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連載
55:ボードレース開始!!
しおりを挟むいよいよ、ヨーカー魔法学園のボードレースの日がやって来た。
寮の全体練習を何度もこなし、私たちはやる気に満ちあふれている。
「お前ら、絶対に勝つぞ!」
ノアのかけ声には、一年生全員で応えた。
広い競技場の客席は、保護者や魔法都市の住人、王都からの見物客であふれかえっている。
ただの学校行事ではなく、近隣を巻き込んだ一大イベントのようだ。
貴賓席には、いかにもお金持ちという格好の人々が集まっており、平民席では、賭け事をしている人もいた。
空には、色とりどりの大きな風船が浮かんでいる。
(お祭りみたい)
学園側で用意された、私たちのユニフォームは黒撫子寮のカラーである黒だ。
ちなみに、ユニフォーム代は授業料に含まれており、平民生徒は無料でもらえる。
レースで飛ぶ順番は、寮長たちが決めてくれた。
争いの激しくなる最初と最後を上級生が飛び、間に一年生が飛ぶ。親切な順番だ。
私の順番は七番目で、カマルの次だった。ちなみに、スタートはリアムで、アンカーはオリビアだ。ラストは寮長が飛ぶことが多いらしい。
ドキドキしながら全員で並んでいると、前列にいるカマルが話しかけてきた。
「アメリー、ユニフォームが似合っているね」
「ありがとう、カマルも似合っているよ」
「緊張してる?」
「うん。飛んでいる最中に暴走しないよう、気をつけなきゃ。指輪はジュリアス先生が取り返してくれたけど、指輪をつけていても空に向かって飛び出しちゃったりするからなぁ。カマル、魔力を暴走させないコツってあるの?」
魔法都市で私を助ける際、カマルは指輪なしでも上手にボードを操作していた。
そのときのことを尋ねると、意外な答えが返ってくる。
「たぶん、気の持ちようだと思う。魔法は感情に左右されるものだから、強い心で自制すればいいんだ。とはいえ、それが難しいんだけど」
「カマルはすごいね」
「あのときは、なんとしてもアメリーを助けなきゃって、必死だっただけだよ。いつでも制御できるわけじゃない」
話しながら、レースが始まるのを待つ。
だが、そこに青い顔のオリビアが駆け込んできた。
「皆、聞いて! 大変なことになったの! 他の寮に、してやられたわ!!」
並んでいた黒撫子寮の生徒たちが、一斉に彼女の方を向く。
いつものおっとりした寮長は、消えていた。
息を切らしたオリビアは、早口で全員に告げる。
「飛行の順番が、勝手に書き換えられてる……! 今から変更を申し入れても間に合わない! まさか、こんな妨害をしてくるなんて!!」
話を聞いている間にも、スタート時刻は刻一刻と迫っていた。
たしかに、もう変更できないだろう。
例年、なにかと侮られている黒撫子寮は、スタートしてからの妨害はあっても、飛行前に妨害されることはなかったらしい。
「順番通りに飛ばないと、失格にされてしまうの。こうなったら、変えられた順番で飛行するしかないわ!! 今から言う順番に並び直してちょうだい!」
全員に、動揺が走った。
「ノア、ミスティ、ハイネ、リアム、マデリン、ジェイソン、私、ガロ、カマル、アメリー」
最初と最後に、一年生が固められてしまった。当初の作戦の真逆だ。
(それに、私がアンカーって)
頭が真っ白になる、こういった、責任重大なことを任されるのに私は向いていない。
普通に飛べるようにはなったけれど、飛行速度は普通。
魔法玉で相手を妨害する練習もしたけれど、どういうわけか玉はあらぬ方向へ飛んでいく。要するに、とてもコントロールが下手なのだ。
自信があるのは、ヘドロぬりかべの防御だけ。心許なさすぎる。
一番後ろに並び終えると、隣に白百合、青桔梗、黄水仙の精鋭が揃い始めた。
そして、最後に赤薔薇寮の生徒が来る。
(あ、あれ……?)
なんと、赤薔薇寮のアンカーは寮長ではなく、一年生のサリーだった!!
いったい、どういうことだろう。これも、作戦なのだろうか。
サリーは魔法の才能に溢れているので、空を飛ぶのが速いのかもしれない。
緊張のあまり、会場の音が急速に遠のいていく。
「アメリー、大丈夫だよ。君の順番が来るまでに、距離を広げておけばいいだけ」
カマルが優しく慰めてくれた。こんな状況なのに、落ち着いていてすごいと思う。
※
しばらくして、スタートの合図が鳴り、一番手のノアが飛び出していった。彼は競技場を一周して魔法都市へ向かう。
レースでは、バトンやたすきは使わない。手を触れ合えば、魔法で交代がわかるようになっている。
会場内にある巨大な水晶に、レース中の生徒の様子が映し出されていた。離れている生徒も、この水晶で確認できるのだ。
実況者は公平を期して、教師たちが交代で行うらしい。実況席にトールの姿を見つけたカマルの表情が、急激に暗くなっていく。
「カマル、元気を出して。トールさんも、こんな場所でモンスター化しないって」
「……だといいけど。あ、ジュリアス先生だ」
ジュリアスは、判定係をしているようだ。たしかに、彼は実況者という感じではない。
水晶に映されたノアは、一年生にもかかわらず健闘していた。上級生たちに並んでいる。
「すごい、ノア……!」
「そのまま行けー! 私の番が来るまでに、距離を開けておいてー!」
ハイネとミスティが応援している。ミスティの応援は切実だった。
しばらく飛んだところで、魔法玉の投げ合いが始まった。
このレースでは、魔法玉を使って相手を妨害できるのだ。持てる魔法玉の数は五つまで。
種類は弱い威力のもので風、水、雷だけだ。ちなみに、雷は、ピリッとするけれど無傷という程度。
「あっ! ずるい!」
唐突に、ミスティが叫ぶ。
見ると、他寮の生徒たちが、魔法玉でノアを集中攻撃している。白百合寮と黄水仙寮の生徒がしつこく攻撃を加えている中を、赤薔薇寮と青桔梗寮の生徒が抜けていく。
ノアは魔法で自身を防御しながら、必死で先行する二人を追う。白百合寮と黄水仙寮の生徒の持つ魔法玉が、なくなった今がチャンスだ。
しばらくして、上空に生徒たちの姿が見えてきた。赤薔薇寮と青桔梗寮の生徒の攻撃を躱し、ノアは三位でミスティにタッチした。ミスティが、どんどん加速していく。
「ノア、お疲れ様! 三年生たち相手に、すごかったね!」
黒撫子寮のメンバーは、私を含めてノアの健闘ぶりを称えたけれど、本人は悔しそう。
「くそ、あいつら、グルだ。白百合と黄水仙には勝つ気がない、黒撫子寮への妨害に徹している感じだ」
それを聞いた上級生たちが、難しい顔になる。
「今年は赤薔薇寮が参加するから、他の寮は例年と動きを変えてきたのかもね。いつもは、ちゃんと勝負していたのだけれど」
状況を分析するオリビアは、いつになく表情を曇らせた。
ミスティは三位をキープしている。
けれど、前を行く青桔梗寮の上級生に妨害されている隙に、白百合寮と黄水仙寮の生徒が追いついてしまった。赤薔薇寮生だけは、スイスイと先行している。
「赤薔薇寮、卑怯! こんなのあり!?」
黒撫子寮メンバーの間で、大ブーイングが起こった。
結局、同着二位でミスティはハイネにタッチする。ハイネは「任せて、全員潰すわ……」と、不穏なつぶやきを残し、飛び去っていった。
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