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8話①
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「やぁ少年! ハッピーニューイヤー!」
「あんた、まじで気が狂ってんな」
元旦の午前六時。まだ外も暗い早朝。新年早々、俺はあの変人によるテンションマックスモーニングコールを食らっていた。スマホの着信音がいくら寝たふりをしても何度も何度も繰り返し俺を呼ぶため、仕方なく電話に出てみれば第一声がこれである。変人には正月休みという概念が無いらしい。でもだからってこれはさすがにないだろ。新年早々鼓膜が亡くなるかと思った。
「朝から一体なんの用だ……」
「その声……、もしや少年。僕は寝ているところをお邪魔してしまったかな?」
「もしかしなくとも寝てたが……」
普通常識的に考えてこの時間に電話かけてくるのはどうなんだ。さらに言えば今日は正月だぞ。正月くらいは時間も気にせずにゆっくりさせてくれないか。前日の大晦日に夜更かしした分、午前中をゆっくり過ごすのが醍醐味だろ。
「まぁいいや」
「いや、よくない」
「今から一緒に初詣に行かないかい?」
「あんた、俺の話を聞いてないな……。つーかなんで、正月早々あんたと出かけないといけないんだよ」
この際、このモーニングコールのことは水に流すから二度寝をさせてくれないか。冬は温かい布団に包まれたままのんびりするのが一番なんだ。
なにが楽しくて朝から寒い外へ出かけるのだろう。
「おや、断るのかい?」
「当たり前だろ。俺は今から二度寝するか……」
「妹、振袖着るけど」
「……は?」
……ステラが、振袖?
「あ、食いついたねぇ。さすが恋する男子高校生だ」
昨年同様変わらない、鼻につく喋り方だった。
そんなんじゃない、と俺も昨年と変わらない口調で否定の言葉を返す。
「うちじゃ毎年、初詣の時は振袖を着るって決まっていてね」
「いいんじゃないか、風情があって」
「そうだとも。僕も何気にこの習慣を気に入っていてね」
「まさに日本文化って感じだもんな」
「まぁ、少年は妹の振袖に興味津々なだけなんだろうけど」
「今すぐ電話を切ってやろうか」
言い方が毎度癪である。
……否定できない事実が一番悔しいが。
「それで、少年はどうするんだい? 行くのか行かないのか」
「………………行く」
「おっけ~い。じゃあ、妹にも伝えておくね。詳しいことはまた後にでも」
「わかった」
「あ、あと少年」
「……なんだ」
「君は前より素直になったね」
「……悪いか」
「いいや? 僕としては嬉しい限りだよ」
「そうか」
「いじりがいもあるし」
「最低な奴だな」
「冗談だよ」
そんなこんな、書き留めるまでもない会話をまたいくつか交わし、電話は終わった。都合のいい電話だなと思った。電話が切れると部屋はまた静かになり、朝らしくなる。
どこか灰色の、ありふれた朝に。
「……にしても、あれはずるいよな」
変人の誘い文句にまんまと乗せられてしまった自分の手軽さに、行き場のないもやもやを募らせる。
いや、でも、ほら、だって、うん、まぁ、さ、やっぱり気になるんだよ。
気になるものって言うのはやっぱり気になる。変人もきっと、これを言えば俺が絶対に食いつくとわかっていたから最初から言わなかったんだろう。本当にタチが悪い。一枚上手というよりはずる賢いと言い表すべきだと思った。
重たくのしかかっていた掛布団を引き剥がし、少し冷たい空気の方へ触れようと立ち上がる。年の明けた実感はなかった。適当にクローゼットからセーターとそれに合うパンツを取り出して着替える。
……こうやって誰かに会うために着替えたのは何度目だろう。
袖に腕を通しながらそんな野暮なことを思ったがすぐに頭の片隅に追いやった。そんなものは過去に一度もなかった。休日に誰かに会うことはあったとしても、このように当日に決めてそのまま、というものはなかった。そこまで心を許せる相手という存在が、そもそも俺には今までいなかった。
……俺も、変わったのだろうか。
きっと変わったんだろうな。俺は本棚に飾ってあるスノードームを手に取ると一度逆さに向きを変えて戻し、再度棚へと置き直す。小さな空間の中を、白い粒子が舞っている。
『……先輩のばか。そんなのじゃないです。だから、ください。さっきみたいに』
ステラの顔が浮かんだ。
