夢みるいつか

後見 ナイ

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欲張りな男

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 「奥さんが浮気ですか」

赤いバンダナで艶やかな金髪を包み、可愛らしい花の刺繍とフリルがついた白いエプロンを身につけた店主は、目の前に座る男性に注文された葱鮪、モモ、皮とビールを手渡しながら言った。目の前に座る30代くらいのサラリーマンは既にビールを三杯も煽りすっかり頰が紅潮していた。

「誓いあったのに本当に浮気なんてしてたらもう許せないです……」焼き鳥を頬張り、ビールで流し込むようにして飲みながら嘆いた。

 どうやらまだ確信には至っていないらしく、漠然とした不安を抱え続けているらしい。

「勘違いってことはないの?」

 「勘違い?」 サラリーマンは眉を顰めた。

「聞いてくださいよ、最近、あんまり夜も付き合ってくれないし、僕の話よりスマホばかり触るようになったんです。更にはよくお洒落して朝早く出掛けるようになったと思えばブランドものの袋を持って帰ってくるんです……これはもう間違いなく浮気でしょう?」と自分は仕事が忙しくてあんまり妻と一緒にいる時間がないということ嘆きつつ一口で焼き鳥を食べた。

「なるほどそれはどちらとも言えないですね」

「ほかに男ができたのではないかと思うと夜も眠れなくて、仕事も手につかないですよ。かと言って本人に聞くのは関係が壊れてしまいそうですし、私も仕事がありますから……」そう言いながら食べ終えた串をかじかじと齧った。

「そうだ。ここは一つ探偵ごっこと行きますか」

「探偵ごっこ?」

「奥さんを尾行するんですよ」

「しかし仕事が……」

「真相を知るのが怖いんですか? 本当に気になるのなら有給でもとればいいじゃないですか」

「……」

「そうだ、提案した身ですし私もご一緒してもいいですか?」

「いいんですか? それは心強い」

 そして、彼の妻が次に出掛けるいう水曜日に私たちは駅前のカフェで待ち合わせる約束をしたのだった。

 水曜日、サラリーマン茂木真司は妻に見送られスーツ姿で家を出ると、待ち合わせ場所である駅前のカフェへと向かった。

 カフェには既に金髪の彼女が待っていた。胸元にフリルのついた白いブラウスに薄茶色のカーディガン。可愛らしい薄ピンクのロングスカートからは黒いタイツに包まれた華奢な足がのぞかせていた。まだ寒いからか頭には赤いニット帽をかぶっていた。彼女は俺に気がつくと、笑って小さく手を振った。恥ずかしかったので手を振り返すことはせず彼女が座っている席まで向かう。

 彼女は、手元にあったアイスコーヒーを飲み干すと「いきましょうか」と会計を済ませた。

「探偵ごっこって一体どうやって私の妻を探すつもりなんだね?」あの時は酔っ払っていたから気がつかなかったが、ここで集合してしまうと妻がどこに行ったのかわからないじゃないかということに今更気がついた。

「スマホ貸してもらえますか?」

 検索履歴が見られるのではないかと気がかりだったが、彼女は手際よくスマホを操作すると、画面を私に突きつけた。

 その画面には、今私たちのいる駅前のカフェと、もう一つここから15分くらいのところにスマホのマークがマップ上に表示されていた。

「今時、家族のスマホなんて簡単に探せるんですよ」とにこりと笑った。……怖い世の中になったものだ。

「どうせ買い物か女友達だろうが、一応見にいってみるか」 

 しかし20分後、追いついた私たちの目に入ったのは私の妻とその隣を歩く知らない男だった。その男は髪を金色に染めた20代くらいの男で、腕には高そうな腕時計を付けていた。

