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10話②
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「に、苦いなぁ……」
「一体どうしたよ、そんなに顔歪ませて」
一年の内で最も寒いであろう、二月の中旬。
変人はうーん、と首を傾げながら苦い顔をした。
「いや、今食べているチョコレートが苦くてね」
「ふーん。つーか、あんたコーヒーも飲めなかったろ」
「まぁ、それはそうなんだけどね。これは妹がせっかく作ったチョコレートなんだ。残すなんて、兄の風上にも置けないだろう?」
「……そういうものなのか?」
「そういうものなのだよ、少年」
変な自論を展開する変人に対し、さすが自他共に認めるシスコンだと舌を巻いた。シスコンは極めるとこうも色んなものを乗り越えられるようになるらしい。
「にしても意外だったな」
「ん? なにがだい?」
「ステラにお菓子作りの趣味があるとは。今まで俺は聞いたことがなくて」
「……少年? 君は一体なにを言っているんだい?」
「は?」
「今日はなんの日だい?」
「今日? なにかあったか?」
記憶をたどったところで思い当たる節がない。
変人の誕生日でもないし、ステラの誕生日でもない。
じゃあ一体なんだ?
「……少年、僕は君に失望したよ。君は本当に健全な男子高校生なのかい?」
「失礼だな。俺は一応健全な男子高校生をやらせてもらっているつもりだが」
俺はたしかに陰キャだしそんな世の男子高校生のようなキラキラし日々を過ごしてはいないが、それなりに一般的な男子高校生と同じような嗜好も欲もあるつもりである。彼の言うような色恋はもちろんのこと、恋のその先の展開も含めて。
「今日は二月十四日。世の学生が浮つくバレンタインデーだよ」
「……あぁ、そういやそんなのもあったな」
「……なぁ少年。僕は常々思うんだけれども君はどうしてそんなにもドライな反応しかすることができないんだい? 先生悲しくなっちゃうよ」
どうりで学校の至るところで騒がしいと思った。
あまりにも自身に縁のないイベントというのは頭からすっぽ抜けてしまうらしい。そういえば、と最近コンビニやスーパーのチョコレートコーナーがポップで華やかになっていたことを思い出す。チョコレート自体をあまり好まない俺からするとすっぽ抜けるのも、まぁ無理はない。
「じゃあそれはステラの手作りチョコレートってわけか」
「あぁ、そうだとも。でも変なんだよね。いつもなら万人受けするようにって甘いものを作るんだけど、今年に限ってはどうしてかビターチョコレートなんだよね。僕が甘党なのは知ってるはずなんだけどなぁ」
「あんたの日頃の行いじゃね?」
「まさかそんなはずは、ない、と思うんだが……」
「現実は甘くねーよ」
「あれ、もしかしてそれってチョコレートにかけた?」
「なわけないだろ」
どうしてこうもくだらない洒落ばかり言うのか。冷たい言葉で相槌を打った俺は彼の手元を見た。手元には小さく透明なラッピングされたビニール製の小袋があった。中にはまだ二粒のチョコレートが入っている。
……そりゃ、あんたは貰えて当然か。
……だってあんたは一応、兄だもんな。
小さくそんな思いが芽生えた。
「あれ、少年はまだ貰っていなかったかい?」
「あぁ」
「そっか。……あ、でも少年、安心したまえ。妹はちゃんと君の分も用意してるからね」
「……そーですかい」
「あ、少年。ちょっと心配だったんでしょ。自分は貰えなかったらどうしようって」
「いちいちうるせーよあんた」
わかったとしてもわざわざ言うなよ。
そんなに顔にでも出ていたか?
