ステラチック・クロックワイズ

秋音なお

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4話①

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「……あの、先輩」
「どうした?」
「……その、今日の放課後って、時間あったりしますか?」
 秋めく、というよりは少し冬が顔を覗き始めた十一月半ば。風が吹けばどこかで枯れ葉が音を立てている。ステラも今まではブラウスの上からパーカーを羽織るだけだったが、最近はその上からブレザーを重ねていた。あの変人はと言うと、白衣の下のシャツが厚手のものになった程度で特に見た目の変化がなかった。
「まぁ、あるっちゃ、あるけど」
「これ、見てください」
 そう言って向けられたスマホの画面には『ぴょん丸くん、ついにビッグサイズぬいぐるみ登場!』というキャッチコピーで始まる告知画像が映っていた。それも一般販売ではなく、アミューズメント景品としての登場らしい。
 ……なるほど。
「つまり、これを取ってくれ、と」
「はい。お願いしても、いいですか?」
「あぁ、まぁ、いいけど」
「ありがとうございます。お願いできるの、先輩しかいなかったので」
「ち、ちょ、ちょっ⁉ お、お兄ちゃんがいるだろ⁉」
 急に慌てた顔をした変人が話に割り込んできた。
 さっきまで間抜けな顔しながら後輩とイチャイチャする内容の本を読んでたくせに、妹絡みになるとこうなる。
「兄さんは私と似てゲーム苦手でしょ?」
「う……」
 図星だったのか、彼は左胸を押さえると苦しむように倒れ込む演技をしてみせる。どうやら致命傷だったらしい。
「……引き受けたものの、俺もこういうのはしたことないんだよな」
 さっきの告知によるとぬいぐるみはビッグサイズと言われるだけあって大きかった。高さ五十センチメートルは軽くあるらしい。さすがにそれほどに大きい景品を取ったことはなかった。俺がしていたのは大体がどうでもいいようなものばかりだった。大きいものはそれなりに取った後の達成感がありそうだったが、持って帰る時のことや目立つことを考えると手が出なかった。そもそも、そんなものを置く趣味もない。
「……安心してください。今日のために、こんなものだって準備しています」
 そういうとステラはリュックサックの中から一つの小さな棒を見せた。それはただの棒ではない。百円玉がいくつも重ねられており、外側が薄く透明なセロハンでコーティングされたもの。銀行などで見ることのできる、五十枚分の百円玉。
 ……思った以上にガチだった。
「これだけあれば、大丈夫ですよね」
「あ、あぁ、そうだな……」
 ステラの目が狩人のように見えた。
「だ、だが、それだけあれば取れるぞ。……俺じゃなくても」
さすがにそれだけのお金をつぎ込めば店員がアシストしてくれると思うが。
「そ、そーだ! お、お兄ちゃんでもきっと……!」
 横から変人が話に割り込んでくる。
 ……まだ諦めてなかったのか。
「兄さんは黙ってて」
「……はい」
 ステラが変人に向かって少し尖った言葉を吐く。
「私は兄さんじゃなくて、先輩と一緒に行きたいの」
「…………はい…」
「兄さんのばか、シスコン」
「うっ…………」
 三度に渡って重ねられた言葉によるダメージで変人の顔は死にかけていた。
 白くなっている。さすがに効いたらしい。
「……なんか、どんまいだな、あんたも」
「……少年、今回ばかりは君を許せないかもしれない」
「完全に八つ当たりだろ」
 大人気ないの一言に尽きる。
 あんた、本当に大人だよな……?
「それで、一緒に来てくれませんか?」
 ステラはそんな変人兄のことをいないもののようにスルーする。慣れた扱いだった。
「まぁ、それは……」
「……ダメ、でしょうか」
「……ダメ、ではない」
 俺が控えめに頷くと、ステラはキラキラとあまりにも綺麗に目を輝かせた。そんな姿に頬が緩んでしまいそうになり、目のやり場に困ってしまう。
 あの日以降、俺とステラの距離は近くなったと実感する機会が増えた。もうかれこれ二ヶ月以上を過ごしているが、そのような時間のみでは作られないなにかがそこにあった。具体的に言葉にすることはできないが、でも確かにあった。
 例を挙げるとすれば、ステラの雰囲気が少し柔らかくなった気がする。表情が出会った頃よりも豊かに出るようになった。あの変人もそれに関しては俺と同意見のようで、そのことを嬉しそうに語っていた。
「よかったです。先輩が一緒だと、心強いので」
「……そいつはどうも」
「じゃあ、放課後になったら……」
 ステラの言葉を邪魔するようにチャイムが鳴る。そしてそれから十分も経てば次のチャイムが鳴り、本日最後の授業が始まる。
「……悪い、次は面談だった」
「そういえば兄さんがそんなことを朝に言ってましたね」
「……正直めんどくさい」
 次の授業の時間で個人面談をしたいからと、担任に呼ばれていた。高校二年生の秋と言えば面談の内容は大体想像がつく。どうせ進路や志望校の話だ。あまり俺の好まないような内容。……まぁ、この内容の面談を好きな奴なんてほとんどいないだろうけど。
「頑張ってくてください。待ってますので」
「……さんきゅ」
 ……待つ人がいるって、悪くないかもしれん。

 俺は重い足取りで部屋のドアを開けた。
 すると「いってらっしゃい」という言葉が背後から聞こえ、頬が変な熱を覚える。
 俺は「いってくる」と聞こえないように小さく呟いた。
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