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夏は、夜。
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最寄り駅から各駅停車で三つ先。
そこから歩いて約十分。
あの公園の角を曲がったアパートの二階、二〇四号室。
表札には、あなたの名前が二文字の漢字で書かれている。
……来てしまった。
後悔のような惑いが私をドアの前に直立させたまま動けなくする。インターフォンを押せばいいだけなのに、どうも私の手は伸びてくれない。押せば済むと知っているが、それと同時に押してしまえばもう後戻りできないことも知っていた。だから、怯えるようにここで立ち尽くしている。
あと少し、もう少し。
あと、たった数秒でもかまわないから。
この曖昧で、されどまだ確実に残る一本の糸に縋りたい。そんなわがままをずっと、この右手から落としてしまわぬように握っている。だけど、もうどうしようもなくなってしまって、首を伝う汗の感覚にも負けてしまって、諦めるようにインターフォンを押した。ありきたりな呼出音がドア越しに聞こえる。住人の足音が近づき、少しずつ大きくなっていく。
ガチャリ、とドアが開かれた。
あなたの顔が、滑るように現れる。
「……あぁ、お前か」
「失礼な言い方。そんな言い方しないでよ、呼び出したのはあなたなのに」
雑に跳ねた頭をしたあなたは私を見るなり、あからさまに顔をしかめる。
……それもそっか。私たち、もうそういう関係じゃないもんね。わかっていたけれど、露骨にそんな顔されるのはちょっと、いやだいぶ傷つく。休みの日はいつもそんな無造作な頭をしていたなって思い出にふけっていたのに、あなたって前から本当にドライな人。仕事のできるビジネスマンっていうのはみんなそうやってプライベートも切り替えが上手いの?
「……はい、これ」
私は握りしめていた右手をあなたの前でわざとらしくゆっくりと開いた。
「合鍵、ちゃんと返しに来たよ」
あなたと別れたのは一週間くらい前。
「くらい」なんて曖昧な言い方をしたのは少しでもこの悲しみを濁していたいから。本当の私は日付も曜日も大体の時間も、別れを切り出すまでの会話までちゃんと全部覚えている。そう、それこそ別れの言葉だって、一言一句違わず唱えられるくらい。
……って、これはこれできもいか。
どんだけ未練タラタラなんだよ、私。
こんなんだから振られちゃったのかな。私メンヘラだし根がめんどくさくてあなたの時間も自由も奪いすぎてしまっていて、きっと苦しかったよね。だから愛想つかれちゃったのかな。もっとまともな恋に留められていたら、もっと要領よく甘えられていたら、私はまだあなたのそばにいられたのかな。何が間違いだったのかはわかるのに、どうしたら正解だったのかはわからなくて。
ほんと、私ってバグってるよね。そんなんだからあの子にもあんなこと言われちゃったのかな。年下の男の子に正論で諭されるなんてほんとかっこ悪い大人だよね、私って。
「……これ」
「……ありがと」
あれだし、なんて曖昧な言葉で部屋に招かれて数分後、あなたからマグカップを差し出される。両手で受けとってすぐ、中身の冷たさがしみた。匂いで中身はすぐにわかる。アールグレイ、私の好きな紅茶。だけど、あなたが唯一飲めない紅茶。
「それでラストだから、どうせだしお前が飲んでしまってよ」
「う、うん…」
あなたの言葉と一緒に紅茶を嚥下する。逆によく、今日まで残っていたと思った。少しだけでも、私のために捨てずにいてくれたのかななんてポジティブな思考を浮かべてしまう。
私は確かにあなたから合鍵を預かっていたけれど、でも使ったのはほんの二、三回。なんなら私はこの家にほとんど来たこともない。道だってかろうじて覚えていたくらい。社会人のあなたに会えるのは週末くらいしかなかったし、その週末も基本的に私の家で過ごしていた。