だけど今日浮かんだのは、笑うステラではなく、少し赤らんだ頬で、つっかえつっかえの言葉を紡ぐステラだった。都合のいいところをピックアップしたリフレインだった。
俺もずるい人間だったんだなと思った。でも、そうやってずるいんだと思うと、どこか人らしくいられたことが嬉しかった。
「……髪、整えてみるか」
確か、ワックスは前にノリで買ったものがあったはずだ。髪のセットなんてやったことないが、ネットくらい見たらなんとかなるだろう。正月だし、一年の始まりは元旦がどうのこうのって言うし。そういうやつだよ、多分。……なんてな。
俺は初めて、俺にくだらない嘘をついた。
☆ ☆ ☆ ☆
『赤い振袖を着ています』
それはついさっき、先に待ち合わせの場所に着いたステラから送られてきたメッセージだった。……が。
「…………相変わらず、人が多いな」
正月の境内は見渡せないほどに人がごった返していた。よくもまぁこんなにも集まったなと思うほどだ。おかげで移動するのも一苦労である。道と言うよりは人と人の間をすり抜けるように進んで行く。待ち合わせをわかりやすいように、と目立つ鳥居の下にしたのは間違いだったかもしれない。
そこからなんとかして待ち合わせである鳥居に近づくと、赤い振袖を身に纏った、一際目立つ銀髪の少女と視線が交わる。
ステラ、だった。
「悪い、遅くなった」
「あけましておめでとうございます、先輩」
「ん、おめでとさん」
目の前で花が咲くよう、ステラが綺麗に笑う。
直感的に桜だと思った。
まだ冬だけど、桜に見えた。
「……そういや、あの変人は?」
ステラに目を惹かれたせいで気づくのが遅くなったが、言い出しっぺのあの変人の姿が見当たらない。あのシスコンが妹から離れて行動するなんて考えにくいが。
「あ、あぁ、兄さんは、その……、家で苦しんでいます」
「苦しんでいる?」
「はい……」
「悪いものにでもあたったのか?」
「いえ、まだその方がいい、というか……」
言いにくいことなのか、さり気なく、でも俺のわかるように視線を逸らした。
「……その、お雑煮の食べすぎで………………」
「……は?」
……雑煮の食べすぎ?
「お雑煮、今年はお母さんと一緒に作ったんですけど、そしたら兄さんが妹のお雑煮! って勢いよく食べちゃって……」
「ほんと正月早々騒がしい奴だな……」
「ほんっと、兄さんはばかなので………」
ステラも困ったようにため息をつく。
「ということで、今日は兄さんは自宅待機で私だけになります。すみません、せっかく兄さんが誘ったのに当の本人が不在で」
「まぁ、事情が事情だしな……」
なんと言うべきか今回ばかりは全く言葉が浮かばない。つーか、雑煮の食いすぎってなんだよ。喉に詰まらせる、なんて事象はよく耳にするがこれは初耳である。変人のシスコンっぷりは最早ここまで来ると一貫性があって尊敬の意すら抱いた。
ただ、どうしてあの変人はこうも人を振り回すのだろう。
「じゃあ、そろそろ行くか」
「え、あ、あぁ……はい…」
立ち話をするのもなんだし、と俺は奥の本堂の方を指さすが、ステラはどうも曖昧な言葉を口にするだけだった。
「……どうした?」
「い、いえ、その、なんと言うか、ですね……」
自分から言うのも変だと思うんですけど、と前置きをすると、振袖を見せるように両腕を控えめに広げてみせた。
「……その、振袖、どうかな、って思って」
「あ、あぁ……」
先輩がなにも言ってくれませんから、と痛いとこを突くと恥ずかしそうに、寂しそうにそっぽ向いた。言わせてしまった自分の未熟さを痛感する。
「……似合っている、んじゃないか」
誤魔化すような尾びれのついた言葉が口からこぼれる。ただ一言、似合っている、と言えば良かったのに、言えなかった。でもこれですら、俺からすると頑張った方であった。人の容姿なんて、ほとんど誉めたことがない。
口には出せなくとも、胸の奥ではいくつもの感想が浮かんでいた。朱色の布地に同系色の鞠がいくつも跳ねる振袖も、山吹色の帯もよく似合う。銀髪に碧眼という、日本人離れした容姿にも上手いこと噛み合っていた。少女と言うよりは美少女であり、もっと言えば作られた人形のような美術品としての美しさを感じる。そしてその中で微笑む表情は年相応か、それ以上にあどけなく、雰囲気との間に生まれた差がより一層、ステラという少女の魅力を引き立てていた。
「……嬉しいですけど、そうじゃないです」
「え」
似合っている、はダメなのか?
