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74:ボードを新調します!
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砂漠大国トパゾセリアから戻った私は、ヨーカー魔法学園の黒撫子寮で過ごしていた。
いろいろな事件が一度に起きて、今も混乱気味。
思いがけず、「リシェニ伯爵令嬢」になってしまったので、私は平民特別枠から外れてしまった。
けれど、授業料は父親のハリールが払ってくれるらしく、心配無用とのこと。
ここまでしてもらっていいのかと、不安に思ってしまう。
(働けるようになったら、絶対に恩返ししよう!)
そう心に決めた。
砂漠大国を出て寮に戻ったカマルは、トールやアキルの過保護から解放され、落ち着いている様子。
カマルは、「神殿へ来たのが、アキル兄さんだけでホッとしたよ。兄さんたちが全員揃ったら、恐ろしいからね」なんて言っていた。見てみたい気もする。
新学期まで、あと少し。いろいろ準備が必要だ。
さしあたっては、ボードの買い換え。
以前のボードは、購買にいるマンダリンから譲ってもらった。息子のお古だという年季ものの小さめのボードだ。
けれど、レースのとき、最後の加速でボードが傷んでしまった。いたるところに小さなヒビが入っている。
ゆっくり飛ぶのは問題ないけれど、高速での飛行には耐えられない。
レースのあと、私はマンダリンに謝りに行った。
『もともと埃を被っていたものだから、気にしないよ。捨てる予定だったしね。むしろ、そのボードで優勝できたのが奇跡だよ!』
そして、彼女は、魔法都市にあるボード屋を紹介してくれた。
購買でボードも売られているけれど、魔法都市の店のほうが品揃えが豊富なのだ。
「早めにボードを買いに行こう!」
シュエを抱っこし、寮の外でボロボロのボードに乗る。
「アメリー、どこへ向かうの?」
呼ばれて振り返ると、黒撫子寮から、カマルとノアが出てきた。
「ボードを買いに魔法都市へ。新学期が始まる前に持っておきたくて」
「じゃあ、僕も付き添うよ」
「俺も。マンダリンの伯母さんから、事情は聞いているからな!」
ノアとマンダリンは親戚だ。
情報通の彼らの一族は、様々な場所で商売している。
「私のボードは壊れかけだから、のろのろ運転しかできないけど……」
「それじゃあ、僕の後ろに乗ればいいよ!」
カマルが、キラキラした笑顔で言った。
「でも、二人乗りして平気なの?」
私の質問には、ノアが答える。
「大丈夫だ。カマルのボードはオーダーメイドの超高級品だから、何人運んでも折れねえよ」
「すごい!」
さすがカマル、お金持ちレベルが違う。
「さあ、アメリー、僕の前に乗って。後ろで支えるから」
「浮遊靴も履いているし、大丈夫だと思うけれど」
「念のため、ね?」
「わかった!」
カマルのボードは私のものより大きめで、二人並んでも余裕がある。
支えるため、私の腰に手を回す彼に、なぜかノアが生ぬるい視線を送っていた。
「カマル。そんなに、ぎゅっとしなくても落ちないよ?」
「駄目だよ。アメリーに、何かあったら大変だから」
「心配性だなあ」
「……お前ら、そういうのは、よそでやれ」
ヨーカー魔法学園から飛び立った私たちは、『車輪と桟橋のエリア』を目指す。
目的の店は楕円状の白い塔。海辺に立っているその建物は、灯台のようにも見える。
「ついた!」
「ボードだと、あっという間だね」
店の前に降り立つと、スライド式のドアが左右に開いていく。
「うわぁ!! 広い!!」
塔の中は一面、カラフルなボードだらけだった。
魔法で天井の高い建物になっており、三百六十度全部ボードで埋め尽くされている。
「いらっしゃいませー」
天井から急降下してきた店員さんは、炎のように真っ赤な最新式のボードに乗っていた。
紫色の髪を立てた、やんちゃ風のお兄さんだ。
「あれ、ノアじゃん。買い換えにしては早いんじゃね?」
「違う違う、今日は、ダチのボードを見てやって欲しいんだ」
ノアは私を指さして言った。
「アメリー、カマル。ここの店員はうちの従兄なんだ。オリオン・アームズっつー名前で、ボードの加工から販売まで手広くやってる」
マンダリンは、身内の店を紹介してくれたらしい。
「はじめまして、アメリー・メルヴィーンです。よろしくお願いします」
「アメリーって……アメリー・メルヴィーン!? あの、ヘドロ色の新星の!?」
新聞のせいで、完全に魔法都市の有名人になってしまった。今日は空を移動したから、目立たなかったけれど……まだまだ、ほとぼりは冷めてくれないらしい。
「がぜん、やる気が出てきたぁ! まずは、サイズを見ないとな!」
しゅるしゅると、青い光の輪っかが私を囲む。計測の魔法のようだ。
「ちっさ! 子供向けで通用しそうだな」
「実際、子供向けを使っていました」
「マジか! それで、レース優勝したとかすごくね!?」