……ううん、訂正。私のわがままを呑んだあなたが会いに来てくれていた。寂しがりの私を思って会いに来てくれていただけ。ただ、それだけの話。
あなたの手元からコーヒーの香りが広がる。ふとつられるように視線を奪われ、……そして、逃げるようにそっと視線を自分の手元へと落とした。二人の持つマグカップはちぐはぐになっていた。私の手元のマグカップは記念日にプレゼントした、この家で二人過ごす時用ペアカップの片割れ、赤色。だけどあなたの手元にあるのはただ白いだけのマグカップ。私のには洒落たフォントで『I love you』なんて綴られているのに、あなたのには沈黙のように柄のひとつもない。
まるで、私の思いだけが一方通行みたいに見えてしまう。それがつらくて、目を逸らすようにただただマグカップを傾けた。味なんてもう、二の次三の次にしてしまって。
「そういやさ」
あなたは窓の外、沈んだ夕日の名残を追うように呟いた。
「俺、東京に行くことになった」
「…………いつ、から?」
「来月、の予定」
「……急、だね」
「……まぁ、この前言われたばっかだし」
「……そっか」
頑張ってね、なんて素直に言えなかった。喉につかえてしまう。あなたってこういう嘘は下手なんだな、なんて今更新しい発見をした。あなたの目が泳いでいる。そんなんじゃだめだよ。私、あなたのことずっと見ていたんだから、そんな顔じゃすぐにわかっちゃうよ。本当はとっくに前から決まってたんでしょ、その話。でも私には言いたくなくて、だからこのタイミングになったんでしょ。あなたが言えないって思ったその時から、あの日までのカウントダウンが始まっていたんだね。
……あれ、そう考えたらあなたって嘘が上手かったのかな。今日まで私はあなたの抱えた秘密に気づけなかったんだし。あーもう、わけわかんないよ。あなたの心が見えないや。中途半端に見えそうなんてそんなことしないで。そういうの、ずるいし卑怯って言うんだよ。
「……時間、大丈夫そ?」
「……え? あ、あぁ……、うん」
スマホを見たあなたが視線を玄関の方へ一瞬向ける。そろそろ帰ったら、とあなたの瞳が代わりに喋った。私はそんな輪郭しかない言葉に、ぼやついた返事をこぼす。電車の残りも片手分くらいしか残っていないくらい、夜が更けていた。
「……そう、だよね」
なんだろう。あなたってこんなに残酷な人だったっけ。私は確かにもうただの元カノだけど、そしたらこんな扱いになっちゃうんだ。そんなすぱっと関係を変えても、あなたはそれに適応してしまうんだね。もう、悲しいを通り越してその能力が羨ましいくらい。
「なに? なんかあった?」
「…………もう、遅いからって理由で泊めてくれないんだなって」
「あたりまえだろ」
「……あたり、まえ」
「もう、俺たちそういう関係じゃないんだし」
「そう、だよね。……ごめん、なんでもない。忘れて」
あたりまえ、そんな言葉がグサっと私の心臓を刺してしまうからそれ以上はもうなにも言えなくなった。ねぇ、あたりまえってなに。そんな言葉、言い訳みたいに使わないでよ。ついこの間まで私たちの間にはまた別のあたりまえがあったんだよ。そのあたりまえが二人の共通認識で幸せだったんだよ、少なくとも私はそう思っていた。だから、あなたの口でそのあたりまえを簡単に塗り替えないで。
まるで、今までの幸せが夢みたいに霞んでしまうから。
「……じゃあ、帰る、ね」
「ん」
あなたはスマホを見たまま、ついでのように返事する。スマホからは最近流行りのドラマが流れていた。今までは私のこと、そんな蔑ろな扱いしなかったのに、あなたは本当に私のことがどうでもよくなってしまったんだね。本当は、そんな冷たい人だったんだね。私、あなたに首ったけだったけれど、やっと少しずつ目を覚ましていけるような気がするよ。