「……あぁ。だからか」
「あ? どうした」
「チョコレートが苦い理由が、だよ」
彼はひとつチョコレートを口に入れるとまた表情を歪ませた。
「……今年のチョコレートが苦いのは、君に渡すためだろうなってことだよ。ほら、君は甘いものが苦手じゃないか」
「……そういえばこの前、そんな話をしたような」
あの時はなにも警戒していなかったため何気なく答えたが、まさかバレンタインに関するものだったとは思いもしなかった。まぁ、本人がここにいない以上、あの時の会話が絶対的に今日に関わるものだという保証もないが。
「好かれているね」
「……そうだといいけどな」
「あれ、否定しないんだ。珍しい」
「うるさい」
「つまりそれは、君の願望ってことでいいのかな?」
「……悪いかよ」
「まさか。僕としては、嬉しい限りだよ」
彼は最後のチョコレートを口に運ぶと、また頬を歪ませる。でもその表情はどこか穏やかで、彼はそれを咀嚼して飲み込むとそのままスマートに紅茶をがぶ飲みした。
「…………君なら、妹を任せることができるよ」
「荷が重いことを言うんじゃない」
「シスコンだからね」
「まぁ、そうだったな」
「半端な男に妹を渡すわけがないだろう?」
「そもそもステラは変な男を好いたりしないと思うが」
「それは確かに言えてるね」
「だろ?」
「……つまり、それは少年、君が自分自身を半端な男じゃないと自負している、ということでいいのかな?」
「いちいち余計なことを言うな、あんたは。……自分に自信がないから、だからこうやって不安になるんだろうが」
言ってて虚しくなるがこれが事実。
だから、この胸が違和感のようなもやもやとした、しがらみに苛まれている。
「恋してるね、少年は」
「……かもな」
「アオハル、だね」
彼はすたすたと俺を通り過ぎるように歩くと部屋のドアを開けた。
「どこか行くのか」
「あぁ、ちょっと近くの自販機までね。ほら、チョコレートを食べていたら口の中がどうも甘ったるくなってしまって。なにか飲み物でも買おうかなってね」
「さっきまでビターチョコレートで散々顔を歪ませていたよな?」
なんなら、そこのマグカップの中にはまだ紅茶が残っているだろ。
「……はぁ。少年はいつになったら本音と建前がわかるようになるんだろうね」
「それ、どういう意味だよ」
俺はただ、事実しか言ってないが。
「なんでもないよ。とりあえず僕はちょっと席を外すから」
「……わかった」
彼の言いたかったことはよくわからないが、流れに任せてただ頷く。
ただ、詮索しない方がいいことだけはわかっていた。
「……あ、最後にひとつだけ」
俺に背を向けたまま、部屋から出る前に彼は置き土産のように言葉を吐く。
「最後までちゃんと聞いてあげてね」
「……あ?」
どういう意味だよ、と尋ねる間もなく彼は部屋を出た。
部屋の中は俺一人になる。……はずだった。
「……あの、今、いいですか?」
彼と入れ替わるように、声がする。
それは澄んだ柔らかい声。
俺がよく知っている、人間の声。
「……渡したい、ものがあるんです」
顔を赤く染め、声の上擦ったステラがそこに立っていた。
「一体どうしたよ、そんなに顔歪ませて」
一年の内で最も寒いであろう、二月の中旬。
変人はうーん、と首を傾げながら苦い顔をした。
「いや、今食べているチョコレートが苦くてね」
「ふーん。つーか、あんたコーヒーも飲めなかったろ」
「まぁ、それはそうなんだけどね。これは妹がせっかく作ったチョコレートなんだ。残すなんて、兄の風上にも置けないだろう?」
「……そういうものなのか?」
「そういうものなのだよ、少年」
変な自論を展開する変人に対し、さすが自他共に認めるシスコンだと舌を巻いた。シスコンは極めるとこうも色んなものを乗り越えられるようになるらしい。
「にしても意外だったな」
「ん? なにがだい?」
「ステラにお菓子作りの趣味があるとは。今まで俺は聞いたことがなくて」
「……少年? 君は一体なにを言っているんだい?」
「は?」
「今日はなんの日だい?」
「今日? なにかあったか?」
記憶をたどったところで思い当たる節がない。
変人の誕生日でもないし、ステラの誕生日でもない。
じゃあ一体なんだ?