前のめりになるオリオン。なんだか目がらんらんと輝いているふうに思える。
「どんなボードが欲しいか、要望はあるか?」
「詳しくないので、できれば選んでいただきたいです。丈夫なボードを」
「ああ、あの超加速に耐えられる品じゃねえとなっ!」
「それから、なるべく、高価じゃないもので……」
メルヴィーン商会のお金が入ったけれど、卒業まで何があるかわからないし、節約するに越したことはない。養父になってくれたハリールにも、散財させたくないし。
すると、カマルが不満そうな顔をした。
「アメリー、君は伯爵家の養女だ。好きなボードが買えるよ。魔力過多の加速を考えると、オーダーメイドでもいいくらい」
「でも、ハリールさんに、迷惑が……」
「ボード代くらい、払わせてあげなよ。あの人、かなりお金を貯め込んでいるし。新しい娘のためにって、神殿の外でいろいろ買い込んでいたよ? そのうち、寮に届くんじゃないかな」
「ええっ!?」
「僕もそうだけど……全く頼られないのも、寂しい」
王族や貴族の人たちって、感覚が違いすぎる。
カマルの話を聞いたオリオンは、にやりと笑う。
「そういうことなら、半オーダーメイドにしておきな! 一から発注だと、新学期の授業に間に合わないだろ。俺に掛かれば、余所の店のオーダーメイドよりイケてるボードができるぜ? 金額も完全オーダーメイドよりはお手頃だ。あと、知り合い価格にまけてやるよ」
オリオンの提案は、願ってもみないものだ。
「いいんですか!?」
「おう! その代わり、うちのボードで活躍して、しっかり宣伝してくれよな!」
彼が言うやいなや、足下に魔方陣が浮かび上がり、全員エレベーターのように塔の中を上がっていく。
すると、色の塗られていない木の板が置かれている場所があった。
「うーん、丈夫ならこのあたりか。小柄だし、軽いほうがいいよな」
杖を選んだときのように、私の前に三つの板が並ぶ。
「右から、温碧樹、雪光樹、星硝樹。一つずつ、魔力を流してみて」
言われたとおりにしてみると、雪光樹と星硝樹が光った。
「星硝樹のほうが、光が強いな。ベースはこれで……次は魔石。星硝樹と相性がいいのは、こっちだ」
青、緑、金。白などの滑らかな石が並ぶ。
再び魔力を流し、オリオンが手に取ったのは、緑と金だった。
「よっしゃ。じゃあ、残りは、これに合った材料で作るな」
選ぶのは、板と石だけのようだ。
「二日あればできる。完成したものは、黒撫子寮に届けるな」
「ありがとうございます!」
お礼を言って店を出る。
すると、店の前にミスティ、ハイネ、ガロが来ていた。
いろいろな事件が一度に起きて、今も混乱気味。
思いがけず、「リシェニ伯爵令嬢」になってしまったので、私は平民特別枠から外れてしまった。
けれど、授業料は父親のハリールが払ってくれるらしく、心配無用とのこと。
ここまでしてもらっていいのかと、不安に思ってしまう。
(働けるようになったら、絶対に恩返ししよう!)
そう心に決めた。
砂漠大国を出て寮に戻ったカマルは、トールやアキルの過保護から解放され、落ち着いている様子。
カマルは、「神殿へ来たのが、アキル兄さんだけでホッとしたよ。兄さんたちが全員揃ったら、恐ろしいからね」なんて言っていた。見てみたい気もする。
新学期まで、あと少し。いろいろ準備が必要だ。
さしあたっては、ボードの買い換え。
以前のボードは、購買にいるマンダリンから譲ってもらった。息子のお古だという年季ものの小さめのボードだ。
けれど、レースのとき、最後の加速でボードが傷んでしまった。いたるところに小さなヒビが入っている。
ゆっくり飛ぶのは問題ないけれど、高速での飛行には耐えられない。
レースのあと、私はマンダリンに謝りに行った。
『もともと埃を被っていたものだから、気にしないよ。捨てる予定だったしね。むしろ、そのボードで優勝できたのが奇跡だよ!』
そして、彼女は、魔法都市にあるボード屋を紹介してくれた。
購買でボードも売られているけれど、魔法都市の店のほうが品揃えが豊富なのだ。
「早めにボードを買いに行こう!」
シュエを抱っこし、寮の外でボロボロのボードに乗る。
「アメリー、どこへ向かうの?」
呼ばれて振り返ると、黒撫子寮から、カマルとノアが出てきた。
「ボードを買いに魔法都市へ。新学期が始まる前に持っておきたくて」
「じゃあ、僕も付き添うよ」
「俺も。マンダリンの伯母さんから、事情は聞いているからな!」
ノアとマンダリンは親戚だ。
情報通の彼らの一族は、様々な場所で商売している。
「私のボードは壊れかけだから、のろのろ運転しかできないけど……」
「それじゃあ、僕の後ろに乗ればいいよ!」
カマルが、キラキラした笑顔で言った。
「でも、二人乗りして平気なの?」
私の質問には、ノアが答える。
「大丈夫だ。カマルのボードはオーダーメイドの超高級品だから、何人運んでも折れねえよ」
「すごい!」
さすがカマル、お金持ちレベルが違う。
