ステラチック・クロックワイズ

秋音なお

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5話②

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「……先輩ってもしかしてクレーンゲームの天才だったりします?」
「……そうかもしれん」

 あーだこーだ説明する前に結論を言おう。
 ステラの手元には無事、今日のお目当てであるぴょん丸くんのビッグサイズぬいぐるみ。そして、ゲットするまでに使ったお金は前回同様に百円玉一枚のみ。
 一発ゲットだった。
「なんでしょう、手に入れることができて嬉しいはずなんですけど、一周回ってなんだか先輩のことが怖いです」
「奇遇だな。俺も今全く同じことを思っている」
 今回はそもそも、土台に一つしか景品であるぬいぐるみはなかったので前回のような複数同時取りはできなかったが、それでも十分に想定外の展開であった。アームの向き、景品のポジション、重心、それらが全て奇跡的な塩梅で噛み合ったとしか言いようがないが、よくもまぁ、こんな短期間でこんなことが続くものだ。自分の行動だというのににわかに信じがたい。いわゆる、物欲センサーとかいう都市伝説の類なんだろうか。
「ここまで来るとなんかゲーセンに申し訳ないな」
 前回もここだったし。
「そうですね。あんまりこれが続くと先輩は出禁にされちゃうかもしれません」
「そいつはひどい」
 俺は悪いことなんてなにもやっていない、多分。
「冗談ですよ。きっと先輩がプレイする前にも他の人が挑戦していると思いますし、その時に先輩の分も回収していると思いますから」
「なるほど、ステラみたいな人からか」
「そんな感じです。……って、ひどいです」
「冗談。それにステラもひどいこと言っただろ」
「……ま、まぁ、そうですけど。……このぴょん丸くんに免じて許してあげます」
 ステラは少し悔しそうに俺を見ると、むーっと頬を小さく膨らませる。その表情もあまり見られたくないのか、ぬいぐるみの陰に顔を隠した。
「話は変わるが。それ、そのままでいいのか」
 それ、というのはぬいぐるみのことを指していた。基本、アミューズメント景品のぬいぐるみというのは包装もない裸の状態で並んでいる。そのため、利便性の意味もあって持ち帰る際は各所に設置された大容量ビニール袋に入れるのが一般的なのだが、ステラはしばらく経ってもぬいぐるみを裸の状態で抱きしめていた。
「ぬいぐるみ、袋に入れとかないと汚れるかもしれないし」
「……もう少しこうしてちゃダメですか?」
「ダメではないが」
「この子、せっかく先輩に取ってもらったので、もう少しこのまま抱きしめていたくて」
「……そうか」
 あとでちゃんと袋に入れますけど、と言うとステラはぬいぐるみの頭を右手であやすように撫でる。もふ、もふ、と柔らかいそれは気持ちよさそうに目を細めた。いや、ぬいぐるみなのだから表情が変わることなんてありえないのだが、俺にはそう見えた。都合よく解釈されたものが幻覚になったのかもしれないが、本当にそのように見えた。
 少女に相応しいワンシーンだった。
「気に入ったんならよかった」
「もちろん。大満足、です」
 開始一分で取れてしまったけどな、という身も蓋もないことが頭に浮かぶ。コスパだとか或る種のパフォーマンスとしては最高だが、アミューズメント、エンターテインメントとしては物足りなく思えた。俺としても取れるか取れないかの瀬戸際に生まれる高揚感を楽しみたかったので、こればっかりは残念だった。おかげでもう今日の目的は済んでしまった。
「そういえば先輩」
「ん?」
「先輩は欲しいものとかないんですか?」
「欲しいもの、か……」
 そんなものはあるだろうか、と辺りを見渡す。
 お菓子にフィギュア、雑貨、よくわからない玩具。これといった惹かれるものがない。正直、満足そうにぬいぐるみを抱くステラを見られただけで良く、俺はそれ以上のものを求めていなかった。
「……特にないな」
「えぇ、なにかひとつくらいはないんですか」
「そう言われてもな」
 あまり物欲がなかった。
「じゃあ、ちょっとこれ持っててください」
「え、あ、あぁ、わかった」
「ついて来ちゃダメです」
 ステラは俺にぴょん丸くんを預けるとすたすたとどこかへ行ってしまう。結果、俺はゲーセンの中にぽつん、と一人になった。ついて来るなと言われた以上、下手にここから動いてはいけないのだろう。その場から離れずにじっとするがすることもないのでさっきのステラ同様、ぬいぐるみを抱きかかえるだけ。ステラの微熱の残るぬいぐるみ。思っても、意識しないようにした。
 休日ということで家族連れや学生、と他の客も多い中で女の子向けのぬいぐるみを抱きかかえるのは気恥ずかしいが言われるままに待つ。
 そして、数分が経っただろうか。
「せ~んぱい」
「つめたっ!?」
 首元を襲撃した冷たい金属の感触に思わずぬいぐるみを落としそうになる。
「へへへ、お返し、です」
 背後から俺にいたずらをしかけたのは言うまでもなくステラである。手には黒に緑のロゴの書かれた、怪物のような名前をしたエナジードリンクを持っていた。それが先ほどのいたずらという犯行に使われた凶器のようだった。
「そのお返しは意味が違う気がするが」
「え、そうですか? でも私、こういうの一回してみたかったんですよね」
 だからどうしてそういう兄のよくないところを引き継いでいるんだ。それともあの変人の入れ知恵だろうか。どちらにしろ、さすが兄妹だなと思った。
 ステラはぬいぐるみと交換するようにエナジードリンクを渡してくる。
「で、これはどうしたんだ?」
「取ってきました、奥の方にこれが景品のクレーンゲームがあったので」
「……いくらかかったんだ」
「言いません。……それにしてもひどいですね。最初から下手って決めつけて聞くのはいじわるだと思います」
「それは悪かった」
 もらうぞ、とだけ断りを入れ、缶のプルタブをプシュッと開ける。
 甘ったるい人工甘味料の匂いが炭酸と共に弾けた。
「そういえばステラって甘いの苦手だけどこういうのだけは飲むって知ってたっけ?」
「いいえ、初耳です。私、先輩のことをあまり知りませんから。先輩、あんまり自分のことはなしませんよね」
「……まぁ、そうだな。話す必要があることは話すが、それ以外は聞かれないと話さないかもしれない。……ちなみに、今のステラから見た俺ってどんなのだ?」
「そうですね、なんでしょう……。不器用な人、でしょうか」
「あながち間違ってはないな」
「あとは、なんでしょう。優しい人だと思います」
「……それはないな」
 俺はエナジードリンクに口をつける。匂いの通り、甘ったるかった。
「私がそう思うので、そうなんです」
「そういうものなのか」
「そういうものです」
 俺は控えめに頷くと、反応に困り、誤魔化すようにまたエナジードリンクに口をつけた。やっぱり甘い。
「先輩はなにが好きなんですか」
「え?」
「私ばかり、好みを把握されているのはなんだか悔しいので。私にも一つくらい、教えてくれてもいいと思います」
「そう、だな」
 俺はふと浮かんだものを口にした。
「……強いて言えば、ぴょん丸くん、かもな」
 どうしてそれが浮かんだのか、俺自身でもわからなかった。
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