「……今日の私、その……かわいい、ですか?」
「それは……」
「……それとも、こういうのは、先輩の好みじゃなかったりします………?」
「………………………かわいい、と思う」
追い詰められた俺は言わされるように、だが最後はちゃんと自分の思ったままに言葉を吐いた。正直、羞恥心で死ぬかと思った。世のリア充はこれを毎日とか言っているんだろ。或る意味尊敬する。そりゃもちろん、目にした時からかわいいとは思っていたが、でもそれをわざわざ口にするのはまた違う。顔が熱い。きっと赤くなっている。
今日のステラは欲張りだと思った。
「それなら、よかったです。……振袖、着て来た甲斐がありました」
「……そうだな」
お揃いのようにステラも頬を紅色に染めると、あんまり見ないでください、と見せてきたのはステラだというのに顔を袖で隠す。その仕草はずるい。
……計算外、だな。
まさか、ここまで心を揺さぶられてしまうとは。
ステラがあの変人の妹であるということを、強く再認識する。
「……行くぞ」
「……待ってください」
「……今度はなんだ」
これ以上、かわいいなんて言ってあげることは恥ずかしくてできないが。
「……いつもと違って髪の毛整えてるの、似合ってます」
「……なんのことだか」
「……嘘つくのが下手くそです」
「…………行くぞ」
「……はい」
気づいても言うなよ、なんて強がりと、気づいてもらえたことへの照れくささ、嬉しさを悟られぬよう、ステラの一歩前を歩く。
俺の完敗だった。
「あんた、まじで気が狂ってんな」
元旦の午前六時。まだ外も暗い早朝。新年早々、俺はあの変人によるテンションマックスモーニングコールを食らっていた。スマホの着信音がいくら寝たふりをしても何度も何度も繰り返し俺を呼ぶため、仕方なく電話に出てみれば第一声がこれである。変人には正月休みという概念が無いらしい。でもだからってこれはさすがにないだろ。新年早々鼓膜が亡くなるかと思った。
「朝から一体なんの用だ……」
「その声……、もしや少年。僕は寝ているところをお邪魔してしまったかな?」
「もしかしなくとも寝てたが……」
普通常識的に考えてこの時間に電話かけてくるのはどうなんだ。さらに言えば今日は正月だぞ。正月くらいは時間も気にせずにゆっくりさせてくれないか。前日の大晦日に夜更かしした分、午前中をゆっくり過ごすのが醍醐味だろ。
「まぁいいや」
「いや、よくない」
「今から一緒に初詣に行かないかい?」
「あんた、俺の話を聞いてないな……。つーかなんで、正月早々あんたと出かけないといけないんだよ」
この際、このモーニングコールのことは水に流すから二度寝をさせてくれないか。冬は温かい布団に包まれたままのんびりするのが一番なんだ。
なにが楽しくて朝から寒い外へ出かけるのだろう。
「おや、断るのかい?」
「当たり前だろ。俺は今から二度寝するか……」
「妹、振袖着るけど」
「……は?」
……ステラが、振袖?
