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5話①
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十一月のとある週末、お昼過ぎ。少し早めにお昼を済ませた俺は、高校近くのショッピングモール、一階メインゲートの前にいた。本当なら数日前の放課後、ステラと行くはずだった場所。あの日の俺はあの通り疲れ、そんな余裕がなかったために今日へと延期になったのだった。そして、今はステラを待っている。
誰かと出かけるなんて何年ぶりだろうか。
頭に浮かぶのはまだ幼い小学生の時。近所のクラスメイトと公園で遊んだくらい、だろうか。でもそれも相手はみんな男子で、女の子が相手となるとそもそも経験がないかもしれない。
『いやぁ、休日に出かけるなんてまるでデートみたいだね』
変人の言葉が頭をよぎる。妹に聞いたよ~、と昨日の夜にわざわざ電話までかけて冷かしてきたのだった。なんと迷惑な大人だと思ったが、話を聞いてみれば彼は、妹のためにありがとう、と伝えたかっただけだったらしい。せっかくの休日を妹のわがままに付き合ってもらって、とも言っていた。別にそんなことは気にしなくたっていいのだが。それに、それならそれで大人ならそんな小細工なしに本題をストレートに言ってほしいものだと思う。
「……なんでそんなこと思い出してんだ、俺は」
彼の変な言葉を意識してしまう俺がいた。馬鹿みたいだ。そもそも俺はただの先輩で、ステラはただの後輩。今日だって、あのぬいぐるみのために呼ばれただけで、きっと他の人でも事足りるようなもので。たまたま、俺が選ばれただけで、意識するようなものではない。ちょろい自分に辟易する。
「……お待たせ、しました」
ステラの声がしたので足元に向けていた視線を何気なく上げる。
だが、軽率に顔を上げたのは間違いだったのかもしれない。
「……おす」
目の前に立っていたのは声の主であるステラだ。学校で出会う時とは違う、私服姿のステラ。しかしまぁ、この私服姿、プライベートのステラというものがよくなかった。
……いや、それはずるいだろ。
学校のステラとプライベートのステラ。それはもちろん、違うだろうがここまでとは思わなかった。一言で表すとすれば、魅力という破壊力に満ちた容姿をしていた。普段ブレザーの下にパーカーを挟むボーイッシュな銀髪ショートの女子生徒は、深い緑色と白のワンピースを身にまとい、控えめに笑う銀髪ショートの美少女に変わっていた。
お洒落のことなんてわからないが、落ち着いた色合いのワンピースにブラウンのショートブーツという姿は彼女のためのコーデにも思えた。それくらいに似合っていた。唯一、髪型だけはいつも通りだったが、それが一層普段とのギャップを演出していた。服装が変わるだけで、ここまでも印象が変わるのかと思った。
「……どうかしました?」
「え?」
「先輩、ずっと私のこと見てるのに何も言ってくれませんから。……もしかして、こういう女の子っぽい服装は似合いませんでした?」
「い、いやっ、に、似合ってる、と、思う。……ただ、なんと言うか、学校のイメージとは違って、だな」
「確かに、そうかもしれませんね。学校には、演じた私しかいませんから。でも、私はこういう服の方が好きです。家にあるのもこういうものばっかりで」
いつもの黒いパーカーもあれだけしかなくて、とステラは付け加える。そういえば、とステラのボーイッシュは作られた偽りのボーイッシュだったことを思い出した。そりゃ、学校ではないプライベートならば好きなものを着るだろう。なにも、プライベートまで偽りの姿を演じなくてもよいのだから。
「……それはそうと、先輩、待ったんじゃないですか?」
「ん?」
「時間、ちょっと過ぎちゃったので」
「……あぁ。気にしなくていい」
別に過ぎたのも数分程度だし。
「手、冷たそうですけど?」
「……っ」
俺は何か嫌な予感がしてズボンのポケットに両手を突っ込んだ。俺の手は言われた通り、少し冷えていた。
「……どうしてそう思った」
「なんとなくです」
いや、確かに結構待ってたけどさ。一時集合って言われたのに三十分前にはここにいたけどさ。……いや、まぁ、あれだし。バスの時間とかそういうのがちょっと上手いこといかなくて、さ。全然余裕もあったけど、まぁそういうことにしてくれよ。
「っていうのは嘘です」
「え?」
「ちょっと前から離れた所で先輩が待っている姿を見てました」
「なんでだよ、おい」
どうしてそうやって兄の悪いところを引き継ぐんだ。
「ここまで兄さんが車で送ってくれたんですけど、その時に言っていたんです。先に先輩がいたら観察してみるのも面白いかもよって」
「あの変人め……」
「だから先輩がずっと待っているのも知っています」
「やめろ、言うな」
知っているとしても言うなよ。言われた側は恥ずかしいんだが。
「えへへ、私も、ついやっちゃいました」
あの変人め……。殴る。今度会ったら一発殴る。絶対殴る。
つーか、教えられたからってステラも言われた通りするなよ……。
「……でも、楽しみにしてたのは、私だけじゃないんですね」
「なんか言ったか?」
「いいえ? 気のせいじゃないですか?」
「……気のせいか」
「……はい、きっと」
ステラが何か言っていた気もするが、まぁいい。もし言っていたとしても大したことではないのだろう。
「それより行きましょう。手が冷えてはいけませんし、なによりぴょん丸くんがゲームセンターで待っています」
「……手のことは触れなくてもよくないか?」
「たまにはいじわるな私も許してください」