うん、決めた。私、あなたのことを忘れていくことにする。もう決めちゃった。今すぐとか、いつまでとか、そんな確約はできないけれど、でもちゃんと忘れてあげる。そしていつか、あなたのことなんて思い出せなくなってしまって。
……その時には私も、少しくらいは幸せになれているかな。なれているといいな。私が言うのもなんだけど、頑張ればきっと、少しくらいはなれる気がする。うん、じゃあまずは、家に帰ったらあなたの連絡先を消すところから始め…
「……あ、なんかあったらいつでも連絡しろよ。話くらいは聞いてやるから」
「……え」
……今、なんて。
「お前、一人で生きるの向いてないから。やれることなんて多分ないけど、まぁマシだろ。多分、うん」
「…………うん、わかった。ありがと」
……ずるいよ、そんなの。
最後の最後まであなたのペース。
私はあなたに惑わされるだけ。
あなたって私にとって大きい存在なんだよ。
簡単に決意も揺らぐくらいに強いの。
なんで、最後の最後にそんなセリフ吐くのさ。
「……ばいばい」
「またな」
あなたから振ったのに、とどめも刺してくれないんだね。
私はドアを閉めた。見送りもしてくれなかったのに、そんなあなたのことをひとつも嫌いになれない。忘れさせてくれないなんてずるいよ。中途半端で、抜け出せない優しさなんかチラつかせてさ、これじゃもう私はどこを向けば前なのかもわからないよ。景色は滲んでぼやけて混ざって不鮮明。あなたの声しか残らないよ。
あの公園の角を抜けて、歩みを進める。
足を止めてはならない。
止めてしまうと、振り返ってしまう。
そして振り返ってしまうと、そのまま後戻りしてしまう。
数時間前はあんなに躊躇っていたインターフォンを押してしまうから。
まためんどくさい女に戻ってしまうから。
それじゃもう、本当にあなたに呆れられてしまうから。
せめてものと思って歩きながら涙を落とす。
すれ違う人がみな、私を二度見していく。
弱音が音を含みそうになる。
ぎゅっと拳を握って、強がるように歩いていく。
加速する足音ばかりが、さよならから逃げる私の拍動だ。
右手はもう、空っぽになってしまったのに。
そこから歩いて約十分。
あの公園の角を曲がったアパートの二階、二〇四号室。
表札には、あなたの名前が二文字の漢字で書かれている。
……来てしまった。
後悔のような惑いが私をドアの前に直立させたまま動けなくする。インターフォンを押せばいいだけなのに、どうも私の手は伸びてくれない。押せば済むと知っているが、それと同時に押してしまえばもう後戻りできないことも知っていた。だから、怯えるようにここで立ち尽くしている。
あと少し、もう少し。
あと、たった数秒でもかまわないから。
この曖昧で、されどまだ確実に残る一本の糸に縋りたい。そんなわがままをずっと、この右手から落としてしまわぬように握っている。だけど、もうどうしようもなくなってしまって、首を伝う汗の感覚にも負けてしまって、諦めるようにインターフォンを押した。ありきたりな呼出音がドア越しに聞こえる。住人の足音が近づき、少しずつ大きくなっていく。
ガチャリ、とドアが開かれた。
あなたの顔が、滑るように現れる。
「……あぁ、お前か」
「失礼な言い方。そんな言い方しないでよ、呼び出したのはあなたなのに」
雑に跳ねた頭をしたあなたは私を見るなり、あからさまに顔をしかめる。
……それもそっか。私たち、もうそういう関係じゃないもんね。わかっていたけれど、露骨にそんな顔されるのはちょっと、いやだいぶ傷つく。休みの日はいつもそんな無造作な頭をしていたなって思い出にふけっていたのに、あなたって前から本当にドライな人。仕事のできるビジネスマンっていうのはみんなそうやってプライベートも切り替えが上手いの?