「あ、食いついたねぇ。さすが恋する男子高校生だ」
昨年同様変わらない、鼻につく喋り方だった。
そんなんじゃない、と俺も昨年と変わらない口調で否定の言葉を返す。
「うちじゃ毎年、初詣の時は振袖を着るって決まっていてね」
「いいんじゃないか、風情があって」
「そうだとも。僕も何気にこの習慣を気に入っていてね」
「まさに日本文化って感じだもんな」
「まぁ、少年は妹の振袖に興味津々なだけなんだろうけど」
「今すぐ電話を切ってやろうか」
言い方が毎度癪である。
……否定できない事実が一番悔しいが。
「それで、少年はどうするんだい? 行くのか行かないのか」
「………………行く」
「おっけ~い。じゃあ、妹にも伝えておくね。詳しいことはまた後にでも」
「わかった」
「あ、あと少年」
「……なんだ」
「君は前より素直になったね」
「……悪いか」
「いいや? 僕としては嬉しい限りだよ」
「そうか」
「いじりがいもあるし」
「最低な奴だな」
「冗談だよ」
そんなこんな、書き留めるまでもない会話をまたいくつか交わし、電話は終わった。都合のいい電話だなと思った。電話が切れると部屋はまた静かになり、朝らしくなる。
どこか灰色の、ありふれた朝に。
「……にしても、あれはずるいよな」
変人の誘い文句にまんまと乗せられてしまった自分の手軽さに、行き場のないもやもやを募らせる。
いや、でも、ほら、だって、うん、まぁ、さ、やっぱり気になるんだよ。
気になるものって言うのはやっぱり気になる。変人もきっと、これを言えば俺が絶対に食いつくとわかっていたから最初から言わなかったんだろう。本当にタチが悪い。一枚上手というよりはずる賢いと言い表すべきだと思った。
重たくのしかかっていた掛布団を引き剥がし、少し冷たい空気の方へ触れようと立ち上がる。年の明けた実感はなかった。適当にクローゼットからセーターとそれに合うパンツを取り出して着替える。
……こうやって誰かに会うために着替えたのは何度目だろう。
袖に腕を通しながらそんな野暮なことを思ったがすぐに頭の片隅に追いやった。そんなものは過去に一度もなかった。休日に誰かに会うことはあったとしても、このように当日に決めてそのまま、というものはなかった。そこまで心を許せる相手という存在が、そもそも俺には今までいなかった。
……俺も、変わったのだろうか。
きっと変わったんだろうな。俺は本棚に飾ってあるスノードームを手に取ると一度逆さに向きを変えて戻し、再度棚へと置き直す。小さな空間の中を、白い粒子が舞っている。
『……先輩のばか。そんなのじゃないです。だから、ください。さっきみたいに』
ステラの顔が浮かんだ。
だけど今日浮かんだのは、笑うステラではなく、少し赤らんだ頬で、つっかえつっかえの言葉を紡ぐステラだった。都合のいいところをピックアップしたリフレインだった。
俺もずるい人間だったんだなと思った。でも、そうやってずるいんだと思うと、どこか人らしくいられたことが嬉しかった。
「……髪、整えてみるか」
確か、ワックスは前にノリで買ったものがあったはずだ。髪のセットなんてやったことないが、ネットくらい見たらなんとかなるだろう。正月だし、一年の始まりは元旦がどうのこうのって言うし。そういうやつだよ、多分。……なんてな。
俺は初めて、俺にくだらない嘘をついた。
☆ ☆ ☆ ☆
『赤い振袖を着ています』
それはついさっき、先に待ち合わせの場所に着いたステラから送られてきたメッセージだった。……が。
「…………相変わらず、人が多いな」
正月の境内は見渡せないほどに人がごった返していた。よくもまぁこんなにも集まったなと思うほどだ。おかげで移動するのも一苦労である。道と言うよりは人と人の間をすり抜けるように進んで行く。待ち合わせをわかりやすいように、と目立つ鳥居の下にしたのは間違いだったかもしれない。
そこからなんとかして待ち合わせである鳥居に近づくと、赤い振袖を身に纏った、一際目立つ銀髪の少女と視線が交わる。
ステラ、だった。
「悪い、遅くなった」
「あけましておめでとうございます、先輩」
「ん、おめでとさん」
目の前で花が咲くよう、ステラが綺麗に笑う。
直感的に桜だと思った。
まだ冬だけど、桜に見えた。
「……そういや、あの変人は?」
ステラに目を惹かれたせいで気づくのが遅くなったが、言い出しっぺのあの変人の姿が見当たらない。あのシスコンが妹から離れて行動するなんて考えにくいが。
「あ、あぁ、兄さんは、その……、家で苦しんでいます」
「苦しんでいる?」
「はい……」
「悪いものにでもあたったのか?」
「いえ、まだその方がいい、というか……」
言いにくいことなのか、さり気なく、でも俺のわかるように視線を逸らした。
「……その、お雑煮の食べすぎで………………」
「……は?」
……雑煮の食べすぎ?