「そいつはずるいな」
「……女の子なんてみんなずるいんですよ、先輩が知らないだけで」
ステラはちらっと舌を出すと、くるりと俺に背を向ける。
ワンピースの端を揺れる。
女の子の仕草だった。
誰かと出かけるなんて何年ぶりだろうか。
頭に浮かぶのはまだ幼い小学生の時。近所のクラスメイトと公園で遊んだくらい、だろうか。でもそれも相手はみんな男子で、女の子が相手となるとそもそも経験がないかもしれない。
『いやぁ、休日に出かけるなんてまるでデートみたいだね』
変人の言葉が頭をよぎる。妹に聞いたよ~、と昨日の夜にわざわざ電話までかけて冷かしてきたのだった。なんと迷惑な大人だと思ったが、話を聞いてみれば彼は、妹のためにありがとう、と伝えたかっただけだったらしい。せっかくの休日を妹のわがままに付き合ってもらって、とも言っていた。別にそんなことは気にしなくたっていいのだが。それに、それならそれで大人ならそんな小細工なしに本題をストレートに言ってほしいものだと思う。
「……なんでそんなこと思い出してんだ、俺は」
彼の変な言葉を意識してしまう俺がいた。馬鹿みたいだ。そもそも俺はただの先輩で、ステラはただの後輩。今日だって、あのぬいぐるみのために呼ばれただけで、きっと他の人でも事足りるようなもので。たまたま、俺が選ばれただけで、意識するようなものではない。ちょろい自分に辟易する。
「……お待たせ、しました」
ステラの声がしたので足元に向けていた視線を何気なく上げる。
だが、軽率に顔を上げたのは間違いだったのかもしれない。
「……おす」
目の前に立っていたのは声の主であるステラだ。学校で出会う時とは違う、私服姿のステラ。しかしまぁ、この私服姿、プライベートのステラというものがよくなかった。
……いや、それはずるいだろ。
学校のステラとプライベートのステラ。それはもちろん、違うだろうがここまでとは思わなかった。一言で表すとすれば、魅力という破壊力に満ちた容姿をしていた。普段ブレザーの下にパーカーを挟むボーイッシュな銀髪ショートの女子生徒は、深い緑色と白のワンピースを身にまとい、控えめに笑う銀髪ショートの美少女に変わっていた。
お洒落のことなんてわからないが、落ち着いた色合いのワンピースにブラウンのショートブーツという姿は彼女のためのコーデにも思えた。それくらいに似合っていた。唯一、髪型だけはいつも通りだったが、それが一層普段とのギャップを演出していた。服装が変わるだけで、ここまでも印象が変わるのかと思った。
「……どうかしました?」
「え?」
「先輩、ずっと私のこと見てるのに何も言ってくれませんから。……もしかして、こういう女の子っぽい服装は似合いませんでした?」
「い、いやっ、に、似合ってる、と、思う。……ただ、なんと言うか、学校のイメージとは違って、だな」
「確かに、そうかもしれませんね。学校には、演じた私しかいませんから。でも、私はこういう服の方が好きです。家にあるのもこういうものばっかりで」
いつもの黒いパーカーもあれだけしかなくて、とステラは付け加える。そういえば、とステラのボーイッシュは作られた偽りのボーイッシュだったことを思い出した。そりゃ、学校ではないプライベートならば好きなものを着るだろう。なにも、プライベートまで偽りの姿を演じなくてもよいのだから。
「……それはそうと、先輩、待ったんじゃないですか?」
「ん?」
「時間、ちょっと過ぎちゃったので」
「……あぁ。気にしなくていい」
別に過ぎたのも数分程度だし。
「手、冷たそうですけど?」
「……っ」
俺は何か嫌な予感がしてズボンのポケットに両手を突っ込んだ。俺の手は言われた通り、少し冷えていた。
「……どうしてそう思った」
「なんとなくです」
いや、確かに結構待ってたけどさ。一時集合って言われたのに三十分前にはここにいたけどさ。……いや、まぁ、あれだし。バスの時間とかそういうのがちょっと上手いこといかなくて、さ。全然余裕もあったけど、まぁそういうことにしてくれよ。
「っていうのは嘘です」
「え?」
「ちょっと前から離れた所で先輩が待っている姿を見てました」
「なんでだよ、おい」
どうしてそうやって兄の悪いところを引き継ぐんだ。
「ここまで兄さんが車で送ってくれたんですけど、その時に言っていたんです。先に先輩がいたら観察してみるのも面白いかもよって」
「あの変人め……」
「だから先輩がずっと待っているのも知っています」
「やめろ、言うな」
知っているとしても言うなよ。言われた側は恥ずかしいんだが。
「えへへ、私も、ついやっちゃいました」
あの変人め……。殴る。今度会ったら一発殴る。絶対殴る。
つーか、教えられたからってステラも言われた通りするなよ……。
「……でも、楽しみにしてたのは、私だけじゃないんですね」
「なんか言ったか?」
「いいえ? 気のせいじゃないですか?」
「……気のせいか」
「……はい、きっと」
ステラが何か言っていた気もするが、まぁいい。もし言っていたとしても大したことではないのだろう。
「それより行きましょう。手が冷えてはいけませんし、なによりぴょん丸くんがゲームセンターで待っています」
「……手のことは触れなくてもよくないか?」
「たまにはいじわるな私も許してください」
「そいつはずるいな」
「……女の子なんてみんなずるいんですよ、先輩が知らないだけで」
ステラはちらっと舌を出すと、くるりと俺に背を向ける。
ワンピースの端を揺れる。
女の子の仕草だった。
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