「おや、男の人のようですねぇ。これはやばいかもしれませんね」

男は狼狽し、青ざめた表情でその光景を眺め、「そんなはずが……そんなはずが」とぶつぶつ呟いていた。

 その間も2人は仲睦まじく歩きながら、時折顔を見合わせては笑い合っていた。

「ほら、追いましょう。行ってしまいますよ」

「なんか店主さん楽しんでません?」

「だってそりゃあもうthe修羅場ですよ! こんなのドラマ以外じゃなかなかお目にかかれませんからっ!」

今日1のテンションな店主に対し私のテンションはドン底だった。

 私は彼女に引きずられるように、妻たちの後をつけた。10分ほど歩くと、お洒落な喫茶店の中に入っていった。

「いきましょう! 決定的証拠が手に入るかもしれません」

「決定的って……浮気と既に決まったようなものじゃないか、あぁ、私はこれから一体、どんな顔をして妻に会えばいいんだ」

しかし、この事実を信じたくないという気持ちはわずかながらあり、ここまできたのならもういっそ現実を突きつけられた方が楽だと思った。

「にしても、わざわざ俺を呼び出すなんて」若い男は、出されたお冷を飲み干すと、メニューを取り出した。

「いいじゃない。あなたにしか頼れる人がいないのだから」

……俺は頼りにならないのか。

 一体どうすればよかったんだ。どこで間違ってしまったのか、仕事にばかり気を取られていたせいで私は彼女の気持ちなんて考えていなかったのではないか? あぁ、もっと大切にすればよかった。今になって後悔ばかりが頭の中に浮かんだ。

「んで、ねぇちゃんどこが分からないんだ?」

あぁ、もう終わ……ん……?

「もー、せっかく授業料としてお昼奢ってあげるって言ってるのにその態度は無くない?」

「……なんだ弟だったのか……じゃあ、なんであんなコソコソと……」

「にしてもなんだよ姉ちゃんいきなり編み物を教えてくれだなんて」

「だって私の夫、誕生日でしょ? ここはいつも頑張ってくれてるんだし私もここらで女らしいところを見せないとねと思って」

「ねぇちゃんの女子力僕が全部吸い取っちゃったみたいだからね」

「もー」

「でも、わざわざブランド物の袋に入れて持ち歩くだなんて変な誤解されちゃうんじゃないの?」

「バレちゃったら面白くないでしょ?」

「よ、よかったぁ……」
私は、胸を撫で下ろした。いままでの俺は間違っていなかったのだ。

「なんだぁ浮気じゃありませんでしたか。ガッカリ」店主そう言って首をすくめた。

「では、私はこれで失礼しようかな」
そう言って彼女は立ち上がろうとした。

「あ、あの良ければこの後、お礼に夜ご飯でもいかがですか? 私、いい酒のある店を知ってるんですよ」

「……ほぅ、実は私お酒には目がないんですよ」

「奇遇ですなぁ」
そう言って私たちは、彼がおすすめだと言う居酒屋を三件ほど梯子した。初めの方は愉快そうにしていた彼も三件目となると酔いが回るようになり、呂律が回らなくなり、足元もおぼつかなくなってきた。

「だいぶ酔いましたね。そろそろお開きにしましょうか?」

「なぁにおゆー、おりゃまだよゆーだ」

「そうですか」

「うっ……吐きそうだ」

「あぁ、もう待ってください吐くならもう少し奥の方でお願いします」と肩を貸し、路地の方へ連れていき、背中をさすってやった。

「あぁ、助かったよ」

「んん、店主さんっ……!」そう言って彼は私の足を這うようにさすり始め、徐々にその手は付け根の方へと進んでいく。

「だ、だめですよう……」
店主が抵抗しようと手を押しのけようとするが、男の力には敵わず、あっさりと押し倒されてしまう。ふわりと甘い香水の匂いが舞う。

「どうしてだい?」男は耳元でささやくように言った。

「だって……っ」

「だって?」

「だってあなたの奥さんが見ているんですもの」

 その瞬間、まるでリトマス紙のように酔って真っ赤だった顔が一瞬で真っ青に変わった。

 男の妻は、呆然と立っており、ブランドものの袋が、力の抜けた手から滑り落ち、中からセーターが出てきた。

「ちょっ、君、これは違うんだ」
男は必死に弁解しようと試みるが、彼の妻は聞く耳を持たず泣きながら走り去ってしまった。

「店主さん。ご、誤解を説いてくれっ!」そう男が振り向いた時にはもう店主の姿はそこには無かった。


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