「お雑煮、今年はお母さんと一緒に作ったんですけど、そしたら兄さんが妹のお雑煮! って勢いよく食べちゃって……」
「ほんと正月早々騒がしい奴だな……」
「ほんっと、兄さんはばかなので………」
ステラも困ったようにため息をつく。
「ということで、今日は兄さんは自宅待機で私だけになります。すみません、せっかく兄さんが誘ったのに当の本人が不在で」
「まぁ、事情が事情だしな……」
なんと言うべきか今回ばかりは全く言葉が浮かばない。つーか、雑煮の食いすぎってなんだよ。喉に詰まらせる、なんて事象はよく耳にするがこれは初耳である。変人のシスコンっぷりは最早ここまで来ると一貫性があって尊敬の意すら抱いた。
ただ、どうしてあの変人はこうも人を振り回すのだろう。
「じゃあ、そろそろ行くか」
「え、あ、あぁ……はい…」
立ち話をするのもなんだし、と俺は奥の本堂の方を指さすが、ステラはどうも曖昧な言葉を口にするだけだった。
「……どうした?」
「い、いえ、その、なんと言うか、ですね……」
自分から言うのも変だと思うんですけど、と前置きをすると、振袖を見せるように両腕を控えめに広げてみせた。
「……その、振袖、どうかな、って思って」
「あ、あぁ……」
先輩がなにも言ってくれませんから、と痛いとこを突くと恥ずかしそうに、寂しそうにそっぽ向いた。言わせてしまった自分の未熟さを痛感する。
「……似合っている、んじゃないか」
誤魔化すような尾びれのついた言葉が口からこぼれる。ただ一言、似合っている、と言えば良かったのに、言えなかった。でもこれですら、俺からすると頑張った方であった。人の容姿なんて、ほとんど誉めたことがない。
口には出せなくとも、胸の奥ではいくつもの感想が浮かんでいた。朱色の布地に同系色の鞠がいくつも跳ねる振袖も、山吹色の帯もよく似合う。銀髪に碧眼という、日本人離れした容姿にも上手いこと噛み合っていた。少女と言うよりは美少女であり、もっと言えば作られた人形のような美術品としての美しさを感じる。そしてその中で微笑む表情は年相応か、それ以上にあどけなく、雰囲気との間に生まれた差がより一層、ステラという少女の魅力を引き立てていた。
「……嬉しいですけど、そうじゃないです」
「え」
似合っている、はダメなのか?
「……今日の私、その……かわいい、ですか?」
「それは……」
「……それとも、こういうのは、先輩の好みじゃなかったりします………?」
「………………………かわいい、と思う」
追い詰められた俺は言わされるように、だが最後はちゃんと自分の思ったままに言葉を吐いた。正直、羞恥心で死ぬかと思った。世のリア充はこれを毎日とか言っているんだろ。或る意味尊敬する。そりゃもちろん、目にした時からかわいいとは思っていたが、でもそれをわざわざ口にするのはまた違う。顔が熱い。きっと赤くなっている。
今日のステラは欲張りだと思った。
「それなら、よかったです。……振袖、着て来た甲斐がありました」
「……そうだな」
お揃いのようにステラも頬を紅色に染めると、あんまり見ないでください、と見せてきたのはステラだというのに顔を袖で隠す。その仕草はずるい。
……計算外、だな。
まさか、ここまで心を揺さぶられてしまうとは。
ステラがあの変人の妹であるということを、強く再認識する。
「……行くぞ」
「……待ってください」
「……今度はなんだ」
これ以上、かわいいなんて言ってあげることは恥ずかしくてできないが。
「……いつもと違って髪の毛整えてるの、似合ってます」
「……なんのことだか」
「……嘘つくのが下手くそです」
「…………行くぞ」
「……はい」
気づいても言うなよ、なんて強がりと、気づいてもらえたことへの照れくささ、嬉しさを悟られぬよう、ステラの一歩前を歩く。
俺の完敗だった。
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