「さあ、アメリー、僕の前に乗って。後ろで支えるから」
「浮遊靴も履いているし、大丈夫だと思うけれど」
「念のため、ね?」
「わかった!」
カマルのボードは私のものより大きめで、二人並んでも余裕がある。
支えるため、私の腰に手を回す彼に、なぜかノアが生ぬるい視線を送っていた。
「カマル。そんなに、ぎゅっとしなくても落ちないよ?」
「駄目だよ。アメリーに、何かあったら大変だから」
「心配性だなあ」
「……お前ら、そういうのは、よそでやれ」
ヨーカー魔法学園から飛び立った私たちは、『車輪と桟橋のエリア』を目指す。
目的の店は楕円状の白い塔。海辺に立っているその建物は、灯台のようにも見える。
「ついた!」
「ボードだと、あっという間だね」
店の前に降り立つと、スライド式のドアが左右に開いていく。
「うわぁ!! 広い!!」
塔の中は一面、カラフルなボードだらけだった。
魔法で天井の高い建物になっており、三百六十度全部ボードで埋め尽くされている。
「いらっしゃいませー」
天井から急降下してきた店員さんは、炎のように真っ赤な最新式のボードに乗っていた。
紫色の髪を立てた、やんちゃ風のお兄さんだ。
「あれ、ノアじゃん。買い換えにしては早いんじゃね?」
「違う違う、今日は、ダチのボードを見てやって欲しいんだ」
ノアは私を指さして言った。
「アメリー、カマル。ここの店員はうちの従兄なんだ。オリオン・アームズっつー名前で、ボードの加工から販売まで手広くやってる」
マンダリンは、身内の店を紹介してくれたらしい。
「はじめまして、アメリー・メルヴィーンです。よろしくお願いします」
「アメリーって……アメリー・メルヴィーン!? あの、ヘドロ色の新星の!?」
新聞のせいで、完全に魔法都市の有名人になってしまった。今日は空を移動したから、目立たなかったけれど……まだまだ、ほとぼりは冷めてくれないらしい。
「がぜん、やる気が出てきたぁ! まずは、サイズを見ないとな!」
しゅるしゅると、青い光の輪っかが私を囲む。計測の魔法のようだ。
「ちっさ! 子供向けで通用しそうだな」
「実際、子供向けを使っていました」
「マジか! それで、レース優勝したとかすごくね!?」
前のめりになるオリオン。なんだか目がらんらんと輝いているふうに思える。
「どんなボードが欲しいか、要望はあるか?」
「詳しくないので、できれば選んでいただきたいです。丈夫なボードを」
「ああ、あの超加速に耐えられる品じゃねえとなっ!」
「それから、なるべく、高価じゃないもので……」
メルヴィーン商会のお金が入ったけれど、卒業まで何があるかわからないし、節約するに越したことはない。養父になってくれたハリールにも、散財させたくないし。
すると、カマルが不満そうな顔をした。
「アメリー、君は伯爵家の養女だ。好きなボードが買えるよ。魔力過多の加速を考えると、オーダーメイドでもいいくらい」
「でも、ハリールさんに、迷惑が……」
「ボード代くらい、払わせてあげなよ。あの人、かなりお金を貯め込んでいるし。新しい娘のためにって、神殿の外でいろいろ買い込んでいたよ? そのうち、寮に届くんじゃないかな」
「ええっ!?」
「僕もそうだけど……全く頼られないのも、寂しい」
王族や貴族の人たちって、感覚が違いすぎる。
カマルの話を聞いたオリオンは、にやりと笑う。
「そういうことなら、半オーダーメイドにしておきな! 一から発注だと、新学期の授業に間に合わないだろ。俺に掛かれば、余所の店のオーダーメイドよりイケてるボードができるぜ? 金額も完全オーダーメイドよりはお手頃だ。あと、知り合い価格にまけてやるよ」
オリオンの提案は、願ってもみないものだ。
「いいんですか!?」
「おう! その代わり、うちのボードで活躍して、しっかり宣伝してくれよな!」
彼が言うやいなや、足下に魔方陣が浮かび上がり、全員エレベーターのように塔の中を上がっていく。
すると、色の塗られていない木の板が置かれている場所があった。
「うーん、丈夫ならこのあたりか。小柄だし、軽いほうがいいよな」
杖を選んだときのように、私の前に三つの板が並ぶ。
「右から、温碧樹、雪光樹、星硝樹。一つずつ、魔力を流してみて」
言われたとおりにしてみると、雪光樹と星硝樹が光った。
「星硝樹のほうが、光が強いな。ベースはこれで……次は魔石。星硝樹と相性がいいのは、こっちだ」
青、緑、金。白などの滑らかな石が並ぶ。
再び魔力を流し、オリオンが手に取ったのは、緑と金だった。
「よっしゃ。じゃあ、残りは、これに合った材料で作るな」
選ぶのは、板と石だけのようだ。
「二日あればできる。完成したものは、黒撫子寮に届けるな」
「ありがとうございます!」
お礼を言って店を出る。
すると、店の前にミスティ、ハイネ、ガロが来ていた。
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