「……はい、これ」
私は握りしめていた右手をあなたの前でわざとらしくゆっくりと開いた。
「合鍵、ちゃんと返しに来たよ」
あなたと別れたのは一週間くらい前。
「くらい」なんて曖昧な言い方をしたのは少しでもこの悲しみを濁していたいから。本当の私は日付も曜日も大体の時間も、別れを切り出すまでの会話までちゃんと全部覚えている。そう、それこそ別れの言葉だって、一言一句違わず唱えられるくらい。
……って、これはこれできもいか。
どんだけ未練タラタラなんだよ、私。
こんなんだから振られちゃったのかな。私メンヘラだし根がめんどくさくてあなたの時間も自由も奪いすぎてしまっていて、きっと苦しかったよね。だから愛想つかれちゃったのかな。もっとまともな恋に留められていたら、もっと要領よく甘えられていたら、私はまだあなたのそばにいられたのかな。何が間違いだったのかはわかるのに、どうしたら正解だったのかはわからなくて。
ほんと、私ってバグってるよね。そんなんだからあの子にもあんなこと言われちゃったのかな。年下の男の子に正論で諭されるなんてほんとかっこ悪い大人だよね、私って。
「……これ」
「……ありがと」
あれだし、なんて曖昧な言葉で部屋に招かれて数分後、あなたからマグカップを差し出される。両手で受けとってすぐ、中身の冷たさがしみた。匂いで中身はすぐにわかる。アールグレイ、私の好きな紅茶。だけど、あなたが唯一飲めない紅茶。
「それでラストだから、どうせだしお前が飲んでしまってよ」
「う、うん…」
あなたの言葉と一緒に紅茶を嚥下する。逆によく、今日まで残っていたと思った。少しだけでも、私のために捨てずにいてくれたのかななんてポジティブな思考を浮かべてしまう。
私は確かにあなたから合鍵を預かっていたけれど、でも使ったのはほんの二、三回。なんなら私はこの家にほとんど来たこともない。道だってかろうじて覚えていたくらい。社会人のあなたに会えるのは週末くらいしかなかったし、その週末も基本的に私の家で過ごしていた。
……ううん、訂正。私のわがままを呑んだあなたが会いに来てくれていた。寂しがりの私を思って会いに来てくれていただけ。ただ、それだけの話。
あなたの手元からコーヒーの香りが広がる。ふとつられるように視線を奪われ、……そして、逃げるようにそっと視線を自分の手元へと落とした。二人の持つマグカップはちぐはぐになっていた。私の手元のマグカップは記念日にプレゼントした、この家で二人過ごす時用ペアカップの片割れ、赤色。だけどあなたの手元にあるのはただ白いだけのマグカップ。私のには洒落たフォントで『I love you』なんて綴られているのに、あなたのには沈黙のように柄のひとつもない。
まるで、私の思いだけが一方通行みたいに見えてしまう。それがつらくて、目を逸らすようにただただマグカップを傾けた。味なんてもう、二の次三の次にしてしまって。
「そういやさ」
あなたは窓の外、沈んだ夕日の名残を追うように呟いた。
「俺、東京に行くことになった」
「…………いつ、から?」
「来月、の予定」
「……急、だね」
「……まぁ、この前言われたばっかだし」
「……そっか」
頑張ってね、なんて素直に言えなかった。喉につかえてしまう。あなたってこういう嘘は下手なんだな、なんて今更新しい発見をした。あなたの目が泳いでいる。そんなんじゃだめだよ。私、あなたのことずっと見ていたんだから、そんな顔じゃすぐにわかっちゃうよ。本当はとっくに前から決まってたんでしょ、その話。でも私には言いたくなくて、だからこのタイミングになったんでしょ。あなたが言えないって思ったその時から、あの日までのカウントダウンが始まっていたんだね。
……あれ、そう考えたらあなたって嘘が上手かったのかな。今日まで私はあなたの抱えた秘密に気づけなかったんだし。あーもう、わけわかんないよ。あなたの心が見えないや。中途半端に見えそうなんてそんなことしないで。そういうの、ずるいし卑怯って言うんだよ。
「……時間、大丈夫そ?」
「……え? あ、あぁ……、うん」
