ステラチック・クロックワイズ

秋音なお

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3話②

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「なんか、ステラのイメージと違うな」
「そうかもしれません、ね」
 放課後。頼まれていた買い出しを終えた俺たちは、ステラの希望で近くのゲームセンターに来ていた。ステラ=ゲームというイメージは無かったが、彼女は慣れたように中を進み、俺はそれを追いかけるようについて行った。色んなゲーム機の横を通り抜け、クレーンゲームの列を一つ一つ眺めていく。吟味するようにいくつもの景品を見ては通り過ぎ、また眺めては通り過ぎ、そして、とあるクレーンゲーム機の前で立ち止まった。最初はただ凝視しているだけだと思っていたが、彼女はそこから一歩も離れる気配がなかった。
「……それ、好きなのか?」
「え? ……えぇ、まぁ」
 ステラはどちらかと言えば、というような曖昧なニュアンスで言葉を返すが、行動が言葉と伴っていない。目が中の景品に釘づけだった。
 景品として中に並んでいたのは、うさぎのような容姿をしたぬいぐるみであった。手のひらサイズでころんと全体的に丸いフォルムのキャラクターマスコットは中に貼られたポップ曰く、ぴょん丸くんというらしい。白いロップイヤーがモチーフらしく、愛らしい瑠璃色の瞳と真白の体がスタンダートな特徴なんだとか。
 そんなぴょん丸くんのぬいぐるみは十月らしく、ハロウィンのコスプレ風衣装を身につけていた。それは期間限定のドラキュラバージョンというようで、黒いマントに身を纏わせている。
 それを見た時、どこかで既視感を感じた俺は、ふとステラのリュックサックに視線を落とす。そこには思った通り、スタンダートなぴょん丸くんのキャラクターマスコットがついていた。余程好きなんだろう。
「見るだけでいいのか?」
「……こういうの、苦手なんです」
 リュックにつけているこれもやっとの思いで取れたんです、と補足のように説明をするとはぁ、とため息を一つこぼす。
「……でも、やってみたくなっちゃうんですよね」
 ステラは財布から百円玉を取り出すと機械に投入した。ピロン、と軽快な電子音が鳴る。ボタン操作を行い、景品の真上に中の機体を動かすと、ゆっくりと降りていく様子を静かに見守る。三本のアームは確かに景品をがっちりと掴んだのだが、アームの力が弱いのか持ち上げる際にアームの隙間から景品を落としてしまった。
「ま、まだ……」
 その後も数回プレイしたのだが、景品は獲得どころか初期位置からほとんど移動することもできなかった。寂しそうにぬいぐるみが横に転がっている。
「……ほら、私には向いてないんです」
 そう言うと彼女は視線はぬいぐるみから逸らさないまま、機械から離れようとする。名残惜しいように、離れていく。
「いいのか?」
「取れないなら諦めるしかないんです。……慣れてます、ので」
 それは一体どっちについてなのかわからなかった。自身の実力のことか、何かを諦めるという選択についてなのか。ただ、その答えがどっちにしろ、或いは全く違ったとしても、そのまま見たままではダメだとはわかった。
「強がんなって、あほ」
「な、なんですか。あ、あと、あほじゃな……」
「よーく見とけ」
 俺は百円玉を投入すると、さっきステラがしていたクレーンゲームをプレイする。ボタンを押して操作すると、中の機体がゆっくりと降りてきた。
「……先輩、これ」
 アームが降りたところには目標のぬいぐるみがなかった。アームは空回りをするように空を切る。
「まぁ、見てなって」
 ゆっくりと機体が上がる時、アームに半透明で細いなにかが絡んで見える。そしてアームと共に横に転がっていたぬいぐるみが持ち上がり始めた。ぬいぐるみについているタグの輪っかに、アームがひっかかったように入っていた。
「す、すごい」
「こういう三本アームのやつは力が分散して景品を落としやすいからな。真面目に景品自体を掴んでいたって理に適わん」
「さすがです。……けど、あの」
「ん?」
「……なんか多くないですか?」
「……ほんとだ」
 アームにタグの輪っかの中にひっかかり、その結果持ち上がっていたのだが、それは一つだけではなかった。これこそ、本当に意図的ではない偶然だったが、近くにあったもう一つのぬいぐるみのタグにまでアームが引っかかっており、計二個のぴょん丸くんが目の前を運ばれている。そしてそれら二つは落ちることなく、なんなら互いが互いを落ちないように支えるように身を寄せ合い、そのまま二つゲットした。
「……二つ、取れちゃいましたね」
「……なんのミラクルだろうな」
「ほんとに、こういうことってあるんですね」
 どうしてこういうミラクルはタイミングを間違うか、必要以上の過剰なミラクルとしてやってくるのだろう。現に、喜びより先に驚きが来ている。さすがに一回で取れるとも思ってはいなかったが、こうなってしまっては思い描いていたリアクションとは違うものになる。
「……ほら、やるよ」
「いいん、ですか」
「欲しかったんだろ」
「そ、それは、その……」
 俺はその二つのぬいぐるみを差し出す。
 ……あんな顔見たら取るしかないよな。
 一回で取れなくとも、何回だってするつもりだった。ステラはその二つのぬいぐるみを両手で受け取るとそれをゆっくりと見下ろす。手の中で溢れるようにぬいぐるみたちもステラのことを見つめていた。そんな情景にステラは段々と頬を緩め、満面の笑みを浮かべる。
「ありがとうございます、宝物にしますねっ」
「……そうか」
 これが、あの変人の見たかったステラの笑顔か。
 ……そりゃ、あの変人もまた見たくなるわけだ。普段の表情とはまるで人が違うように朗らかなそれは相当なギャップがあった。思わず目を逸らしてしまう。その笑顔はどんな言葉を使おうとも正しく正確に表しようがなかった。ただただ、ステラらしいというか、魅力的という言葉が似合った。初めて見た、年相応の作られていない、心から直送されたその笑顔はずるい。

 なんだよ、素敵じゃんか。

 脳に焼きついてしまった。
 心臓がいつもよりうるさい気がする。
 コミュ障にこれは大ダメージだ。
「……あ、でも」
「ん?」
「二つももらっちゃっていいんですか?」
「別にいいんじゃないか?」
「んー、でも……」
 ステラは二つのぬいぐるみをじーっと見つめてしばらく悩み、何か決めたのか、片方のぬいぐるみを俺の手元へと差し出す。
「ってことで、はいっ」
「ん」
「先輩にもひとつおすそわけです。……でも考えたらこれって先輩が取ってくれたぬいぐるみなんですよね。おすそわけと言うよりは……なんて言うべきなんでしょうか。浮かばなかったです」
「さぁな。俺もわからん」
 俺は差し出された分のぬいぐるみを受け取る。手元のそれは俺の方を向いている。
 ……こういうのも、悪くはないかもな。
 普段なら興味のないであろうものでさえ、今日はかわいらしく見えた。
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