が漏れ出していた。
なんとなく店の前を通るフリをして店を覗こうとすると、店主の若い女性とばっちりと目が合ってしまう。しまったと思い急いでその場から離れようとした時、「いらっしゃい珍しいお客さんですね」と予想外の言葉をかけられたので足を止め、振り返った。
「あらあなた私を怖がらないの?」
人間……とは少し異なる雰囲気だったから同族なのではないかと思ったが、それともどこか違うらしい。少し怖い。
「みたいですね」と若い店主は微笑んだ。
「どうです? これも何かの縁ですから、食べていきませんか?」
「じ、じゃあ、お言葉に甘えて」
「でも私口裂け女なんて初めて見ましたよ」店主が私に三色団子と緑茶を渡しながら言った。
「そりゃ、見える人なんてそういませんからねぇ」そう、私は口裂け女だ。特徴的な裂けた口は多くの人に不快感と恐怖を与える。この季節は特に唇が乾燥するし、口紅やリップを塗るのも一苦労。にも関わらず人を脅かすには少し地味なような気もしてなんのメリットもない特徴である。
「ほら、あれやってくださいよ、あれ」
「私ってきれい……? てやつ? でも、あなたの方が綺麗じゃない」
「そんなことないですよ、外見なんて私を表す記号でしかありませんから」
「そうよ、外見で人を判断するだなんて失礼な話よね」そう言って緑茶を飲み干した。
団子を一口齧る。もちっとした食感よ後にほんのりと鼻に抜ける梅の香り。市販のものものよりも梅の主張を感じるような気もするが、優しい味で緑茶がすすむ。はなよりだんごという諺が現在まで残っているのも納得の味だ。そのままぱくぱくと残りの2つも平らげる。
「色々苦労とかしてるんでしょうねぇ」私の食べっぷりを楽しそうに見ていた店主は緑茶を注いでくれた。
「ひどくない? この前私、ネットで調べたのよ口裂け女の撃退法って。
すると何が出てきたと思う? べっこう飴を投げろだって。鬼に豆が効くからって調子乗って書いたんやろうけど投げんなそんなもんって話よ。投げるなら石の方が効果あるわってね。ポ○モンのサファリパークかて。
まぁ、読んでいったらそれはちゃんと理由が載ってたからまぁ許すかとスクロールしたら、ボンタンアメでもいいって。いやそこ妥協すんなよっ! て話じゃない? ほんまに撃退する気あるんか? って。それで怪しいなって思いつつももう少し読んだら、ハゲハゲと唱えるって、それどう考えても逆効果やろっ! ただの悪口やんっ!ガチギレするわっ。せめてボンタンアメ投げろよな」
「意外と饒舌なんですね」と店主は、私の話にけたけたと笑ったり相槌を打ったりしながら楽しそうに言った。
「そんな私でもね、言いたくないことの一つや二つはあるのよ」手元を見つめながら呟くようにいう。
「なんなんですか?」店主は興味を示したようでテーブルから体を乗り出した。
「あらやだ、言うわけないでしょ、だってあれはそうこんな感じの日だった……。」
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キャラ文芸大賞頑張ってくださいね。
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着眼点が面白いですね。
続きを楽しみにお待ちします。