「……少年、僕は君に失望したよ。君は本当に健全な男子高校生なのかい?」
「失礼だな。俺は一応健全な男子高校生をやらせてもらっているつもりだが」
俺はたしかに陰キャだしそんな世の男子高校生のようなキラキラし日々を過ごしてはいないが、それなりに一般的な男子高校生と同じような嗜好も欲もあるつもりである。彼の言うような色恋はもちろんのこと、恋のその先の展開も含めて。
「今日は二月十四日。世の学生が浮つくバレンタインデーだよ」
「……あぁ、そういやそんなのもあったな」
「……なぁ少年。僕は常々思うんだけれども君はどうしてそんなにもドライな反応しかすることができないんだい? 先生悲しくなっちゃうよ」
どうりで学校の至るところで騒がしいと思った。
あまりにも自身に縁のないイベントというのは頭からすっぽ抜けてしまうらしい。そういえば、と最近コンビニやスーパーのチョコレートコーナーがポップで華やかになっていたことを思い出す。チョコレート自体をあまり好まない俺からするとすっぽ抜けるのも、まぁ無理はない。
「じゃあそれはステラの手作りチョコレートってわけか」
「あぁ、そうだとも。でも変なんだよね。いつもなら万人受けするようにって甘いものを作るんだけど、今年に限ってはどうしてかビターチョコレートなんだよね。僕が甘党なのは知ってるはずなんだけどなぁ」
「あんたの日頃の行いじゃね?」
「まさかそんなはずは、ない、と思うんだが……」
「現実は甘くねーよ」
「あれ、もしかしてそれってチョコレートにかけた?」
「なわけないだろ」
どうしてこうもくだらない洒落ばかり言うのか。冷たい言葉で相槌を打った俺は彼の手元を見た。手元には小さく透明なラッピングされたビニール製の小袋があった。中にはまだ二粒のチョコレートが入っている。
……そりゃ、あんたは貰えて当然か。
……だってあんたは一応、兄だもんな。
小さくそんな思いが芽生えた。
「あれ、少年はまだ貰っていなかったかい?」
「あぁ」
「そっか。……あ、でも少年、安心したまえ。妹はちゃんと君の分も用意してるからね」
「……そーですかい」
「あ、少年。ちょっと心配だったんでしょ。自分は貰えなかったらどうしようって」
「いちいちうるせーよあんた」
わかったとしてもわざわざ言うなよ。
そんなに顔にでも出ていたか?
「……あぁ。だからか」
「あ? どうした」
「チョコレートが苦い理由が、だよ」
彼はひとつチョコレートを口に入れるとまた表情を歪ませた。
「……今年のチョコレートが苦いのは、君に渡すためだろうなってことだよ。ほら、君は甘いものが苦手じゃないか」
「……そういえばこの前、そんな話をしたような」
あの時はなにも警戒していなかったため何気なく答えたが、まさかバレンタインに関するものだったとは思いもしなかった。まぁ、本人がここにいない以上、あの時の会話が絶対的に今日に関わるものだという保証もないが。
「好かれているね」
「……そうだといいけどな」
「あれ、否定しないんだ。珍しい」
「うるさい」
「つまりそれは、君の願望ってことでいいのかな?」
「……悪いかよ」
「まさか。僕としては、嬉しい限りだよ」
彼は最後のチョコレートを口に運ぶと、また頬を歪ませる。でもその表情はどこか穏やかで、彼はそれを咀嚼して飲み込むとそのままスマートに紅茶をがぶ飲みした。
「…………君なら、妹を任せることができるよ」
「荷が重いことを言うんじゃない」
「シスコンだからね」
「まぁ、そうだったな」
「半端な男に妹を渡すわけがないだろう?」
「そもそもステラは変な男を好いたりしないと思うが」
「それは確かに言えてるね」
「だろ?」
「……つまり、それは少年、君が自分自身を半端な男じゃないと自負している、ということでいいのかな?」
「いちいち余計なことを言うな、あんたは。……自分に自信がないから、だからこうやって不安になるんだろうが」
言ってて虚しくなるがこれが事実。
だから、この胸が違和感のようなもやもやとした、しがらみに苛まれている。
「恋してるね、少年は」
「……かもな」
「アオハル、だね」
彼はすたすたと俺を通り過ぎるように歩くと部屋のドアを開けた。
「どこか行くのか」
「あぁ、ちょっと近くの自販機までね。ほら、チョコレートを食べていたら口の中がどうも甘ったるくなってしまって。なにか飲み物でも買おうかなってね」
「さっきまでビターチョコレートで散々顔を歪ませていたよな?」
なんなら、そこのマグカップの中にはまだ紅茶が残っているだろ。
「……はぁ。少年はいつになったら本音と建前がわかるようになるんだろうね」
「それ、どういう意味だよ」
俺はただ、事実しか言ってないが。
「なんでもないよ。とりあえず僕はちょっと席を外すから」
「……わかった」
彼の言いたかったことはよくわからないが、流れに任せてただ頷く。
ただ、詮索しない方がいいことだけはわかっていた。
「……あ、最後にひとつだけ」
俺に背を向けたまま、部屋から出る前に彼は置き土産のように言葉を吐く。
「最後までちゃんと聞いてあげてね」
「……あ?」
どういう意味だよ、と尋ねる間もなく彼は部屋を出た。
部屋の中は俺一人になる。……はずだった。
「……あの、今、いいですか?」
彼と入れ替わるように、声がする。
それは澄んだ柔らかい声。
俺がよく知っている、人間の声。
「……渡したい、ものがあるんです」
顔を赤く染め、声の上擦ったステラがそこに立っていた。
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