スマホを見たあなたが視線を玄関の方へ一瞬向ける。そろそろ帰ったら、とあなたの瞳が代わりに喋った。私はそんな輪郭しかない言葉に、ぼやついた返事をこぼす。電車の残りも片手分くらいしか残っていないくらい、夜が更けていた。
「……そう、だよね」
なんだろう。あなたってこんなに残酷な人だったっけ。私は確かにもうただの元カノだけど、そしたらこんな扱いになっちゃうんだ。そんなすぱっと関係を変えても、あなたはそれに適応してしまうんだね。もう、悲しいを通り越してその能力が羨ましいくらい。
「なに? なんかあった?」
「…………もう、遅いからって理由で泊めてくれないんだなって」
「あたりまえだろ」
「……あたり、まえ」
「もう、俺たちそういう関係じゃないんだし」
「そう、だよね。……ごめん、なんでもない。忘れて」
あたりまえ、そんな言葉がグサっと私の心臓を刺してしまうからそれ以上はもうなにも言えなくなった。ねぇ、あたりまえってなに。そんな言葉、言い訳みたいに使わないでよ。ついこの間まで私たちの間にはまた別のあたりまえがあったんだよ。そのあたりまえが二人の共通認識で幸せだったんだよ、少なくとも私はそう思っていた。だから、あなたの口でそのあたりまえを簡単に塗り替えないで。
まるで、今までの幸せが夢みたいに霞んでしまうから。
「……じゃあ、帰る、ね」
「ん」
あなたはスマホを見たまま、ついでのように返事する。スマホからは最近流行りのドラマが流れていた。今までは私のこと、そんな蔑ろな扱いしなかったのに、あなたは本当に私のことがどうでもよくなってしまったんだね。本当は、そんな冷たい人だったんだね。私、あなたに首ったけだったけれど、やっと少しずつ目を覚ましていけるような気がするよ。
うん、決めた。私、あなたのことを忘れていくことにする。もう決めちゃった。今すぐとか、いつまでとか、そんな確約はできないけれど、でもちゃんと忘れてあげる。そしていつか、あなたのことなんて思い出せなくなってしまって。
……その時には私も、少しくらいは幸せになれているかな。なれているといいな。私が言うのもなんだけど、頑張ればきっと、少しくらいはなれる気がする。うん、じゃあまずは、家に帰ったらあなたの連絡先を消すところから始め…
「……あ、なんかあったらいつでも連絡しろよ。話くらいは聞いてやるから」
「……え」
……今、なんて。
「お前、一人で生きるの向いてないから。やれることなんて多分ないけど、まぁマシだろ。多分、うん」
「…………うん、わかった。ありがと」
……ずるいよ、そんなの。
最後の最後まであなたのペース。
私はあなたに惑わされるだけ。
あなたって私にとって大きい存在なんだよ。
簡単に決意も揺らぐくらいに強いの。
なんで、最後の最後にそんなセリフ吐くのさ。
「……ばいばい」
「またな」
あなたから振ったのに、とどめも刺してくれないんだね。
私はドアを閉めた。見送りもしてくれなかったのに、そんなあなたのことをひとつも嫌いになれない。忘れさせてくれないなんてずるいよ。中途半端で、抜け出せない優しさなんかチラつかせてさ、これじゃもう私はどこを向けば前なのかもわからないよ。景色は滲んでぼやけて混ざって不鮮明。あなたの声しか残らないよ。
あの公園の角を抜けて、歩みを進める。
足を止めてはならない。
止めてしまうと、振り返ってしまう。
そして振り返ってしまうと、そのまま後戻りしてしまう。
数時間前はあんなに躊躇っていたインターフォンを押してしまうから。
まためんどくさい女に戻ってしまうから。
それじゃもう、本当にあなたに呆れられてしまうから。
せめてものと思って歩きながら涙を落とす。
すれ違う人がみな、私を二度見していく。
弱音が音を含みそうになる。
ぎゅっと拳を握って、強がるように歩いていく。
加速する足音ばかりが、さよならから逃げる私の拍動だ。
右手はもう、空っぽになってしまったのに。
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